第8話 女の子の憧れ!
武が時光家を受け継いだことで、菜々美たちの旅に二人目の仲間が加わった。
新たな名前は、時光武。
菜々美から大和へ、大和から武へ。名前のしりとりは、順調に繋がっていた。
「それじゃあ、準備はいい?」
「ああ」
「OKでござる」
菜々美が二人の顔を見渡すと、大和と武はそれぞれ頷いた。
「次の世界へ、レッツゴー!」
菜々美が開いたゲートへ、三人は足を踏み入れた。
辺りは真っ暗で、どこまでも続く闇の中を進んでいるようだった。
「おお!凄いでござるな!ゲートの中はこんな感じでござるか!」
初めてのゲートに、武は興味津々だった。
「真っ暗で何も見えないだろ」
大和が呆れたように答える。
「武ってやっぱ変わってるね!」
菜々美も笑いながら言った。
「そろそろ抜けるよ!」
進む先に、一筋の光が見えてきた。
「あそこの光を抜ければ別世界でござるな!」
武が声を弾ませる。
シュウン。
三人は光の中へ飛び込んだ。
「到着…ってあれ?」
ゲートを抜けた菜々美は、目の前の景色に首を傾げた。
そこには地面も建物もなかった。
見渡す限りの青空が広がっていたのだ。
そして、三人の体は真っ逆さまに落下し始めた。
「うわあああ~!!!」
「なんでこんな所に到着したんだあッ!!!」
「そんなこと言われたって私が決めた訳じゃないもん!!!」
菜々美と大和が悲鳴を上げる。
「別世界について早々、大ピンチでござるよ!!!」
武もさすがに慌てていた。
風が耳元で唸り、地上がどんどん近づいてくる。
「もう駄目だ~!!!」
菜々美が目をぎゅっと閉じた、そのときだった。
テュルルルル~♪
軽やかな音が響いた。
「うわわ!と、止まった!」
落下していた三人の体が、突然空中で静止した。
「な、なんだ!」
「これは、一体…?」
大和と武が周囲を見回す。
「大丈夫?」
頭上から女の子の声がした。
「え?ええ!?」
菜々美が顔を上げる。
そこにいたのは、ほうきにまたがって空を飛ぶ一人の少女だった。
「まさか!?」
「魔法使い…!?」
大和が驚きの声を上げた。
「いきなり空から落ちてきたもんだからびっくりしたよ~」
「でも良かった~間に合って!」
少女はほっとしたように笑った。
「僕達が今、浮いているのは魔法…!?」
武は自分の体を見下ろした。
三人とも、何もない空中に浮かんでいる。
「ねえ?どうして空から落ちてきたの?もしかしてほうきから落ちたとか?」
「えっと~その~」
菜々美は返答に困った。
別世界からゲートを通ってきたと説明しても、すぐに信じてもらえるか分からない。
「ひとまず地上に下ろしてくれると嬉しいな」
大和が口を挟んだ。
「ああ!そうだよね!ごめんなさい!」
少女は慌てて頷いた。
* * *
「ふぅ~、どうなることかと思ったよ」
無事に地上へ降りた菜々美は、大きく息を吐いた。
「ああ、だがこの世界…」
大和が辺りを見回す。
「うむ、周りを見るに…」
武も何かに気づいたようだった。
街には、ほうきに乗って空を飛ぶ人々の姿があった。
あちらこちらから不思議な光が溢れ、魔法の呪文らしき声も聞こえてくる。
「チチンプイプイ! テクマクマヤコン!」
そして菜々美は、目を輝かせて叫んだ。
「魔法使いの世界!」
「?」
三人を助けた少女は、そんな菜々美を不思議そうに見つめた。
「あ!どうもありがとうございます!魔法使いさん!」
菜々美が改めてお礼を言う。
すると、少女は少し考え込むような表情になった。
「ねえ、もしかしてだけどさあ」
「あなた達って魔法使えないの?」
「?使えないけど…」
菜々美は何気なく答えた。
「珍しいのか?」
大和も尋ねる。
「え!?いや…まあ珍しいってのは間違いじゃないけど…」
少女は急に落ち着かない様子になった。
菜々美はその変化に気づかず、話を続けようとする。
「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
「ごめんなさい!もう関わらないで!このこと内緒にしてあげるから!」
少女は慌てて言い残すと、その場から去ってしまった。
「え?ちょ、ちょっと!?」
菜々美が呼び止めようとしても、少女は振り返らなかった。
「何かあるでござるな」
武が呟いた。
「ああ、もしかしたら下手に目立つとヤバいことになるかもしれないな」
大和も警戒した様子で周囲を見回した。
そのとき、近くを歩いていた人々のひそひそ話が聞こえてきた。
「ちょっと見てあれ、侍がいるよ!」
「あの子かっこよくない?」
(何故だろう、視線を凄く感じるでござる…)
武は周囲から向けられる視線に、少し居心地の悪さを覚えていた。
一方、菜々美は魔法使いの少女が去ってしまったことを残念がっていた。
「そんな~魔法使いと言ったら女の子の憧れなのに~」
「私にも魔法教えてほしかったな…」
そんな菜々美を見て、武が大和に小声で囁いた。
「菜々美って意外と子供でござるな」
「意外?そうか?背も低いしイメージ通りじゃないか?」
「聞こえてるんだけど」
菜々美がじろりと二人を睨んだ。
その直後だった。
ドキッ。
突然、胸が高鳴った。
「は!今ドキッとした!」
菜々美は驚いて声を上げた。
「それって確か仲間を見つけた時のアレでござるな?」
武が尋ねる。
菜々美は周囲を見回した。
すると、少し離れた場所に、一人の少女が歩いているのが見えた。
「…」
少女は本を胸に抱え、俯きながら歩いていた。
どこか内気で、控えめな雰囲気をまとっている。
「あ!あの子だよきっと!」
菜々美が少女を指さした。
しかし、その瞬間だった。
「きゃッ!!!」
ドンッ。
少女が前を歩いていた人物にぶつかってしまった。
「あ、ぶつかった」
大和が呟く。
「ああいうタイプの子がキツそうな人とぶつかるのはやっぱり定番でござるな」
「お、おう」
武の言葉に、大和は少し戸惑いながら相槌を打った。
少女がぶつかった相手は、いかにも気の強そうな女性だった。
「ちょっと!!どこ見て歩いてんのよ!!」
「ご、ごめんなさい!」
少女は慌てて頭を下げた。
「ふん、くだらない魔法しか使えない無能さんは前を向いて歩くことも出来ないのかしら?ったく」
女性は吐き捨てるように言うと、そのまま立ち去っていった。
「……」
少女は俯いたまま、その場に立ち尽くしていた。
菜々美はすぐに駆け寄った。
「大丈夫?」
「へ?あ、は、はい!だ、大丈夫です!!」
少女は驚いたように顔を上げた。
「ひどいよね、ああいうのさ!」
「……」
少女は何も答えなかった。
菜々美は少し身をかがめて、その顔を覗き込んだ。
「ねえ?あなたにちょっと用があるんだけど…いいかな?」
「え?」
少女は困惑した表情を浮かべた。
* * *
菜々美たちは少女を誘い、近くのカフェへ入った。
「突然でごめんね!」
「いえ…」
少女は小さな声で答えた。
膝の上に本を抱え、どこか落ち着かない様子だった。
「私は相原 菜々美!」
「未来 大和だ」
「時光 武でござる!」
三人が順番に名乗る。
少女も遠慮がちに口を開いた。
「あ、私は…ルーズ・セイレーヌ…」
「何!?セイレーンでござるか!?」
武が驚きの声を上げた。
「え?あ、いや、えっと…」
少女――セイレーヌは、慌てて訂正しようとした。
しかし、三人の勢いに圧倒されてしまう。
(何なのこの人達…もう、早く帰りたいよ…どうせこれから関わることも無さそうだし、この際セイレーンでもなんでもいいや!)
「う、うん…」
セイレーヌは小さく頷いた。
「な!?」
大和が驚いた。
「み、み…」
武も何かを言いかける。
そして菜々美が勢いよく叫んだ。
「見つけた!!!」
「ええ!?」
突然の大声に、セイレーヌはびくりと肩を震わせた。
(何何!?私、もしかして今ヤバいことになってる!?)
(どうしよう…今から訂正しようかな…でも…)
セイレーヌの頭の中は混乱していた。
しかし、菜々美は嬉しそうに身を乗り出す。
「ねえねえ!信じられないかも知れないけど私の話聞いてくれる?」
「え!う、うん…」
セイレーヌは戸惑いながら頷いた。
菜々美はこれまでの事情を説明した。
自分たちが別世界から来たこと。世界の歯車がずれたことで、元の世界が滅亡してしまったこと。
そして、世界を救うために、名前をしりとりのように繋いで仲間を集めていること。
「だからお願い!力を貸して!」
菜々美は真剣な表情で頼んだ。
しかし、セイレーヌの心の中は大混乱だった。
(やばいやばいやばい…何だか良く分からないけど私、ものすごい重大な役と勘違いされちゃってるよ…どうしよう…言いづらい…)
(でも言わなきゃ…私はセイレーンじゃなくてセイレーヌだってこと…)
「あ…あの…私…」
セイレーヌは勇気を振り絞って口を開いた。
「どうかしたのか?」
大和が尋ねる。
「そ…その…」
「えっと…」
言葉がうまく出てこない。
「はっきり言わないと伝わらないでござるよ」
武がそう言った瞬間、セイレーヌはますます萎縮してしまった。
「ご…ごめんなさい!」
セイレーヌは突然立ち上がると、そのままカフェを飛び出してしまった。
「あ!待って!」
菜々美が慌てて声をかける。
しかし、セイレーヌは戻ってこなかった。
「行っちまったな…」
大和が呟いた。
「もしや…僕のせいでござるか…?」
武は少し申し訳なさそうにしていた。
「分からない、とりあえず追いかけよう!」
菜々美は急いで席を立った。
その拍子に、テーブルの上のカップに手が当たってしまう。
ガシャン!
カップが床に落ち、割れてしまった。
「あちゃー、やっちゃった!」
菜々美が慌てて破片を見つめる。
すると、店員が駆け寄ってきた。
「お怪我はありませんか?」
「はい、ごめんなさい」
「いえいえ、魔法でどうにでもなりますから」
「そうか!」
菜々美はほっとした。
ここは魔法使いの世界なのだ。割れたカップも魔法で直せるらしい。
店員が呪文を唱えようとした、そのときだった。
「ちょっと待ちなさい!」
鋭い声が響いた。
「あ!」
菜々美が振り返る。
そこにいたのは、先ほどセイレーヌにぶつかられた女性だった。
「さっきセイレーンがぶつかった…」
武も女性に気づいた。
「そのカップ…あなたが直したら?」
女性は菜々美を見下ろすように言った。
「え?いや、でも…」
「何か?」
有無を言わせない口調だった。
菜々美は困ったように答える。
「私達、魔法使えないから…」
「!?」
店員の表情が一変した。
「?」
菜々美はその反応の意味が分からず、首を傾げた。
すると、女性がにやりと笑った。
「へぇ~魔法が使えないのね~?」
「何か…まずいことを言ってしまったようでござるな…」
武が不安そうに呟いた。
女性はすぐさま声を張り上げた。
「捕らえて!」
「はい!」
その命令に応じて、警察が動き出した。
「ちょ…ちょっと!え!?」
「どういうことだ!?」
菜々美と大和が慌てる。
女性はそんな三人を見て、高笑いした。
「あはははは!自分から魔法を使えないって告白しちゃうなんてまぬけにも程があるでしょ!」
「まさか…」
菜々美の顔が青ざめる。
「この世界…」
大和もようやく状況を理解し始めた。
「魔法が使えない者は逮捕されてしまうのでござるか…!?」
武が驚きの声を上げた。
「嘘~!?」
菜々美の悲鳴が、カフェに響き渡った。
ツヅク




