24話
夏の日にお世話になった海の家の店長は紅葩の実の父親だった。
父親との再会を心待ちにしていが現れたのは女性・・・その女性を紅葩は。
「お・・・かあ・・・さま・・・。」
実の母と呼んだ。
「紅葩ちゃんの・・・母?」
「あんなエロいのにっっっ?」
「黙りなさい。」
「「ぐぇっ。」」
空気の読めない2人を沈める璃莉。
確かに双子の意見に賛同できる程、女性は妖艶ではあるが時と場所を考えるべきである。
「・・・・・。」
「・・・咲良?」
咲良は剣の背中に抱き付いた・・・その身体は震えていた。
「あの人・・・すごく怖い。」
咲良の意見に皆が賛同する。
咲良や剣達だけでなく、先程までふざけ璃莉に沈められた2人も冷や汗をかいていた。
(・・・店長がいねぇ。)
冷や汗を流す中、蓮は頭を回転させた。
父親が生きているなら母親も生きている可能性は大いにある、そこに疑問を持つ必要は無い。
しかし天照の話で今現れるべき人間は父である店長のはずだが・・・その店長はどこにもいない。
女性が降りてきた車からは人の気配がしない。
「紅葩、もっと顔を良く見せて頂戴?」
「・・・・・。」
「そんなに怯えないでちょうだい、私の可愛い娘。」
女性は紅葩に近づき紅葩の頬に触れ顔を上げさせた。
漆黒と漆黒の瞳が合わさる。
「お母様・・・どうしてこちらに?」
「1人娘の居場所が分かったから会いに来たのよ。いけなかったかしら?」
「今までどちらに?」
「転々とよ・・・椿家は忘れられていたから苦労したのよ。」
そうは見えない・・・苦労したという割には身に着けている物すべてが高級品そうだ。
(この人のこういう所が・・・苦手だ。)
優しい声で、喋り方で表情も柔らかい・・・なのにどこか怖い。
嘘を付いているわけではない、今までの会話もすべて本心だ・・・。
紅葩に会って嬉しいのも本当だろう・・・だが紅葩は喜べなかった。
「あら?首に着けているネックレスはお父様から頂いたの?」
「・・・・・っ。」
女性はネックレスに触れた・・・家族なのだ、父親が買った物位知っているのは当然だが紅葩はひどく驚いていた。
「でもまだ似合っていないわね・・・もう少し大人っぽくならないと「お母様。」・・・何かしら?紅葩。」
「お父様は・・・どちらですか?」
「・・・・・。」
「まだ・・・車の中でしょうか?一緒に来ているんですよね・・・?」
紅葩の表情は何かに縋るようなそんな表情だった。
「紅葩、鈍感な素振りは止めなさい・・・本当は分かっているのでしょう?」
紅葩の鼓動が速くなる。
「お父様は・・・。」
(・・・嫌だ。)
「あの人はもうココには来ることが出来ないの。」
(聞きたくないっっっ。)
耳を塞ぎたい、ここから立ち去りたいのに紅葩は身体を動かすことが出来なかった。
「だってあの人は・・・もう死んでいるのだから。」
「・・・・・。」
ここにいる皆が信じたくはなかった言葉・・・本当は女性だけが現れた時点で分かっていたがやっぱり信じていたかった。
(・・・紅葩。)
生徒会のメンバーは紅葩を気にかけた。
「・・・んで。」
「・・・・・。」
「なんで殺したっ。」
母の手を振り払い声を荒げる紅葩だが・・・女性は。
「何で?そんなもの私が生き残るために決まっているでしょ。」
「・・・・・。」
血が滲み出る程拳を握りしめている紅葩。
「今までもたくさんの仲間を殺してきたのよ・・・そういうゲームでしょう?
あぁでもあの人は・・・まったくの無抵抗だったわね。」
「・・・っ。」
「止めろっ、紅葩っ。」
仲間の言葉など最早紅葩の耳には入らない。
黒い鎌を出現させ女性に向かって振り下ろした。
地面を抉る大きな音と土煙・・・。
「ハッ・・・ハァ・・・。」
興奮状態で攻撃したからか肩を上下させるほど息が荒れていた。
女性は今ので倒せたのだろうか・・・。
「・・・ダメよそんな揺れた心じゃ。」
「・・・っ。」
土煙の中紅葩の耳元で囁く女性の声背中に感じる体温・・・女性は紅葩の背後に回っていた。
鎌を真横に振るが簡単に避けられてしまう。
土煙が晴れるとそこには傷ひとつない女性の姿があった。
「もっと心を落ち着かせなさい、人を殺す覚悟を持ちなさい。
そんなことだからあの夜の日、無様に敗けたのよ?」
「うるさいっ。」
あの夜とは睡蓮の家で行われたダンスパーティーの日のことだ。
あの日紅葩は初めて仲間と闘った・・・そこで2人を殺したが殺したことに動揺してしまいもう1人にやられてしまい気を失った。
なぜそのことを女性は知っているのか、紅葩にはどうでもいいことだった。
「アンタに・・・私のことを見てくれなかったアンタにっ、何が分かるっ。」
「・・・・・。」
先程より紅葩の動きが速くなり女性の頬に一筋の赤い線が出来る。
「・・・やっぱり私の娘ね・・・。」
傷を付けられたというのに女性は嬉しそうに微笑んだ。
紅葩は不快そうに顔を歪めながら突っ込んだ。
「でもまだ足りないわ。」
「・・・?・・・っ。」
紅葩が風を感じた瞬間、紅葩の黒い鎌は半分に切断されていた。
「そっ・・・な・・・。」
紅葩の身体が傾きそのまま地面に倒れる。
仲間は紅葩の名前を叫び一斉に駆け寄った。
璃莉が紅葩に駆け寄り、他の者はその間の壁となる。
「素晴らしい絆ですね・・・そちらのお嬢さんはそんなに震えてまでも娘を庇うのね。」
咲良だけではない、璃莉や蒼葵、紫葵・・・あの剣や蓮でさえ恐怖心を抱えていた。
「・・・紅葩。」
目立った外傷はないが・・・武器が切断されたのだ。
気絶しているように見えても見た目以上のダメージを受けている。
死んでいないのが奇跡と言ってもいいだろう。
「大丈夫、死にはしないわ・・・ちゃんと手加減しましたもの。」
女性の底が全く見えず警戒心を強めるが・・・女性にとってはあまり意味が無い。
「私は娘にだけ用があるの。貴方達は・・・今死んでおきますか?」
全員に悪寒が走る・・・が女性は何もしてこない。
「・・・神である貴女が″神が造ったゲーム″の邪魔をする気ですか?」
「・・・天照。」
唯一紅葩が攻撃を受けても動かなかった天照だが、
その場を動いていないだけで本来の神の姿となりいつものおちゃらけた表情ではなく睨むように女性を見ていた。
「あたしは元々このゲームを認めていないのよね~だから邪魔する気満々よ?」
「・・・さすがに神を相手には出来ませんわね、ここは引きますが次は″親子″の邪魔をしないでくださいね。」
女性の言葉はまた紅葩の前に現れることを意味していた。
「紅葩に言っといていただけますか?次は覚悟を決めておきなさいと。」
(・・・紅葩?)
気を失っている紅葩だが璃莉にはその言葉に反応したように見えていた。
女性は車に乗り込み学園から完全に姿を消した。
この間の敗北とは意味が違う・・・圧倒的な力の差での紅葩の重い敗北だった。




