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第14話 新たなるイレギュラー!

 子供たちを養うため、どうしても自分の力を失うわけにはいかないフランは、イレギュラーに加わってしまった。

 最後の仲間になるはずだった男が、思わぬ敵として菜々美たちの前に立ちはだかる。

 セイレーヌ、武、そして菜々美は、すでにフランによって捕らえられていた。

 自由に動けるのは大和ただ一人。

 しかし、大和はフランの素早い動きを捉え、その顔面に拳を叩き込んでいた。

「へへ、結構痛えじゃねえか…」

 フランは殴られた顔を押さえながら笑った。

 次の瞬間、その姿が視界から消える。

 シュン……。

「はあ!」

 大和は迫りくる気配を捉え、拳を突き出した。

 だが――。

「な!?」

 拳は空を切った。

「外したな!」

 いつの間にか、フランは大和の背後に回り込んでいた。

「うおお!!」

 大和は咄嗟に体をひねり、裏拳を放った。

「があっ!」

 拳がフランの顔に命中する。

「当たった!」

 武が声を上げた。

「いってえ!鼻が折れるぞ!」

 フランが顔をしかめる。

「今だ!」

 大和はその隙を逃さず、掴みかかろうとした。

「食らうかよ!」

 ガシッ!

 二人の手がぶつかり、そのまま互いの腕を掴み合った。

 フランの腕には、あの巨大なジャイアントを投げ飛ばした力が宿っている。

「やめとけよ、俺と力比べして勝てると思うか?」

 フランが余裕のある声で言った。

 しかし、大和は力を込めながら、静かに口を開いた。

「なあ、フラン…」

「なんだよ」

「考え直してくれないか?」

「こんなときに…一体何言い出すんだよ」

 フランは呆れたように眉をひそめた。

「頼む…俺さ…菜々美の世界を元に戻したいんだよ」

 大和は真剣だった。

 ただ目の前の敵を倒すためではない。

 菜々美が帰るべき世界を取り戻すために、ここまで旅を続けてきたのだ。

「お前どうしてそこまで…は!?」

 フランは何かに気づいたように目を見開いた。

「はは~ん、そうか!そういうことか…!」

 その顔に、からかうような笑みが浮かぶ。

「な…なんだよ!」

 大和は思わず動揺した。

「悪いな、お前の邪魔をするつもりは無いんだが、さっきも言った通りこの力を手放すわけにはいかねえんだ」

 フランの表情が再び真剣なものになる。

「分かってる…分かってるけど…」

 大和は言葉を詰まらせた。

 フランが子供たちのために戦っていることは知っている。

 それでも、諦めるわけにはいかなかった。

「お願いだ、考え直してくれ!」

「しつこいな…何度言えば分かるんだ」

 フランが低い声で答えた。

「俺はこの世界のことは良く知らない…だからどれだけあんたが大変な思いをしているかなんてさっぱり分からない」

「……」

 フランは黙って大和を見つめた。

「それに俺はあんたの力になることも出来ない…しつこいと言われても今の俺に出来ることはこれしかないんだ…」

 大和は目を逸らさなかった。

「お願いします…俺達に力を貸してください」

 力比べを続けたまま、大和は頭を下げるようにして頼んだ。

「お前…」

 フランの表情が揺らいだ。

 そのとき、少し離れた場所から苛立った声が響いた。

「どうしたんですか?フラン…あなたならそんなガキ簡単に投げられるでしょう?」

 メグラだった。

「うるせえよ、黙ってな」

 フランは振り向きもせずに言い返した。

 そして、改めて大和を見つめる。

「お前がそこまで言うなんてな…生意気なガキだと思ってたよ」

 フランは小さく笑った。

「分かったよ、もしもこの勝負、俺に勝てたらお前達の仲間になってやる」

「本当か…!?」

 大和の表情が明るくなった。

「勝てたら…な!」

 フランの腕に力がこもる。

 掴んでいた大和の手を離さず、そのまま勢いよく回転し始めた。

「痛めつけるつもりは無かったが…話が変わった…下手すりゃお前死ぬぞ?」

 フランの声は真剣だった。

 それでも、大和は怯まなかった。

「俺は負けねえよ…」

「たいしたもんだ!」

 フランは回転の勢いを利用し、大和を上空へ放り投げた。

 大和の体が宙を舞う。

 そのまま逆さまになって落下してくる大和を、フランが背中から掴んだ。

「パワーボム!!」

 武の顔が青ざめた。

「あんなものまともに食らったら死んでしまうでござる!!」

「大和!!」

 菜々美が悲鳴のような声を上げる。

「フランさん…」

 セイレーヌも不安そうに見つめていた。

「ひっひっひ…ミストとは大違いだ…」

 メグラは愉快そうに笑っている。

 フランは大和の体を抱えたまま、地面へ叩きつけようとした。

「下はコンクリート!!耐えきれるか!?大和!!」

「ちくしょう!!」

 ドゴォン!!

 凄まじい衝撃音が響いた。

 パワーボムが完璧に決まり、大和の体がコンクリートへ叩きつけられた。

 舞い上がった砂埃が、ゆっくりと落ちていく。

「……」

 フランは倒れた大和を見下ろしていた。

 そのとき。

「いってえ…なあ…」

 地面から、かすれた声が聞こえた。

「耐えたか…」

 フランが呟く。

「ああ…おかげさまでな…」

 大和は苦しそうに答えた。

 そして、フランを見上げる。

「何?」

「手…抜いたよな?」

 フランの表情がわずかに変わった。

「充分痛えけどよ…」

 大和は痛みに顔をしかめながらも、笑みを浮かべた。

「あんたやっぱり、悪者は似合わねえよ」

「…はは、そうかもな…」

 フランは小さく笑った。

「やっぱなりきれねぇよ」

 その声には、どこか吹っ切れたような響きがあった。

 大和はゆっくりと立ち上がった。

「いくぞ…」

「ああ、来い…思いっきりな」

 フランは逃げようとしなかった。

 大和が拳を握りしめる。

「はああああ!!」

 バッキイイイ!!

 渾身の一撃が、フランの顔面を捉えた。

「がはっ…」

 ドサッ……。

 フランの体が地面に倒れ込む。

「はぁ…はぁ…俺の…勝ちだな…?」

 大和は荒い息をつきながら尋ねた。

「ああ…いいパンチだったよ…」

 フランは倒れたまま、笑って答えた。

「やったあ!!」

 菜々美が歓声を上げた。

 その様子を見ていたメグラは、不愉快そうに顔を歪めた。

「くっ…ここは一度退きますか…」

 そう呟くと、メグラの姿が消えた。

 ガチャガチャ……。

 フランは起き上がると、菜々美たちにかけていた錠を順番に外していった。

「悪かったな…お前達…」

 フランは申し訳なさそうに言った。

「いえ…フランさんは悪くないですよ」

 菜々美が優しく答えた。

「やるでござるな大和!」

 武が感心したように声をかける。

「ああ!まあな」

 大和は少し得意げに笑った。

「大和君とフランさんの怪我を治しますね!」

 セイレーヌが二人に近づいた。

「お!流石は魔法少女!助かるね!」

 フランが嬉しそうに答える。

「ったく、手を抜くならもう少し力を弱めろよな…本当に死ぬところだったぞ」

 大和がフランを睨んだ。

「なんだよ、生きてるんだから文句言うなよな」

「意外と難しいんだぞ?あの技で手抜くの」

「だったらやるなよ…」

「つい…な?あはは」

「笑うな!」

 大和の抗議にも、フランは笑うばかりだった。

「ふふふ!」

 そのやり取りを見て、菜々美も笑い出した。

「菜々美まで…」

 大和が困ったように言う。

「ごめんごめん」

 菜々美は笑いを収めると、改めてフランへ向き直った。

「ところで…フランさん、本当に良いんですか?」

「フランさんの言う通り、力が無くなっちゃうかもしれないんですよ?」

 それは、どうしても確認しておかなければならないことだった。

 フランにとって、あの力は子供たちの生活を支えるものだったのだから。

「ああ!構わねえよ」

 フランは迷わず答えた。

「こんな努力も何もしてねえで手に入れた力で金を稼いでるなんてあいつらに言えねえしさ!」

「ここは物騒な世界だけど何とか頑張ってみせるよ」

 フランは力強く笑った。

 その表情には、もう迷いは見えなかった。

「フランさん…ありがとうございます!」

 菜々美は嬉しそうに頭を下げた。

「とりあえず一回家に帰るか!あいつらに心配させちまってるしさ」

「はい!」

 菜々美が頷いた。

 大和はそんな仲間たちを見ながら、静かに呟いた。

「これで…終わりなんだな…」

 名前のしりとりは、ついに完成した。

 あとは世界の歯車を元に戻すだけだ。

「ねぇ?大和?」

 菜々美が声をかけた。

「なんだ?」

「さっきフランさんと戦ってるときなんか話してたよね?」

「何話してたの?」

 大和の肩がぴくりと動いた。

「へ?え?いや、そんな!別にたいした話じゃねえよ!」

「ん?なんか変だよ?」

 菜々美が不思議そうに顔を覗き込む。

「いやあ、いつも通りだよ!」

「そうかなあ?」

 菜々美は首を傾げた。

 そのときだった。

 ドキンッ。

(!?)

 突然、胸が大きく高鳴った。

 菜々美は思わず目を見開く。

「どうした?驚いた顔して」

 今度は大和が尋ねてきた。

「へ?え?いや、そんな!別にたいしたことじゃないよ!」

 菜々美は慌てて答えた。

「なんか変だぞ?」

「いやあ、いつも通りだよ!」

「そうかあ?」

 大和は不思議そうに首を傾げた。

 菜々美はそんな大和を見つめながら、胸に手を当てた。

(なんだろう…大和といると凄いドキドキする…大和と初めて会ったときと皆と会ったときのドキッて感じもなんか違ったし…もしかして私…大和のこと…)

 その考えの続きを、菜々美はまだ言葉にできなかった。

 * * *

「ただいま!!」

 フランが家の扉を開けた。

「兄ちゃん!!おかえり!!」

 子供たちが一斉に駆け寄ってくる。

「お前達!心配かけたな!」

 フランは子供たちに笑顔を向けた。

「今から飯作ってやる!それと、また少しの間、留守にするが待ってられるか?」

「うん!」

 子供たちは元気よく頷いた。

「よし!良い子だ!」

 フランは満足そうに笑った。

 * * *

「じゃあそろそろ」

 フランが仲間たちへ声をかけた。

「そうですね」

 菜々美が頷く。

「ところでこのあとはどうするでござるか?」

 武が尋ねた。

「私も分からないんだけど…」

 菜々美は少し考えた。

「とりあえず人目のつかないところに行ってゲートを開いてみよ!」

 こうして五人は、世界の歯車を元に戻すため、ゲートを開く場所へ向かった。

 * * *

 人目につかない場所まで来ると、菜々美は仲間たちを見渡した。

 相原菜々美、未来大和、時光武、ルーズ・セイレーヌ、ヌーベルト・フラン。

 ついに、名前がしりとりで繋がる五人が揃ったのだ。

「きっとこれが終わったらお別れなんだよね」

 菜々美が寂しそうに呟いた。

「そうだな」

 大和が静かに答える。

「皆のことは忘れないでござるよ」

 武は仲間たちの顔を順番に見つめた。

「少しの間だったけど私、凄く楽しかった!」

 セイレーヌが笑顔で言った。

「お前らのおかげでいい方向に考えが変わったよ、色々とありがとな!」

 フランも穏やかに笑った。

 世界を巡る旅の中で出会った仲間たち。

 もうすぐ、その旅が終わろうとしていた。

「じゃあゲートを開くよ…」

 菜々美が手を前に出した。

 その瞬間だった。

 バァン!!

 乾いた破裂音が響いた。

「え?何?今の音…?」

 菜々美は驚いて顔を上げた。

 すぐそばで、何かが崩れ落ちる音がした。

 ドサッ……。

 大和が倒れていた。

「大和…?」

 菜々美は呆然とその姿を見つめた。

 何が起こったのか、理解できなかった。

 そのとき、離れた場所から聞き覚えのある声が響いた。

「馬鹿!隣の女を狙えと言ったろ!下手くそが!!」

 メグラだった。

「すいません、次はちゃんと…」

 別の男の声が答える。

「まあ、いいですよ…これで世界の歯車を元に戻せませんからねえ…」

 メグラは不気味に笑った。

 菜々美はゆっくりと、大和へ視線を戻した。

「大和…嘘でしょ…ねぇ!?大和!!」

 必死に呼びかける。

 しかし、大和は倒れたままだった。

「あいつら!!」

 フランが怒りの声を上げた。

「残りの奴らもやっちゃいなさい!」

 メグラが命令する。

 銃を持った男たちが、菜々美たちへ攻撃を仕掛けた。

「プリティ!魔法の盾よ!皆を守って!!」

 セイレーヌが急いで魔法を唱えた。

 目の前に魔法の盾が現れる。

 カキン! カキン!

 飛んできた弾丸が盾に弾かれた。

「大和!!しっかりして!!大和!!」

 菜々美は大和のそばにしゃがみ込み、何度も呼びかけた。

「…」

 大和から返事はなかった。

「菜々美!!早くゲートに入るでござるよ!!」

 武が叫んだ。

「でも…でも!!」

 菜々美は動けなかった。

 大和を置いていくことなど、できるはずがなかった。

「武!菜々美を頼む!俺は大和を!」

 フランが声を上げた。

「分かったでござる!」

 武がすぐに答える。

 フランは倒れた大和を抱え上げ、武は菜々美を連れてゲートへ向かった。

「みんな早く!!盾がもう!!」

 セイレーヌが必死に叫ぶ。

 魔法の盾に亀裂が走り始めていた。

 パキ……。

 パキパキ……。

 パァン!!

 盾が砕け散った。

「よし!盾が割れましたよ!」

 メグラが声を上げた。

 しかし、その先にはもう誰もいなかった。

「っと~おやおや…逃げられましたか…」

 メグラは周囲を見回した。

「まあ、これでひとまず良しとしますかね…ひっひっひっ…」

 シュウウ……。

 不気味な笑い声を残し、メグラの姿が消えていった。

 世界を救うために集まった五人。

 その旅が終わろうとした瞬間、思いもよらない悲劇が彼らを襲ったのだった。

ツヅク

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