第67話「シグレの冒険者登録5」
ベリウスはギルドの方を見て首を傾げる。
何やら騒がしい。シグレがまた勧誘でもされているのかもしれないとも思ったが、それにしても妙な熱気を感じる。
一応様子を見に行った方がいいだろうか……押しに弱いシグレのことだ、変なことに巻き込まれて困っているかもしれない。
そう思って、再びギルドに入ろうとしたところで、ちょうどシグレが戻ってきた。
シグレはベリウスの姿を確認すると、どこか照れくさそうに「ふえっへ」と不格好な笑みを零した。
「何かあったのか?」
「ふぇ……は、はい。いろいろ……でも、なんとか厳重注意で済んだというか……ふえへ、シグレはまだまだだとは思いますが、強いって便利ですね……ふぇ」
「? よくわからないが、問題ないなら詳しくは聞かないでおこう」
ベリウスは自身の目的を達した。
シグレに何か考えがあったとしても、それは自由させていいだろう。
「そ、その……神様はなぜ冒険者登録を……? そ、そんなこと神様に必要なのかなぁ……とか思って、です」
「少し手に入れたいものがあった。それに、ギルドカードがあった方が、シグレも動きやすいだろうからな」
ギルドカードは、いわゆる身分証のような役割も果たしている。
これを持つ冒険者としか取引をしない商人や、ギルドカードを見せることで受けられるサービスもある。シグレはいきなり白銀等級の位を与えられたから、その恩恵もひとしおだろう。
「ああ、そうだ。他のパーティーに入ることに関しては――」
「す、すす捨てないでくだひゃいっ!」
シグレが声を震わせて、その場に平伏する。
「…………」
何かを勘違いをされている気がする。
別に捨てるつもりなどない。むしろ、これからのことを考えて他のパーティーに参加することは断らせようとしたのだが。
「ど、どうか、か、神様のお側に居させてください……なんでもしますので」
「別にそういうつもりは……」
「役に立ちます! ま、まだ役立たずですが、いずれ神様の素晴らしさを全国に広めてみせます! だ、だからぁ……どうか、シグレをお側にぃ……」
「他のパーティーに勧誘されたと思うが――」
「あ、あんなゴミ共とい、一緒のパーティーとか有り得ないです……ふえへ、あ、シグレもゴミか。で、でも、ゴミなりに神様の役に立ちたいというかぁ……」
シグレはめそめそと泣きながら、言う。
「そうか」
ベリウスはそんなシグレの頭を雑に撫でた。
「お前は俺の所有物だ。捨てるわけがないだろう。俺やティアは魔族だし、プルルも似たようなものだ。人族であるシグレだからできることもあるしな。まだまだ利用するつもりだから勝手なことを言うな」
「か、神様ぁ……」
シグレは手を合わせて、うっとりとした表情を浮かべた。
何やらぶつぶつと唱えている。「信仰」「恩恵」「祝福」「神様」と断片的な言葉が聞こえてくるが、聞かなかったことにした。
「まあいい。シグレ、お前にこれをやろう」
ベリウスは先ほど購入した、とあるアイテムを渡す。
それは、迷宮都市で流行っているという、りゅうゴンのぬいぐるみだった。
「ふぇ……シグレにですか?」
「そう言ってるだろう。ちなみに、拒否権はないからな」
「きょ、拒否なんてそんな……でも、シグレには勿体ないというか、でも、嬉しいです。こ、こんな幸福なことがあっていいのでしょうか」
シグレは受け取ったぬいぐるみを大事そうに抱える。
ぬいぐるみに頬ずりして顔を綻ばせるシグレを見て、少しだけ心が痛む。
りゅうゴンのぬいぐるみを渡した二つ目の理由は――まあ、別に何事もなければそれでいい。ただ、そうでなければ、少し嫌な想いをさせることになるかもしれない。
「あ、ありがとうございます、神様! これからより一層神様に尽くします、です!」
◇
ユーリとアゲートは、無事、迷宮都市ラスアルゲティの関所に到着した。
道中では、度々魔獣と遭遇した。
アゲートは口調こそ荒いものの、案外面倒見がよかった。ユーリの戦いを見て論理的で正確なアドバイスをくれたし、本当に危険なときは助けに入ってくれた。
おかげで、レベルは多少上がった。
ただ、不甲斐なさを感じる場面が多かった。
ユーリは勇者だというのに……本来ならば、あの程度の魔獣に苦戦をするなど有り得ないことだ。
「……もっと強くならなくちゃ」
ユーリは汗を拭って、門の向こう側に聳える巨大な迷宮を見上げた。
迷宮都市ラスアルゲティは、ティタウィンの聖墓という迷宮の近くに作られた都市で、多くの冒険者で賑わっている。人の出入りも激しく、そのせいか厳重な関所が設けられていた。
「えと、まずはルゥプさんと合流するのがいいですかね?」
「だろうな。大まかな外見はカンデラに聞いた通りだ。目立つ見た目だから、見つけるのもそう難しくねェだろうが……かったりぃ」
――眼帯をした小柄な白虎種の少女で、魔導系の職業。見た目こそ幼いですが、歳はユーリと同じくらいですわ。獣人族の中でも白虎種は珍しいので、まずはその線から探してみるのがいいでしょうね。
カンデラの言葉を思い出し、ユーリは新たな仲間に想いを馳せる。
「ふふ、どんな子なのかな」
その少女はユーリと同年代らしい。歳の近い仲間というものには憧れがある。共に切磋琢磨できる仲間というのも素晴らしいものだと思った。
「だーかーら! どこからどう見ても大人のお姉さんじゃろがいッ!」
関所の方から、駄々を捏ねる子どものような声がした。
ユーリは反射的に声のした方を見て、思わず「あ」と声を漏らした。
小柄で。
右目に眼帯をしていて。
白髪と虎耳は間違いなく白虎種のもので。
オーバーサイズのローブを装備していた。
それは、カンデラから聞いた、ルゥプ・バーバリスの外見と全く同じものだった。




