22話
紅葩の初陣から数週間・・・仲間たちの動く気配は全くなく、生徒会は穏やかな生活をしていた。
「来週から中間か~~~。」
学生が戦うべきもの、紅葩にとっては仲間と戦うよりある意味テストの方が辛い。
「紅葩ちゃんは大変だね~。」
「・・・本来ならお前たちが1番苦労しないといけないんだがな。」
バカ3人組は天照様様と生徒会室でくつろいでいた。
「ま、ジタバタしても仕方ないし・・・。」
「紅葩もう帰るんですか?」
まだ生徒会室に来てから10分と経っていない。
「うん、昨日の自習の時間図書室だったんだけど昔見た本があってもう1回読み直そうと思って・・・お先。」
「・・・本って?」
「ドイツ語の恋愛物だそうだ。」
椿家には図書室顔負けの本の数があり、その言語は多種で紅葩は良く利用していた。
蓮と出逢ってからは人情物をよく読むようになり、その本を見つけたそうだ。
「「・・・ドイツ語・・・。」」
双子はげんなり顔を歪めた。
「英語はダメでドイツ語は読めるとかアイツの頭はどうなってんだ?」
蓮は呆れて嫌みの1つも出なかった。
「椿家にとって一般常識(英語)は必要のない知識でしたからね・・・相手国の言語に合わせる、通訳なんて論外そんな世界ですから。」
「「「・・・・・・・・睡蓮っ?」」」
「「・・・・・。」」
「・・・テメェは卒業生の癖に来すぎなんだよ。」
何の違和感も無く生徒会室のソファーで優雅にコーヒーを飲んでいる睡蓮・・・これには剣や璃莉、蓮も気づかず驚いていた。
「あら?私より年上の癖に在校している蓮にだけ(強調)は言われたくはないですわね蓮・先・輩?」
「あぁ?」
「「まぁまぁ蓮。」」
「本当のこと言われたからってそこまでキレなくても「うっせぇっ。」イタタタタ。」
「「・・・・・。」」
咲良は頭を鷲掴まれ双子は分厚めの本(角)を投げられ昇天(?)していた。
「で?睡蓮は何の用で来たんだ?」
「大方天照さんに呼ばれたんだと思うけど・・・。」
「さすが璃莉ですわね、天照に調べ物を頼まれていたんですの。」
「調べ物?」
睡蓮の手には分厚い人物のリスト。
「コレは?」
「かつて私達の街の住民と出入りした人物のリストですわ。」
全員が目を見開いた。
「あの街はもうすでに世間から消された街だぞ?よく出来たな・・・。」
「私にもコネが有りますから。」
「でも何で出入りした人間も調べてんの?」
「スサノオの玩具になったのはあの街の住人だけだろ?」
復活した双子。
「天照に聞いてみたら″スサノオは大雑把な面倒臭がり屋″だそうですわ。」
「つまり住人だ、ただの観光客だ、なんて関係なかったってわけか。」
蓮は無意識の力に殺気を放っていた・・・そしてそれは他の者も同じだった。
その頃、生徒会室から図書室にやってきた紅葩だが目当ての本が見当たらなかった。
(誰かに借りられた?でもドイツ語なんて学生が読むかな・・・。)
ここに生徒会のメンバーがいたら「お前も学生だろ。」とツッコまれているだろう。
「・・・帰るか。」
目当ての物が見つからない紅葩は生徒会室に戻る気にもなれず帰ることにした。
「・・・・・。」
いつもより早めの帰宅路に紅葩は少し新鮮な気持ちになった。
いつもは誰もいない公園にはまだ子供たちが遊んでいて・・・。
(・・・久しぶりに見たな・・・ああいう奴ら。)
公園の端には一目見ただけで不良と分かる学生の群れ・・・そしてその中心には見慣れた黒天学園の男子制服。
「・・・・・。」
紅葩はその群れに歩を進めた。
「おら、金出せよ。」
「・・・・・。」
典型的な不良のカツアゲスタイルだ。
「アンタたちさ・・・自分たちで言ってて恥ずかしくないの?」
「あ?んだテメェ。」
「その生徒の学園の生徒会のモンだけど?」
「ちっ・・・行くぞ。」
不良たちは呆気なく去っていった・・・紅葩は少し残念そうな顔をしていたがすぐ男子生徒に向き直った。
「ありがとうございます、椿さん。」
「・・・っ。」
自分の名字を呼ばれ驚く紅葩。
「椿さんは生徒会じゃないですか。
それに僕、隣のクラスなので・・・よく来ているじゃないですか。」
(雫と同じクラスか・・・でもいたかな?)
雫に会いに行っていたので他の生徒にあまり目がいかないのは仕方ないことだが1回も見た記憶が無いのはどうだろうか・・・。
「僕影が薄いので仕方ないと思います。」
「・・・っ。」
自分の考えられていることをズバリと当てられまたも驚く紅葩。
「人間観察が好きなんです。」
「へぇ・・・ってソレッ。」
紅葩の目に入ったのは今日紅葩が図書室で借りようとしていたドイツ語の本。
「コレですか?僕今週末には留学でドイツに行くんでその練習に借りたんです。」
黒天学園には成績優秀者には留学システムがある・・・その生徒なのだろう。
「今日木曜日だから明日が学校最後?本を借りて勉強も良いけど友達とかは良いの?」
「僕友達いないんで。」
「じゃあ私が学園初の友達だ。」
その言葉に今度は男の子が驚く番。
「・・・ありがとうございます、じゃあ明日・・・。」
「うん、分かった。」
2人は別れた・・・明日の放課後図書室で会う約束をして・・・。
次の日、授業は午前中だけで午後は昨日会った男の子と他数人の留学の報告が行われていた。
「どうした?やけに機嫌が良いな。」
「そう?・・・この後会う約束してんの。」
式に参加せず体育館の外(木の上)で見ている蓮と紅葩。(サボり)
「私さ・・・雫達以外友達いなくて友達と約束とかろくにしたことないの。」
「・・・・・そうか。」
「それより何か用があったんでしょ?」
蓮が何もなしに紅葩を誘う理由は無い・・・いつもなら生徒会室で寝ているはずだ。(体育館に入る前に呼び出された)
「最近仲間が次々とやられているらしい・・・俺達の知らない所で、それも異常な速さでな。」
「いつ私たちの所に来るか・・・ってこと?」
「特にお前は1人だからな、何かあったらすぐ連絡しろよ。」
「うん。」
そして放課後。
どうやら彼より紅葩は先に来てしまったらしく、誰もいない。
(・・・あ。)
図書室の机の上には彼が借りていた紅葩の読みたい恋愛本があった。
紅葩が先に来ていたのではなく彼がいなかっただけみたいで・・・すぐに戻ってくるだろうと紅葩は本を開いた。
この本の話は普通の恋愛系の話ではなく少し変わった話で、
主人公の女の子が恋するのではなく主人公の親友と友達の男の子の恋愛話。
主人公は2人の恋のキューピッドで、ラストは荒々しく男の子の背中を押す所が紅葩は好きだった。
(自分よりも他人のことを考える主人公にあの頃は憧れていたな・・・。)
蓮と出逢い人らしい感情を思い出した紅葩、
自分のためではなく人のために何かしたかった・・・あの時のように・・・。
―――「「紅葩。」」
大好きだったあの人たちのために・・・。―――
「・・・・・。」
「・・・椿さん?」
「・・・っ。」
昨日初めて喋ったのにいったい何回驚かされるのか・・・驚きのあまり椅子を倒してしまった。
「大丈夫ですか?」
「ごめん・・・。」
紅葩は椅子を戻し彼と向き合った。
「せっかく友達になったのにすぐお別れってのも何か変だね。」
「そうですね・・・椿さんもその本好きですか?」
「え?・・・あぁ、まぁ。」
「良かった。」
「・・・?・・・・・なっ。」
急に紅葩の目の前に現れたのは等身大の鏡。
「アンタッ・・・っ。」
戦闘態勢になる前に紅葩の視界が霞む。
「椿さんその主人公の″よう″に僕に協力してください。」
そう言った彼の姿は鏡に映った紅葩の姿をしていた。
「なっ・・・に、をっ。」
「今日だけでいいんです・・・少しだけ―――――。」
「・・・・・。」
紅葩はそこで意識を飛ばした・・・紅葩の姿をした彼はそのまま図書室を出て行った。
生徒の数が少ない放課後の校内、彼の探し人はすぐ見つかった。
「・・・咲良、璃莉。」
「あっ、紅葩ちゃんっ。」
「何してるの?」
「生徒会室に戻るつもりだったんだけど・・・あのバカ2人が。」
璃莉の視線の先には白いペンキ塗れになった双子が掃除をしている所。
剥がれかけた壁を塗ろうとしている先生にふざけていた双子がぶつかりあの格好に・・・それプラス、それを目撃した璃莉(と咲良)が2人に片づけを命じた。
「それは・・・・・それより他の2人は?」
「蓮は知らないけど剣は生徒会室にいる。
ココはわたしと咲良が見張っているから用があるなら行っていいよ。」
「じゃあ言葉に甘えて。」
「「紅葩~~~(ちゃ~~~ん)。」」
双子の悲痛な声が聞こえたが自業自得だ。
紅葩、もとい彼はその場から離れた・・・誰1人気づかないまま。
(彼女たちで一応試してみたけど大丈夫そう・・・・・)
そんな彼の前には・・・。
「よぉ。」
「蓮。」
「お前約束はどうしたんだよ。」
「・・・軽く話しただけだからすぐ終わっちゃった。」
苦笑する紅葩に蓮は目を細めた。
「帰る前に生徒会室に寄ろうと思ってたんだけど剣1人なんでしょ?」
「あぁ・・・どっかの馬鹿どもがまたやらかしたらしいからな。」
「蓮は戻らないの?」
「ババァに街を見て来いって言われたんだよ。」
「そっか・・・頑張ってね。」
紅葩は生徒会室に行こうと蓮の横を横切る。
「・・・・・待てよ。」
蓮に腕を掴まれて止められる紅葩・・・彼。
「なに「紅葩はどうした?」・・・・・。」
「髪を下ろしたぐらいで違和感を消せると思うなよ。」
「・・・途中まで気づかなかったくせに。」
満面の笑みを浮かべ、いつもの挑発めいた紅葩らしい言葉遣い。
いつもなら売り言葉に買い言葉でケンカに発展するところだが今目の前にいるのは本物の紅葩ではない。
「テメッ・・・っ。」
突然光りが生まれ蓮は目を閉じる・・・開けた時には紅葩(彼)はいなかった。
「・・・紅葩っ。」
蓮は図書室に向かって走り出した。
(・・・彼は騙すことが出来なかったな・・・。)
人間観察が得意な彼はこの日のために紅葩をずっと観察していた・・・。
蓮を出し抜くことは難しいと踏んでいた彼だが、まさか見破られるとは思わなかった。
(やっぱり人間は面白いですね・・・。)
蓮に正体を見破られた今、元々少なかったタイムリミットはさらに短くなった・・・急がなくては。
(生徒会室に・・・。)
彼は生徒会室の扉を開けた・・・そこには待ちに望んだ彼女の背中・・・。
「どうした?紅葩。」
夕日を背中にこちらを向く彼女(剣)は今まで見た中で1番綺麗だった。
―――――。
「れはっ。」
「・・・・・。」
目を覚ませばそこにいるのは焦った蓮の顔。
「どこもケガはねぇな?」
「・・・蓮、彼は?」
蓮は先程の出来事を紅葩にすべて話した。
「違和感って何?」
「あ?逆だったんだよ全部。」
「逆?」
彼が仲間だということは確信している・・・でもその能力は未知数だったが・・・。
「・・・鏡。」
彼の能力は鏡・・・だから紅葩の姿を映すことが出来たがその形は逆。
「でも・・・よく分かったね蓮、璃莉たちは分かんなかったんでしょ?」
髪型で左右逆かどうかは判断できるがそんなのは彼も承知で皆に会う前にちゃんと直していた。
「俺がお前を見間違うと思ってんのか。」
「それって・・・。」
確かに蓮は生徒会のメンバーの中で、今紅葩の知り合いの中で1番付き合いが長いが・・・。
皆が気づかなかったが蓮だけが気づいてくれた・・・。
「・・・・・。」
「何ニヤニヤしてんだよ。」
「なっ、し、してないわよっ、バカッ。」
「・・・それでこそお前だな。」
頭を乱暴に撫でられる・・・紅葩の顔は真っ赤だ。
「それより・・・アイツの狙いは何なんだ?俺達か?」
「多分彼は・・・・・。」
2人は生徒会室に向かった・・・。
―――――。
その頃の生徒会室は。
「どうした?紅葩。」
「あ・・・うん。」
紅葩の様子がおかしいことに気づく剣は紅葩に近づいた。
「あのね・・・。」
なかなか話を切り出せない紅葩(彼)。
「ん?」
剣は腰を屈め紅葩と額と己の額を合わせた。
「・・・っ。」
驚きすぎて後ずさることもできず固まることしか出来なかった。
「少し熱っぽいんじゃないのか?」
額を離しても両肩には剣の手が置いてあり、顔も至近距離だ・・・その顔は不安気に紅葩を見つめていた。
(あぁ・・・やっぱり彼女はズルいですね。)
紅葩、彼は剣からゆっくりと離れた。
「・・・紅葩?」
「凰間 剣さん・・・。」
意を決した彼は唇を噛み締めた後、口を開・・・バンッ。
扉が壊れる勢いで開き、その犯人は怖い顔をした紅葩。
「紅葩っ?」
そこには2人の紅葩・・・珍しく剣の動揺した顔。
「・・・・・。」
紅葩は剣に目もくれず彼の元へ・・・剣の元には蓮が向かった。
「「・・・・・。」」
自分と同じ顔と向き合うのは不思議で複雑だが今はそんなことを言ってられない。
「協力ってのはこういう形でってこと?」
「椿さんには悪いことしました・・・スミマセン。」
「紅葩がおしとやかな言葉とかキモイな・・・。」
ボソッと言ったつもりの蓮だが紅葩の耳にはしっかり聞こえていたらしく、ソファーのクッションを投げておいた。(顔面に直撃)
「・・・・・いい加減私の姿止めてくれる?」
「この姿じゃないと近づくことさえ躊躇われたもので・・・。」
彼は紅葩の姿を止める気はないらしい・・・。
「あっそ。」
紅葩は彼の胸元を掴んで・・・頭突きをかました。
「・・・っ。」
痛さのあまり元の姿に戻ってしまった彼・・・剣は目を見開いた。
「お前は・・・あの時の。」
「剣知ってんのか?」
「前に・・・絡まれているのを助けたことがある、まさか仲間だったとは・・・。」
「ふ~ん、そういうこと。」
倒れた彼に再び胸ぐらを掴む紅葩。
「ご要望通りあの本の様に背中を押してあげる・・・アンタが望む形とは違うけどね・・・逃げてんじゃないわよ。」
「・・・本より大分荒いですよ・・・すごく、痛いです。」
額はもちろん、心も痛かった・・・。
「当たって砕けなさいっ。」
紅葩は蓮を連れて生徒会室から出て行った。(蓮は文句を言っていたが無視)
「・・・ははは、キューピッドの言うセリフじゃないですよ・・・。」
痛いのは額だが顔をぶたれた感じだ・・・彼は紅葩の姿ではなく、本来の自分の姿で剣と向き合った。
「本当はこの姿で貴女と会う気はなかったんですが・・・改めてあの時はありがとうございました。」
深々とお辞儀をした彼に剣は何も言わない。
「助けてくれた時から僕は貴女のことが・・・好きでした。」
「あ、ありがとう・・・と言うべきなのか?」
男女(主に女性)からモテる剣だが、高嶺の花で告白は1度もされたことが無かったため少し狼狽えていた。
その少しの感情の変化が彼はとてもつなく嬉しかった。
「こんな僕でも貴女の心を動かすことが出来たんですね、僕はそれだけで満足です。」
これで思い残すことは無い、と彼の顔は晴れ渡っていた。
「僕は貴女のことを応援しています、頑張ってくださいね。」
「・・・あぁ、ありがとう。」
言葉は足りないが剣には何のことか伝わったらしくそのお礼には心が籠っていた。
「紅葩さん、日本に帰ってきたら今度こそ友達になってください。」
話が終わったのを確認して紅葩と蓮は生徒会室に入ってきた。
彼のその言葉を聞いて紅葩は不満げに顔を歪めた。
「私は友達を止めたつもりはないんだけど?」
「・・・また、よろしくお願いします。」
微笑み合う2人を壁に寄り掛かりながら見ている2人。
「仲間なのに良いのか?蓮。」
「あ?・・・闘う意思の無い奴をどうこうする趣味はねぇよ。」
「・・・・・そうか。
なら闘う意思のあるアタシとは闘ってもらおう、応援も貰ったしな。」
「あ?何の話だよ。」
「フッ・・・。」
剣と彼の目が合い、2人は笑い合った・・・。




