第6話 いざ、合戦!
別世界へとやって来た菜々美たちは、早速「と」から始まる名前の人物を見つけることができた。
その人物こそ、この国の若き殿、時光須佐之男だった。
しかし、菜々美たちの話を信じてくれた時光は、同行の願いに対して首を横に振った。
「悪いが君達と共に行く事は出来ない」
「何故ですか!?」
菜々美が思わず問い返す。
「明日、赤間 篳鳥との合戦がある」
「絶対に生きて帰れるという保証は無い…」
時光の声は真剣だった。
明日には戦場へ向かわなければならない。自分が生きて帰れるかどうかも分からない以上、簡単に約束はできないのだろう。
「じゃあ、もし無事に生きて帰れたならその時は一緒に来てくれますか?」
大和が尋ねた。
「……」
時光は黙り込んだ。
しばらくして、静かに口を開く。
「悪いが、他の者に頼んでくれ」
「そうですか…」
菜々美は肩を落とした。
だが、そのとき武が声を上げた。
「殿!この辺りには殿以外に『と』から始まる名の者はいないでござる!」
「これは殿にしか頼めない事なのでござるよ!」
「僕からもどうかお願いするでござる!」
「武…」
時光は驚いたように武を見つめた。
「明日の合戦は僕が必ず殿をお守りするでござる!」
武の言葉に続いて、大和も一歩前へ出た。
「その合戦…俺も加勢します」
「何!?それは…」
「俺は戦えます」
大和はまっすぐに時光を見つめた。
「だから菜々美の世界の為に力を貸して下さい」
「大和…」
菜々美は隣に立つ大和を見上げた。
自分の世界を救うために、彼は命の危険がある戦いにまで加わろうとしてくれている。
時光はしばらく考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「分かった…そこまで言うのなら君達の期待に応えよう」
「ありがとうございます!」
「よかったな」
「うん!ありがとう!大和!武!」
「お礼を言われる程の事はしてないでござるよ」
武はそう答えた。
そんな三人を前に、時光は何も言わずにいた。
「……」
* * *
翌日。
時光軍は、合戦の約束の地に集まっていた。
武装した兵たちが並び、敵軍の到着を待っている。
時光は前方を見つめたまま、静かに立っていた。
「……」
「中々敵が見えてこないでござる」
「あぁ…」
武の言葉に、時光が短く答える。
そのとき、聞き覚えのある声が響いた。
「や~まと!」
大和が振り向く。
そこにいたのは、菜々美だった。
「なっ!お前!!」
「ここで何してる!!」
「私も戦うよ」
菜々美は迷いなく答えた。
「馬鹿言うな!!下がってろ!!死ぬかもしれないんだぞ!!」
大和の声が荒くなる。
しかし、菜々美も引かなかった。
「分かってるよ!!私は覚悟してここにいるの!!」
「皆が必死になって頑張ってるのに自分だけ何もしないなんておかしいよ!!」
「私はそんなの絶対に嫌だ!!」
「菜々美…」
大和は言葉を失った。
菜々美の表情は真剣だった。
その決意が簡単に揺らぐものではないことは、大和にも伝わっていた。
そのとき、一人の侍が叫んだ。
「赤間軍が見えてきたぞ!」
「うむ」
時光が前方へ目を向ける。
遠くから、敵の軍勢が近づいてきていた。
だが、その姿は明らかに異様だった。
「あれは…!?」
大和が目を見開く。
赤間軍の周囲には、黒い煙のようなものが漂っていた。
それは、かつて大和の世界で黒い獣が現れたときの光景を思わせた。
「あれって…もしかして!?」
「何やら様子がおかしいでござる」
「ああ、だがそれを探る余裕はこちらには無い」
時光は兵たちへ向き直り、声を張り上げた。
「皆の衆!相手の軍が見えてきた!いつもと様子は違うが気にすることは無い!我々はただ直進あるのみ!」
「さあ!我が軍の勝利を期して旗を掲げよ!」
「うおおおおぉぉぉぉぉッッッッッ!!!!!」
兵たちの雄叫びが響き渡った。
「行くぞおおおおぉぉぉぉぉッッッッッ!!!!!」
時光の号令とともに、時光軍が一斉に駆け出した。
「待って!みんな!」
菜々美が声を上げる。
しかし、軍勢の勢いは止まらない。
「駄目だ、菜々美!このまま俺達も突っ込んで行くしかない!立ち止まってたら突き飛ばされるぞ!」
大和に促され、菜々美も走り出した。
両軍が激突する。
「はあぁッ!」
カキンッ!カキンッ!
武の振るう刃が、敵兵の刀と激しくぶつかり合った。
「ふっふっふ…」
赤間軍の兵が、不気味な笑みを浮かべる。
「なんだ…こいつら…!?」
武が違和感を覚えた、その直後だった。
「ふんッ!」
バゴンッ!!!
敵兵が刀を勢いよく振り下ろした。
刃が地面に叩きつけられると、そこにひびが走った。
「なんてパワー…」
武が驚きの声を漏らす。
普通の兵とは思えないほどの力だった。
「このままじゃまずい…」
大和は状況を見て、ポケットに手を入れた。
取り出したのは、一箱のマッチだった。
一本を擦り、自分の体に火をつける。
瞬く間に炎が全身へと広がった。
「しゃあッ!」
燃え上がる体のまま、大和は敵軍へ突っ込んでいく。
「ぎゃあああッ!」
「なんだあのガキは!」
赤間軍の兵たちが悲鳴を上げた。
炎に包まれながら平然と戦う大和の姿に、敵も味方も驚いていた。
「おお!なんと不思議な手品でござる!」
武も目を丸くする。
一方、菜々美は拳を握りしめていた。
「よし!私も頑張らなきゃ!」
菜々美は手を前に突き出した。
目の前に、別世界へと繋がるゲートが開く。
「なんかでてこい!」
何が出てくるかも分からないまま、菜々美は叫んだ。
「うおおおおッ!」
敵兵たちが菜々美へ襲いかかってくる。
その瞬間だった。
グオオオオオオオオオオン!!!
ゲートの奥から、巨大なレーザーが放出された。
「ぐあああッ…!」
光が敵軍を襲い、兵たちを吹き飛ばしていく。
菜々美は目の前で起きた光景に呆然とした。
「嘘……」
自分でも予想していなかった攻撃だった。
「やるな!菜々美!大和!」
時光が二人に声をかける。
「さあ、他の者達も一気に押し込めえええええ!!」
時光軍の勢いが増していく。
だが、その様子を離れた場所から眺めていた男が、不気味に笑った。
「クックック…馬鹿め…」
赤間篳鳥だった。
「はッ!」
ドッゴォーンッ!!!
篳鳥から黒い波動が放たれた。
その衝撃は時光軍だけでなく、味方である赤間軍の兵たちまでも吹き飛ばしてしまった。
「篳鳥…これはいったい!?」
時光が驚愕する。
「あるお方に私に秘められていた特別な力を引き出してもらいましてねえ」
「あるお方…?」
「そう、このお方こそ我らが救世主ミスト様!」
篳鳥が示した先に、一人の男が立っていた。
黒いコートに、黒い制帽。
その姿を見た瞬間、菜々美と大和は息を呑んだ。
「…」
「あいつは!?」
「俺の世界で黒い獣と一緒にいたコートの男!?」
あのとき、獣を残して突然姿を消した男だった。
「そうか!歯車のずれた影響で篳鳥が隠された力を手にしたんだ!」
「それを奴が引き出してって訳か…」
大和も状況を理解する。
ミストは、そんな二人には目もくれず、篳鳥へ言い放った。
「おい、時間はかけたくないんだ…さっさと片付けろ…」
「はいはい、分かりましたよ」
篳鳥が答えると、赤間軍の周囲に漂っていた黒い煙が動き始めた。
煙は一か所へ集まり、長く巨大な形を作っていく。
やがてそれは、まるで黒い龍のような姿となって、戦場を駆け巡った。
「うわあああッ!」
「ぎゃあああッ!」
赤間軍も時光軍も関係なく、兵たちが悲鳴を上げる。
「ふはは!私は最強だ!」
篳鳥が高笑いした。
「あいつ!!」
時光は篳鳥へ向かって駆け出した。
手にした槍を構え、その心臓を狙う。
しかし、黒い龍が行く手を阻んだ。
「ゲエアアアァァァッッ!」
龍が時光へ襲いかかる。
「龍は俺が!!!」
大和が飛び込んだ。
鋭く豪快な拳が龍を捉え、その巨体を吹き飛ばした。
「グルル…」
龍が低く唸る。
その隙に、時光は篳鳥との距離を詰めた。
「くっ…こい!時光!」
篳鳥が刀を構える。
「はああッ!」
「ふあッ!」
カキンッ!
時光の槍と篳鳥の刀が激しくぶつかった。
篳鳥は槍をかわし、刀で払いのける。
「ふはは!そら!そら!」
篳鳥は次々と攻撃を繰り出した。
その動きは素早く、一撃一撃に強大な力が込められている。
時光は防御に追われ、反撃の機会を掴めずにいた。
「くッ!」
「殿!」
武が時光のもとへ走った。
「ぬ!?」
「はあッ!」
武は手にした刃を篳鳥へ振り下ろす。
だが、篳鳥の反応は速かった。
「ふんッ!」
後方へ跳び、攻撃をかわす。
しかし、武はさらに速く刃を振り下ろした。
「せいやあッ!!」
「何だと!」
篳鳥は再び、ぎりぎりのところでかわしたように見えた。
「残念だったな!…もう少しその刀が長ければ当たっていたかもしれんがなあ!?」
勝ち誇った篳鳥に、武が静かに答える。
「これは刀ではござらん…」
「伸縮自在の薙刀でござる!」
「!?うがあああッ!!!」
次の瞬間、篳鳥の体が切り裂かれた。
かわしたはずの刃が、伸びた柄によって届いていたのだ。
篳鳥はその場に倒れ込んだ。
「ミスト様…どうかお助けを…」
助けを求める篳鳥を、ミストは冷たく見下ろした。
「その程度か…失望した…後は自分でどうにかしろ…じゃあな…」
シュウウ…。
ミストの姿が消えていく。
「ミ…ミスト様!?そんな!?…ならば…私の龍で…」
「龍なら…」
大和が口を開く。
「もう倒しちゃったよ?」
菜々美が続けた。
「大和!菜々美!」
時光が二人の名を呼ぶ。
「な、何だと!?…この…ガキ共が!!」
篳鳥は怒りに顔を歪めた。
「お前達!こいつらを殺せ!」
篳鳥の命令に、赤間軍の兵たちが刀を構える。
しかし、その切っ先が向けられたのは菜々美たちではなかった。
篳鳥自身だった。
「!?お前達!!」
「もう俺達はあんたの兵じゃない…」
味方さえ巻き込む篳鳥の攻撃に、兵たちはもはや従う気を失っていた。
「残念だったな…篳鳥…!」
時光が告げる。
だが、篳鳥はまだ諦めていなかった。
「…まだだ…」
「ん?」
「まだ終わりじゃねえ!!!」
「うおおおおおおおおおッッッッッ!」
篳鳥の体が黒いものに包まれていく。
それは全身へと広がり、篳鳥の姿を次第に不気味なものへ変えていった。
もはや先ほどまでの人間の姿とは違っていた。
変貌した篳鳥が、時光を狙って襲いかかる。
ザシュッ。
「…」
次の瞬間、時光の槍が篳鳥の胸を貫いていた。
「哀れな奴よ…」
ドサッ。
篳鳥の体が地面に倒れる。
戦場に響いていた激しい戦いの音は、次第に静まっていった。
こうして、時光軍と赤間軍の合戦は幕を閉じた。
ツヅク




