9知らされていない企み
その頃神殿の大神官執務室では。
「いやぁ、宰相殿。これほどうまくいくとは思いませんでした」
「ああ、あのままでは聖女が余計な事をする所だったからな。地下の結界陣の歪みのせいで瘴気が発生して作物や水に被害が出て魔獣が発生する事を知っているのは大神官と私だけ。大神官が前の聖女が残した文献をよくご存知だったおかげですな」
「いや、まさか召喚術が成功するとは思いませんでした。ですが、いつかはあの結界陣の歪みを調整しなくてはなりませんが、今はまだその時ではありますまい。結界陣の歪みがあれば瘴気はずっと発生する。瘴気が出続ければ疫病や作物の値段が上がる。不安な者たちの神殿への寄付や依頼は無くなりません。おまけに疫病や騎士団の派遣、作物の不作など他国と取引のあるフョンビュート公爵家にも大金が入り続けるというものでしょう」
「これも聖女の手引書にあった結界陣の事を書いた部分を聖女に見せないと判断した大神官のおかげです」
「いや、前日にふと思いついただけの事でしたがな。ハハハ、まあ、これで互いの懐が潤うと言う事ですな。それに、結界石を使ってロージェンナ様に聖力があると見せかけて聖女を追い出すなんて素晴らしい思いつきでした」
「ええ、娘がどれほど殿下との婚姻を願っていたか、聖女が現れた時には諦めかけておりましたが、いやぁ、大神官の申し出がなければ叶わぬ所でした」
「いえいえ、私はお互いの利害の為に協力を惜しみませんよ。どうかこれからもよろしく頼みます」
「もちろんです大神官」
*〜*〜*
アンドリューは二人の話を盗み聞いた。
許せん!アリサを無実の罪に陥れて自分たちは暴利を貪る気なのか?おまけに国の結界陣が危険に晒されている。
何としても証拠を掴んであいつらを捕らえなければ、そしてアリサの無実を証明して彼女を救わなければ!
でも、一体どうすればいい?
喉の奥が詰まったみたいでまともに息が出来ない。
それからアンドリューは考えた。
そして騎士団の恩人でもあるエイド・ローランド公爵の事を思い出した。彼は騎士団長を引退したが今も騎士団のお目付役として顧問をしていて何かあれば頼りになる存在だ。
アンドリューの母は元はローランド公爵家に仕えていてエイドの妻の紹介で王宮の侍女になった事もあってアンドリューが生まれてからいつも彼を気遣ってくれた。
それに彼の息子であるカイルとは騎士団の同期で親しくしていて家族でアンドリューの事を心配してくれる。
彼にとったら家族同然のようなローランド公爵家で、おまけにカイルは王宮監査院の監察官をしている。
アンドリューはその日のうちに事情をカイルに相談した。
カイルは以前から宰相の不正を疑っており、この機会に神殿と宰相との関係をはっきりさせると言ってくれた。
「カイル本当にいいのか?」
「ああ、前から宰相には不正の疑いが掛かっていたんだ。でも、相手は王国で一番の実力の持ち主だ。迂闊に手出しは出来ないと皆躊躇していた。でも、お前が聞いた話で二人の関係ははっきりした。あとは証拠だ。それに異世界から召喚までした聖女を牢に入れるなんて間違ってる。いくら好いた女の為とはいえ、レオンハーク殿下もそこまでだったとはな。俺も覚悟が決まったよ」
「すまんカイル。俺にできる事があったらなんでも言ってくれ!」
「ああ、俺の権限を使って最大限の努力はする」
「すまん、何かあったら言ってくれ」
「ああ、だが、大神官や宰相も一筋縄では行かない奴らだ。お前も充分注意しろよな」
カイルは少し楽しそうに口元に笑みを浮かべたがすぐに口元を引き締めた。
「おお、怖っ!お前に睨まれたらどんな奴もひとたまりも無いんじゃないか?とにかく頼む。聖女の疑いを一刻も早く晴らさなければならんからな!」
「ああ、アンドリュー、お前変わったな。聖女殿のせいか?」
カイルがアンドリューの脇腹を小突いた。
「ば、ばか!そんなんじゃない!」
アンドリューの耳たぶが赤くなり尻尾がバサバサと大きく揺れる。
「ったく。わかりやすい奴だな」
カイルが頭をかきながら笑った。
「お前!いいから頼んだぞ」
「ああ、任せろ。その代わりお前は聖女殿を気遣ってやれ。牢に入れられて心細い思いをしているはずだ」
「そんな事分かってるって!」
「親父には俺から話を通しておく。お前は人を頼ることの出来ない奴だからな。聖女殿が不当な扱いを受けないように頼んでおくから」
「カイル、ありがとう」
「お前と俺の仲だ。これくらいいつでも頼ってくれ」
アンドリューはやっと息が出来た気がした。




