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第61話「迷宮都市ラスアルゲティ2」

「ああ、話くらいは聞いたことありますね……随分なイカレ女だとか」


 ティアナディアがなるほどと手を叩く。


 ネーラは、勇者が合流する予定だった仲間を殺し、固有スキルを使い成り代わった。

改変ペイント】――対象に任意の記憶を刻み込む、強力な催眠系スキルである。


 この影響で勇者は合流した仲間を、かつて交流があった同い年の少女だと思い込む。実は倒すべき敵、七魔皇の一人であるとは知らずに絆を深めていくのだ。


 それが、この章の終盤で明かされるのだが、まあまあな胸糞展開に評判はあまりよくなかった。


「もう一つの理由はなんでございますか?」


 ティアナディアの問いに、ベリウスは視線を上げる。

 その先には、巨大な遺跡――ティタウィンの聖墓があった。

 城にも見紛う大きさのそれは祭壇のようにも見えるが、現在見えている部分は、あくまでも飾りだ。本体の迷宮は地下にある。


 未だ全貌が解明されていない、広大な迷宮。

 本人は覚えていないだろうが、ティアナディアがベリウスと出会ったのもこの遺跡の中だった。


 そして、この中の遺跡にはティアナディアの出生の秘密――天使ミカエラの子供であるという事実が刻まれている。


「もう一つは――」


 もし、その事実が明るみに出れば、他の魔族からは命を狙われ、人族もティアナディアを利用しようと近づいてくるだろう。


 そうはさせない。


 何があってもティアナディアを守ると誓ったのだ。

 そのために、遺跡の石板を破壊し、敵に回る可能性のある七魔皇は排除する。

 それこそが、この世界に転生した意味、いや、何よりも順守すべき欲望だった。


「おいおい説明する。今は――」

「す、すみません……か、神様! あの、プルルちゃんがい、いなくなってて……」


 シグレが申し訳なさそうに、袖を引いてくる。

 思えば、脚に絡まっていた触手の感触がなくなっていた。MPの吸収も止まっているし、近くに彼女の姿は見えない。


 と思った瞬間。


「なんだ、なんだ? おい、急に倒れて……大丈夫か?」

「通り魔か!? いや、でも、血は出てないし」

「きゃっ、今何か青い触手みたいなのが!」


 背後が騒がしくなる。


 バタバタと人が倒れていき、人混みの中で動揺が伝播していく。

 考えるまでもない。ツルプルルだ。我慢ならなくなった彼女が辺りの人々から無差別にMPを吸い取っているのだ。


「まったく、あいつは……」


 満足げにお腹を擦るツルプルルの姿が思い浮かび、ため息が出る。


「おい、シグレ。力ずくでいいからプルルを回収してこい」

「ふぇっ、い、命に代えても! です!」


 シグレは狐尾をピンと立てて敬礼。

 一目散にツルプルルの下へ駆けた。

 面倒事を押し付けて申し訳なくも思うが、注目を浴びるなら人族であるシグレが最も都合がいいのだ。これからも似たようなことはあるだろうから、慣れて貰う他あるまい。

 ベリウスはシグレから視線を切ると、思考を戻し、今後の計画について考える。


「まずは、ネーラだな」


 七魔皇を探して回るのも、それぞれを相手取るのも楽ではない。

 しかし、幸いなことに、ベリウスには原作の知識がある。

 だからこそ、先回りをして迷宮都市ラスアルゲティに足を運んだのだ。


「勇者も次期にここを訪れる。そして、新たな仲間と合流しようとするだろう。その仲間というのが、七魔皇が一人、ネーラだ。彼女は仲間であるという記憶を勇者に埋め込む。勇者を騙し一網打尽にするつもりだろうが、そうはさせない」


 ここで勇者が倒されるのは面白くない。

 原作のストーリー通りなら、討たれるのはネーラの方だが、ある理由から、おそらくそうはならないだろう。


「ふっふっふ、それはドキワクする展開でございますね! つまり、わたしの役目は」

「プルルと共にその現場に向かい、ネーラを捕らえてくるのだ! 七魔皇としての格の違いを見せつけてやろう」

「はいでございます! ご主人様のスーパーウルトラメイド、ティアにお任せを!」


 ティアナディアは、ふふんと胸を張る。

 頼もしい限りだ。さすがは推しである。まあ、端から心配などしていない。ティアナディアなら、つつがなく任務をこなしてくれるだろう。


「……問題があるとすれば、勇者が無事ここまで辿り着けるかどうかだが」


 先日の高台での戦いで、あるべき物語を捻じ曲げた。

 本当ならば、ベリウスはあの日、勇者に討たれて死ぬはずだったのだ。


 しかし、■■はその運命に抗い、打ち勝った。つまり、それ以降の物語にも歪みが生じているということだ。


「こんなところで躓くはずもないないよな、本物の勇者ならば――」


 本来倒すべきはずの、七魔皇を倒せなかったことは、彼女に大きな影響を与えた。

 いや、与えなかったというのが正しいか。


 今の勇者――ユーリには原作とは異なる大きな欠陥があるのだった。


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