7話(改)
生徒会室から去った紅葩は買い物を終えて家で料理を作っている。
時雨と雫の好きな料理が次々と食卓に並ぶ。
「紅葩、お待たせ。」
「いらっしゃい。」
料理が出来上がった頃タイミング良く訪れた雫と時雨。
「紅葩さん、運ぶの手伝いますよ。」
「ありがとう時雨。」
紅葩と時雨は台所に向かった、雫は居間で寛いでいる。
「ねぇ時雨…お花見の時のことなんだけど「紅葩さんは、僕が護りますから。」時雨?」
時雨の目には狂気に似た何かが感じ取られ…紅葩は身震いした。
「姉さんが待ってます、行きましょ紅葩さん。」
「う…うん。」
いつもの笑顔を浮かべる時雨に安心する紅葩。
その後料理を食べ終えた姉弟は何事もなく帰っていった。
「………時雨。」
紅葩は時雨の背中を見て呟くことしか出来なかった…次の日の大会当日。
紅葩と雫は弁当(生徒会のメンバーの分もある)を持って黒天学園に来ていた。
「紅葩ー、雫ちゃぁーんっ。」
「咲良。」
「咲良先輩っ。」
誰とでもすぐに仲良くなれる咲良、雫ともすぐに仲良くなった。
「…蓮は?」
みんないるのに蓮だけいない…今日は来ると聞いていたのだが。
「雪乃弟の所だ、聞きたいことがあると言っていた。」
「…そう。」
紅葩は不安そうに弓道場奥の控え室を見つめた。
そんな選手控え室では袴を整える時雨の姿とそれに近づく蓮の姿。
「よぉ。」
「緋真さん…ですよね?僕に何か。」
「大会前にしちゃお気楽だな、お前。」
他の選手は緊張で顔が引きつっている者ばかりだが時雨はいつもの笑顔、余裕の笑みだ。
「………場所、替えましょうか?その方があなたにとって都合がよさそうですね。」
控室の外に出る2人、外では大会を見に来た人たちの声が遠目に聞こえる。
木の木陰に立つ2人、蓮は時雨を睨みつけるように見るが時雨は笑みを崩さない。
「お前何者だ?」
「いきなりですね…何って紅葩さんの後輩ですよ?それ以外の何者でもない。」
「ただの後輩にしちゃ、紅葩に執着してるじゃねぇか。」
笑みは崩れない。
「あなたは近くにいるのに紅葩さんの魅力に気付いていないんですか?」
恥ずかしげもなく言う時雨に蓮の表情が歪む。
「魅力…か、気にもしてねぇな。お前がどれだけ執着していようとアイツはお前をそういう対象とは見ないだろ、一生な。
お前もそれに気づいてっ「余計な…お世話ですよ。」っ。」
笑顔は変わらないのに蓮の背筋に冷や汗が伝う。
「僕も言わせてもらいますね。
貴方こそ、紅葩さんに執着している…でも貴方じゃ紅葩さんを護れない、自分の気持ちと向き合おうとしない貴方じゃ。」
時雨と蓮の間に風が吹く。
「なんちゃって、ライバルは増やしたくないので紅葩さんの魅力に“一生“気付かないでください。」
時雨はそう言って控室に戻って行った。
「………………。」
時雨が去っても動かない蓮。
(アイツの雰囲気が急に変わった…アレは…。)
「…殺気」
それも生半可な殺気ではない。
蓮はようやくそこから動く…向かう先は仲間の元。
「蓮っ、時雨と何の話をっ………蓮?」
「…なんでもねぇよ。」
蓮は顔だけ見せてすぐ離れた木に寄り掛かってしまった…誰にも、特に紅葩に喋りかけて欲しくないみたいだ。
それでも蓮の元へ行こうとする紅葩に皆が止めた。
「紅葩はオレたちと試合見ようぜー。」
「時雨も紅葩ちゃんに見てもらいたいはずだよ~1番前で。」
「…でも。」
不安気にする紅葩の肩に置かれる手。
「紅葩、蓮のことはアタシに任せて雪乃弟の試合を見てやれ。」
「剣………うん。」
「咲良と雪乃さんが席を取ってくれています、行きましょう紅葩。」
璃莉に押され人混みに入っていく紅葩。
剣は蓮の元へ歩を進めた。
蓮は先程の時雨との会話を思い出していた。
(俺が執着?)
人混みの中、雫と楽しそうに会話している紅葩の姿。
「俺がアイツに…?誰が「らしくないな。」………剣か。」
腰に手を当て優雅に立っている剣。
「紅葩じゃなくて悪かったな。」
「…どいつもこいつも。」
自分の頭を乱暴に掻き乱す蓮。
「クールぶりたい蓮殿が歳下に言い負かされた姿を皆に見せたくないのは分かるが…。」
「誰が負かされたって言った?」
「大人達に言い負かされた蓮は皆にそんな姿を見せたくなくて姿を消していたじゃないか。」
「………昔の話だろうが。」
蓮は青い空を見上げ昔のことを思い出す…″彼女″と初めて会ったのもこんな青空だった。
―――5年前14歳だった蓮は、孤児達の年長者として皆を引っ張っていたが大人達には勝てなかった。
悔しくて泣きたい気持ちになったが歳下達に見られたくなくて街中を走り回った…そしてたどり着いた場所が。
「……………でっか。」
この街にはたくさんの豪邸があるが、この屋敷は場違いすぎた。
ここはこの街のシンボルとも言って過言では無い大豪邸、この大豪邸を中心にこの街は出来たのだ。
「………………。」
先ほどの悔しさはどこかに消え、好奇心が勝った蓮は庭園の茂みを掻い潜り大豪邸に踏み入れた。
庭園は庭師によって綺麗に手入れされており噴水もかなりデカい、孤児の蓮にはどれも別世界の代物に見えた。
「………貴方、誰?」
「……………っ。」
やばい、見つかったと焦った蓮だったが…。
「………ガキ?」
その正体は庭の一際大きな樹の幹に寄り掛かり膝の上には分厚い、子供が読む物とは思えない本を置いている自分より年下の少女だった。
「屋敷の新しい使用人?…それにしちゃ汚れた格好…。」
「…大人には「まぁ私には関係ないけど。」なっ。」
自分から話を振っておいてその態度。
生意気な少女は汚れを知らない純白のワンピースを着ていて、自分の薄汚れた服装とは大違い…きっとこの屋敷のお嬢様なのだろう。
「お前…何で笑わねぇんだ?」
さっきもそして今も…自分は不法侵入者だ、しかし少女は慌てたり人を呼ぶ気配も無い、少女の表情は人形のように変わらなかった。
「…疲れるから、毎日毎日パーティーで笑顔を振舞って………笑うのに飽きたのよ。」
「それは笑ってるって言わねぇよ、それは作り笑いで笑顔じゃねぇ。」
自分より年下の少女が笑わない、蓮はその少女の笑った顔が見たかった。
「………じゃあ、私に本当の笑い方…教えて?」
そう言った少女の顔は変わらなかったが、どこか切なげな雰囲気だった。―――
「……………」
「ニヤけてるぞ?気持ち悪い。」
「ニヤけてねぇ…お前もアイツの試合見に行けよ。」
剣は寄りかかった幹から離れる。
「アイツには気を付けろ…得体が知れねぇ。」
「………紅葩には?」
「言わなくていい、少なくともアイツは紅葩を傷つけない。」
2人の視線の先には鋭く的を見る時雨とそれを真剣に見つめる紅葩の姿。
「蓮、どこへ行く。」
蓮の向かう先は試合会場ではなく学園の外。
「俺は俺なりに調べる…お前らはアイツから目を離すな。」
蓮は学園から出て行った。
「単独行動の多いリーダーだなまったく、“アイツ“、か…どっちの事を言っているのか…。」
剣は意味深に呟き、仲間の元へ向かった。
(“あの人”も、“あの方”も…護るのは僕だ。)




