第13話 味方か敵か!
フランの家に泊まらせてもらうことになった菜々美たち。
しかし、前日の夜、フランは菜々美たちから世界の歯車についての話を聞き、衝撃的な事実を知ってしまった。
世界が元に戻れば、自分の持つ強大な力が失われるかもしれない。
それは、親のいない子供たちを養っているフランにとって、簡単に受け入れられる話ではなかった。
果たして、彼は最後の仲間として力を貸してくれるのだろうか。
「zzz…んん…」
朝の静かな空気の中、菜々美が布団の中で身じろぎした。
「ふあぁ~あ…朝か…」
大きなあくびをして、ゆっくりと体を起こす。
「んんん…あれ?」
ふと部屋を見渡した菜々美は、不思議そうに首を傾げた。
テーブルの周りには、子供たちがじっと座っていた。
昨日のような賑やかさはなく、どこか落ち着かない様子だった。
「フランさんはまだ起きてないの?」
「あ、お姉さん」
子供の一人が顔を上げた。
「それが…」
何かを言いかけた子供が、一枚の手紙を差し出した。
「ん?これは…」
菜々美は手紙を受け取った。
「朝起きたらこれがテーブルの上に…」
菜々美は紙に書かれた文字へ目を落とした。
「少しの間だけ留守にする…菜々美達は10時に時計塔のあるところに来い…」
読み終えると、菜々美は眉をひそめた。
「フランさん…一体…」
昨日の夜、フランが見せた苦しそうな表情が頭をよぎった。
どうして何も言わずに出かけたのだろう。
そして、なぜ自分たちを時計塔へ呼び出したのだろう。
「ねぇ…お姉さん…」
考え込んでいた菜々美に、子供が遠慮がちに声をかけた。
「ん?どうしたの?」
「料理作れる?」
菜々美は少し驚いたあと、笑顔で答えた。
「まあ、簡単な物なら」
「本当!」
子供の表情がぱっと明るくなった。
「うん!今から作ってあげるからね!」
「やった!」
子供たちの元気な声が部屋に響いた。
菜々美は手紙のことを気にかけながらも、まずは子供たちの食事を用意することにした。
* * *
約束の時間が近づき、菜々美たちは時計塔のある場所へ向かっていた。
辺りには人の気配が少なく、どこか重苦しい空気が漂っていた。
「何故、俺達をこんなところに…」
大和が周囲を警戒しながら呟いた。
「あまり良い雰囲気の場所では無いでござるな…」
武も落ち着かない様子だった。
「昨日のことかな…やっぱり…」
セイレーヌが不安そうに口を開く。
世界の歯車を元に戻せば、フランの力が消えてしまうかもしれない。
その話が彼を苦しめていることは、四人とも分かっていた。
「大丈夫だよ!フランさん凄く優しい人だったじゃん!」
菜々美が明るく言った。
「そうでござるな!」
武も頷く。
「うん!凄く面白かったし!」
セイレーヌも笑顔を見せた。
「ああ…そうだな」
大和は小さく答えた。
そのとき、菜々美が前方に人影を見つけた。
「あ!フランさん…え…?」
思わず足が止まる。
「よっ!どうだ?昨日は眠れたか?」
フランはいつもと変わらない調子で手を上げた。
しかし、その姿は昨日までとはまるで違っていた。
「なんで…?」
大和が目を見開いた。
「その格好…」
武も驚きを隠せない。
「もしかして…」
セイレーヌの顔が強張った。
フランが身につけていたのは、黒いコートと黒い制帽。
その姿は、これまで何度も菜々美たちの前に現れたミストとそっくりだった。
「俺、イレギュラーに入ることになったから!よろしくちゃん!」
フランはあっさりと言い放った。
「どうして…」
菜々美は呆然と呟いた。
そのとき、フランのそばから別の声が聞こえた。
「ひっひっひ…これはこれは…皆さんどうも…イレギュラーのボス…モグリ・メグラと申します…」
そこにいたのは、黒いスーツと黒いハットを身につけた、小太りの男だった。
「イレギュラーの…ボスだと…!?」
大和が険しい表情を浮かべた。
「仲間が集まりそうだからボス直々にってことでござるか…」
武が呟く。
「ええ…そういうことですねえ…ミストはあまり使い物にはなりませんでしたからねえ」
メグラは薄気味悪い笑みを浮かべた。
セイレーヌはフランへ向き直った。
「フランさん…イレギュラーが一体どういう組織か分かってますか!?」
「ああ…話は聞いたからな…」
フランは静かに答えた。
「イレギュラーは訳ありの奴らで作った組織…」
「俺みてえに力を必要としてる奴の集まり…だろ?」
「ええ…そうです…」
メグラが頷いた。
「嘘だ!」
菜々美が声を上げた。
「フランさんを仲間にして私達の邪魔をするために騙したんだ!」
「フランさん!その人の言うことを聞いちゃ駄目!」
菜々美は必死だった。
昨日、子供たちに笑顔を向けていたフランの姿を思い出す。
あんなに優しい人が、自分たちの敵になるなんて信じたくなかった。
「悪いな…菜々美ちゃん…確かにこのモグラが言ってることは正直、信用できねえ」
「モグリ・メグラです!」
メグラがすかさず訂正した。
「ああ、そうか!悪い!間違えた!」
フランは軽く謝った。
「フランさん…じゃあどうして…」
菜々美が問いかける。
フランの表情から、先ほどまでの軽さが消えた。
「やっぱりなあ…この力はどうしても必要なんだ…お前達には悪いけど…俺はあいつらに飯食わせて立派な大人になるまで育てなきゃなんねえ…これはな、あいつらを引き取った俺の大事な責任なんだよ…それは捨てちゃいけねえもんなんだ…」
その言葉には、揺るぎない決意があった。
フランにとって、子供たちを守ることは何よりも大切だった。
たとえそのために、昨日出会ったばかりの菜々美たちと敵対することになったとしても。
「フランさん…」
菜々美は悲しそうに名前を呼んだ。
「悪い…痛めつけることはしねえ…捕まえるだけだ…」
フランが小さく息を吐いた。
次の瞬間だった。
シュン……。
その姿が突然消えた。
「!?速い!!」
武が驚きの声を上げる。
「きゃあ!」
セイレーヌの悲鳴が響いた。
「セイレーヌ!!」
菜々美が振り向く。
セイレーヌの体には、大きな錠がかけられていた。
手足の自由を奪われ、身動きが取れなくなっている。
「これで魔法は使えないよな?」
フランがセイレーヌのそばに立っていた。
あまりにも速い動きに、誰も反応できなかったのだ。
「フラン…本当に敵になったと言うのであれば致し方ないでござる…」
武が静かに言った。
そして、刀を抜く。
「そちらは僕達を傷つけるつもりが無くともこちらは全力で行かせてもらうでござるよ!」
「ああ…いいぜ…来いよ!ジャパニーズサムライ!!」
フランが構えた。
「待って!武!!」
菜々美が叫んだ。
しかし、武はすでに動き出していた。
「はああああ!!」
鋭い斬撃がフランへ迫る。
「はあ!はあ!はあ!」
武は次々と刀を振るった。
だが、フランはその攻撃を滑らかな動きでかわしていく。
「どうした?侍ってのはこんなもんか?」
フランが挑発する。
「はあ!!」
武が最後の一振りを放った。
フランは身を引き、刃をかわした――かに見えた。
「へ!うっ…」
フランの表情が変わる。
かわしたはずの武器が伸び、体をかすめていたのだ。
「おいおい…卑怯じゃねえか…それ伸びんのかよ…」
「これは刀ではなく薙刀でござる」
武は落ち着いた様子で答えた。
その武器は、かつての戦いでも活躍した伸縮自在の薙刀だった。
「流石に厳しいな…」
フランが呟く。
シュン……。
再び、その姿が消えた。
「しまった!?見逃した!!」
武が慌てて周囲を見回す。
ガチャン!
「な!?」
次の瞬間、武の体にも大きな錠がかけられていた。
セイレーヌと同じように、身動きが取れなくなる。
「武!!」
菜々美が叫んだ。
「こりゃまずいな…」
大和が険しい顔で呟いた。
「ひっひっひ…流石ですねえ!…フラン…傷のほうは…?」
メグラが満足そうに笑った。
「なあに、かすっただけよ」
フランは平然と答えた。
「そんじゃ…」
シュン……。
またしても姿が消える。
ガッチャーン!
「菜々美!!」
大和の叫びが響いた。
菜々美の体にも、大きな錠がかけられていた。
「大人しくしといてくれよ」
フランが言った。
「ごめん…大和…」
菜々美は悔しそうに俯いた。
これで、自由に動けるのは大和だけになってしまった。
「お前で最後だな…」
フランが大和を見据える。
「フラン…」
大和も相手から目を離さなかった。
シュン……。
フランの姿が消えた。
「!?」
大和の目が見開かれる。
しかし、次の瞬間。
バッキイ!!
「うぐっ…!?」
鈍い音とともに、フランの顔面へ拳が叩き込まれた。
ドサッ……。
フランが地面に倒れ込む。
「何!?」
メグラが驚きの声を上げた。
「まじかよ…お前」
フランは殴られた顔を押さえながら、大和を見上げた。
「大和!!」
武が叫ぶ。
「凄い!!」
セイレーヌの顔が明るくなった。
「やるじゃん!大和!」
菜々美も嬉しそうに声を上げた。
大和は拳を握ったまま、フランを見据えていた。
「俺のパンチはどうだ?フラン」
最後の仲間になるはずだった男との戦いは、まだ始まったばかりだった。
ツヅク




