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サウィン祭の夜に(▼w▼)  作者: 彩紋銅


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2/6

2ジェットの魔女

 ◉


「いや〜、助かったよ。ありがとう!」


 その人物は私が持っていた美糸蜘蛛《シルキィ・スパイダー》の糸を大切そうに受け取った。


「いえいえ。私も余分に持っていたので。お役に立てて良かったです」


「さて、改めて自己紹介をしておこう。あ(・)っ(・)し(・)はジェットの魔女。ジェットでも魔女でも好きなように呼んでくれたまえ!」


「魔女様、でしたか……!」


 ジェットの魔女と名乗った彼女は、黒くてストレートな長い髪を持ち、片目を髪で隠している。見えている瞳の色は濃い茶色だ。

 黒いマントを羽織っているその下には、色合いの違う、黒のドレスを着ていた。


 何となく、『サウィン祭の夜に』という昔話に出てくる死(・)者(・)を(・)導(・)く(・)巫(・)女(・)が現実にいたら、こんな感じだろうかと思った。


 彼女はこの街に用があって来たが、外貨を両替している暇がなく、美糸蜘蛛の糸を買うお金が足りなかったそうだ。

 不憫に思った私は、彼女に声をかけ在庫で持っていた糸を譲ったのだ。そのために、我が家へと招待した。


「悪かったね。これがあっしが持っている全財産だ。一応、他国のお金は沢山あるけど、この国のお金に替えないと使えないからねぇ」


「あるだけで十分ですよ。……そういえば、この国のお金をここで全て差し出してしまうと、このあと宿とか困りませんか?」


「あ。サウィン祭まではこの街にいないといけないんだったわ……」


「それまで、七日ありますよ? この街じゃ、外貨の両替も難しいでしょうし……」


 多分、王都まで行かないと無理だろう。この街にも銀行はあるが、果たして対応しているだろうか? ……多分、無理だな。


「ぐぬぬ……。王都まで行くとなると、戻ってくるのに時間がかかる……。あっしは今、魔力に制限がかけられているから、個人での転移魔法は使えないし……」


「転移ゲート……を使うにも、お金がかかりますね」


 両替のために王都に行くのに、転移ゲートの利用でお金が無くなりそうだ。そもそも、この時期は王都でもサウィン祭の時期なので、転移ゲートの使用料も上がる。

 王都のサウィン祭は、地方のここよりも盛大で豪華で、観光資源にもなっているらしいから。


「仕方ない。持ち物を何か売るか……」


「あ、このお金返しましょうか? 資金ができてからの支払いでも……」


「いやそれは、そのまま受け取ってほしい。……いや、少し足りないかな?」


「いや、そんなことは……」


 例年の美糸蜘蛛と同じ代金だ。十分だと思う。


「いや、それじゃあっしの気がおさまらない。とはいえ、他にあげられそうなものは……。お、そうだ!」


 魔女様は少し考えたあと、指を鳴らした。

 すると、空中から手紙と何かが現れ、彼女の手の上に落ちた。

 ……収納魔法の類かしら? 魔女様って便利ね。


「これをどうぞ」


「何ですか?」


 魔女様が差し出したものを受け取る。手紙──? いや、招待状と書いてある。


「裏(・)サ(・)ウ(・)ィ(・)ン(・)祭(・)の招待状だよ」


「う、裏?」


 サウィン祭に裏があるなんて、聞いたことがない。


「表は生きている者が楽しむ祭り、裏は死者が楽しむ祭りだ。君が会いたい相手がいるのなら、裏サウィン祭で会えるかもね?」


「会いたい人に……」


 そんな人物、一人しかいない。


「もし参加するなら、その仮面をつけるように」


「仮面?」


 もう一つ渡されたもの。

 目元だけを隠す、シンプルな仮面だ。

 サウィン祭では仮装もするが、それ用にしてはシンプルすぎる。

 そういえば、貴族はこういった仮面をつけて、舞踏会を行うと聞いたことがある。


「死者の中には、生者のことが羨ましくてたまらないって感じの輩もいるからね〜。そういった奴らに見つかると、命が危ういどころか、中(・)身(・)が(・)入(・)れ(・)替(・)わ(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)こともある。自分の体を他人に奪われたくはないだろう?」


「それは……はい」


 凄く嫌だと思う。


「それじゃあ、参加するしないは自由だ。参加するなら、招待状に書いてあることを守るようにね」


「あ、はい。ありがとうございます──うわ!?」


 ジェットの魔女様はいつの間にか席を立って、玄関のそばにいた。

 そして、玄関の扉を開けると、風が部屋の中に吹き込み、一瞬視界が奪われる。


 風が止むと、魔女様の姿はすでになかった。


「え、ええ〜?」


 部屋は、落ち葉まみれになっていた……。


 ⚫︎◉⚫︎


 それから、あっという間にサウィン祭の日になった。

 祭りの本番は夜で、昼間はお墓で死者に祈りを捧げるのが一般的だ。


 私は、アシュリーと共にバイロンのお墓に向かった。

 彼の家族がお墓を飾り付けしたのか、マリーゴールドの花と、魔力で灯るランタンが捧げられていた。

 火事にならないので、魔動ランタンは人気らしい。


 私とアシュリーは持って来た花を捧げて祈る。


 その後、お互いの家のお墓も回って、お墓参りは終了。


 今年は、そこまで胸は痛まなかった……。


「夜のお祭りまではまだ時間があるね」


「それなら、人形劇団に顔を出さない?」


「え? 大丈夫なの?」


 アシュリーは心配そうな顔をする。


「まあ、そろそろ顔を出しておいた方がいいと思ってね」


 バイロンが亡くなって以降、劇団には顔を出してこなかった。

 彼のことを思い出してしまうからだ。


 それでも、彼の死から三年が経って少しは大丈夫になったと思う。


「そうか。それなら行ってみよう」


 ◉


 街の中心にある広場は、サウィン祭特有のオレンジと黒、そして紫の色で溢れていた。


 人形劇は広場近くの専用の劇場で行われるので、そこへ向かう。

 ちなみに、人形劇団の名前は『傀儡座』。何の捻りもない名前だ。


「おや、クロイちゃん!」


「お久しぶりです」


 団長さんが声をかけてくれる。

 バイロンの人形遣いとしての、師匠に当たる人だ。


「元気そうで良かったよ。ほら、これクロイちゃんが作ってくれたアクセサリーと、刺繍してくれたドレスね!」


 団長さんが指した方向には、黒髪の巫女の人形がある。

 死者を導く、サウィン祭の重要登場人物だ。


 人とほぼ同じ大きさの人形なので、ドレスもアクセサリーも人がつけても大丈夫そうな大きさになっている。


「間に合って良かったです」


「公演は、夕方五時からだから、見てってね!」


 それから夜の十時くらいまで、数回公演するらしい。


「ええ、是非!」


「僕の作った人形も、大丈夫そうですね!」


「アシュリーも腕をあげたな! うちも一時は一気に二人も演者が減って大変だったが、何とか持ち直せて良かったよ……」


「え?」


 一人はバイロンのことだろう。

 その口ぶりからすると、彼が亡くなった時期にもう一人、劇団を去った人物がいるということだろうか?


「……団長さん」


「あ、おっとすまねぇ! とにかく、サウィン祭楽しんでくれな!!」


 そうして団長さんは行ってしまった。


「まったく、デリカシーのない……」


「アシュリー、団長さんのさっきの言葉はどういうこと?」


「……そうだね。そろそろ、クロイにも話しておこうか。場所を移そう」


「え? ええ……」


 私とアシュリーは、劇場近くのカフェに入った。


 ◉


「バイロンが亡くなる少し前、劇団員の一人が病死しているんだ」


「病死?」


「うん。ジェフって人で、バイロンからすると先輩に当たる人だね。入団当初からお世話になっていた方らしい。あ、ちなみに男ね。奥さんもいる」


「そ、そう……」


 アシュリーはバイロンが浮気しているかもと悩んでいた私を知っているので、気を使わせてしまったようだ。


「その死因に、バイロンは疑問を持っていたらしい。それで、その奥さんを探っていたという噂がある。まあ、僕も劇団にずっといたわけではないから、詳しくは分からないんだけどね」


「そんなことが……。まさか、バイロンはそのせいで?」


「いや、バイロンの死は完全に事故らしい。ちゃんと遺族には事故を起こした相手から慰謝料が支払われたし、相手も実刑判決を受けたよ。御者はその奥さんのことは知らないみたいだったし」


「そう……」


 少し、ホッとした。

 彼の死が仕組まれたものだったら、私はその相手を許せなかっただろうから。きっと、同じ目に遭わせるまで、粘着するだろう。


「その疑惑の奥さんは現在、お子さんと二人で暮らしているとか。今は引っ越してしまって、行き先までは分からないらしいけど」


「お子さんがいるのね?」


「ああ、三年前に生まれたらしいよ?」


「三年前?」


 ふと、嫌な予感がよぎる。


「……そのお子さんは、旦那さんとの子供?」


「え?」


「もしかして、バイロンとの……ということはない?」


「いや、まさか……」


 アシュリーは否定しようとするが、言葉が続かない。


 彼も気づいてしまったのだ。

 もし、バイロンが先輩の奥さんと不倫していた場合、その先輩の死は二人が仕組んだと言えなくもない。たとえ、バイロンの死が偶然だとしても。


「それは……ないと思うけど……。バイロンは確かにクロイ一筋だったし……」


「でも、本(・)人(・)の(・)意(・)思(・)と(・)は(・)無(・)関(・)係(・)に(・)関係を結ばされることも、ないとはいえないわ」


 女性の方が男性に薬などを盛って、無理矢理にでも関係を結ぶということも、ないとはいえない。


 現に数年前、この国の貴族の間でそういった事件があったらしい。

 その事件では、相思相愛だった男性とその婚約者が心中したそうだ。薬を盛って無理矢理関係を持った女性は、幽閉されるか、どこかの修道院に入れられるかしたのち、何らかの理由で亡くなったという。あくまでも噂である。

 関係を持った女性には子供ができたとかいう話もあるが、定かではない。


「でも、その奥さんの行方も分からないし、確かめようは無いんじゃないかな?」


「……そうね」


 いや、確かめようはある。


 魔女様にもらった、裏サウィン祭への招待状。

 それで、バイロンに再会できれば……。


「さて、そろそろサウィン祭も始まるし、行ってみようか?」


 カフェから見える広場には、人が集まり始めており、仮装している人々も結構いる。

 空も暗くなり始めていた。


「……そうね」


 私はアシュリーと共に、カフェを出た。







★この魔女様は、他作品に出てくる魔女様とは別個体です。

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