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第63話「シグレの冒険者登録」


 ティアナディア、ツルプルルを送り出したベリウスは、シグレと共に冒険者ギルドを訪れていた。


 冒険者ギルドは、冒険者の登録、依頼の発注に受注、詳細なステータスの確認や、併設された換金所での素材の買い取りなど、冒険者として様々なサポートが受けられる場である。


 街も大概だったが、冒険者ギルド内は更に人でごった返していた。

 冒険者には、血の気が多い者が多いこともあって騒がしく、暑苦しい。


「ふぇっ……ゴミ共が、多い……」


 シグレは人混みが苦手なのか、若干顔色が悪かった。

 縋るようにギュッと杖を握って、ベリウスの後ろを付いてくる。


 気持ちはわかる。ベリウスも生前のほとんどを家か、病室で過ごしてきた。

 人混みには慣れていないし、嫌いだ。ティアナディアではないが、ここで魔法をぶっ放してやろうか、という気持ちが湧いてきた。


 ベリウスは、さっさと用事を済ませてしまおうと、受付口に直行する。


「冒険者登録をしたい。二人分だ」


 簡潔に目的を告げると、目の下に大きなクマを作った受付嬢のお姉さんは、「あー、最近ほんと多いっスね」と気だるげに対応してくれた。


 背後のシグレを一瞥すると、二人分の用紙を渡してきた。


 ここに個人情報を記入していくらしい。


 名前や性別、経歴などなど……テキトーに項目を埋めていく。


 別に冒険者として真面目に働きたいわけではないのだ。


「お兄さんたちも、ティタウィンの聖墓に潜るんスか?」


 ベリウスがペンを走らせるのを横目に、受付嬢が訪ねてくる。


「そのつもりだ。も、というと……」


「ここにいるヤツら、みーんな迷宮が目当てなんスよねえ。なーんか、最近みんな取り付かれたように挑んでて……ちなみに、お兄さんはなんで迷宮に?」


「ちょっと確かめたいことがあってな」


「うわ、はぐらかされた」


 ティタウィンの聖墓に潜る目的は、ティアナディアの出生の秘密について刻まれた石板を破壊することだ。ここにいる多くの冒険者の目的とは異なるだろうから、聞いたところで参考にはならないだろう。口にするわけもないが。


「迷宮関連の依頼以外がめちゃ余ってて困ってるんスよねぇ、お兄さん受けてくれたりしないっスか? 護衛依頼とか、荷物運びとか、荒野の方での鉱石採取とか」


 受付嬢はバッと数枚の依頼書を取り出して押し付けてくる。

 目の下のクマや、その語気から切実な様子は伝わってくるが、生憎、そこまでのお人好しではない。


「悪いな。遠慮しておく」

「そっちのお嬢ちゃんは!」

「シ、シグレは……その、神様の御導きに従うだけなので」


 負けじとシグレにも営業を掛けるが、あっさりと断られる。

 受付嬢はがっくりと肩を落とし、大きなため息を吐いた。


「はーあ、ここは観光地みたいなもんなんで、都市に常在する冒険者は少ないんすけど、最近は迷宮都市に冒険者が溜まるばかりで、しかも受ける依頼も偏ってて、はーあ、やっぱ金ピカゴキかあ……ゴキなのかぁ」


「金ピカゴキだと?」

「あり? 知らないっスか金のクロックローチの話。てっきり、お兄さんもこのために迷宮に潜るのかと」


「……知っている、知っているどころか」


 クロックローチは、比較的広い地域に分布する、ゴキブリ型の魔獣である。


 AGIとMDEFに優れているが、攻撃力とHPは低い。逃げ足が速く討伐するのは困難だが、獲得経験値は同脅威度の魔獣に比べれば高いというのが主な特徴だ。


 そして、ティタウィンの聖墓には、黄金色のクロックローチが出現する。


 これは変異魔獣の一種で、素早さも獲得経験値も段違い。

 最も特徴的なのは、この金のクロックローチの討伐が、ティタウィンの聖墓の隠しエリアが出現する条件であるという点だ。


 何を隠そう、ティアナディアの出自について刻まれた石板が存在するのが、この隠しエリアである。


 だから、ベリウスの目的が金のクロックローチだというのは、ある意味では間違いではない。


 ただ、金のクロックローチの存在がここまで広く認知されているとは思わなかった。原作ゲームでも、この隠し要素が発見されたのは、ゲーム開始から決して短くない時が経った後だったはずだが。


「コイツらは、金のクロックローチを狙っているのか」


 ギルド内の冒険者を見渡して、問う。


「みたいっスね。金のクロックローチを倒せば、何でも願いが叶うとか。めちゃ浪漫あるっスよね。なんかすげージェネシス級のアイテムとか出てきたりして」

「……何でも、な」


 嘘だ。ただの噂話だ。

 決して、ヤツにそんな万能な力はない。


 金のクロックローチが隠しエリアの鍵であるという事実までは広まっていないのか。


 とはいえ――。


「嫌な流れだな」


 もし、他の冒険者に先を越され、石板の記述を見られれば――ティアナディアが天使の子供であるという事実が表沙汰になる可能性がある。


 遺跡の奥まで辿り着くのは並みの冒険者では不可能だろうが……万が一もある。

 これは偶然だろうか。


 それとも――。

「あ、そーそー、忘れるところだったっス。最後にこれ」


 受付嬢が登録に必要だから、と薄く透き通った石板を差し出してくる。


「手を翳して欲しいっス。これで簡易的なステータスを読み取って、冒険者ランク決めるんで。といっても、ある程度レベルが高くても初めは見習いとして登録して貰うことになると思うっスけど」

「ああ、構わない」


 そう言って手を翳そうとすると、シグレに裾を引かれる。


「あ! あの、その神様、レベルとか、職業とか、あれなんじゃ……」


 シグレはピコピコと狐耳を動かしながら、慌てて言う。

 魔族であることや、七魔皇であることが露見してしまうのではないかと懸念しているらしい。


 ベリウスは魔人種。

 つまり、魔族である。

 よしんば、族がごまかせたとしても、職業やレベルを見れば、要らぬ注目を浴びることになるだろう。


 だが。


「問題ない。見ていろ」


 ベリウスが石板に手を翳し、表示されたステータスは拍子抜けするものだった。



――――――――――――――――――――――

 名前:ベート・スリー Lv.9

 種族:普人種

 職業:遠術師

――――――――――――――――――――――



 この程度どうとでもごまかせるのだ。


「お、おお……す、すごいです! 神様さすがです……!」

「え、別にありふれた初級職だが」


 シグレの反応に、受付嬢は意味が分からないと半眼を作る。

 当のシグレは「シグレは神様相手になんとおこがましい、必要のない心配をしました……切腹を、切腹しなきゃ……」と流れるようにバッドなモードに入っていた。


「じゃ、次はそっちの子もお願いっス」


 だが、変わった冒険者への対応は慣れているのか、受付嬢は気にした様子もなく、石板に触れるように促した。


「は、はい……シグレなんかのステータスを見ても面白くないと思うですけど……」

「いや、別に面白そうだからやって欲しいわけじゃないっスけど」

「はい、シグレはつまらない人間です……」


 そう言いながらも、シグレはおずおずと石板に手を翳す。

 切腹は思いとどまってくれたらしい。助かった、冒険者ギルドを血だらけにして無用な注目を浴びたくはなかった。


「は!? はぁあああ――っ!? じ、上級職!?」


 と思った矢先に、受付嬢が素っ頓狂な声を上げる。


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