第5話 ちょっと変な戦国時代!
菜々美たちがたどり着いた世界は、まるで戦国時代にタイムスリップしたかのような場所だった。
大きな城に、昔ながらの街並み。そして、刀を腰に差した侍たち。
初めて目にする光景に、菜々美は子供のようにはしゃいでいた。
「私タイムマシンに乗るのが子供の頃の夢だったんだけど」
「これもある意味タイムマシンみたいなもんだよね」
「そうだなあ」
大和も周囲を見渡しながら頷いた。
しかし、その隣では、先ほど団子を食べていた侍が何食わぬ顔でスマートフォンを操作していた。
「世界観は台無しだけど」
「?」
侍は不思議そうに首を傾げた。
菜々美はそんな彼を見て、ふと思い出したように口を開く。
「そういえば名前言ってなかったよね?」
「私は相原 菜々美」
「俺は未来 大和」
「僕は山中 武。よろしくでござる!」
侍は元気よく名乗った。
菜々美は武の名前を聞きながら、次の仲間について考えていた。
大和の名前は「やまと」。
つまり、次に探すべきなのは「と」から始まる名前の人物だ。
「ねぇ、ちょっと変な質問するけどさあ」
「『と』から始まる名前の人って知らない?」
(拙者って言わないんだなあ)
侍らしい格好と言葉遣いなのに、一人称は「僕」らしい。
そんなことを考えながら、菜々美は返事を待った。
「『と』から始まる人でござるか? ああ、殿が『と』から始まるでござるなあ」
「本当!? ねぇ? そのお殿様に会えたり出来ないかな?」
「ちょっと待つでござる」
武はそう言うと、スマートフォンを取り出した。
そして、慣れた手つきで画面を操作し始める。
どうやら殿にLINEを送っているらしい。
しばらくして、武が顔を上げた。
「OKでござるよ」
「やった!」
「運がいいな!」
「僕が案内するでござるよ」
こうして菜々美と大和は、武の案内で城へと向かうことになった。
* * *
その頃、城では一人の若い男がスマートフォンを見つめながら悩んでいた。
「うむ~武がどうしても会わせたいと言うからOKしたものの…女の子かあ~」
画面に表示された連絡を見ながら、男は困ったように呟く。
その様子を見ていた家老が口を開いた。
「まだ殿は女性が苦手なのですか」
「な…苦手では無いわ!!!ただ緊張してしまって話せなくなるだけだ!!!」
「それはもう苦手ということなのでは…」
家老は呆れたように言った。
「そろそろ克服して結婚の事も考えなければいけませんよ」
「今、時光家は殿しかいないのですから」
その言葉を聞くと、殿の表情が変わった。
「分かっている…だがお前も知っているだろう…何故私が結婚しないのかを…」
先ほどまでの慌てた様子とは違い、その声には重い響きがあった。
「この苦しみを子孫達に背負わせたくないんだ…」
「殿…」
家老はそれ以上、何も言えなかった。
そのときだった。
ピンポーン。
城の中に、聞き慣れた電子音が響いた。
「武が帰って来たか」
殿は顔を上げた。
一方、城の入口に立っていた菜々美と大和は、同じことを考えていた。
(インターホンなんだ…)
ガチャ。
扉が開く。
「殿!」
「心配したぞ武!」
出迎えたのは、先ほど家老と話していた若い男だった。
その姿を見た瞬間、菜々美の胸が小さく高鳴った。
ドキッ。
(この人がお殿様!…でも今の感じ…何か大和と初めて会ったときの感じと少し違う気が…)
(というか殿様めっちゃ若い!)
想像していたお殿様とは違い、目の前にいるのは若い男性だった。
「ん? 君達か? 武を助けてくれたのは?」
「ああ! いえ! そんな! 大したことはしてませんよ!」
「いやいや、大したことだ!」
殿はそう言って二人を迎え入れた。
「さあさ、入りたまえ」
「それじゃあ、お邪魔します」
菜々美たちは武とともに城の中へと入っていった。
しかし、そこで目にした光景は、またしても菜々美の想像とは違っていた。
「なんか外見は凄い立派なお城だったけど中は普通のお家みたいだね」
菜々美は隣を歩く大和に、小声で囁いた。
「それ、俺も思った」
大和も同じ感想だったらしい。
外から見れば立派な城なのに、中はどこか現代の住宅を思わせる造りになっていた。
やがて殿は、菜々美たちを一つの部屋へと案内した。
(やはり少し緊張するなあ)
殿は女性である菜々美を意識しながらも、平静を装っていた。
一方、部屋に入った菜々美と大和は、またしても心の中で声を揃える。
(これ洋室だ…)
そこは、戦国時代の城とは思えないほど現代的な洋室だった。
しかし、殿はそんな二人の驚きに気づく様子もなく、話を始めた。
「さて、まずは自己紹介だな」
「私は時光 須佐之男」
その名前を聞いて、菜々美は改めて相手を見つめた。
時光。
確かに「と」から始まる名前だ。
「私は相原 菜々美です」
「俺は未来 大和」
「菜々美と大和だな。で、私に何か用かね?」
時光に尋ねられ、菜々美は姿勢を正した。
「あ、はい! 信じて貰えるかどうか分かりませんけど」
「私達、実は別世界から来たんです!」
「別世界…?」
時光は不思議そうに聞き返した。
菜々美はこれまでの出来事を説明した。
自分たちが別の世界から来たこと。世界の歯車がずれた影響で、菜々美のいた世界が滅亡してしまったこと。
そして、世界を救うためには、名前をしりとりのように繋いで仲間を集めなければならないこと。
時光は途中で話を遮ることもなく、静かに耳を傾けていた。
「なるほどなあ」
話を聞き終えた時光が呟いた。
「信じられませんよね」
菜々美は少し不安そうに尋ねた。
だが、返ってきた答えは意外なものだった。
「いや、信じる」
「え? 本当ですか!?」
「何故だろうなあ、確かに信じられん話なんだが」
「不思議と嘘とは思えなかった」
菜々美の表情が明るくなる。
話を信じてもらえたのなら、きっと協力してくれるはずだ。
そう期待して、菜々美は身を乗り出した。
「じゃあ、私達と一緒に来てくれますか!?」
しかし、時光の返事は、菜々美が望んでいたものではなかった。
「悪いがそれは出来ない」
「え…?」
菜々美は思わず言葉を失った。
話は信じてもらえた。
それなのに、時光は同行を断ったのだ。
ツヅク




