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第97話「天使の子2」


 改めて、ティアナディアの魅力について考える。


 原作ゲームで、ティアナディアは主人の死に耐え切れず、彼を復活させるために旅に出た。辛そうな彼女を見るのは心苦しかったが、同時にその深い愛情に感動した。


 だが、平常時の彼女は強い少女だ。


 だからこそ、主人の死が彼女にとってどれだけ辛いことだったかということが推し量れるわけだが、とにかく、感情表現が豊かで、前向きで、笑顔が素敵な普段の彼女もこの世界の物差しでは測れないほどに魅力的なのだ。


 こちらの考えを見透かしているような言動にはドギマギさせられるし、平常時でも時折現れる、闇落ち世界線で見せたような執着心や、振り切った行動にも惹かれる。


 ただ、それが輝くのは、今の溌溂な彼女がデフォルトであるからだと主張しておく。

 つまり、ティアナディアは全部可愛い。


 この世界にきて、益々彼女に惹かれている。


「……これ以上幸せなことはないよな」


 ゲーム世界でティアナディアと出会った時、自分が勇者であったことを近いうちに話そうと密かに決意をした。それで彼女に嫌われたとしても、隠し事はしたくないと思った。


「ワタシをどうするつもりですか? 欲望の捌け口に使うのでしょうか。可哀想なあなたの相手をしてあげるのはやぶさかではありませんが、その程度でワタシを掌握できたとは思わないことです」


 後ろ手で縛られたネーラが、身を捩りながら言った。

 思考が現実に引き戻される。そういえば、コイツのことを忘れていた。


 ネーラの体は傷だらけで、雑に治癒はしたが顔面には乾いた血がこびりついている。それでも上品さが感じられるのは、彼女の貴族めいた所作故か。


「本当にそうしてやろうか」


 ネーラのローブを掴んで引き裂く。細い首に手を掛けゆっくりと絞めるが、ネーラは怯むどころか、挑発的な目でベリウスを煽ってくる。


 宝石のような瞳がベリウスを捉える。

 吸い込まれそうなほどに綺麗な瞳だ。


 我が物にしたいと誰もが手を伸ばし届かなかった瞳だ。一流の騎士が、貴族が、一国の王が求め、しかし、その望みは叶わない。彼女の理想は高く、この美しい瞳に姿を映すことを許された者は選ばれたたった一人――そんな陳腐な光景を幻視して、ベリウスは彼女の顔面に頭突きをした。


「あっはぁ! 酷いですわ、ベリウス」


 鼻血を垂らしたネーラが、ぎょろりと目を剥いて笑った。


「相変わらず下品な女だ。魅了なら効かないぞ。俺の瞳に貴様のような下劣な女の姿が入ることは未来永劫有り得ないからな」

「ふふ、そう言われると、是が非でも言うことを聞かせたくなりますね」

「まだ自分の立場がわかっていないのか」


 ネーラの腹部を踏みつける。

「げふぅ」と汚い声を漏らし、ネーラは体を丸める。


 ネーラは憎々しいと言わんばかりの鋭い視線を向けてくる。いつも余裕綽々のネーラが、感情を剥き出しにする瞬間というのは、どこかそそるものがある。


 その仮面を剥いでその中身を晒していくのも面白そうだが、遊んでばかりもいられない。


「お前の目的は遺跡の発見だったのか?」

「素直に答えると思いますか?」


 ふざけた返答をするネーラの胸を踏みつけた。

 まだ余裕そうな彼女を見て、更に力を込める。ネーラが咽る。


「暴力に訴えたところで――あぐぅ」


 無言で顔面を蹴り付けた。


「いっ、やめ……せめて、話を――やぁ、うっ」


 続けて、腕をにじった。

 そんなやり取りを何度か続けて、彼女もこの抵抗がなんの益も生み出さないと悟ったのだろう。血の混じった唾液を吐き出すと、忌々しげに口を開く。


「ごほっ、げほ……ええ、そうですね。遺跡の確認も目的の一つです」


 気丈に振る舞おうとしているようだが、抑えきれない敵意が漏れていた。


「もう一つは、あなたを殺すこともそうでしょうか。とある筋から、ワタシの命を狙っているという情報を得たものですから。殺す前に殺してしまおうかと」

「そのために、りゅうゴンのぬいぐるみを利用したのか」


 ぬいぐるみに何かしらの呪いが付与されていたのは、一目見てわかった。

 だが、その内容がわからなかった。呪いのバッドステータスは、効果の種類が広い。記号によって見分けられるものもあるが、今回は見たことのない表記をしていた。


 だから、シグレで試した。

 結果、シグレはティタウィンの聖墓に招かれた。


 あの呪いは冒険者を迷宮に誘うものだった。これで、迷宮都市に冒険者が溢れていた理由も、皆が我先にと迷宮に挑んでいた理由もわかった。


 ネーラがそうなるように仕向けたのだろう。

 金のクロックローチを倒させ、石板の秘密を暴くため。


 そして、ベリウスの討伐に冒険者を利用するために。

 しかし、彼女の口から出たのは予想外の言葉だった。


「りゅうゴンですか? いえ、それは知りませんね」

「白を切るのか」

「迷宮都市で流行っている、おかしなぬいぐるみですよね。本当に知りませんよ」

「お前意外に誰がッ」

「ここまで来て、ぬいぐるみを広めた事実だけを隠す意味があると思いますか?」


 ネーラを踏みつけようと脚を振り上げ、止まる。

 それはその通りだった。


「……迷宮に冒険者を集めるために利用したんじゃないのか」

「本当に偶然です。ちょうどいいから利用してやろうと思っただけで、なるほど、あのぬいぐるみには、そんな効果があったんですね。気づきませんでしたわ」


 嘘を言っている感じはなかった。

 それに、りゅうゴンの呪いに関する疑いだけ否定するのもおかしな話だ。ネーラは本当にりゅうゴンには関係ないのか。


 ならば、いったい誰が……。

 ティタウィンの聖墓に冒険者を集める理由があるとすれば。


「まさか……石板の秘密を狙う者が他にもいたのか?」


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