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第72話「双子の黒精種の襲撃」

第72話「双子の黒精種ダークエルフの襲撃」


 遠目に眺めれば、高く屹立する堅牢たる遺跡。


 だが、その本質は無限の広がりを見せる、地下迷宮にあった。


 その全貌は未だ明かされず、未知の世界が冒険者の意欲を駆り立てる。


 ありふれた魔獣から、それこそ、固有魔獣や変異魔獣などの特殊個体まで数多く生息し、この世に数えるほどしか存在しないジェネシス級のアイテムの存在までまことしやかにささやかれる大規模迷宮。


 それが、ティタウィンの聖墓だ。

 しかし、現在の迷宮には、そんな神秘性に溢れる雰囲気は一切なく、数多の冒険者でごった返していた。


 特に浅層は駆け出しのパーティーで溢れている。

 魔獣を狩ったり、マテリアルを採取したりするどころの話じゃない。既に狩りつくされたのか魔獣の気配はなく、因縁をつけてパーティー同士で言い争いをする場が見受けられる始末だった。


 ――ここは観光地みたいなもんなんで、都市に常在する冒険者は少ないんすけど、最近は迷宮都市に冒険者が溜まるばかりで、しかも受ける依頼も偏ってて、はーあ、やっぱ金ピカゴキかあ……ゴキなのかぁ。


 冒険者ギルドの受付嬢の話を思い出す。

 街中での冒険者の数も異常だとは思っていたが、想像以上だ。


「おい、そっち見つかったか! 金のクロックローチ」

「ダメです……というか、本当にいるんでしょうか」

「実際に見たってヤツが何人もいたぜ」

「にしても、この数の冒険者がいたらなあ……いや、やるけどさ」


 冒険者たちの会話に聞き耳を立てるが、やはり狙いは変異魔獣、金のクロックローチのようだった。


「……ゲームでも、長らく発見されなかった隠し要素だぞ」


 ベリウスは呟く。


 それがどうして、ここまで広く一般的に知られるようになったのか。偶然だと言われればそれまでなのだが……。


「あら、これは困りましたね。どうしましょうか? ベリウス様」


 人で溢れた迷宮の惨状を見て、フンカルが首を傾げる。


「多少強引にでも下に潜りましょうか。そうすれば、人の数も減るでしょう。きっと、彼らでは奥には来られませんよ」


 ティタウィンの迷宮には、フンカルと二人でやってきた。迷宮の下見に行くという話になった時に、真っ先に彼女が名乗り出たのだ。


 フンカルは先に行くかと提案するが、ベリウスはその場を動かなかった。


「ベリウス様?」


 不思議そうに振り返る、フンカル。

 一見、いつもの余裕のある表情にも見えたが、僅かなその瞳の奥からは僅かな逸りを感じた。フンカルは迷宮攻略に随分乗り気のようだ。


 ベリウスの今回の目的は二つだ。


 金のクロックローチを倒し、ティアナディアの出生に関して書かれた石板を壊すこと。


 そして、七魔皇の一人であるネーラの打倒。


 金のクロックローチはどうとでもなる。問題は、原作のストーリーとズレが生じたことにより、行動を変えたネーラの方だ。


 もし、ベリウスがネーラならどうするか――。


「一度街に帰るぞ、まだ時じゃない」


    ◇


 昨日と同様、街も人でごった返していた。


 まったく、どれだけの冒険者が迷宮都市に滞在しているのか。

 普通じゃなかった。何かしらの異常が働いていると見るべきだろう。


「行かないと……迷宮で金のアイツを見つけないと……」


 虚ろな目をして、ティタウィンの聖墓を目指す冒険者とすれ違う。

 ベリウスは貧相な装備をしたその冒険者を横目で流し見ると、ふうと息を吐いた。


「準備不足だったでしょうか? 特にアイテムの補充もしていないようでしたし。何か足りないものがあれば、ワタシが購入してきましょうか?」


 一歩後ろを歩くフンカルが、顔を覗き込んできて問う。


 どうやら、迷宮に挑まなかった理由をアイテム不足だと睨んだようだ。


「いや、問題ない」

「あら、特に不足物はありませんでしたか」

「むしろ何もないな。訳あってアイテムをほとんど手放してしまってな」


 正確に言えば、手放したのは■■がここに転生してくる前のベリウスだが、同じことだ。依頼料として、ルナに持っているアイテムのほぼ全てを渡してしまった。


 あんなやけくそな譲渡をする必要などないと思うのだが……それも何か意味があったのか。皆目見当もつかないけれど。


「なるほど……回復用のアイテムも? 異常状態の解除も? 魔力の補給や、迷宮探索用のアイテムまで本当に何もないのですか?」

「ああ、何もないな。今装備しているアイテム以外だと、有用な物も汎用性の高い物も全て不足している。補充しなくてはとも思っているのだがな」


 今のところ、魔法で全てカバーできているというのが理由の一つ。


 もう一つは、せっかくなら最上級のアイテムを……なんて、くだらないゲーマー気質のせいだろう。


 テキトーな露店を物色することもあったが、楽に手に入る物だと程度の低い物ばかりだった。それも原作ゲーム基準だから、目が肥えているというのもあるかもしれないが。


「ふふ、そうですか。何かあれば、是非ワタシを頼ってくださいね。こう見えて、顔は広い方なんです」


 フンカルはニコリとして言う。


 瞬間、チクリと刺すような違和感を覚え、立ち止まる。


「…………」


 一瞬、こちらの脳内を覗き見られたような、不気味な感覚があった。

 消そうとも消しきれない死をもたらす香りがベリウスの第六感を触れた。


 フンカルが不思議そうにこちらを見る。違和感が確信に変わる。

 ベリウスはローブで包むようにフンカルを抱きしめた。


「ふぁ、えっと、ベリウス様!?」


 フンカルは顔を真っ赤にして狼狽える。体が強張っているのを感じる。「はれ?」「え? なんでぇ?」と顔を両手で覆って、あわあわとしていた。


 だが、ベリウスは真剣だった。

 ひゅんと風切り音が遠くから聞こえる。


 やはり。


「静かにしていろッ、来るぞ」

「……え、来る?」


 フンカルの気の抜けた声が響き。

 刹那、激しい衝突音と共に、背中に衝撃が走る。その体の芯を射抜くような振動がフンカルにも伝わったようで、ビクリと体を震わせた。


「大丈夫ですか!? ベリウス様!」


 状況を理解したフンカルが、ハッと顔を上げる。

 長距離から、闘氣術アーツによる狙撃を受けたのだ。


 だが、【魔禍の冠】――受けるダメージをMPが肩代わりする、魔導皇帝の固有スキルにより、ベリウスには傷一つ付かない。


「問題ない。白昼堂々、度胸のあるヤツだ」


 並みの冒険者ならば体を貫かれる攻撃力だった。上級職は確定。職業は長距離物理特化――巨弓士グランアーチャーだろうか。


 ベリウスは衝撃から狙撃位置を割り出し、背後を見やる。

 居た。この街で最も高い監視塔の天辺に、二つの影があった。本来は、迷宮都市の外の魔獣を警戒するために用いられる、監視塔だ。


 そのうち、闘氣術アーツを放った方――巨弓士の琥珀色の瞳と視線が交わる。


 その影は一瞬で見えなくなるが、その魔力の残滓は明確にヤツらの動向を示していた。逃走の判断が早いのは殊勝なことだ。


 だが。


「まさか、俺が誰であるか知らないで撃ったわけではあるまい。追いかけっこにすらならないぞ」


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