第59話「ユーリの旅立ち3」
ユーリが言うと、カンデラはニッと口角を上げた。
「歴代の勇者は旅に出ました。仲間を集め、幾度となく迫りくる苦難を乗り越え、成長し、七魔皇を打倒してきた。勇者は必ず自らの手でその道を切り開いてきたッ」
立ち上がったカンデラは窓の外に視線をやり、力強く言う。
王都の街々、遠くの山脈に、その向こうのユーリがまだ見ぬ世界を指し示す。
「旅に出なさい! ユーリよ、貴方が勇者の名を背負う覚悟があるのならば!」
カンデラの力強い声にビリビリと体が震える。
ユーリを王国に閉じ込め手厚い体制で育成する方が安心できたはずだ。
ユーリの体を研究した方がより強大な力に繋がった可能性がある。
それでも、彼女はユーリに期待してくれているのだ。
ここで熱くなれなければ、それこそ勇者失格だ。
「はい! 自分の未来は自分で切り開きます! 今度こそ大事な人を守れるように、私は強くなってみせます! 勇者として!」
◇
「ふふ、よろしいですわ」
カンデラは立ち上がったユーリに近づくと、頭を撫でてふと笑う。
それから、「ですが――」と続けると、扉の方に視線を向けた。
「このまま放り出すというのも無責任でしょうから……入りなさい!」
すると、勢いよく扉が開かれる。
現れたのは、眼鏡をかけた白髪の若い男だった。
白と蒼のローブに、洗練された白銀の杖。目つきは鋭く、ユーリを値踏みするような視線には思わず背筋が伸びた。
「自己紹介を」
「テメエに指図されんのは腹立たしいが……まあいい、アゲート・ホワイトナイトだ。そこのクソチビが勇者か。想像と全然ちげェな」
「ユ、ユーリ・グレイルと言います! はじめまして、です!」
ユーリが頭を下げると、アゲートはふんと鼻を鳴らした。
それを見たカンデラは、やれやれと肩を竦める。
「彼は王国魔術学院の講師を務める若き天才魔術師、職業は上級職の白魔導師。その実力は折り紙付き。まあ、わたくしの下僕のようなものですわ」
「誰が下僕だエセ貴族。ぶっ殺すぞ」
「あら、エセだなんて酷いですわ。それに貴方ではわたくしはぶっ殺せませんわ~!」
アゲートが怒りから拳を握り、カンデラが高笑いをする。
どうやら、二人は気の置けない仲であるらしい。このままでは面倒なことになると思ったのか、ノワールがアゲートを誘導してユーリの正面に座らせた。
「で、クソチビ。お前はオレのことをどこまで聞いてる」
「い、いえ、何も……」
「ちッ……説明してから呼べよ、カンデラ。コイツが困惑してるだろうが」
「あら、そういうのは得意でしょう? せ・ん・せ・い?」
カンデラの煽るような口調に、舌打ちをするアゲート。だが、文句の言葉は飲み込んだようで、そのままの不機嫌さでユーリの方へ注意を移した。
「おい、クソチビ」
「は、はい!」
「お前は駆け出しのクソ雑魚勇者だ。今のままで魔族に対峙したら、即効殺されてジエンド。オーケー?」
「は、はい……! その通りです!」
「だから、オレがしばらくお前を鍛えてやる。今から迷宮都市ラスアルゲティに向かう。オレも暇じゃねェからなァ。居てやれるのは、そのあたりまでだ」
「あ、ありがとうございます……! でも、どうして迷宮都市に」
ユーリが問うと、アゲートは視線をカンデラに向けた。どうやら、迷宮都市行きを決めたのは、アゲートではなくカンデラらしい。
「理由は三つですわ。一つは、王都には幾つもの目があるから離れた場所に行きたいということ。先ほども話しましたが、勇者であることがバレれば碌な目に遭いませんわ。ユーリの意志が尊重されることはないでしょうね」
育成のために手厚く保護するか、ユーリの体を研究して人類の戦闘力の底上げに使うか。この二つが王国の主な考えだとカンデラは言っていた。
たしかに、なんの力も実績もないユーリの世迷言を聞き入れてくれるほど、王国は甘くないだろう。
「二つ目は、迷宮が修行にうってつけだから。そして三つ目、ユーリに紹介したい仲間がいるのですわ」
「仲間ですか?」
「ルゥプ・バーバリス――まだ駆け出しですが特別な力を持った子ですの。歳も近いですから仲良く……まあ、癖の強い子なので仲良くできるかはユーリ次第ですが、よかったら旅に連れて行ってあげてくださいまし」
それから、カンデラは、向こうには連絡を付けてあると付け足した。
仲間か。考えたことがなかったが、これから一人で七魔皇を相手取ろうというのは無茶だ。
その仮のメンバーとしてアゲートを、そして一人目としてルゥプという子を紹介してくれるというのだろう。
「お気遣いありがとうございます! わかりました、私迷宮都市に向かいます! ご迷惑をお掛けすると思いますが、アゲートさんもお願いしますね!」
「ちッ……面倒くせェが人類のためだ。しばらくおもりをしてやるよ、クソチビ」
「はい! ありがとうございます!」
こうして、ユーリはアゲートと共に王都を立ち、迷宮都市に向かうこととなった。
これが、勇者としての冒険の第一歩。過酷な旅の始まりだった。




