3裏サウィン祭
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夕方になり、サウィン祭が始まった。
至る所に設置されたランタンが、街を照らしている。
街ゆく人は仮装をしたり、屋台で物を買ったりとサウィン祭を楽しんでいるようだ。
私はアシュリーと共に祭りを回る。
サウィン祭では、店や自宅をライトアップすることも目玉なので、それを見て回ったり、屋台で食べ物を買って食事をしたりする。
少し疲れたら人形劇を見る。
これが大体の流れだ。
正直、バイロンのことが今更ながらにチラついて、心から楽しめなかったのはアシュリーに申し訳なかった。
人形劇は、人間にはできない動きをするので、意外と楽しめた。
昔聞いた話では、物を操作する魔法具を使っているので、操作自体は難しくはないらしいが、演技は人間によるところが大きいので、人形劇とはいえ演技力は必要らしい。
サウィン祭に上演される演目は、『サウィン祭の夜に』と決まっている。
内容は、サウィン祭の起源について。
大昔、現世と冥界の境が曖昧だった頃。人々は死んでしまっても、現世と冥界を自由に行き来できた。昔の彼らにとって、死とは肉体を失い、住む場所が変わるだけのことだったらしい。
しかし、善良な者ばかりではない。中には悪い死者、いわゆる悪霊と呼ばれる者もいた。
人の数が増えるたびに悪霊は増え、生きている者たちに害をなした。
そこで冥界神は、現世と冥界との世界の隔たりを強め、生者と死者は二度と会えないようになった。
しかし、それだと厳しすぎるということで、年に一度冥界との境目が薄くなる日を設け、死者と会えるようにした。
そのナビゲーターが、死者を導く黒髪の巫女だ。
巫女役の人形が、私が刺繍したドレスを着ているのを見て、ほっとする。ちゃんと、誰かを喜ばすことができた。
演劇は一時間弱で終わった。
劇場を出ると、広場ではダンスが始まっていた。
「踊る?」
「う〜ん。少し、疲れちゃったかも? 少し早いけど、帰ろうかしら?」
「え? そう? じゃあ、送っていくよ」
「ありがとう」
アシュリーには申し訳ないが、私は裏サウィン祭のことで頭がいっぱいだった。ここで、余計な体力を使いたくはない。
街外れにある自宅まで送ってくれたアシュリーを見送り、私は裏サウィン祭の時刻まで自宅で待つことにした。
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裏サウィン祭は、墓地の隣にある広場で行われるらしい。
周りを針葉樹が生い茂る森に囲まれた、寂しい場所だ。普段は、葬儀会場として使われている。
墓地の近くということもあり、普段からあまり近づくものはいない。そのせいか、幽霊が出るという噂もあるらしい。
死者が参加するらしい裏サウィン祭に相応しい場所だ。
開始時刻は深夜の二時。
生者の参加者は、仮面をつける必要がある。死者の中には、悪霊と呼ばれる者もいるため、仮面は生者であることを偽るアイテムらしい。
また、招待状がないと参加することはできない。
注意事項としては、生者は裏サウィン祭で出される飲食物は摂取してはならないらしい。それと、生者とバレるのも良くない。バレたら、早急に逃げた方がいいとか。
何となく、分かるような分からないような注意事項だ。
とにかく、私は準備を整え、予定の時間になるまで待った。
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深夜になった。
いつの間にかソファーで眠ってしまっていた私は慌てたが、幸い裏サウィン祭の開催時間までは、余裕があった。
寝過ごさなくて良かった……。
私は、急いで家を出た。
日付が変わった街には、サウィン祭の飾りやランタンがそのまま残されていたが、人の気配はまったくなかった。
サウィン祭は死者のための祭りだ。祭り自体は日付が変わる前に終わる。そして、それ以降は死者の時間となるため、基本的に人々は家の外には出てこないのだ。
それなのに、明かりの灯ったランタンやサウィン祭の飾りはそのままなので、街から人が消えてしまったような錯覚を覚えた。
墓地に着くと、確かにその隣にある広場に灯が灯っていた。
普段は、葬儀の会場などになる場所だ。
私は仮面をつけ、そこへと向かった。
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会場に着くまで半信半疑だったが、確かにそこは祭り会場のように賑わっていた。
普段は葬儀会場としてしか使われない広場に、街同様のサウィン祭の飾りつけや屋台があるのだ。
広場の中心には営火が焚かれており、その周りで踊っている人もいる。屋台もあって、飲食を楽しんでいる人もいた。
私は、会場の出入り口で招待状を見せる。
「……なるほど、魔女様に招待されたのですね。どうぞ」
ウサギを模した仮面を被った人物に招待状を確認される。
特に問題なく、会場に入ることができた。
よく見れば、会場には仮面をしている人と、つけていない人がいる。
その違いが何かと考えていると、去年亡くなった知り合いのお祖父さんの姿を見つけたので、死者と生者の違いなのかもしれない。
ここに、バイロンもいるのだろうか?
私は裏サウィン祭の会場を彷徨った。
屋台から芳しい香りが漂ってくるが、不思議と惹かれない。……緊張しているのかもしれない。
そして──。
「──クロイ?」
「え?」
懐かしい声で、名前を呼ばれた。
そこには、三年前に死んだ私の恋人、バイロンがいた。
◉
青い髪に緑の瞳。その頭には赤いバンダナが巻かれている。
服装も彼が生前、よく着ていた物だ。
顔もその姿も、私が覚えているそのままの彼だった。
「ほ、本当にバイロン、なの……?」
「本当に、クロイだ! 久しぶり!!」
そういって抱きしめてくる。
懐かしい彼の香りがして泣きたくなったが、今はそれどころではない。彼の疑惑を晴らさないといけない。
「バイロン、あなた生きている時に浮気してたの!?」
「は? そんなことしてないよ!? っていうか、久しぶりに会った第一声がそれ!?」
バイロンは焦ったように叫ぶ。それがますます怪しいが、彼の声で周りの注目を集めてしまう。
これでは話し合いなどできないので、私たちは人気のない場所に移動した。
「う、浮気ってどういうこと!?」
「だってあなた、いっつも私以外の女性と親しくしていたでしょう?」
「そ、それは、女性型の人形の演技のためだって……」
「そうね。そこは信じてあげる。でも噂になってるのよ。あなたが先輩の奥さんに手を出して、痴情のもつれで死んだって!」
アシュリーから聞いた噂に、自分の疑いも交ぜて、少々大げさに言ってしまったが、彼の死にまつわる噂はそんな感じだったはずだ。
「はぁ〜〜〜〜? いやいやいや、違うって! 俺は先輩の奥さんが先輩を病気に見せかけて殺したっていう疑惑について調べてたんだ!」
「じゃあ、浮気じゃないのね?」
「さすがに、お世話になった先輩の奥さんに手は出さないよ!?」
「それ以外の女性には手を出すと?」
「だから、浮気はしてないって!」
「……」
「……」
「……フフ」
「ぷ、あははは!」
そうして、少しの間睨み合った後、私たちはどちらともなく、笑い出した。
「いや〜、このやりとり、久しぶりだね」
「そうね、あなたが死んでから、心から笑ったことなんてなかったもの」
「それにつきましては、本当に申し訳ないと思ってる……」
「あなたの死に、先輩の奥さんは関係してるの?」
「う〜ん? ないとは言い切れないけど、直接の原因ではないよ? 奥さんに話を聞こうとしたら、彼女が逃げ出して車道に飛び出してしまったんだ。馬車が来てたから突き飛ばしたら、俺だけが轢かれてしまった」
「はあぁ?」
あっけらかんと話すバイロンに、力が抜ける。
でも、彼らしいと思ってしまった。バイロンはこういう奴だった。
「いやでも先輩の奥さん妊娠してたし、仕方なくない?」
「それ、あなたが父親だから?」
「いやいや、違うから! 少なくとも俺じゃないから!!」
「それじゃあ、先輩との子供なのね……」
彼の疑惑がとりあえず晴れて、少しほっとする。
「多分そうなんだが、疑惑もある」
「え?」
「奥さん、浮気してたらしく……」
「ええ!?」
「先輩との子供かちょっと怪しいらしいんだ。俺が死ぬ前に先輩は病死してしまったけど、あの屈強な先輩が病ですぐ死ぬとは思えないんだよね〜」
「そうなのね。奥さんの名前は?」
「アンっていったかな? ちなみに、先輩の名前はジェフね」
「そう……」
アシュリーが話していた先輩と同じ人だ。その奥さんについては、私には面識がないが……。
「どう? 俺への疑惑は晴れた?」
「そうね。あなたが嘘をついていなければね?」
「いやいや、嘘じゃないからね? 俺が愛していたのは、クロイだけだから!」
「本当かしら?」
「おいおいおい〜」
そうして話題は、他愛のないものへと移行した。
彼が死んでからのこと。冥界のこと。そして、アシュリーのこと。
特に冥界の話については興味深かった。
悪いことをすると、その被害者や迷惑をかけられた人が許すか、世間がその人を忘れるまで責苦は続き、転生とかはできないらしい。
逆に、そうではない一般の人は、本人の希望に応じた時期に転生ができて、聖人とか凄くいいことをした人は、神様や精霊の一員として人間より上の存在にもなれるらしい。
「そうか、あいつも相変わらずか。あいつのおかげで人間大の人形を使った人形劇は、成功したところがあるからな」
話題は私たちのもう一人の幼馴染、アシュリーのことになった。
「ええ。それに、その……一緒に未来を歩かないかって言われてる」
「まあ、もう俺はお前と一緒に未来へはいけないからな」
「……」
「そうするのが、クロイにとっては一番いいんだろうが、それでも……」
「バイロン?」
バイロンの雰囲気が変わる。
「やっぱり妬けるよね?」
バイロンの白目の部分が、黒く染まった──。




