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第66話「シグレの冒険者登録4」

第66話「シグレの冒険者登録4」


「ふざけるなッ! 正気になれ、お前は騙されてるんだ! そうじゃなきゃ、イカレてる! 何が神様だ! バカにしやがって!」


 次は黒髪の男に訴えかけるが、反応は似たようなものだった。


「か、悲しいです……シ、シグレもこんなことしたくないのに」


 シグレは再び詠唱をし、【ウィンド・ブラスト】を繰り出した。

 しかし、黒髪の男は体を投げ出して、それを上手く躱した。ただ、シグレの様子に恐怖を抱いたのか、腰は引けていた。


「だ、ダメですよ。避けたら……浄化できないじゃないです、かッ」


 シグレは彼の下に寄ると、杖の石突の部分を彼の顔面に突き刺した。

 すると、ちょうど先の方が口の中に入る。

 困った、これでは彼の答えが聞けない。

 もしかしたら、心を入れ替えて、神様を信仰したいと思っているかもしれないのに。


「もごぉ、ふがぁ……あえれ、あ」

「えっと……どっちですか? 神様……信じてくれます?」

「ふる! はひはまひんひるはうら」

「なんて言ってます? 信じる? 信じない? どっち?」


 答えを急かしてガシガシと杖の先を押し付ける。


 すると。


「……ぁ、気絶した……き、汚い。神様に貰った杖にこんなの、酷い……ふえへ」

「おい、止めないか!」


 次はヴェントがやってきて、シグレの肩を掴んだ。


「……お、大人しく待っててって言ったのに。あ、あなたはシグレの神様をバカにしました。ゆ、許せないかも……ど、どうします?」

「どうも何もない! こんなところで魔法を使うなんてどうかしてる! ギルドカードの剝奪も有り得るぞ! 冷静になれ」

「あなたは神様を信じますか?」

「……あの初級冒険者か。先ほど言ったことは間違いだとは思わない。君の実力には見合っていないし、大した冒険者だとは思わない」

「そうですか……じゃあ、死んでください」


 呆れた。反駁する気にもならなかった。


「……初級冒険者? そんな人が決めた括りに囚われて本質を感じ取れない愚か者は生きてる価値ないです。一目見てわかりませんか? 魂を震わせる圧倒的なオーラが。感じないですか? 感じないから大した冒険者じゃないとか言えるんですよね……ふえへ」


 ベリウスを一目見て、何も感じなかったというなら、それまでだ。


「君は何を言ってるんだ……」

「……あ、もう大丈夫です」


 シグレは杖を構えると詠唱を始めた。

 次の魔法は、先ほど使用した魔導系の職業で広く使われる魔法とは違う、竜喚師のみが使える攻撃魔法。


「――【赤竜の吐息クリムゾンブレス】」


 使役する竜――今回は、レッドドラゴンの魔法を借り受けて放つ一撃。


「――ッ、獣人如きが! 図に乗るなッ」


 ヴェントは闘氣術で防御力を上げ、更に西洋剣を構え応戦しようとする。

 しかし、放たれた紅蓮の火球を見て、ギョッと目を見開いた。これほどの規模の魔法だとは思っていなかったという顔だった。


 当たり前だ。シグレのこの力は神様に授かったものだ。神様の力の一部と言ってもいい。それがどうして、上級職になったばかりの冒険者に防がれるというのか。


「これが神様の祝福です」

「な、バカな――ッ」


 紅蓮の炎球は、ヴェントの西洋剣と激突すると爆ぜるように勢いを増し、彼を飲み込んだ。轟々とうねりを上げる炎がその存在ごと燃やし尽くすように荒れ狂う。


「うがぁあああ――ッ」


 しばらくして炎が弱まると、丸焦げになったヴェントが「僕は上級冒険者だぞ、ふざけるな、死ね、死んでしまえ」と呪詛を吐きながら這い出てきて、そのまま地に伏した。


 まあ、高級なポーションを使えば死にはしないだろう。死には。


「おい……マジか、あのヴェントがやられたぞ」

「今ここにアイツより強い冒険者なんていないだろ……」

「イカレてやがる……とんだ冒険者が迷宮都市に来やがった」


 ヴェントが倒れたことで、場が恐怖に支配された。

 シグレは先ほどまでとは違う意味で好奇の視線に晒される。


 だが、関係ない。


 むしろ、これからすることを考えたらちょうどいいかもしれない。


「あなた方は神様を信じますか? 神様は矮小で、欲深い、シグレたちのこともきっと救ってくれますよ。赤き竜復活の時が近づき、この世はとても不安定です。この真っ暗闇の世界で寄る辺のない旅は酷く不安でしょう? だから、神様に祈るのです」


 シグレは大きく腕を広げて、ベリウスの姿を思い浮かべる。


「シグレはかつて、奴隷の身分でした。しかし、神様がシグレを解放して生きる意味を与えてくれたのです。憎しみや、欲望に呑まれて剣を振るってはいけません。神様の教えてに沿って、正しく己の価値を証明するのです。さすれば、神様の祝福があなたたちにも力を授けるでしょう。私が上級職へと職業昇進したように」


 先ほど、ベリウスを貶めるような発言をした、残り二人の冒険者の下まで歩み寄る。

 金髪の中年も、茶髪の女性も同じように震えていた。その場に座り込むと、何度も何度も首を縦に振り、頭を下げてきた。


「し、信じます! 神様素晴らしいです!」

「私も信じます! 神様に救っていただきたいです! 神様万歳!」


 どうやら、やっと神様の素晴らしさが伝わったらしい。

 一目見ればわかるはずの神様の魅力を伝えるために、これほどの時間が掛かってしまうとは……やはりシグレはまだまだ役立たずだ。


「で、でも、よかった……ふえへ、じゃあ、いい子のあなたたちには、これをあげましょうね。神髪を封じたペンダントです」


 ベリウスの髪の毛を封じた魔石が取り付けられたペンダントを取り出し、二人に渡した。あれからもベリウスの髪の毛を集め続け、ペンダントの生産を続けていたのだ。


「す、すごいパワーを感じます。はい、本当に……」

「わ、わあ……あ、りがたいです……私も毎日祈ります」


 二人は最初こそギョッとしていたものの、すぐにそのありがたみに気づいたのか笑みを浮かべた。

 少々ひきつってはいたが、きっと、恐れ多さがあったのだろう。気持ちはよくわかった。


「さあ、皆さんもどうですか――」


 シグレはギルド内の冒険者たちに視線を移すと、声を張った。


「この過酷な世界で信じられるのは、神様だけです! 天使? そんなものは知りません。彼女が今までにあなたを救ってくれましたか? シグレは神様に救われました! 痛いこと、しんどいこと、辛いこと、神様のためだと思えば、それら全て祝福へと変わるのです! さあ、崇めましょう! さあ、さあ!」


 すると、一泊置いてワッと場が盛り上がる。


 顔が引きつったものや、困惑したような様子のものもいるが、きっと、神様が近くにいることをわかって緊張しているのだろう。その気持ちもよくわかった。


 それから、シグレはギルド内の冒険者にペンダントを配り歩くのだった。


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