第9話 脱走!
次にたどり着いたのは、魔法使いたちが暮らす世界だった。
菜々美たちはそこで新たな仲間になりそうな少女、ルーズ・セイレーヌと出会った。
しかし、思わぬ事態が起きてしまった。
この世界では、魔法が使えないというだけで逮捕されてしまうのだ。
何も知らずに魔法が使えないと告げてしまった菜々美たちは、警察に捕らえられ、牢屋へと連れてこられていた。
ガッシャーン!
重い音を立てて、鉄格子の扉が閉まる。
「ちょっと!私達何も悪いことなんかしてないのにどうして逮捕されるのよ!!」
菜々美は鉄格子にしがみつき、抗議の声を上げた。
「はあ…最悪だ…」
大和は深いため息をついた。
「どうすればいいでござるか…」
武も困り果てている。
「脱走するのは…無理そうだな…」
大和は牢屋の頑丈な造りを見回した。
鉄格子は簡単に壊せそうになく、出口には看守もいる。
「はあ……あ!」
菜々美が突然、何かを思いついた。
「そうだ!ねえ!私のゲートでここから逃げられるかも!」
「確かに!」
大和が顔を上げる。
「流石!天才でござる!」
武も嬉しそうに声を上げた。
「えへへ!じゃあ、いくよ!」
菜々美は得意げに手を前へ突き出した。
いつものように、目の前にゲートを開こうとする。
しかし――。
何も起こらなかった。
「あ、あれ?おかしいな…」
菜々美はもう一度試してみた。
だが、やはり空間には何の変化もない。
そのときだった。
ぐうううう~。
菜々美のお腹から、大きな音が鳴った。
「あはは!さっきお腹が空いたからカフェに行ったのに結局何も食べてなかったや」
菜々美は照れくさそうに笑った。
「もしかして…空腹だとゲートがだせないのか!?」
大和が尋ねる。
「そ、そうみたい…」
菜々美は力なく答えた。
「腹が減っては戦はできぬと言うでござるしな!」
「うるさい」
大和が即座に返した。
「なんかごめんね…」
菜々美は申し訳なさそうに肩を落とした。
せっかく思いついた脱出方法だったのに、肝心のゲートが開けない。
「だったら…」
大和が何かを考え始めた。
「何か策があるでござるか?」
武が期待を込めて尋ねる。
「俺達は魔法が使えないから捕まったんだよな?」
大和は二人を見た。
「俺の身体は火が付いても平気なんだ、これは魔法と言えば魔法みたいなもんだろ?」
「なるほどでござる!賢い味方がいっぱいでござるな~」
武は感心したように頷いた。
「とりあえず…俺がこの檻から出る!」
大和は鉄格子の向こうにいる看守へ声をかけた。
「なあ?そこの看守さん?実は俺…魔法使いなんだ!」
「…」
看守は無言だった。
「試しにマッチを一本くれないか?」
「…」
返事はない。
「聞いてんのか?」
「…」
看守は微動だにしなかった。
「おい!マッチをだな!?」
大和が声を張り上げた、そのときだった。
「魔法というのは手品ではない…本当に魔法使いだというならマッチなんぞ必要無いだろ?」
看守は冷たく言い放った。
「あ…は…は…駄目みたいだな…」
大和は乾いた笑いを浮かべた。
火に耐えられる体を見せれば、魔法使いだと認めてもらえるかもしれない。
しかし、そのために必要な火を用意することさえできなかった。
「本当にどうしよう…」
菜々美はがっくりと肩を落とした。
* * *
その頃、セイレーヌは街を歩いていた。
「…」
胸にはいつものように本を抱えている。
すると、近くにいた人々の会話が耳に入ってきた。
「ねえ?聞いた?さっきの侍たち捕まったらしいよ!」
「え…」
セイレーヌは思わず足を止めた。
侍たち。
その言葉を聞いて、先ほどカフェで出会った三人の顔が浮かんだ。
(そうか…あの人達って別世界から来たんだもんね…魔法なんか使える訳無いか…)
菜々美たちは、自分たちが別世界から来たのだと話していた。
あのときは突然の話に戸惑い、何も答えられずに逃げ出してしまった。
けれど、魔法が使えないというだけで捕まってしまったのなら――。
(…………)
セイレーヌはしばらく俯いていた。
やがて、顔を上げる。
(助けなきゃ…)
* * *
「はぁ…」
牢屋の中で、菜々美はため息をついていた。
「…」
大和も黙り込んでいる。
「zzz…」
一方、武はすっかり眠っていた。
「私達、これからどうなんの?」
菜々美がぽつりと尋ねた。
「さあな…」
大和にも答えは分からなかった。
「zzz…」
武の寝息だけが響いている。
「…私ももう寝ようかな」
「…」
「zzz…」
菜々美は疲れたように目を閉じた。
「おやすみ」
「ああ…」
「zzz…」
牢屋の中が静かになる。
「…」
「…」
「zzz…」
しばらくして、突然どこからか声がした。
「みなさん!無事ですか!」
大和が顔を上げた。
「?なんだ?気のせいか?」
辺りを見回しても、誰の姿も見えない。
すると、再び声が響いた。
「あ!透明になる魔法解いてなかった!」
次の瞬間、何もなかった場所に一人の少女の姿が現れた。
「あ!あんたは!」
大和が驚きの声を上げる。
そこにいたのは、セイレーヌだった。
「助けに来ました!」
セイレーヌはそう言うと、牢屋の鍵に手を伸ばした。
ガチャガチャガチャン。
鍵が外れ、鉄格子の扉が開いた。
「おい!菜々美!武!起きろ!」
大和が二人を揺り起こす。
「…?何…?」
菜々美が眠そうに目をこすった。
「今、何時でござるか…?」
武もぼんやりと顔を上げる。
「セイレーンが助けに来たぞ!」
「さあ、急ぎましょう!」
セイレーヌが促した。
菜々美はようやく状況を理解し、ぱっと顔を輝かせた。
「セイレーン…ありがとう!!!」
セイレーヌは三人を助け出すと、武へあるものを差し出した。
「お侍さん、これ」
「おお!僕の武器でござる!ありがとうでござる!」
それは、捕まった際に取り上げられていた武の武器だった。
武は嬉しそうに受け取った。
しかし、四人が逃げ出そうとした、そのときだった。
「おい!脱走者だ!」
看守たちがこちらに気づいた。
「見つかっちゃった…」
セイレーヌが不安そうに呟く。
だが、武は一歩前へ出た。
「僕に任せるでござる!」
武は武器を構え、看守たちへ向かっていった。
「はあああっ!」
「ぐあっ…」
「がっ…」
「だあっ…」
次々と攻撃を受け、看守たちが倒れていく。
ドサッ。
最後の一人が地面に倒れた。
武は武器を構え直すと、得意げに言った。
「ふっ!峰打ちでござる!」
看守たちを殺すことなく、動きを封じたのだ。
「さあ、行くでござるよ!」
武の声に促され、四人は牢屋からの脱出を急いだ。
ツヅク




