第24話/99話 「体作り 焦燥、習慣」
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12月13日(月)
「ねえちゃん、なにしてんの?」
「腕立て伏せ。見てわかんないの?」
「ひざをついたまま?」
夕食後、少し休んでからトレーニングをしていたアタシを、シュンが不思議そうな目で見る。
「……仕方ないじゃない。アタシひざつかないと上がらないんだから。アンタは出来んの?」
「え、そりゃ……」
アタシの目の前で、シュンは膝をつかずに、正しい腕立て伏せの構えを取る。
ひょいひょいと体を上下して見せるシュン。
「……すごいね」
思わずぶっきらぼうに、それでも素直にほめるアタシ。
アタシの筋力は小1の弟にも負けているのか。
アキに見習うべきところがあるかも、とマユコ先生は言った。
上達のために、練習以外に上手くなるために何かしているか、アキに聞いたところ、返ってきた答えの1つが「体作り」だった。
運動と、食事指導。発言の中で、アタシの嫌いなものばかり、食わせようとするアキは、わざと言ってるんじゃないかと思ったほどだ。
「体力は欲しいよね。安定した練習するなら、一番大事じゃないかな」と。
……まあ他にも色々言われたけど。アイツ、楽器のことになると割と頑固で容赦ない。
マユコ先生に相談したところ、「正直、楽器の体力は楽器の練習でつけて欲しいですし、それが正解です。……ですが、シオリさんは少し基礎体力がなさすぎる気もします。フォームも疲労ですぐ崩れますし。運動をしてもいいかもしれませんね」とのことだった。
自重トレーニングはそのためだ。
どうせ夜は、近所迷惑になるし、音を出して練習なんかできない。
上達のための時間の使い方としては何か欲しかった。
腕立て、背筋。ストレッチをはさんで、もう1セット。ストレッチをはさんで3セット目。
本当は、呼吸に重要な腹筋もやりたいところだが、背が伸びなくなると言われているので、やらない。これ以上伸びないのは怖かった。
多少の腹筋程度で背が伸びなくなったりはしないのだが、その事実をアタシが知るのはずっと先のことである。
棒のように固く感じる、重くなった腕で、適当に風呂へ入り、2段ベッドの上へ。
「寝るから。静かにしてね」
「えっ、まだ8じだよ? ラジオとかきいたりしないの?」
「身長伸ばすの。なんのために、クソまずい牛乳飲んだと思ってんの」
ちゃんとコップ一杯飲んだのは何年ぶりだろう。生臭さと、どろっとした不快感に涙目になった。
これから毎日飲むのかと思うと、死ぬほど憂鬱だ。
それでも、アタシは「牛乳、飲んでないってトモクニとかから聞いてるよ。体大きくしたいなら、飲まないのはタイマンじゃないの」と半分アタシを小馬鹿にしたアキを許せない。まあ、アキは馬鹿にしたつもりはないか。
それでも、馬鹿にされる要素がある自分を許せない。
アキは言った。「体大きくしなきゃ、肺だって大きくならないじゃん? 僕たち、楽器やってるんだから、心肺は大事だよ。息が続かない奏者なんてダサいし。エンジンを大きくしなきゃ」と。
確かに、フルートで息が続くコツはあるし、マユコ先生もよく教えてくれるのだが、それにしたって限界はある。
心肺能力は強化したかった。長く続く息が、遠くまで届かせる力強い呼吸が欲しかった。
成長ホルモンのためにこれからは早く寝ないといけないから、大好きな夜のラジオともお別れだ。悲しい。
……明日の朝は、あの臭い、納豆とかいう腐った豆も食べないといけないんだっけ。
それも毎日食べるのかと思うと、死ぬほど憂鬱だ。
「そんなにいそいで、しんちょう、のばさなくても、いいんじゃないの?」
「しらべたら、女子の成長期は、男子よりも早く来んの。アタシには時間が無いわけ」
「ふぅん。しゅくだいは?」
「朝にやる」
大した量ではない。多いと嘆くクラスメイトがいるのが信じられないくらいの、どうでもいい量だ。
「…そっか。じゃあ、ぼく、下であそぶよ」
子供部屋がある2階ではなく、1階でという意味だ。
なかなか物わかりの良い弟じゃないか。少しだけ見直したぞ。勉強もしろよ。
「ん。ああ、あと、ママに、オカズに肉を増やしてって言っておいて。アンタの言うことなら聞くから」
「ああ、ぼくも、おにくすきだから、いっておくよ」
弟を追い払ってまで、早めに入った布団だったが、疲れているにも関わらず、なかなか寝付けなかった。
(こんなことして、意味あるのかな……? 練習時間も増やしたいな……)
不安と疑問が頭にわいてくる。
睡眠への導入、寝るコツも調べておこう。そう決意した夜だった。
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第24話/99話 「体作り 焦燥、習慣」 終




