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82話「オデットとオディール2」

82話「オデットとオディール2」


 前衛がユーリとオディール、後衛がシグレとオデットだ。


 シグレが魔法を使った支援型で、オディールは見たところ、攻撃特化の物理型だ。バランスは悪くない。


 全員が足を踏み入れると、門は挑戦者を逃がさんというように勢いよく閉じた。


 ぼっ、ぼっ、と壁に備えられた魔石灯が光を帯び、行く先を照らす。


 それぞれが刀や杖、弓に、短刀などの装備を構える。古代遺跡のような壁画が刻まれた、長い、長い回廊を、警戒心を最大限に引き上げて進む。


 外の迷宮と切り離された静謐な空間はまるで墓のようで――そこまで考えて、この迷宮の名がティタウィンの聖墓だということを思い出す。


「あ、あの、一応それぞれの役割だけでも決めておきませんか」


 ユーリの提案で、軽く自己紹介が始まった。

 オデットとオディールは双子の冒険者で、ツインテールの小柄な少女が姉のオデット、スタイルのいい長身の少女がオディールだ。二人とも上級職で、オデットが大弓士グランアーチャー、オディールが忍刀士ニンジャだという。


 ただ、自分だけ中級職に上がったばかりのユーリは正直、気後れしていた。それを話すと、オデットはバカらしいと笑い飛ばす。


「しょーじき、大体の敵はオデット一人で十分なの。だから、別に他のヤツらはいようといまいと関係ないの。だから、ユーリは中級だろうが、上級だろうが興味ないの」


 突き放すような言い方だが、彼女なりに気を遣ってくれたのかもしれない。


 それから、フォーメーションや、それぞれの得意な動き、スキルなどの情報交換をして、オディールの主導で数パターンの作戦を立てる。


 ユーリの主な役割は、敵の注意を引くことだ。

 攻撃力では貢献できないため、スピードを活かして戦場を撹乱する。ユーリは自身の役割を脳内で反芻し、気合を入れる。


「さあ、行くぜ。竜もどきをぶち殺す」


 永遠に続くかと思えた回廊は途切れ、コロシアムのような広々とした空間に出る。

 瞬間、銀の鉄格子が滑り込み、コロシアムと回廊を隔て、退路が塞がれた。少し高い位置に、ぼんやりと十個の赤い目が眩闇に浮かび、緊張感が走る。


「五体の蛇……ふえへ、竜? ですかね」


 シグレが呟く。


「違うの。五つの首、体は一つ」


 オデットの言葉に応えるように、竜種は低く咆哮する。

 目が慣れてきて、ようやくその全貌が明らかになる。でっぷりとした巨体。そこから生えた、五つの首。凶悪な牙と、全身を覆う黄金の鱗。


「ティタウィンの聖墓に住まう、固有魔獣――プロトラドン。さあ、楽しい竜狩りの時間! 天才的なオデットの射撃で先・手・必・勝ッ、なのッ!」


 オデットは巨大な竜を前に一切ひるむことなく、にひっと口角を歪める。


 見事な早業で弓を引き、闘氣術アーツを持って疾風の如き矢を放つ。それが嚆矢となり、プロトラドンと即席四人パーティーとの戦いの火蓋が切って落とされた。


    ◇


 ツルプルルが姿を消してから、一晩が経った。

 金のクロックローチ、シグレ、ツルプルルの捜索をしながら、ティタウィンの聖墓を探索しているのだが、それぞれ手掛かりはなかった。


「プルルちゃんなら、きっと元気に魔獣や冒険者を食べているでございますよ。そのうちにしれっと戻って来るんじゃないですか?」


「そうですね、プルルちゃんなら何があっても大丈夫な気がします」


 ティアナディアの言葉に、フンカルも共感を示す。


 ツルプルルは悪食だが、生命活動に必要な養分はそう多くない。ドレインクラーケンの特徴は再生力の高さと、MPの吸収だ。総じて生命力は高い。


 ベリウスもツルプルルの心配はあまりしていなかった。ただ、シグレに関しては不安と、少しの罪悪感があった。


「あ、そうだ。ご主人様。頼まれていたものが用意できましたよ」


 思い出した、と手を叩いたティアナディアが、マジックスクロールを渡してくる。冒険者ギルドで受付嬢から受け取った物の内の一つを、彼女に預けていたのだ。


「それと、こちらのレジェンド級のアイテムも!」

「ああ、助かる」


 続けて魔法鞄から取り出した、もう一つの品も受け取った。


「何に使うのでございますか? そんなもの、ご主人様のスーパーな魔法の前ではガラクタ同然でございますが……はっ、もしかして、わたしのことを常に身近に感じていたいから! 照れてしまいますね、でも、それならもっと相応しいものが――」


 ティアナディアが思考を飛躍させ、こちらに迫ってきたので、いったん無視を決め込む。彼女に気を取られた瞬間、正常な思考ができない自信があるからだ。


「推しの押しが強いのも困りものだな……」


 瞳を閉じて、奴隷紋の反応を探る。


 ベリウスとシグレを繋ぐ不可視の糸を感じて手繰り寄せる。


 近い。この辺りのはずだ。だが、気配はない。


 瞬間、ゴゴゴと大地がどよもし、ベリウスの集中が途切れる。


 迷宮が大きく揺れ、体の芯まで貫くような金属音が響く。これは迷宮が構造を変え、その一部を書き換えた音だ。


 例えば、通常の手段では現れない、隠しマップの出現。


「これは、まさか……」


 ベリウスは過去に、正確にはゲーム世界で同じ揺れを体験していた。


「何者かが扉を開いたな」


 金のクロックローチが倒され、黄金の扉が開かれた。

 音がしたのはちょうど、ベリウスたちの真上からだった。


 そこで、ベリウスはハッとする。近づいているはずなのに一向にシグレを見つけ出せなかったのは、横軸が噛み合っていなかったからではないのか。GPSと同じだ。地図上では同じ場所で表示されても、階層が違えば出会えない。


 金のクロックローチもシグレが? 有り得なくはない。彼女がアレの影響でティタウィンの聖墓を訪れたとしたら、ここにいる多くの冒険者と目的は同じはずだ。そう刷り込まれているはずなのだ。


「ベリウス様、ティアさん、こっちです!」


 フンカルがベリウスたちを先導し、走り出す。

 金のクロックローチを倒したことで、何者かは裏ボスのプロトラドンへの挑戦権を得た。

 もし、プロトラドンを倒せば、レジェンド級のアイテムと石板の秘密が手に入る。


 だが、中級冒険者程度では、あの五つ首の竜は倒せない。少なくとも、上級職が二人は必要だ。倒し方にも少しコツがいる。


 まだ焦る必要はない。この世界の冒険者基準で考えればプロトラドンを倒せる者は少ないはずだし、たとえ倒されたとしても、あの回廊は一方通行だ。


 ティアナディアの秘密は持ち帰らせなければいい。


 と、その時。


 ガコン。何かが切り替わるような音が響き、再び地面が大きく揺れる。


「きゃっ、今度は何ですか!」


 一帯で大きな魔力の反応があり、ボコリボコリと地面が隆起する。

 槍を突くような速度でせり上がるそれは巨大なクリスタルだった。剣山のようにクリスタルが突き立ち、それは上へ、横へと伸びて、内の一本がベリウスの顔面に迫る。


「ベリウス様!」


 フンカルに咄嗟に腕を引かれ、クリスタルの先は頬に擦過。事なきを得る。当たったところで【魔禍の冠】により、ダメージを受けることはないのだが。


 クリスタルは猶も成長し、せり上がり、肥大化し、巨大な壁を作った。


 更に迷宮の付近一帯の壁や地面、天井がクリスタルで覆われる。

 まるで、永久凍土に侵されたように、地面は全て煌びやかな鉱石に塗り替わった。

 てらてらと輝く水晶の眩しさに目を細め、ベリウスはティアナディアが壁の向こう側にいることに遅れて気が付く。壁を叩く。想像以上の厚さがありそうだ。


「――ッ、ティア、ティア!」


 声を張るが、壁の向こうから応答はない。

 おそらく、こちらの声が聞こえていないし、ティアナディアの声もこちらに届かない。

 もう片方の通路にはクリスタルの壁がないため、閉じ込められたというわけではない。だが、ティアナディアとは完全に分断されてしまった。


「ちッ、面倒な」


 遠回りしてでも合流はするべきだろう。


 最悪なのはティアナディアが単身、プロトラドンに挑み、石板の内容を知ることだ。

 彼女が自分の出生の秘密を知った時、どのような反応を示すのかは、ベリウスにも想像が付かなかった。


 構造を把握するため壁に手のひらを当てる。


「ベリウス様、危ないですよ?」


 すると、背後のフンカルから声がかかる。

 その声音は言葉とは裏腹に、嘲るような陰湿さがあった。


 振り返った瞬間、フンカルに抱き着かれる。視線が合う。彼女は薄っすらと笑みを浮かべ、瞬間、腰に鋭い衝撃が走った。視線を落とすと、そこには短剣とそれを力強く押し込むフンカルの手があった。


「あーあ、だから危ないって言ったのに。遅かったですかね?」


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