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第12話 力の秘密!

 とうとう、名前が「ん」で終わる最後の仲間を見つけた菜々美たち。

 その人物は、ヌーベルト・フラン。巨大なレスラーを圧倒するほどの力を持ちながら、相手の命を奪うことを拒む男だった。

 あとは彼が仲間になってくれれば、名前のしりとりは完成する。

 しかし、肝心のフランの姿が見当たらなかった。

「あの人…どこ行ったのかなあ…」

 菜々美は辺りを見回した。

「控え室にもいなかったしな…」

 大和も困ったように答える。

「でもまだ近くにいるはずだよ」

 セイレーヌが励ますように言った。

「そうだよね、もう少し探そう!」

 菜々美は気を取り直し、再び歩き始めた。

 そのときだった。

「おい!そこのガキ共!」

 突然、背後から荒々しい声が飛んできた。

「え?」

 菜々美が振り向く。

 そこには、柄の悪そうな男が立っていた。

「こんなところで何やってるのかな?」

 男はにやにやと笑いながら近づいてくる。

「おい…やばいタイプの奴だぜ…こいつ…」

 大和が警戒した様子で呟いた。

「ええっと…ちょっと人を…探してまして…えへへ…」

 菜々美は引きつった笑みを浮かべた。

「そうかあ!人探しか!じゃあ俺も手伝ってやる!」

「え?本当ですか!?」

 菜々美の顔がぱっと明るくなった。

 しかし、男はすぐに手を差し出した。

「ああ!だから…ほら…金…」

「へ?」

「俺も探してやるから…金よこしな」

 男の笑みが消えた。

「お金はちょっと…」

 菜々美が困ったように答える。

「なんだよ!出せねえってんのか?」

 男の声が低くなった。

「おい、絡んでくるんじゃねえ」

 大和が二人の間に割って入った。

「てめえには用ねえんだよ!引っ込んでろ!」

 ドガアッ!!

 男が大和を蹴り飛ばした。

「きゃあ!!」

 セイレーヌが悲鳴を上げる。

「大和!!」

 菜々美も思わず叫んだ。

 しかし、男は倒れた大和には目もくれず、菜々美へ手を伸ばした。

「おめえ中々可愛いじゃねえか!おら!来いよ!」

「やめて!放して!」

 菜々美は必死に抵抗した。

「やめるでござる」

 静かな声が響いた。

 武が男の前に立ち、刀を構えていた。

「ああ?なんだその刀?おもちゃで戦うつもりか?」

 男は武を見下ろして鼻で笑った。

「ガキと遊んでやる時間はねえんだ…」

 そう言うと、懐から銃を取り出した。

「!?武!!危ない!!」

 菜々美が叫ぶ。

 その瞬間だった。

「うらあ!!」

 バキィ!!

 強烈な打撃音が響いた。

 ガッシャーンッ!!

 男の体が勢いよく吹き飛び、かなり離れた場所まで転がっていった。

「うぅ…」

 男は呻き声を漏らした。

 菜々美たちの前には、一人の男が立っていた。

「子供から金を巻き上げようとするなんて…どんなに醜くなっても、ああはなりたくねえなあ…」

 男は倒れた相手を見ながら呟いた。

 そして、菜々美たちへ振り向く。

「大丈夫か?お前達」

 ドキッ。

 菜々美の胸が高鳴った。

「あ!あなたは」

「ヌーベルト・フラン…!」

 大和がその名を口にした。

 探していた人物が、思いがけない形で目の前に現れたのだ。

「お!知ってるか!俺も有名人になっちまったなあ!」

 フランは嬉しそうに笑った。

「ところでここで何してんだ?おこちゃまが来るようなところじゃないだろ」

「あの、私達…」

 菜々美が事情を説明しようとした。

 しかし、フランは突然何かを閃いたように声を上げた。

「ああ!分かったぞ!家出したんだろ!」

「いや、私達は…」

「何も言うな!言わなくても分かる!俺が今日ぐらい泊めてやるから!」

「だから、私達は…」

「おら!ついて来い!」

 フランは菜々美の話を最後まで聞かず、さっさと歩き始めてしまった。

「もう…」

 菜々美は困り果てたようにため息をついた。

「まあそろそろ眠くなってきたし…とりあえず今日はこれで良いじゃないか、会えただけでも」

 大和が言った。

「そうだけど…」

 菜々美はまだ少し納得できない様子だった。

「いい人でござるなあ」

 武が感心したように呟いた。

「だろ?それよりお前って本物の侍?もういないって聞いてたけど?」

 フランは武の姿に興味を示した。

「本物の侍でござるよ!」

「おお!マジのジャパニーズサムライか!!俺一回でいいからこの目で見ておきたかったんだよ!!」

 フランは目を輝かせた。

「なんか盛り上がっちゃったよ…」

 菜々美が呆れたように呟く。

「ふふふ!フランさん面白い!」

 セイレーヌは楽しそうに笑っていた。

 * * *

「ここが俺んちだ!」

 フランに案内された先には、一軒の家があった。

 フランは慣れた様子で扉を開ける。

「ただいま!」

 その声が聞こえた途端、家の中が賑やかになった。

「兄ちゃんが帰ってきた!」

「兄ちゃんおかえり!」

 何人もの子供たちが駆け寄ってきた。

「おう!お前ら!良い子にしてたか?」

 フランは笑顔で子供たちを迎えた。

「うん!ねえねえ!今日も試合勝った?」

「ああ!俺のラリアット決めてやったぜ!」

「兄ちゃん流石!」

 子供たちは嬉しそうにはしゃいでいた。

 そんな中、一人が菜々美たちに気づいた。

「その人達は誰?」

「ああ!紹介する…って名前聞いて無かったな…」

 フランは今さら気づいたように頭をかいた。

「私は相原 菜々美!」

「未来 大和」

「時光 武!」

「ルーズ・セイレーヌです!」

 四人が順番に名乗った。

「今日、家に泊めることにした!仲良くしろよ!」

「は~い!」

 子供たちは元気よく返事をした。

 菜々美はその様子を見ながら、フランに尋ねた。

「弟さん…ですか?」

「いやいや!こいつらは親がいなくてな!俺が面倒見てやってるんだよ!見かけちまうとほっとけなくてよ」

 フランは何でもないことのように答えた。

 しかし、菜々美は驚いていた。

 あれほど荒々しい試合をしていた男が、こうして親のいない子供たちの面倒を見ている。

「優しいんですね」

「まあな!」

 フランは照れる様子もなく笑った。

「よ~し、歯はちゃんと磨いたか?」

「うん!」

「じゃあ、もう夜遅いしお前達は寝なさい」

「は~い、おやすみ!兄ちゃん」

「ああ!おやすみ」

 子供たちはフランに手を振り、それぞれ寝る準備を始めた。

 その姿を見送ってから、菜々美は改めて口を開いた。

「あの、フランさん…ちょっと話がしたいんですけど…」

「俺もそのつもりだ…流石に侍がいるなら聞きたいことは沢山ある」

「そこかよ…」

 大和が思わず呟いた。

「あの…私達はですね…」

 菜々美は、これまでの旅について説明を始めた。

 * * *

「別世界から来たあ!?」

 話を聞き終えたフランが、大きな声を上げた。

「はい」

 菜々美は真剣な表情で頷いた。

「おいおい、世界の歯車だとか色んな世界を巡ってきただとかそんな嘘ついてどうしようってんだよ?俺がどれぐらい馬鹿か試したってか?悪いけどいくら俺でもそんな話は信じねえぞ」

 フランは呆れたように言った。

「嘘じゃないです!本当です!」

 菜々美は必死に訴えた。

「そんなこと言われてもそんなの信じられる訳ねえだろ?こんな事いきなり言われて信じる奴はやべえぞ」

 その言葉を聞いて、大和は少し目を逸らした。

(俺、信じたな…)

 武も黙り込む。

(信じたでござる…)

 セイレーヌは苦笑いを浮かべていた。

(まあ…普通そうだよね…)

「う~ん、どうしたら信じてもらえるのかなあ…」

 菜々美は腕を組んで考え込んだ。

 すると、大和が立ち上がった。

「よし!じゃあこれでどうだ?」

 ポケットからマッチを取り出す。

 そして一本を擦った。

 ボシュ。

 火がついたマッチを、自分の手に近づける。

 そのまま大和の手に炎が燃え移った。

「おいおい!何してんだよ!」

 フランが慌てて声を上げた。

 しかし、大和は平然としていた。

「俺はさっき話した歯車のずれによる影響で火の耐性を持った」

 大和は炎を消すと、フランに手を見せた。

 そこには火傷一つなかった。

「そ、そりゃ手品かなんかだろ?」

 フランはまだ半信半疑だった。

「それなら、これを見てください!」

 今度はセイレーヌが前へ出た。

 本を開き、呪文を唱える。

「プリティ!たこ焼きよ!出ろ!」

 ポワーン。

 柔らかな光とともに、たこ焼きが現れた。

「うわ!たこ焼きだ!しかも旨い!」

 フランは驚きながらも、さっそく味わっていた。

「あんた魔法少女か!?」

「魔法使いって言って欲しいけどなあ…」

 セイレーヌが少し困ったように笑った。

「変なマジシャンに侍に魔法少女…」

 フランは三人を見比べながら呟いた。

「変なは余計だ…それと俺はマジシャンじゃない!」

 大和が反論する。

「まあまあ、落ち着いて」

 菜々美が二人をなだめた。

「ここまで来たら流石に信じるしか…でもやっぱなあ…」

 フランは頭をかきながら考え込んだ。

 その様子を見て、大和が話題を変えた。

「…あんたの試合見てたけどさ」

「どうしてあんな力を持ってるんだ?」

「どうしてって…そりゃ…俺だからだよ!」

 フランは胸を張って答えた。

「なんだよそれ」

 大和は呆れたように返した。

「どうかしたの?大和」

 菜々美が尋ねる。

「いや、どう考えてもあれだけの体格の差で勝つのは無理がある」

 大和は真剣な表情だった。

 ジャイアントとの試合で見た、あの異常なまでの力。

 体格差をものともせず、巨大な相手を軽々と投げ飛ばしていた。

「何言ってんだ?ちゃんと俺の試合見てたのか?俺が勝っただろ」

 フランは不思議そうに答えた。

「ああ、だがあんた鍛えてないだろ?」

「…」

 フランの表情が変わった。

「あんたの家に筋トレ道具は見当たらない、それによく見ると別に筋肉も特別ある訳じゃない」

「そして一番気になったのは最近活躍し始めたってところだ」

 大和はフランの目を見つめた。

「あんた突然強くなったんじゃないか?」

 しばらく沈黙が流れた。

「お前、まさか探偵か?」

 フランが驚いたように尋ねた。

 そして、観念したように口を開く。

「ああ、そうさ 俺はある日、自分の異変に気付いた」

「力がみなぎってくるんだ!異常な程にな」

 フランは自分の手を見つめた。

「家の外に俺の身長ぐらいの岩があったんだが軽くノックするだけで粉々になっちまった」

 その話を聞いて、セイレーヌが反応した。

「それって」

「歯車のずれの影響…」

 菜々美が呟く。

「!?」

 フランが目を見開いた。

「多分そうだろうな」

 大和が頷いた。

 それまで冗談交じりに話していたフランの顔から、笑みが消えた。

「おいおい、待ってくれよ…嘘だろ…」

 フランは信じられないという様子で呟いた。

「ってことはもしも歯車を元に戻したらこの力は無くなるってことか!?」

 声が次第に大きくなっていく。

「冗談じゃねえよ!俺はこの力であいつらに飯を食わしてやってんだ!俺にはこの力が必要なんだよ!」

 フランは思わず立ち上がった。

 その顔には、先ほどまでの陽気さはなかった。

 自分の力が失われるかもしれない。

 それは、フランにとって単に強さを失うという話ではなかった。

 家で待つ子供たちの生活にも関わることだったのだ。

「フランさん…」

 菜々美が心配そうに声をかけた。

「あ…ああ…悪い、熱くなっちまった…」

 フランは我に返ったように声を落とした。

「フランさん!」

 菜々美がもう一度呼びかける。

 しかし、フランは首を横に振った。

「今日はもう休ませてくれ…試合後で疲れてるんだ」

「そこに布団がある…好きに使ってくれ…」

 フランはそれだけ言うと、話を切り上げた。

 残された四人の間に、重い沈黙が流れた。

「追い詰めるつもりは…無かったんだがな…」

 大和が呟いた。

「どんな形であれ、このことは伝えねばならなかったことでござるよ」

 武が静かに答えた。

「とりあえず…今日はもう寝よ?」

 菜々美が二人に声をかけた。

「ああ…」

 大和は小さく頷いた。

 * * *

「はぁ…あいつらの話…もしも本当だとしたら…」

 一人になったフランは、深いため息をついていた。

 菜々美たちの話が頭から離れなかった。

 突然手に入れた強大な力。

 その力のおかげで試合に勝ち、子供たちに食事を与えることができている。

 もしも、その力がなくなってしまったら。

 フランは考え込んでいた。

 そのときだった。

「失礼します」

 突然、声がした。

 顔を上げると、そこには黒いスーツに黒いハットを被った小太りの男が立っていた。

「?誰だあんた?」

 フランが警戒した様子で尋ねる。

「私…モグリ・メグラと申します…」

 男は丁寧な口調で名乗った。

「俺になんか用かい?」

 フランが尋ねる。

 メグラはゆっくりと口を開いた。

「実はですね…世界の歯車のずれによって力を手に入れた方…そう、あなたのような方を探してましてねえ…」

「何!?」

 フランの表情が変わった。

 メグラはその反応を見ながら、話を続ける。

「私達…イレギュラーに力を貸して頂けませんか?」

「!?イレギュラー…だと!?」

 フランは目を見開いた。

 世界の歯車のずれによって得た力を失いたくないフラン。

 そんな彼の前に、世界の修復を妨害する組織の人間が現れたのだった。

ツヅク

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