23話
時は11月・・・今年は異常に寒くニュースでは「雪が降る」と報道していた。
「・・・・・。」(そわそわ)
「「「・・・・・。」」」
「・・・・・。」(あせあせ)
「「・・・・・・。」」
「・・・・・っ。」(わたわた)
「・・・何してんだ?アイツは。」
寒い外とは裏腹に暖かい生徒会室・・・いつものメンバーだが1人だけ、
先程から擬音を出している紅葩、ここ数日こんな状態である。
「・・・ふふっ。」
「おたおたしたりニヤついたり、気持ち悪いぞお前。」
蓮のからかい交じりの言葉にいつもなら突っかかる紅葩だが・・・。
「・・・・・。」
蓮の言葉が耳に入っていないのか今度は鏡で自分の髪形を確認していた・・・この光景も生徒会室で始めて見るものだ。
「・・・どうしたんだ?アイツは。」
「さぁ・・・誰も理由を知らないのよ。」
「「はっ・・・まさかっ。」」
双子のハモりに(一応)視線を傾けるメンバーたち。
双子はまるで恋愛物のドラマのような甘い雰囲気を出しながら、互いの手を取り合った。
「「恋・・・しちゃったんじゃ?」」
「「・・・・・。」」
その言葉に蓮はコーヒーを飲むのを止め、剣は静かにソファーから立ち上がった。
「おいテメェら。」
「憶測でものを言うと痛い目に遭うぞ?」
今にも武器を出しそうな殺気を放つ2人に双子はフリーズした。
「・・・でも、バカ2人の意見もあながち間違いではないかもしれないね?」
「りっ、璃莉まで言うと何か本当っぽい・・・・・ここはウチが紅葩ちゃんに聞いてみちゃ「紅葩、″彼″から手紙来たわよ~~~。」へ?」
「・・・っ。」(背筋が伸びる)
突然の天照の登場と言葉に・・・おそらく後者に反応した紅葩。
その瞳にはかすかに不安の色が混じっていた。
「あ、天照っ・・・それで・・・?」
「今日到着するそうよ~もうそろそろ着くと思うから出迎えにいってらしゃ~~~い。」
「・・・・・うん。」
紅葩は天照の横を通り過ぎて生徒会室を出る。
「ババァは知ってるみたいだな。」
みんなの目が天照に向けられる。
「あら?そんなに紅葩のことが気になるのかしら?蓮君は~~~。」
「きめぇ。」
「そんなに気になるなら一緒に出迎えましょ。
みんなも顔見知りだから。」
そう言った天照を筆頭に生徒会のメンバーも部屋から出る。
「・・・で?誰なんだよ、手紙の相手。」
「んふふ・・・蓮の心配するような相手じゃないから安心なさい。」
「・・・・・。」
キモい、と吐き出してやりたいところだがこの口論に関して真実を知っている天照が勝者・・・蓮は言い返すことが出来ない。
「天照~もったいぶらずに教えてよ~。」
天照に後ろから抱き着く咲良に天照は全く動じない。
「慌てないの~・・・・・あら?」
「・・・紅葩?」
皆よりも先に出ていた紅葩は玄関の前に立っていた。
「・・・・・。」
胸の前で先程天照から貰った手紙を大事そうに握っている・・・がその表情はとても苦しそうで・・・辛そうだ。
「紅葩。」
天照の凛としてそれでいて淡々とした声が響く。
「・・・みんな。」
紅葩の表情に少しだけ光が宿る。
「ここまで来て怖気づいちゃったの~?」
「・・・うん。」
そう呟いた紅葩の顔は普段の彼女とは程遠い弱々しい声だった。
「・・・あの人は、何で私にコレを渡したんだろう・・・。」
紅葩の手にあるのは手紙と・・・光り輝く。
「それは・・・海の家の店長が紅葩に渡したネックレス・・・。」
「確か店長の娘の代わりに紅葩がもらったんだよな。」
夏の記憶を思い出す生徒会メンバー。
「コレは世界でたった1つしかない宝石。
将来″椿家″の娘に渡されるはずだったネックレスなのよ。」
紅葩と天照以外のメンバーが息を呑む・・・その言葉の意味を全員が分かったからだ。
「店長が・・・。」
「紅葩の父親っ?」
「椿家の人間・・・。」
「蓮は知っていたのか?」
「嫌、椿家の人間はパーティー以外基本屋敷からは出ないと聞いていたからな。
親と会話はおろか、まともに会話してないって本人が言っていた。」
「・・・よく覚えてるね。」
―――――タッタッタッタッ、広すぎる椿家の屋敷の廊下を小さな身体で一生懸命走っている幼い紅葩。
そのときはまだ紅葩にも子供としての感情があった。
「お父様っ、お母様っ。」
紅葩は両親のいる執務室の扉を開け、激務をこなしている両親の元へ向かう。
「見てくださいっ、先程の″数学″のテストで満点を採りましたっ。」
他の子供は算数すら習っていない年齢・・・普通に考えればとても凄いことなのだが。
「紅葩。」
「・・・っ。」
母親の凛とした声に肩が跳ねる紅葩・・・この後に言われる言葉を紅葩は知っている、父が言う言葉も。
「″それ位″出来た位ではしゃがないの。
それと部屋に来るときは必ずノックをすること、走るだなんて行為は論外。
何度母の口から言わせる気かしら?」
「・・・ごめんなさい、お母様。」
怒られてはいない・・・通常の母のトーンである。
「紅葩。」
父は椅子から立ち上がると紅葩の目線まで身体を低くし頭を撫でた。
「もっと頑張って″椿家″の名に相応しい大人の女性になるんだよ、いいね?」
「・・・・・はい、お父様お母様失礼します。」
そう言った紅葩の瞳に光は無かった・・・が父も母もそのことに気づかず激務に戻った。
(お父様もお母様も・・・誰も。)
だだっ広い屋敷の廊下、中心を歩く紅葩の姿を見て義務的に挨拶を交わす使用人たち。
(私を見てくれない。)
それからだ・・・紅葩に子供らしい、人間らしい表情、感情が消えたのは。―――――
(あの時は何もかも諦めて・・・全部″椿″のせいにして恨んでいただけだった。)
だが今は違う・・・あの日から10年の月日が経った。
記憶を失くし色々な人と出逢いたくさんのことを経験した紅葩は変わった。
(娘に渡すはずだったネックレス。)
ネックレスの宝石は世界でたった1つしかないもので・・・一般人には天地がひっくり返っても手に入れることが出来ない代物。
それはつまり父が椿家の人間の時に購入したものということ・・・当時の父に愛情を感じることは無かったが、夏の日は確かに愛情を感じられた。
「・・・今度はちゃんと親子、出来るかな?」
校門の外から聞こえる車の音・・・紅葩は覚悟を決め1歩踏み出した。
それを見守っていた生徒会一同・・・。
「・・・良かったね、紅葩ちゃん。」
「大丈夫かな?」
「何かあったらボク達が慰めればいいじゃん。」
「縁起でもない事言わないの。」
メンバーは自分のことのように喜んだ・・・が。
「・・・・・。」
「・・・天照?」
天照の様子がおかしいことに気づいたのは蓮。
天照は神妙な表情で店長が降りてくる車を見つめている中ドアは開かれる。
「「「「「・・・・・え?」」」」」
全員の声が上がる・・・降りてきたのは店長ではなかった。
「・・・・・っ。」
蓮や剣でさえ揃った声だが紅葩だけは違った声を上げた・・・顔面蒼白で。
「・・・誰?」
降りてきたのは女性だった。
紅葩と同じ髪と瞳の色、誰が見ても高級物だと分かる黒のワンピースをモデル顔負けのプロポーションで着こなし、容姿も相俟ってとても妖艶である。
その女性は誰かを連想させるとても凛とした雰囲気を纏っていた。
「・・・紅葩?」
紅葩に・・・と言っても少し語弊がある。
紅葩は紅葩でも睡蓮との闘いのときに現れた冷酷な紅葩の雰囲気だ・・・彼女は一体何者だろうか。
「・・・久しぶりね、紅葩。」
綺麗な顔立ちから現れる綺麗な微笑み・・・だが名を呼ばれた紅葩は少し怯えていた。
「大きくなったわね・・・でも顔が少し普通すぎるんじゃなくて?
まぁ・・・大きくなったといっても貴女はまだ16だものね。」
気品があってそれでいて淡々とした声・・・その喋り方もあの時の紅葩と瓜2つだ。
紅葩は怯えと緊張で渇いた唇を動かした。
「お・・・かあ・・・さま・・・。」
その言葉に全員が驚愕の表情を浮かべた・・・。




