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第61話/99話 「結び直す 絆」①

 〇

    4月4日(火)

 始業式。

 がやがやと。わいわいと。

 式が終わった後の、クラスの雰囲気(ふんいき)を言えばそうなる。

 5年生からクラス替えが無く、席順も5年生最後と同じまま。

 教室が変わるだけで、中身は何も変わらないアタシたち。


 委員会を決めるのは、明日なのだが。

 6年生というのは、自主性を重んじられる年齢らしく、委員会決めの進行もアタシたちでやるらしい。

 で、そのための進行役は学級委員。

 学級委員だけは、始業式の日、つまり今日の帰りの会で決めてしまおうということになった。

 アタシは、女子はまたユミちゃんが立候補して、無投票で決まりだろうな、と思っていたが、今年は違った。

 なんと立候補者がもう1人。キエちゃん。カースト中位から下位の冴えない子。頭が良くないのに、時々出しゃばってくる、あまり感じの良くない子。ぶっちゃけユミちゃんとは格が違う。どちらかと言えば、アタシに近い子。

 無記名式(むきめいしき)の投票用紙を渡され、――回収される。

 獅子戸(ししど)先生の手で、正の字で黒板に集計されていくその得票。

 最終結果は

 

 狐塚ユミ  17票

 田辺キエ  18票


「やべ……、オレ、いくらなんでも、票が入らないんじゃ、キエがかわいそうだと思って、キエに入れちゃったよ。まさかさあ……」

 

「……アタシも」

 

 隣の席のイサオがボソボソとそんなことを言ったので、アタシも返す。

 ユミちゃんの方は見られなかった。


 帰りの会終了後、ユミちゃんは、1人でさっさと教室から出て行ってしまった。

 ちょっと、待ってよ。アタシ話したいのに。

 でも、言って何を話すんだろう。

 (なぐさめ)めか、謝罪(しゃざい)か。

 ……まあ、いいや。さっさと行かなきゃ、追いつけないし。

 割り切ったアタシは、目の前の女の子に頼ることにする。

 

「スズちゃん、一緒に来て。アタシの言葉じゃ、ユミちゃんに上手く伝わらない」

 

「うん、わかった」

 

 話が早い。

 機転(きてん)が利く、スズちゃんはいつもこうだ。


 〇


「「ユミちゃん!」」

 

 階段の(おど)り場で、ユミちゃんに追いつく。

 

「なに」

 

 アタシたちを見上げるユミちゃんは、心底不機嫌で、傷ついて見えて。

 怪我をした野生の獣みたいな目をしていた。

 

「何ってわけでもないんだけど、一緒に帰ろ」

 

 そう言ったアタシに、……ユミちゃんは噛みついてくる。

 

「はあ? 最近、少し元気になったからって調子に乗って。私が、さっきブザマをさらしたからって、同情なんかされたくないんですけど」

 

 うっ。

 言葉に詰まるアタシ。

 なんというか、まあ、元気になったから、と言われてしまうと、返す言葉がございませんというか。

 そんなアタシの横をするする抜けて。

 

「は~~い。話は帰りながら聞きますからね~~」

 

 駄々(だだ)()をあやすような口調で、ユミちゃんの腕を取るスズちゃん。かわいい。こんな保母さんにお世話されたい。

 

「ちっ。……わかったわよ」

 

 渋々ながら、同意したユミちゃんだった。


 〇

 

「ねえ」

 

 ユミちゃんの家へ帰宅する道。

 アタシは切り出す。もうここしかないと思った。

 いや、別にここじゃなくてもいいのだが、さっさと済ませたい的な。

 

「何よ」

 

「ユミ、って呼んでいい?」

 

 ユミが足を止める。アタシも止める。

 ユミがこっちを見る。アタシもユミを見る。口角を上げる。ユミの表情は……細い目が大きく開かれている。

 

「――っ。い、いいけど」

 

 明らかに動揺している、ユミの震えた声。

 

「ん」

 

「ど、どうしたの、突然」

 

 アタシから視線を外し、また歩き出すユミ。

 なんだか照れているような。

 

「いや、前はそう呼んでたし、良いかなって」

 

「ふ、ふ~~ん」

 

 ユミの声は上ずっている。

 

「あ、じゃあ私も『スズ』って呼んで欲しいな」

 

 聞いていたスズちゃんがそんなことを言う。

 

「やだ」

 

 アタシは断る。

 続ける。

 

「スズちゃんは、スズちゃん。かわいいから。かわいい子には、ちゃんをつけて呼びたい」

 

「ええ~~」

 

 不満そうなスズちゃん。

 仕方ないな。

 

「じゃあ、スズ。アタシは、不満だけど、スズ」

 

「やった!」

 

 無邪気に喜ぶスズ。かわいいから、やっぱりちゃん付けが相応(ふさわ)しいのだが。

 と。

 

「ちょっと待ってよ、じゃあ、何もためらわずに呼び捨てされた、私はかわいくないの?」

 

 ユミが強い調子でそんなことを言う。

 少し焦った、不満そうな表情が見える。

 

「当たり前でしょ。ユミのどこがかわいいの」

 

「顔とか! ちゃんとみなさいよ! きぃ~~!」

 

「あ、今、ちょっとだけかわいい」

 

「シオリちゃん、ユミちゃんもちゃんとかわいいよ。服とか」

 

「なんなの、もう!」

 

 あはは、と。

 3人で、駄弁(だべ)りながら帰る。少しだけの幸福。

 

「あ、家、入っていい?」「私も」

 

「……シオリ、足臭いからやだ。スズは良いよ」

 

「靴下脱ぐからさ。前はよく入ったじゃん」

 

「余計ダメだわ。スリッパはいて」


 〇

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