第11話 最後の仲間!
セイレーヌが新たな仲間に加わり、菜々美たちの一行は四人になった。
次の世界へ向かう前に、四人は変装をしてカフェで食事を取っていた。
魔法が使えないという理由で逮捕されたばかりなのだ。再び見つからないよう、十分に注意する必要があった。
「ばれてないよね?」
菜々美は周囲の様子を気にしながら、小声で尋ねた。
「まあ、大丈夫じゃないか?」
大和が答える。
「うむ、ここのケーキ中々いけるでござるな」
武はそんな心配など気にしていない様子で、目の前のケーキを味わっていた。
「おいしいよね!ここ!」
セイレーヌも嬉しそうに頷く。
その様子を見て、菜々美もようやく少し安心した。
「ふう、お腹も膨れたところだし」
「行こっか!」
「ああ!」
「うむ!」
「別世界かあ、楽しみ!」
セイレーヌの声には期待が滲んでいた。
彼女にとって、別世界への旅はこれが初めてだった。
「じゃあこの辺で…」
菜々美は手を前に出した。
グゥゥン。
空間が歪み、目の前にゲートが開く。
「レッツゴー!」
四人は次々とゲートへ入っていった。
「わあ!ゲートの中ってなんか不思議!」
セイレーヌは周囲を見渡しながら声を上げた。
「平気か?」
大和が尋ねる。
「う~ん、ちょっときついかも…」
初めて経験するゲートの感覚に、セイレーヌは少し戸惑っているようだった。
「それよりもセイレーヌ?」
武が彼女に声をかけた。
「何?」
「本当に良いのでござるか?」
「世界が元に戻ればまた…」
武はそこで言葉を止めた。
世界の歯車が元に戻れば、魔法使いの世界も元の姿に戻るはずだ。
そうなれば、再びセイレーヌだけが魔法を使える存在になるかもしれない。
しかし、セイレーヌは穏やかに頷いた。
「うん、いいの」
「私、魔法が使えないで捕まってる人達を釈放してあげたいの」
「もしまた私が異端扱いされてもそのときは勇気を出してなんとかしてみる!」
その声には、以前のような迷いはなかった。
自分がどうなるか分からなくても、今苦しんでいる人たちを助けたい。
セイレーヌは自分の意志で、この旅に加わることを決めたのだ。
「流石だね!セイレーヌ!」
菜々美が笑顔を向けた。
「あ!そろそろ着くよ!」
進む先に、出口の光が見えてきた。
「よいしょ」
スタッ。
菜々美がゲートから降り立つ。
「ここが別世界…?」
続いて出てきたセイレーヌが、不思議そうに辺りを見回した。
しかし、周囲は真っ暗だった。
明かりらしいものはなく、何があるのかも分からない。
「なあ?なんか聞こえないか?」
大和が耳を澄ませた。
「なんだか歓声のような…」
武も暗闇の向こうに意識を向ける。
確かに、どこか遠くから大勢の人々が叫ぶような声が聞こえていた。
「とりあえず明るくしよっか」
セイレーヌが本を開いた。
「プリティ!明るくな~れ!」
呪文とともに光が生まれ、辺りを照らした。
(最初のやつは言わないと駄目なのかな…)
大和は心の中で呟いた。
「明るくなった!」
菜々美が喜ぶ。
「あそこに扉があるでござるよ!」
武が指さした先には、大きな扉があった。
「ずいぶんとガッチリとした扉だな」
大和がその造りを眺める。
「とりあえず開けてみよう!」
菜々美は扉に手をかけた。
ガッチャン。
扉が開いた瞬間だった。
「ウオオオオオオオオオ!!!!!」
「ヤレー!!ヤレー!!」
凄まじい歓声と熱気が、四人を正面から襲った。
「うわ!?…何!?」
菜々美は思わず身をすくめた。
扉の向こうには巨大な会場が広がっていた。
中央には大きなリングが設置され、それを取り囲むように大勢の観客が詰めかけている。
観客たちは興奮した様子で叫び続けていた。
「これは…プロレスか!?」
大和がリングを見つめる。
そこでは、巨大な男が一人の対戦相手を追い詰めていた。
「ウオオオオ!!」
大柄な男――ジャイアントが雄叫びを上げる。
「おおっと!!ジャイアントがチャレンジャーの頭を掴んでなんと片手で持ち上げた!!」
アナウンサーの声が会場中に響き渡った。
「チャレンジャーは逆さまの状態だ!!」
ジャイアントは相手の頭を掴んだまま、不敵に笑った。
「この後、俺様はどうすると思う?」
「あが…あがが…」
チャレンジャーは苦しそうな声を漏らすことしかできない。
「痛くて声も出ねえか!!じゃあ楽にしてやるよ!!」
ジャイアントが膝を曲げた。
次の瞬間、その巨体が宙へ跳び上がる。
「ジャイアントが飛んだ!!2mを越えた巨体とは思えないジャンプ力だ!!」
「いくぜえええええ!!」
「あれは…パイルドライバーだ!!」
「ただのパイルドライバーじゃねえ!!」
ジャイアントは空中で体を回転させ始めた。
「ジャイアントが回転を加えている!?」
「うらあああ!!」
ドッゴーン!!
激しい衝撃音が響いた。
チャレンジャーの頭がリングに叩きつけられ、その場所から血が流れ始める。
「きゃああ!?」
菜々美が悲鳴を上げた。
「あれは…即死でござるな…」
武が険しい表情で呟く。
「チャレンジャー、ピクリとも動かない!!」
アナウンサーの声が響く。
カンカンカン!!
ゴングが鳴り渡った。
「ジャイアントVSチャレンジャーはまたしてもジャイアントの勝利!!15連勝!!強すぎる!!」
「ウオオオオオオオオオ!!!!!」
「ジャイアント!!ジャイアント!!ジャイアント!!」
観客たちは熱狂していた。
目の前で人が命を落としたというのに、その歓声は一向に収まらない。
「こいつらイカれてやがる…」
大和が低い声で呟いた。
「ただのプロレスでは無いみたいでござるな…」
武もリングを見つめたまま答える。
「何この世界…」
セイレーヌは青ざめていた。
「私達…とんでもない世界に来ちゃった…」
菜々美も言葉を失っていた。
そんな四人をよそに、リング上のジャイアントは観客へ向かって叫んだ。
「さあさあ!!次のチャレンジャーこいやあああ!!」
「さあ、このままジャイアントの連勝は続くのか!!それとも次のチャレンジャーが止めるのか!!」
アナウンサーが興奮した声を張り上げる。
「次のチャレンジャーは突如現れた最強ルーキー!!ここ最近になってから活躍し始めたレスラーですが数々の強敵レスラーをマットに沈めてきたかなりの腕の持ち主!!」
「その名も…!!」
一瞬の間が空いた。
「ヌーベルト・フラン!!!」
「ヌーベルト!?」
大和が反応した。
「フラン!?」
武も驚きの声を上げる。
その瞬間、菜々美の胸が高鳴った。
ドキッ。
「つ…」
菜々美が声を漏らす。
そして、全員の声が重なった。
「繋がった!!!」
「しかも最後の文字は『ん』!!」
セイレーヌが嬉しそうに叫んだ。
「やった!やった!見つけた!最後の仲間!!」
菜々美は興奮していた。
セイレーヌの名前の最後は「ぬ」。
そして今、現れた名前は「ヌーベルト・フラン」。
最初の文字が繋がり、最後の文字は「ん」だった。
探し続けていた最後の仲間が、ついに見つかったのだ。
「ヌーベルト・フランだと!?」
ジャイアントが不機嫌そうに声を上げた。
観客席からも罵声が飛び始める。
「ジャイアント!!あんな奴ぶっ殺せ!!」
「そうだ!!そうだ!!」
「次のチャレンジャーがフランと分かった途端、ブーイングの嵐だ!!」
アナウンサーが実況する。
「……」
リングに姿を現したフランは、騒ぎ立てる観客たちを前にしても、落ち着いた様子だった。
その体格は、ジャイアントと比べればずいぶん小さい。
「ふざけんな!!せっかくの試合が台無しじゃねえか!!金返せ!!」
観客の罵声は止まらなかった。
「はっはっは!!最高の嫌われ者だな!!お前!!」
ジャイアントが嘲笑する。
「まあ、俺は強いからな!」
フランは平然と答えた。
「俺もお前の事が大っ嫌いなんだよ!!ぽっと出のクズの癖してイキってんじゃねえ!!」
「イキってるつもりは無いんだがなあ…」
「そういうところなんだよ!!それに対戦相手を殺さねえスタンスも気に食わねえ!!ここは殺し合いなんだよ!!正義のヒーローのつもりか!!ムシケラ野郎!!」
ジャイアントは怒鳴り続けた。
「今ここでてめぇをぶっ殺して俺様が真のヒーローになってやるよ!!」
「真のヒーロー?お前がやるのか?荷が重いと思うが」
「このガキ!!」
ジャイアントの顔が怒りで歪んだ。
そして、試合開始のゴングが鳴るよりも早く、巨大な拳がフランの顔面へ叩き込まれた。
「ああっと!!ゴングが鳴る前にジャイアントがフランの顔面に強烈なパンチを打ち込んだ!!」
しかし、フランは倒れなかった。
「それが限界かよ…?」
何事もなかったかのように、ジャイアントを見つめている。
「なんと!!これは驚いた!!ジャイアントのパンチをまともに食らって倒れない奴は見たことが無い!!それどころか全く効いてないぞ!!」
「こいつ…!!」
ジャイアントが歯を食いしばった。
「……」
フランは黙って相手を見据える。
やがて二人は互いの手を組み、正面から力をぶつけ合った。
「おおっと!!フランとジャイアントが手を合わせた!!力比べといったところか!!」
「ぐぐぐっ!!!」
ジャイアントが全身に力を込める。
フランの体が少しずつ後ろへ押されていった。
「ジャイアントがフランを押している!!流石のフランもジャイアントのパワーには勝てないのか!!」
「どうした…!!えぇ!?おい!!」
ジャイアントは勝ち誇ったように叫ぶ。
「くそっ…」
フランが苦しそうな声を漏らした。
「フランがとうとうコーナーまで追い込まれた!!」
フランの背中がコーナーへ近づいていく。
「ははっ!!やっぱ大したことねえなあ!!」
「くっ…」
「あっはっはっはっは!!」
ジャイアントは高笑いした。
しかし、フランの口元にも笑みが浮かんでいた。
「くっ…ふっふっふっ…」
「ああん!?何がおかしい!!」
「いや…これで勝った気でいるお前がおかしくてな!!」
「何だと!?」
その瞬間、押し合っていた二人の力関係が逆転した。
「ああっと!!フランがジャイアントを押していく!!」
「はああああ!!!!」
フランが力を込める。
「ううっ!!くそっ!!」
ジャイアントの巨体が、みるみる後ろへ押し戻されていった。
「凄いスピードで押し込まれていく!!ジャイアント、止めることが出来ない!!」
「ぐはっ!!」
「コーナーまで追い込まれていたフランが逆にジャイアントをコーナーまで追い込んだ!!」
「そしてジャイアントに逆さ羽交い締めをかける!!」
フランは巨体をしっかりと捕らえた。
「いくぜいくぜえええええ!!!」
次の瞬間、ジャイアントの体が宙を舞った。
「ああっと!!ダブルアームスープレックスだあ!!あの巨体のジャイアントが投げ技をかけられているなんて信じられない!!」
ジャイアントがリングに叩きつけられる。
しかし、フランの攻撃は止まらなかった。
「まだまだだぜえ!!」
「フラン!!ジャイアントを休ませない!!流れるような速さでチョークスリーパーをかける!!」
フランは背後からジャイアントの首を締め上げた。
「うおおおお!!!」
そのまま、二人の体が勢いよく回転し始める。
「なんと!!チョークスリーパーの状態で回転している!!首絞めのジャイアントスイングだ!!」
ジャイアントの巨体が振り回される。
「うらあ!!」
フランが勢いよく相手を放った。
「ロープに放り投げた!!」
ジャイアントの体がロープへ飛んでいく。
「あ…あ…」
すでにジャイアントには、まともに抵抗する力も残っていなかった。
「きめるぜ!!」
フランが構える。
「跳ね返ったジャイアントに!!」
ロープから戻ってきたジャイアントへ、フランが腕を振り抜いた。
ガッキイィン!!
「フランの決め技!!ラリアットが決まったあ!!」
「がはっ…」
ズドン!!!
ジャイアントの巨体がリングに倒れ込んだ。
カンカンカン!!
試合終了のゴングが鳴る。
「うっしゃあ!!」
フランが拳を突き上げた。
「勝ちました!!チャレンジャーのヌーベルト・フランが15連勝中のジャイアントに勝ちました!!」
しかし、観客席から上がったのは勝者への祝福ではなかった。
「ジャイアントを殺せえ!!殺せ!!殺せ!!殺せ!!」
「ジャイアントを殺せとのコールが収まりません!!」
観客たちは倒れたジャイアントを指さし、さらに声を張り上げる。
だが、フランはそんな声に従おうとはしなかった。
「俺はそんな事しねえよ!!バ~カ!!じゃあな!!気色の悪いクズ共!!」
フランは観客たちへ言い放った。
「なんだと!!ふざけんな!!」
怒号が響く中、フランはリングを後にした。
その一部始終を、菜々美たちは呆然と見つめていた。
「レスラーにしては体が小さなほうにも関わらず驚いたでござる…」
武が感心したように呟く。
「ああ…ありゃいくらなんでもおかしいぜ…」
大和も驚きを隠せなかった。
「凄い方ですね…」
セイレーヌが小さく言った。
菜々美はリングから去っていくフランの姿を見つめた。
「あれが…最後の仲間…」
ようやく見つけた、名前のしりとりを完成させる人物。
しかし、その人物は想像を遥かに超える強さを持つレスラーだった。
ツヅク




