第11話:異能力『両儀変身』
「んー、こんな感じ?」
永露は両手を後ろで組み、くるーりと周りを見渡す。
辺りは声にならない呻き声で満ちている。
「あーあー、耳障りな声。おいら、ガッカリしちゃうよ」
その場にしゃがみ込んで、膝頭の上で頬杖をついた。
永露と同じ顔をした男が、黒装束の男の背後に取りついて羽交い絞めにしている。そして永露によく似ている女が、短刀を男の喉元に押し当てていた。
黒装束の男たちは、その数ザっと30名ほどいる。その男たちに、それぞれ永露似の男女が一組ずつ。
異様な光景だった。
黒装束の男の1人が、何か言いたげに永露を睨みつけていた。それに気づき、その男を拘束している永露似の男が少し力を緩めた。
「こ、これは一体、どういう芸当だ!?」
絞り出すように言う男に、永露は無邪気な笑みを向ける。
「おいらの異能力『両儀変身』。最初はさあ、単に女に変身できるだけだったんだよね。おいらによく似た美貌の女」
いぶし銀のような髪色をする永露は、それだけでも人目を引きやすいのに、その美貌が大変なものだった。
髪色を濃くした柳眉、完璧なアーモンド型の大きな目。瞬きをすると存在感を増す長いまつ毛に彩られた紅色の瞳、血を挿した様に赤赤とした唇。頬は桃のようにほんのりと色づき、着物に生える艶やかな白い肌。
一度目にすると、視線を引き剥がすことに労力を強いられるほど、魅惑たっぷりの美貌の持ち主だった。
「男で居る時も、女になった時も、欲情あからさまな連中多くて、ホントまいっちゃうよね」
その時のことを思い出し、切なげなため息が盛大にもれた。
「でもさ、女に変身出来るだけって酷くない? それ以外何も出来ないとか意味ワカンナイよ。そう思ってたら、ある日分身出来ちゃった。能力が進化したみたい」
「……」
黒装束の男は、奇異なものでも見るような視線を永露に向ける。
「1人、2人、ぽこぽこ自分が増えていくの。すっごい面白くない? 100人くらいは増やせるようになってさ。んで思い付いたんだ、この異能使って、美人局で稼いじゃおうって」
男の永露は、濃紺色の着流しに、薄紅色の地に大きな朝顔の描かれた振袖を羽織っている。対して女の永露は、淡い翡翠色の地に小花を散らした訪問着姿だ。
「ちなみに女のおいらの着物は、柄まで変えられるんだ。すごいっしょ」
「……」
「これで荒稼ぎしてたんだけどさあ、さすがに警官たちにバレちゃって。東京中を追いかけまわされて、そんな時、日本松の社長に助けられたんだ」
人目を引かずにはいられないその美貌が仇となり、来る日も来る日も逃げてばかり。さすがに逃げることも厳しくなって、飛び込んだビルがサキガケ堂だった。
その時のことを思い出し、永露の顔に楽し気な笑みが広がった。
「もうさ、いきなり薙刀突き付けられて「死んで歩いて出ていくか、死んで走って逃げていくか、どっちか決めろ」って。やす君酷いよね。死んだら歩くのも走るのも無理だっていう」
あははっと笑い、永露は立ち上がった。
「でもそんとき、間に入って助けてくれたのは、あきちゃんなんだ」
深紅のバッスルドレスをまとった派手な女だったが、見かけによらず親身になって話を訊いてくれた。美味しい食事を振舞ってくれ、怪我も手当てしてくれた。そして、日本松に引き合わせてくれて今に至る。
「あきちゃんが居なかったら、今頃おいら、薙刀でまっぷたつだったよ。それに、社長のおかげで堂々とお天道様の下を歩けるようになったしね」
幼い少女のような仕草で、片足のつま先を、トンッと床に打ち付けた。
「…結局、何が言いたいんだ……」
「んーと、だからね、あきちゃんはおいらの恩人ってこと。恩人のあきちゃんを悲しませるような連中は、心底許せないんだ」
無邪気な表情を浮かべていた美貌に、妖艶な笑みが降り注ぐ。
「おじさんたちさあ、灯紫喜って家の軍隊なんでしょ。あきちゃんは灯紫喜家のお嬢様なのに、なんで酷いことするんだよ」
「あ…、あの方はもう、灯紫喜の姫ではない」
「えぇー、そんなの可笑しいじゃん。林太郎ってやつなんて、それこそ灯紫喜の血も引いてない他人だしー」
黒装束の男の目に、初めて動揺するような光が灯った。
「どーせ金に目が眩んだんでしょ。えっと、金を運んでくる種馬だっけ? そんな奴の命令訊くほうが良いんだ。おっさんたち最低」
「黙れ化け物が!!」
叫ぶ男に、永露は冷めた視線を注いだ。
「図星って奴。まあこんな不忠者に守られても、あきちゃんもなおちゃんも安心できないし。おいらが成敗しておこーっと」
永露は右手を水平に向け、喉に当てる。
「じゃ、バイバーイ」
スッと右手を横に動かした。すると「カハッ」と30人ぶんの声があがり、短刀で喉が深々と切裂かれて、黒装束の男たちはその場に倒れた。
「やす君や美桜ちゃんのように、カッコイイ立ち回りは、おいらには無理なんだけど。確実でしょ、これなら」
足元に倒れる黒装束の男に、にっこりと微笑む。
どくどくと流れる血の海に浸りながら、黒装束の男は次第に痙攣がおさまって動かなくなった。
「おいらにとってあきちゃんは、大事なお姉さんみたいな存在なんだ。だから、あきちゃんを悲しませて脅かす存在は、絶対に許さないよ」
怒りを露わにした声で言い捨てると、息絶えた黒装束の男の頭を強く蹴り飛ばした。




