第10話 新しい仲間セイレーヌ!
魔法が使えないという理由で逮捕されてしまった菜々美たちだったが、セイレーヌの助けによって、無事に牢屋から脱出することができた。
四人は追っ手に見つからないよう、街の中を走り続けていた。
タッタッタ……。
慌ただしい足音が道に響く。
そんな中、菜々美は隣を走るセイレーヌに声をかけた。
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけどさ?」
「どうしてこの世界は魔法が使えない人を捕まえるの?」
セイレーヌはすぐには答えなかった。
少し俯き、何かをためらうように唇を結ぶ。
「……それは…私のせいなの…」
「え?」
予想もしなかった答えに、菜々美は驚いた。
「元々この世界で魔法が使えるのは私だけだった…」
「皆からは魔法が使えるのが不気味だって恐れられて石を投げられたりしてたの…」
セイレーヌの声は小さかった。
けれど、その言葉には、これまで誰にも打ち明けられなかった苦しみが滲んでいた。
「誰もいないところをずっと一人で歩き続けて…新しい人を見つけて近づいても皆が魔女だと言って離れていく…」
人に会うたびに、今度こそ受け入れてもらえるかもしれないと期待していたのだろう。
しかし、返ってくるのは恐れや拒絶ばかりだった。
「そして私はあるとき体力が尽きて倒れて、目を覚ますとそこは檻の中だった…とても暗い…」
「それからはずっと檻の中で暮らしてた…すごくつらかった…」
菜々美は何も言えなかった。
先ほど自分たちが閉じ込められていた牢屋を思い出す。
あの場所で、セイレーヌは長い時間を過ごしていたのだ。
「でもね…ある日、私は何も言われずに檻から出されたの…」
「ちょっと困惑したけど…外に出てすぐに理由が分かった…」
「皆が魔法使いになってたの」
菜々美ははっとした。
「それって…もしかして最近?」
「うん、そう」
「ってことは歯車がずれた影響か…」
大和が呟いた。
世界の歯車がずれたことで、本来はセイレーヌだけが持っていた魔法の力が、ほかの人々にも現れたのだろう。
しかし、セイレーヌの話はそれで終わりではなかった。
「でも全員が全員、魔法を使える訳じゃなかった…」
「今度は魔法が使えない人を異端だと言って次から次へと捕まえていったの…」
「自分とは違う人を皆は受け入れようとしないから…」
かつて魔法を使える者が恐れられ、今度は魔法を使えない者が排除される。
立場が逆転しただけで、人々の態度は何も変わっていなかった。
「ひどい話だな…」
大和が眉をひそめた。
「セイレーンは何も悪くないよ!」
菜々美は力強く言った。
だが、その言葉を遮るように、鋭い声が響いた。
「いいや、そいつが悪いのよ!」
四人が振り向く。
「あいつは!」
武が声を上げた。
そこに立っていたのは、カフェで菜々美たちを捕まえさせた、あの気の強そうな女性だった。
「何よあなた!!」
菜々美が睨みつける。
「私はこの世界で最も優れた魔法使い!」
女性は得意げに胸を張った。
「異端な存在のあなた達はここから逃がさないわ!」
「何故そこまで俺達にこだわるんだ?」
大和が問いかけた。
「こだわるですって?」
「ああ、俺達を警察に通報したのはお前だったよな…?」
「そんなのたまたまよ」
女性は平然と答えた。
「じゃあ何故ここにいる…?」
大和は警戒を緩めずに続ける。
「おかしいだろ…まるで俺達が脱走するのが分かってたみたいだ…」
「確かに!言われてみれば!」
武も納得したように頷いた。
そのときだった。
「それは俺が命令したからだ…」
背後から、低い声が響いた。
振り向くと、そこには黒いコートを着た男が立っていた。
「何!?後ろ!?」
「いつの間にいたでござる!?」
大和と武が驚きの声を上げる。
男は、以前の世界でも姿を現したミストだった。
「お前達は組織にとってもこの世界にとっても邪魔な存在なんだ…」
ミストは淡々と告げた。
「そう!異端な存在はいるだけで害なのよ!」
女性が勢いよく言葉を重ねる。
「私達が魔法使いになったから異端じゃなくなったってのにそこの魔法を使えない異端達を逃がそうとするなんてやっぱあなたは世界が変わっても異端だわ!」
「……」
セイレーヌは俯いた。
かつて何度も浴びせられた言葉が、再び自分へ向けられている。
そんな彼女の隣で、菜々美は拳を握りしめた。
「異端、異端って…」
菜々美は女性をまっすぐに見つめた。
「どうしてそうやって受け入れようとしないの!?どうして人を責めるの!?」
「『魔法が使える人』と『魔法が使えない人』ただそれだけの違いでしょ!!それ以外、全部一緒じゃない!!」
「おかしいよ!!何も悪いこともしてないのにそうやって拒絶するなんて!!」
その声には怒りが込められていた。
魔法が使えるかどうか。
そんな違いだけで誰かを傷つけたり、閉じ込めたりしていいはずがない。
しかし、女性は不機嫌そうに顔を歪めた。
「うるさいわね…気分悪くしたわ…」
そして、ミストへ視線を向ける。
「ねえ、こいつらやっちゃえばいいんでしょ?だったらさっさと片付けるからどいてくんない?邪魔なんだけど」
「気に入らない奴だ…」
ミストは吐き捨てるように呟いた。
シュウウ……。
その姿が煙のように消えていく。
「あんたなんかに気に入られたくも無いわよ」
女性は鼻を鳴らした。
そして、菜々美たちへ向き直る。
「それじゃあ、見せてあげるわ最も優れた魔法使いの最大の魔法を!」
女性が両手を構えた。
「ビビディーバビディーブウー!!」
その声に応じるように、赤黒く禍々しい巨大な球体が現れた。
不気味な光を放つ球体は、菜々美たちへ向かって迫ってくる。
「やばい!」
大和が叫んだ。
そのとき、セイレーヌが一歩前へ出た。
「私にまかせて!」
セイレーヌは抱えていた本を開いた。
そして、はっきりとした声で呪文を唱える。
「プリティ!ラブリー!ハート!!インパクト!!!」
その瞬間、鮮やかなピンク色の光が溢れ出した。
光は大きなハートの形となり、迫りくる球体へ向かっていく。
「お…おお…」
大和が目を丸くした。
「想像してた呪文とは程遠かったでござる…」
武も呆気に取られていた。
ズドドドドド!!
二つの魔法が正面から激突した。
赤黒い球体とピンク色のハートがぶつかり合い、激しい衝撃が周囲へ広がる。
「お願い…耐えるだけでも…」
セイレーヌは必死に魔法を維持していた。
「あんたのくだらない魔法なんかに負ける訳無いでしょ!!」
女性が嘲るように叫ぶ。
セイレーヌは唇を噛みしめた。
「確かに私の魔法はくだらないかもしれない…でもその魔法が今、私達を守ってるの!!」
セイレーヌは顔を上げた。
「今のこの魔法は…ちっともくだらなくなんかない!!!」
その強い想いに応えるかのように、ハート型の魔法が眩しく輝き始めた。
「何よ!?一体!?」
女性の表情に動揺が浮かぶ。
「はああああああああッ!!!!!」
セイレーヌが声を張り上げる。
ハート型の魔法はさらに大きくなり、赤黒い球体を押し返し始めた。
「嘘でしょ…」
女性が信じられないという表情を浮かべる。
「いっけえええええええ!!!!!」
バシュン!!
ハート型の魔法が赤黒い球体を完全に消滅させた。
そして、そのまま凄まじい速さで女性へ向かっていく。
「く、来るな!来るな!!」
女性が悲鳴を上げた。
しかし、ハート型の魔法は彼女を優しく包み込んだ。
「う、うう…ああ…なんだか凄く癒される…」
女性の表情から、先ほどまでの怒りや敵意が消えていく。
セイレーヌは静かに告げた。
「これが私の魔法よ」
「そう…素敵な魔法ね…」
バタッ。
女性は幸せそうな表情を浮かべながら、その場に倒れて眠りについた。
戦いが終わり、菜々美は嬉しそうに飛び跳ねた。
「やった!やった!凄いよセイレーン!」
「プリティラブリーハートインパクト!名前も素敵だし!」
菜々美はすっかり興奮していた。
「菜々美って子供というよりは変わり者でござるな」
武が呟く。
「お前も人のことは言えないと思うけどな」
大和がすかさず返した。
「……」
セイレーヌは三人のやり取りを見つめていた。
すると、菜々美が彼女へ向き直った。
「ねぇ!セイレーン!その…私達の仲間になって欲しいって話なんだけどさぁ…」
菜々美は少し言葉を選びながら続けた。
「もしも嫌なら嫌ってはっきり言ってもらって構わないよ?…だけど良かったら力を貸してくれないかな…?」
セイレーヌは一瞬、迷ったように俯いた。
「あの…私…」
そして、意を決したように顔を上げる。
「ごめんなさい!実は私の名前はセイレー『ン』じゃなくてセイレー『ヌ』なの!」
「誤解されてるのに私…本当のこと言うのが怖くなっちゃって…」
セイレーヌはようやく、ずっと言い出せなかったことを打ち明けた。
「なぬ!?」
武が驚きの声を上げる。
「それでか…」
大和も納得したように呟いた。
しかし、菜々美はあっけらかんと笑った。
「なんだ!そんなの全然問題無いよ!」
「え?」
セイレーヌは驚いて顔を上げた。
「あなたは『ルーズ・セイレーヌ』なんでしょ?」
「私達が探してたのは『る』から始まる人だから別に最後が『ん』じゃなくても全然オッケーだよ!」
「『ん』で終わる人物はこれから探せばいいだけでござるからな!」
武も笑顔で続けた。
セイレーヌが心配していたことは、最初から問題ではなかったのだ。
「だから、ね?お願い!私達と一緒に来て!」
菜々美が手を差し出す。
セイレーヌはその手を見つめた。
自分の名前を正しく伝えても、誰も責めなかった。
間違いを打ち明けても、受け入れてくれた。
「菜々美ちゃん……うん!」
セイレーヌは笑顔で頷いた。
「やった!じゃあよろしくねセイレーヌ!」
「ありがとうみんな、これからよろしく!」
こうして菜々美たちの旅に、新たな仲間が加わった。
魔法使いの少女、ルーズ・セイレーヌ。
四人となった一行の旅は、まだまだ続いていく。
ツヅク




