12アンドリュー国王に会う
アンドリューはその前日もアリサの牢の前で夜を過ごした。
アリサが牢に入れられて既に10日が経っていた。
だが、アリサにかけられたロージェンナ毒殺の疑いを晴らす確実な証拠はまだ出ていない。
アリサが聖女だと認める平民たちの証言書や嘆願書はたくさん集まった。
昨日カイルから報告を受けた。
大神官が多額の寄付や厄除けと称して貴族や平民から多くの金を集めた事もわかった。宰相が不作だった他領に隣国から取り寄せた小麦を高値で売りつけている事もわかった。市場では疫病に効く薬草を多く入手し疫病の薬を独占的に神殿に納入している事実も分かった。二人が結託して疫病や瘴気の発生を利用して私利私欲で暴利を貪っているであろうと予想はついたが確実な証拠がなかった。
アンドリューはその日父である国王にそれらの事実を報告してアリサの無実を訴えるつもりだった。
「アリサ、疲れてないか?」
「アンドリュー様こそ、毎晩こんな所で私に付き合うなんてどうかしてるわよ」
「お、俺は獣人だから冷たい石の上だって硬い床だって平気だ。そんな事よりアリサもう10日も経つのに、まだアリサを牢から出してやれなくてすまん。今日、国王と会う事になっているんだ。アリサがどれほど聖女として活躍したか宰相や大神官が疫病を利用してどれほど暴利を貪っているか話をする。だからきっとアリサの疑いは晴れると思うんだ。もうしばらく辛抱して欲しい」
「アンドリューありがとう。でも、無理しないでよ」
「無理だなんて、俺の方こそ時間が掛かってすまん。じゃ、行ってくるから」
アンドリューがコペルが来ると入れ替わりアリサの元から立ち去った。
コペルは相変わらず毎日パンや果物などを届けてくれる。なんでも街の人たちが聖女に差し入れをしている事を知って差し入れを頼まれるらしい。
お陰でアリサは毎日焼きたてのパンや新鮮な果物や温かいお茶まで頂いている。
*〜*〜*
その日の午前中、アンドリューはカイルと一緒に父である国王の執務室を訪れていた。
「国王陛下、本日はお時間を頂きありがとうございます」
「私は忙しいんだ。アンドリューお前の話など聞いている暇も無いほどな。だが、ローランドの頼みだ、仕方あるまい。手短に話せ!」
父である国王セルゲイは眉を顰めると執務室の椅子の深く腰を下ろした。
元騎士団長のエイド・ローランド公爵は国王であるセルゲイとは親友で彼が口添えをしてくれなかったらこの場を設ける事も無理だっただろう。
アンドリューはセルゲイの汚点であり今でもアンドリューの存在を煙たがっている事は充分分かっている。
「ありがとうございます。実は既にご承知の様に召喚した聖女の事です。彼女はこの国に召喚されてこの国の瘴気の浄化。疫病の治癒、作物の再生など実に多くの事に貢献して来ました。ですが数週間前、やってもいない罪で牢に入れられています」
「ああ、レオンハークから報告を受けている。いくら聖女だからと言って貴族の令嬢を害していいと言う事は認められない」
「ですが、本人はその様な事実はないとはっきりと否定しています。それに、これを見て下さい。多くの人々が聖女の行いを称賛しています。そして聖女に帰って来て欲しいと思っています。確実は証拠も無いまま聖女を投獄している事は国民の不安を煽る行為です。それに毒を盛られたと言っているのはロージェンナ・フォンビュート公爵令嬢の証言だけです。彼女はレオンハーク王太子殿下の以前から恋仲にあり、聖女召喚で決まったレオンハーク王太子殿下と聖女との婚約を阻止する為その様な虚偽をしたのではないでしょうか?」
「私からもご報告を申し上げます。監査官としてフォンビュート公爵家が関わっている薬草、小麦の仕入れ販売の書類です。いずれも作物被害で困窮している貴族に高値での小麦販売、ならびに疫病で使われる多くの薬草を一手に仕入れ神殿に納入しております。大神官も貴族から多額の寄付を集め疫病の厄除けを称した護符で多くの利益を得ております。聖女様が現れ疫病が収束し作物不作の心配が無くなると彼らは困るはずです。だからその為に聖女を排除しようとしたのではないでしょうか?もちろんロージェンナ嬢が王太子殿下と聖女様の婚姻を阻止しようと企んだ事も考えられます」
セルゲイ国王は一度息を呑んだ。
椅子から立ち上がりくるりと背を向け窓を見た。
そしてまたアンドリューの方に向き直った。
「アンドリュー、カイル監察官。その様な事、当然の事であろう。フォンビュート公爵家が一手に他国から小麦や薬草を仕入れてくれて我が国は助かっている。大神官が疫病の護符を多く発行すれば国民の不安も少しは収まるはずだ。こんな簡単な事も分からないとは。全く、やはりお前はクズだな。それに聖女は異世界の人間、確かに国家の為、レオンハークは聖女と婚姻の義務がある。だからと言って元から付き合いのあった貴族令嬢との関係を清算しなければならないとは私は思わない。次代の子は聖女との子も必要だし、この国の由緒正しい血を引く貴族との間に生まれた子も必要だと言う事だ。次代の王に相応しい選択肢がある事はいい事だろう。そうは思わないかアンドリュー?」
セルゲイは自信たっぷりに断言した。
アンドリューはそんな父の態度に唖然とし失望し声を震わせた。
「父上、本気ですか?兄上に二人の妻を娶らせる気なんですか?それが異世界から召喚した女性に対するこの国の、いいえ、国王のお考えなのですか?」
「当たり前だ。ここはガルシア国だ。確かに聖女は異世界から召喚された。だが、この世界で生きていくならこの世界のやり方に合わせるべきだろう」
「そんな無茶な!国王陛下お願いです。アリサを自由にして下さい。兄上の婚約者はフォンビュート公爵令嬢で良いではありませんか。彼女は聖女になられた。聖女との婚姻がこの国の習わしならばアリサを兄上の婚約者としておく事も無いはずです!」
「ばかが、先ほどの話理解出来ないのか?異世界から来た女の血と由緒正しい貴族の血、どちらも必要だと言ったはずだ。レオンハークはその事を理解しておる。アリサと言う女には、このままレオンハークの子を産む道具とでもなってもらう。さすがにこのまま牢に入れておくのはまずいだろう。フォンビュート公爵令嬢毒殺未遂の罪で離宮に幽閉を言う事にでもして牢からは出す事を許そう。これで文句はあるまいアンドリュー」
「ですが、アリサは確かに聖女です。そして無実です!」
「確たる証拠もなしにまだその様な事を言うか!アンドリューお前を王族でなく平民に落とす事も出来るのだぞ。アリサは聖女として召喚されたが罪を犯し離宮にて静養する。これは決定事項だ。話は終わりだ。出ていけ!」
「お願いです。彼女は無実です。その様な待遇を受けるべきでは無いはずです!」
アンドリューは懇願したが「護衛兵、こいつを摘み出せ!」国王の一言で護衛兵に無理やり執務室から連れ出された。




