10話
「へっくしゅんっ。」
「・・・風邪?うつさないでね。」
季節は梅雨に入り雨が多く降る時期、昨日も夜遅くまで降っていた。
「風邪じゃなっ・・・くしゅんっ。」
「どっからどうみても風邪だよそれ・・・。」
「いや熱無いし、誰かが噂を・・・くしゅんっ。」
「・・・はぁ。」
医者の祖父母を持つ紅葩は普段から健康には気を遣っている。
その紅葩が言うのだから熱は無いのだろうが・・・雫は溜め息しか出なかった。
(今日は休めないんだよな・・・。)
紅葩は昨日の出来事を思い出す。
―――放課後、いつものように生徒会室に集まるメンバー。
「雨だなぁ・・・。」
「6月だねぇ・・・紅葩ちゃん。」
「・・・だから何?蒸し暑いんだけど・・・。」
雨が降っているため室内は蒸し暑く、触れてはいないものの紅葩と双子の距離はもの凄く近い。
「む~~~。」
「どうした?咲良。」
「いつもなら双子に混ざっているのに。」
優雅に紅茶を飲む剣と璃莉、その近くではふてくされている咲良の姿。
「・・・だって、明日は双子の・・・。」
「「あぁ・・・。」」
明日は双子の誕生日、咲良はあの2人をたてているのだ。
「紅葩~明日紅葩のクラスは調理実習だよな?」
「・・・何で知ってんのよ。」
「楽しみだね蒼葵、紅葩ちゃんの手作りプレゼント~。」
「・・・・・。」
満面の笑みの双子に、紅葩は何も言えなかった。―――
そしてその帰り道・・・傘を持ってこなかった紅葩はずぶ濡れで家に帰った。
(昨日は早く寝たから何も作ってないし・・・。)
お風呂に入ってそのまますぐに寝てしまったのでクッキー1つ用意できていない。
おぼつかない足取りで学校に向かい調理実習の時間まで紅葩は机に突っ伏していた。
そして調理実習の時間、内容は与えられた材料で自分の好きなものを作ること。
(・・・マフィンでいいかな?)
紅葩は作る物をさっさと決めて調理にかかった。
(・・・紅葩?)
紅葩とは違う台で調理している剣、紅葩の様子がおかしいことに気づく・・・いつもの手つきではなかった。
「・・・出来た。」
見た目も店に出ていそうな出来栄えに先生の評価も高かった。
「・・・・・。」
明らかに様子のおかしい紅葩。
「・・・くれっ「剣様っ、受け取ってくださいっ。」・・・。」
「剣様、私のもっ。」
1人のクラスメートから始まり次々と剣を囲むクラスメート・・・紅葩はその間に家庭科室から出て行った。
(・・・コレはやばいかも・・・38度弱、ってとこかな?)
額に手を当てる・・・確実に朝より熱くなっている自分の身体。
(蒼葵と紫葵に渡したら今日は帰ろう・・・。)
生徒会室に向かうため階段を上る紅葩・・・足が重い。
「・・・っ。」
足を踏み外し階段から落ちてしまう紅葩。
(ヤバッ。)
いつもならこんなドジ踏まないのだが・・・。
紅葩の身体を襲ったのは痛みではなく、人の体温であった。
「ったく、何してんだよお前。」
視界に入ったのは紅蓮色の髪に彼愛用の黒いバンダナ。
「・・・蓮?」
「「紅葩~(ちゃ~んっ)。」」
遠くからは双子の声が聞こえた。
「・・・・・。」
「・・・紅葩?お前熱っ・・・紅葩っ。」
紅葩の意識はそこで途切れた・・・。
「・・・ゃんっ、紅葩ちゃんっ。」
「・・・・・さく、ら?」
目が覚めればそこには見慣れない白い天井とみんなの心配している顔。
「熱があるって分かっていて何で学校に来たんだ。」
声が低い剣・・・怒っているのだろう。
「・・・ごめん。」
「紅葩・・・。」
「ボクたちがあんなこと言ったばっかりに・・・。」
真剣な顔の双子・・・紅葩が風邪を引いて倒れたのは自分たちのせいだと思っているらしい。
紅葩は力なく微笑み机の上に置いてあるマフィンに目線を向ける。
「2人の誕生日にちゃんとあげたかったから・・・。」
「「・・・っ。」」
その言葉に涙目になる双子・・・感動のあまり紅葩に抱き付こうとするが。
「病人に何しようとしてんだよ。」
蓮の手によって止められた。
「昨日傘を持ってこなかった私が悪いんだし、
医者の孫なのに自分の体調管理もできないなんてダメだな・・・。」
「蓮っ、紅葩ちゃんを家に送ってあげてっ。」
「「は?」」
咲良の思いもよらない言葉に蓮と紅葩の声がハモる。
「何で俺が・・・お前たちがっ「うち等はこれから授業だもん。」・・・。」
真面目に受けていないくせに・・・ここで言い返しても「受けてもいない蓮には言われたくない。」と言われてしまうだろう。
「・・・私なら1人でも帰れっ「ダメだ。」剣・・・。」
「帰っている途中に倒れられても困る。」
「うっ・・・。」
そんなことない。と言い返したいが前科があるので言い返せない。
「蓮さんしか紅葩を無事に家に帰すことが出来ないんですよ。」
「・・・・・。」
「璃莉姉さん蓮はダメだよ~。」
「そうそう、蓮はムッツリだからな・・・紅葩ちゃんを襲っ「襲うかっ。」怪しい~。」
ここでこれ以上断り続けても彼らは絶対に折れないだろう・・・折れたのは蓮の方で。
「分かったよ・・・送ればいいんだろ?」
そして5分後・・・。
「・・・ねぇ、本当に他に方法なかったの?」
「仕方ねぇだろ、お前が歩けないのが悪い。」
「うぅ~~~~~。」
紅葩の顔が赤いのは熱のせいだけではない。
「・・・なんなら戻すか?」
「絶っっっ対イヤッ。」
からかいの笑みを浮かべているであろう蓮に怒鳴る紅葩。
最初に蓮がしようとしたのは俵担ぎ、これはみんなが即答で却下した。
次にしたのが横抱き、いわゆるお姫さま抱っこ・・・これは紅葩が全力で拒否した。(顔真っ赤で)
最終的におんぶという選択肢になり今に至る。
「・・・・・っ。」
平日のお昼ということで人がいないのは幸いだが・・・恥ずかしいものは恥ずかしい。
紅葩は家に着くまでずっと蓮の背中を見つめることしかできなかった。
「紅葩、着いた・・・?」
「・・・蓮?」
様子のおかしい蓮に背中から覗き込む・・・紅葩の家の前に誰かいる。
警戒する蓮だが背中にいる紅葩は嬉しそうに声を出す。
「先生っ。」
「・・・先生?」
紅葩の祖父母の病院で働いている先生だった。
「紅葩ちゃん、昨日濡れて帰っているのを見て心配で見に来たんだけど・・・。」
「・・・はは。」
先生の手には薬・・・紅葩は渇いた笑いしか出せなかった。
「この人は祖父母の病院一番の先生。」
「そんなことないさ。」
「で、こっちが生徒会の人・・・学生には見えないけど一応学生。」
「・・・ケンカ売ってんのか?」
首を捻り紅葩を睨む蓮。
「そう思いたいならどうぞ?」
こちらも睨み返す紅葩・・・がまだ本調子でないためまったく睨めていない。
「・・・僕はお邪魔みたいだね。」
「ちょっ・・・先生っ?」
微笑む先生・・・何やら勘違いしているらしい。
「楽しそうで安心したよ・・・紅葩ちゃんをよろしくね。」
「・・・・・。」
蓮に薬を渡すと先生は車に乗り去って行った。
その後家に入った蓮は紅葩に薬を飲ませベットに寝かせた。
「すー・・・すぅ。」
薬が効いたのかすぐに眠った紅葩、蓮はそんな紅葩の頭をひと撫ですると帰って行った。
それから3日・・・なかなか紅葩の風邪は良くならなかった。
1日目は咲良と璃莉が喉に良いからとゼリーを大量に持ってきた。
2日目は双子、退屈しないようにと漫画をたくさん持ってきてくれた。
そして3日目・・・。
「けほっ・・・けほ。」
「・・・大丈夫か?」
「剣・・・大丈、けほっ。」
3日分の授業のノートを持ってきた剣。
「食べられるか?」
剣が作ってくれたのだろうお粥。
「ありがと・・・辛っ。」
そのお粥は辛かった・・・唐辛子を入れると良いとは聞くがこれは・・・。
「・・・どうやら唐辛子を入れすぎたらしい・・・すまない。」
「全然大丈夫・・・。」
剣はレシピの内容を一文字も変えず調理する・・・そのためか創作は苦手な様子。
「けほっ・・・剣、頼みがあるんだけど。」
「・・・何だ?」
「実はね・・・。」
それから数分後・・・。
「紅葩っ、大丈夫?」
「姉さん、そんなに大声を出すと紅葩さんの身体に響きますよ。」
「雫・・・時雨。」
心配そうに顔を歪める雫と、いつも通りの笑顔の時雨だがその声はひどく優しげだった。
「あれ?誰か来てたの?」
「剣がノート持ってきてくれてね・・・今は頼み事していないんだけどね。」
「そっか・・・わたし茶碗片づけとくね。」
雫は台所に行ってしまった。
「紅葩さん心配しましたよ・・・どうして傘持って行かなかったんですか?」
「その日の予報見れなくて持って行ってなかったのよね・・・。」
「・・・・・。」
時雨はベットに腰かけ紅葩の頬に触れる。
「しっ・・・時雨?」
いきなりのことで肩が跳ね上がる紅葩。
「熱、まだあるんじゃないですか・・・薬飲んでますか?」
「ちゃんと飲んでるわよ。」
子ども扱いされている感じで拗ねる紅葩に微笑む時雨・・・頬をなでる手が止まった。
「・・・覗き見なんて、趣味が悪いんじゃないですか?」
「ハッ・・・邪魔して悪かったのかよクソガキ。」
扉に寄り掛かる蓮の姿・・・どうやら会話を聞いていた様子。
「・・・あれ?蓮さん?」
片付けが終わったのか部屋に戻ってくる雫。
「・・・そろそろ帰りましょうか姉さん。」
「えっ?まだちょっとしか・・・時雨?」
時雨は先に部屋を出て家から出て行った・・・玄関の外には紅葩からの頼みごとを終えて帰ってきた剣の姿。
「時雨か・・・紅葩の見舞いか?」
「剣さん、緋真さん・・・邪魔ですね。」
「・・・・・。」
剣の背筋が凍る・・・今のは間違いなく。
「時雨っ、先に行かないでよねっ。」
「ごめん姉さん、行きましょう。」
雫を連れて帰る時雨。
「・・・アイツ。」
そんな背中を見つめた後剣は家の中に入り紅葩の部屋に向かう。
「紅葩・・・何だ、蓮もいたのか。」
「悪かったな俺がいて・・・。」
蓮の姿に明らかにガッカリしている剣。
「・・・紅葩取ってきたぞ。」
「ありがとう、剣。」
そんな蓮の存在を無視し剣は紅葩に綺麗にラッピングされた小箱を渡した。
「アタシは外にいるからな。」
早々に姿を消した剣に蓮は不思議そうに顔を顰めた。
「何だ?アイツ。」
「・・・・・コレ。」
「ん?」
蓮の前に差し出されるさっき剣が持ってきてくれた小箱。
「何だよ。」
「いいから早く開けて。」
急かす紅葩に蓮は黙って小箱を開ける・・・中には赤いルビーのネックレス。
「・・・・・。」
「安物でアレなんだけどね・・・先生に行きつけの店で注文してもらって剣に取って来てもらったの。
本当は自分で頼んで取りに行きたかったんだけど、風邪なかなか治らなかったから。」
蓮の誕生日は双子の次の日・・・蓮本人でさえ忘れていた。
「蓮さ・・・いい歳なのにそういうの全然つけてないでしょ?
性格はともかく顔はいいんだからもっとオシャレとか・・・わっ。」
悪態付く紅葩の頭を乱暴に撫でまわす蓮。
「何すっ「早く風邪・・・治せよ。」・・・うん?」
蓮はそれだけ言って足早に部屋から出て行った。
「・・・変な蓮。」
撫でられてボサボサになった髪をなでながら紅葩は蓮が去った扉を見つめていた。
「・・・あのバカが、こんなモノより自分の身体を気にかけろよ。」
家の外に出た蓮、外には柱に寄り掛かっている剣と目が合った・・・が剣の目線はすぐ下に移った。
「紅葩はいい趣味をしているな。」
「・・・・・。」
蓮の手には先ほど紅葩から贈られたネックレス、蓮はポケットに閉まった。
「フッ・・・で、時雨の情報は?」
「弓道で名を馳せている・・・後は、アイツは雪乃家の人間ではなく養子らしい。」
雪乃家に行く前は孤児院で暮らしていたらしい・・・どこからともなく現れたと・・・。
「そうか・・・なら時雨は・・・。」
「・・・かもな。」
2人の同じ答えに行きつく。
「蓮・・・お前が1番危険だぞ。」
「だろうな。」
「大丈夫なのか?」
顔を顰める剣と違って蓮は不敵な笑み。
「俺があんなクソガキにやられると思ってんのか?」
「・・・さぁな、しかし用心に越したことは無いだろう・・・あの殺気は。」
大会前に蓮が感じたものと家の前で剣が感じたもの・・・素人が出せるものではない。
「・・・それはそうと、ちゃんとそのネックレス着けるんだろうな?」
「・・・・・。」
剣の問いに答えなかったが後日・・・制服の下に隠れて見えないが、
たまに赤い宝石のついたネックレスが見えるとか見えないとか・・・そう生徒会のメンバーは語っていた。




