21話
水上家の大きな大きな庭の一角、猛獣の庭には・・・眠りについた獰猛な獣達とは別に3つの影があった。
「兄貴・・・本当に大丈夫なんですか?猛獣がわんさかいて・・・オレ怖いっす。」
「寝てる時間を図っただろうが。
それに・・・俺達に怖いものなんてないだろ。」
「兄貴やおれは戦闘できるから怖くないんスけどコイツは戦闘向きじゃねぇから。」
怪しい3人組は屋敷に向かって歩いてきている。
「それにしてもこの屋敷警備手薄ッスよね~。
どうぞ泥棒してくださいって言ってるようなモン「へぇ~泥棒だったんだ。」っ。」
男達の近くにある木の上から聞こえた声。
「・・・お嬢ちゃん、ココは怖い猛獣が出るからすぐに逃げて方が良いぞ。」
「お兄さんたちの方が危険だと思いますよ?ココは猛獣より怖い人がいますから。」
暗闇で顔は分からないが若い女性の声と判断できる。
「お嬢ちゃん・・・怖い人っていうのは・・・。」
「・・・・・。」
いつの間にか3人いた人影が1つ消えている・・・。
「おれ達のことを言うんだよっ。」
女性の後ろに現れた影・・・その手には大きなハンマーが握られていた。
「「「・・・・・。」」」
その大きなハンマーによって木は粉々に砕かれる・・・が女性の影はそこにはなかった。
「お嬢ちゃん・・・もしかして″仲間″か?」
「泥棒風情に仲間呼ばわりされたくはないんだけど・・・。」
男達とは少し離れた距離にいる女性、いや少女の名は・・・紅葩。
「このまま帰る・・・っていう選択肢は?」
「あるわけないだろ。」
各々武器を出す泥棒達・・・ハンマーにロープにトンファー。
(ま、物盗りに来て何もせず帰るバカはいないか・・・。)
紅葩も己の武器である鎌を出現させた。
「こんなガキに構ってるほど俺達は暇じゃない・・・とっとと殺れ。」
トンファーを持った男がリーダー、先程から兄貴と呼ばれていた男の合図で
ハンマーの男が紅葩に接近しハンマーを振り回した。
紅葩は鎌を使わず避け続ける。
「お嬢ちゃん、避けてばかりじゃ話にならないぜ。」
「・・・・・。」
紅葩は男の挑発にのるように鎌を動かした・・・その直後、紅葩の鎌にロープが絡みつく。
「や、やったぜ兄貴っ。」
得意げに笑う男に妖しげに笑った男がハンマーを身動きの取れない紅葩に振り下ろす。
「・・・・・くすっ。」
自分の命である鎌でハンマーを受け止めた紅葩だが口角を上げていた。
「ぐっ・・・。」
苦しんでいるのはロープの持ち主の男の方だった。
男はハンマーを上げるとハンマーは紅葩の鎌ではなくロープを攻撃していて紅葩にダメージは無かった・・・そのダメージでロープが緩む。
「アンタたちのどこが怖いわけ?」
鎌からロープをはがしハンマーの男に投げつけ今度は紅葩が接近する。
「・・・っ、クソッ。」
「遅いっ。」
鎌を一閃・・・ハンマーとロープは綺麗に斬られ・・・男2人は光となって消えた。
「・・・・・。」
その様子をじっと見ていた紅葩。
「・・・さぁ、次はアンタの番よ。」
残りの男に向かい合う紅葩、男は笑っていた。
「ガキだと思っていたがやるな・・・大人しく帰るが見逃してくれるか?」
男はお手上げというようにトンファーを消し紅葩に背を向け歩き始める。
「・・・・・これのどこが大人しく帰るわけ?」
男は振り向き様にトンファーを出現させ紅葩に投げつけた。
警戒を解かなかった紅葩は鎌で弾くが男は素早い動きで弾かれたトンファーを掴み紅葩に対峙する。
あのハンマーの男は動きが単調なパワー型だったがこの男は速い、
紅葩は紙一重で躱しているが結構ギリギリだった。
「・・・っ。」
男から距離を取った紅葩・・・紅葩の代わりにトンファーが当たった木はそこだけエグれていた・・・威力も相当だ。
(コイツ・・・強い。)
単純な強さもそうだが・・・相当な場数を踏んでいる感じだ、紅葩の攻撃が当たらない。
「嬢ちゃん・・・仲間の死は初めてか?」
「・・・っ。」
それも見破られていた・・・紅葩は男2人が消えたとき思い出してしまった。
1番最初に仲間の存在を知ったサラリーマンの男を・・・時雨を。
「戦闘中に考え事はご法度だぜ?」
「・・・っ、ぐっ。」
我に返った時にはもう遅かった・・・男の顔は目の前にありガードする前にトンファーが紅葩の腹に直撃しそのまま吹き飛ばされる。
木に激突し頭をぶつけた紅葩、腹の痛みと相俟って意識が遠のきそうになる。
「もうちょっとやると思ったんだが・・・。」
「うぅ・・・。」
鎌を踏まれ呻く紅葩。
「じゃあな、クソガキ。」
男はトンファーを振り下ろすのが擦れた視界で分かった・・・が痛みは一向にこなかった。
「なん・・・だ、お前は・・・?」
(・・・・・誰?)
男の脅えた声と不思議な感覚を最後に紅葩の意識が途切れる。
「つまらぬ玩具よ・・・消えろ。」
男の攻撃を止めたのは男だった・・・男が手を翳すと泥棒のリーダーは影も形も無くなってしまった。
「・・・・・。」
男は紅葩にも手を翳す・・・泥棒の時とは違い淡い光が紅葩を包み、紅葩の傷やドレスに付いた汚れが綺麗に無くなった。
紅葩を横抱きした男は・・・その場から文字通り姿を消した。
―――――。
「れはっ・・・紅葩っ。」
「・・・・・れん?」
紅葩の視界に映ったのは心配そうに顔を覗きこませる仲間たちと夜空だった。
蓮達が言うには紅葩の身体はバルコニーの椅子に座らされていたらしい。
「いったい誰が・・・。」
「私たち以外の仲間の気配は感じられませんが・・・。」
(気配・・・?そういえばあの感じ、あの人にも感じた気が・・・。)
海の家のバイトの時に会ったあの男の人に・・・他人の空似だろう、あの人がこんな所にいるわけがない。
「さぁ夜風は身体に悪いですから中に入りましょう。」
睡蓮の言葉に皆が中に入る中、逆にバルコニーに出てきたドレスアップした天照。
「・・・・・どういうつもりかしら?
自分が造りだした玩具同士の戦いに入って・・・紅葩を助けるだなんて。」
天照以外誰もいないはずのバルコニーに響く声はまるで誰かに喋りかけているよう・・・。
「我の気まぐれじゃ。」
天照のすぐ背後にいきなり現れた影・・・それは紅葩を助けた男の姿。
「随分良い格好ね~似合ってるわよ~~~。」
男の格好はタキシード、パーティーに出席するこの場では合った格好だが。
「″この時代″の服は窮屈で敵わん。」
その男の解答に天照は笑った。
「紅葩のこと・・・随分気にかけているようね?」
「興味本位だ・・・それともお前はお前のように人間を″愛した″と答えてほしかったのか?」
「・・・・・。」
天照の顔が悲しげに歪められる。
「クックックッ我の楽しみを邪魔しないでくれよ・・・。」
「アレ?天照。」
「そんなトコに″1人″でどうしたの~?」
蒼葵と咲良・・・男性はすでに消えており2人は存在に気づいていない。
「・・・何でもないわよ~さ、中に入りましょ~~~。」
天照たちも中に入る・・・中ではまだダンスが行われていた。
「・・・・・。」
紅葩は端の方で先程のことを考えていた。
自分はあの時泥棒の攻撃で大怪我を負ったはず、それなのになぜ自分は無傷なのか。
それと・・・・・。
(いい加減・・・覚悟を決めないと。)
皆と戦うことを選んだのだ・・・いつまでもうじうじとしていられない。
「・・・よし。」
「美しいお嬢さん、私と1曲どうですか?」
小さい意思表示をした紅葩の前に現れるのはキラキラしたイケメン。
紅葩本人はピンときていないが、周りが大手企業の若社長だとか騒いでいた。
その目には紅葩も巻き込まれ大衆の的にされた・・・それまで大衆の的だったのは。
「すっかり取られてしまったな、蓮。」
「・・・・・。」
蓮と剣の長身コンビだった。
「行かなくていいのか?」
「・・・あ?何で俺が。」
「アタシは今回信じることが出来なかったからな・・・蓮に譲ってやろう。」
「チッ・・・勘違いすんなよ、アイツ等にもそう言っとけ。」
妖しく笑う剣を背に蓮は人混みを掻き分け紅葩の元に向かった。
「剣・・・良かったの?」
「何がだ?」
1人になった剣の側に来たのは紫葵と璃莉。
「剣なら自分が行くって言いだしそうだったから。」
「言っただろ?今回は・・・な。」
剣は人混みの先にいる紅葩に目を向けた。
「あの・・・私、ダンスが苦手で・・・。」
「大丈夫私がちゃんとリードいたしますから。」
どれだけ断っても男は引かなかった。
(しつこい・・・わざと足を思いっきり踏んでやろうか。)
わざとじゃなくても踏んでしまうのだが・・・手を掴まれダンスホールに引っ張り出されそうになる。
すると男が掴んでいた手とは反対の手が誰かに掴まれ思い切り引っ張られた。
大衆はいきなりの登場に驚いていたが紅葩はこの感覚を知っていた。
「・・・蓮。」
顔を見なくても分かったが顔を上げれば蓮は男を睨むように見ていた。
「何ですか貴方は・・・彼女は私が先に声を掛けたのだが?」
「先だとか後だとか関係ねぇよ。」
「何を・・・っ。」
男の言葉が止まる・・・蓮は紅葩の腰を掴み身体をさらに引き寄せ体勢で言うと後ろから抱いている感じだ。
男は絶句、周りからは悲鳴染みた嬌声が上がり・・・紅葩は恥ずかしさを通り越して固まっていた。
「・・・コイツを手懐けられるのは俺だけだ。」
「手なっ・・・っ。」
紅葩の言葉を聞こうとせず蓮はダンスホールの中心に向かった・・・この流れは間違いなく。
「ちょっ蓮っ、私は踊らっ「踊るぞ、俺がリードしてやる。」・・・。」
あの男にも言われた言葉・・・だが蓮が言うと紅葩は安心して身体を預けてしまう。
2人の準備を待っていたかのように最後の曲が流れる・・・。
蓮に任せて動く紅葩は練習時の面影は無く普通に踊れていた。
紅葩は純粋にダンスを楽しんでいた・・・そして蓮も、それを見ていた人々も隣で踊っているペアも。
「・・・・・クスッ。」
ただ1人だけを除いて・・・漆黒のドレスに身を包んでいる妖艶なオーラを纏った女性は、
ホールを出て闇と同化するように姿を消した・・・。




