第4話 次の世界へ!
菜々美は、大和にこれまでの出来事を全て話した。
自分が別世界から来たこと。世界の歯車がずれたことで、元の世界が滅亡してしまったこと。そして、世界を元に戻すためには、名前をしりとりのように繋いで仲間を集める必要があること。
もちろん、謎の組織「イレギュラー」についても説明した。
大和は黙って話を聞いていたが、菜々美が説明を終えると、ようやく口を開いた。
「まあ、こんな感じなんだけど…分かってくれたかな?」
「分かった!」
「本当!?」
「って言ったら嘘になるかな」
「…まあ、そうだよね」
菜々美は肩を落とした。
いきなり別世界だの、世界の歯車だのと言われても、すぐに理解できるはずがない。
だが、大和は続けた。
「でも菜々美の世界を救う為には俺がいなくちゃいけないって事はわかったよ」
「じゃあ…」
「ああ…俺も協力するよ」
「やった!ありがとう!」
菜々美は嬉しそうに声を上げた。
(なんでだろう、大和と一緒にいれるってだけで凄く嬉しい)
世界を救うという大きな目的があるはずなのに、今は大和が一緒に来てくれることが何より嬉しかった。
「じゃあ、出発の前に母さんの容態を確認しに」
大和がそう言いかけた、その瞬間だった。
グイッ!
突然、何者かが大和の胸ぐらを掴んだ。
「よう、大和」
振り返ると、そこには先ほど大和を追いかけていた商人が立っていた。
「お、おっちゃん!」
「この状況…わかるよな?」
商人の鋭い視線に、大和の顔が引きつる。
「ご、ごめんなさい!盗んだのはちゃんと返すから見逃してくれ!」
大和は慌てて盗んだ食品を差し出した。
しかし、それは先ほどの戦いの炎によって、真っ黒に焦げてしまっていた。
「…」
商人は無言でそれを見つめる。
「み、見ないうちに見た目が変わっちまった~あはは…」
「や~ま~と~ッ!!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!おっちゃん!」
「ど、どうしよう~」
菜々美も困り果ててしまった。
しかし、商人は大きく息を吐くと、呆れたようにため息をついた。
「はぁ~」
「お前の事、前に少し聞いたよ」
「え?」
「お前の母さん…病気なんだろ?」
「あ…ああ…」
「なんで言わなかったんだよ」
その問いかけに、大和は俯いた。
「……俺…人前では強気でいたかったんだ…」
「母さんが病気にかかって…なんとかしようにも何も出来ない自分が嫌だった…だから…」
ボカッ!
突然、大和の頭に強烈な拳骨が落ちた。
「いってぇ~何すんだよ!いきなり!」
「ガキんちょのくせして、いっちょまえなこと言ってんじゃねえよ」
商人は大和を見下ろしながら言った。
「ったく…助けがいるなら口で言え!盗む馬鹿がいるか!」
「それは……ごめんなさい…」
大和は素直に頭を下げた。
すると、商人の声が少し和らいだ。
「でもまあさっきの獣、退治したのお前だろ?」
「お前は俺達、みんなを助けてくれたんだ、今までの事なんてもうどうでもいい!」
大和が驚いて顔を上げる。
「それよりも今後のことだ!まだお母さんの体調は良くないんだろ?食べ物なら俺がやる!薬も他の店が出してくれるって言ってる」
「お金ならいつか払えるときでいい!でも必ず払えよ?こっちも生活かかってるからな!」
「おっちゃん…ありがとう…!」
大和の声には、感謝の気持ちが滲んでいた。
「良かったね、大和」
菜々美も笑顔を浮かべる。
だが、大和にはもう一つ、どうしても頼まなければならないことがあった。
「なあ、おっちゃん!」
「どうした?」
「もう一つ…もう一つ頼みがあるんだ!」
大和は真剣な表情で商人を見つめた。
「少しの間、母さんのことを看病して欲しい!」
「今までたくさん盗みをしてきた…色々と迷惑をかけてきたのにこんな事頼むなんてどうかしてるけど」
「俺には…どうしてもやらなきゃいけない事が」
「分かったよ、それ以上言わなくてもいい」
商人は大和の言葉を遮った。
「俺達でなんとかするよ!」
「い…いいのか?」
「任せな!」
商人は力強く答えた。
大和は深く頭を下げる。
「じゃあ…母さんの事、お願いします!」
「ほら、やらなきゃいけない事があるんだろ?」
「ああ!行こう!菜々美!」
大和は菜々美の手を掴んだ。
「うん!」
突然手を取られ、菜々美は少し驚いた。
それでも、嬉しそうに大和の隣へ並ぶ。
「大和…結構いい奴じゃん…」
「ん?何か言ったか?」
「な~んも!」
菜々美は笑ってごまかした。
* * *
二人は商店街を離れ、人のいない場所までやって来た。
「よし!この辺なら…」
菜々美は立ち止まり、片手を前に突き出した。
グゥゥン。
空間が歪み、目の前に黒いゲートが現れる。
「これが…ゲートか」
大和は目を丸くした。
「そう!じゃあ次の世界へ!レッツゴー!」
菜々美は元気よくゲートの中へ飛び込んだ。
大和もその後を追う。
「おわ!?わ!?」
しかし、初めて体験する不思議な空間に、大和はすっかり慌てふためいていた。
「あはは!大和、初めてゲート通った時の私みたい!」
菜々美はそんな大和を見て笑った。
やがて二人はゲートを抜け、次の世界へと到着した。
「よっと」
菜々美は軽やかに着地する。
「う~ん」
その隣で、大和は少しふらついていた。
「ふふっ、大丈夫?」
「ちょっと気持ち悪いかも…」
大和は頭を押さえながら、ゆっくりと周囲を見回した。
「ここが…別世界…?」
「うん!…ってあれ見て!」
菜々美が何かを見つけ、勢いよく指をさした。
「大きなお城がある!まるで時代劇みたい!」
その先には、立派な城がそびえ立っていた。
周囲の建物も、先ほどまでいた商店街とはまるで違う。
まるで昔の日本に迷い込んだかのような景色だった。
菜々美は子供のようにはしゃいでいる。
「本当だ…凄いな」
大和も感心したように呟いた。
「見て見て!あれ!」
今度は遠くを歩いている侍を指さす。
「この世界は…もしかして」
「凄い!凄い!本物だ!」
菜々美の興奮は収まる気配がない。
その様子を見て、大和もつられるように微笑んだ。
「時代劇とか好きなのか?」
「全然!」
「え…?」
あまりにも即答だったため、大和は思わず聞き返した。
「別に時代劇は好きじゃないんだけどさあ」
「いざ、こう、テレビとか教科書で見た事ある世界に来たってなるとやっぱテンション上がらない?」
「分からなくもないけど…ん?あれって…」
大和が何かに気づいた。
視線の先には、一人の侍が倒れていた。
「う、うぅ…」
苦しそうに呻いている。
見た目はまだ若く、菜々美や大和と同い年くらいに見えた。
「あ、お侍さん!大丈夫ですか!?」
菜々美は慌てて駆け寄った。
「うぅ…腹が…」
「も…もしかして…怪我を…」
ぐううぅぅ~。
そのとき、侍のお腹から大きな音が鳴った。
「腹が…減って…」
「ああ、そういうね」
菜々美は拍子抜けした。
「でも困ったな…食い物なんて今ここに…お!」
大和が近くにある店を見つけた。
それは、昔ながらの団子屋だった。
「うわ~、本当にテレビドラマみたい!」
菜々美は再び目を輝かせた。
「確か財布が…ってやっぱ普通のお金じゃ買えないよね…」
そう言いながら財布を取り出した、そのときだった。
「200円になりまーす」
「え?」
団子屋のお姉さんの声に、菜々美は耳を疑った。
今、確かに「円」と言った。
菜々美は半信半疑のまま、百円玉を二枚差し出してみる。
「ありがとうございました~」
普通に買えてしまった。
「か…買えちゃった…まいっか」
深く考えるのはやめにして、菜々美は買った団子を侍のもとへ持っていった。
「これ、どうぞ」
「あ、ありがとう!」
侍は嬉しそうに団子を受け取ると、勢いよく食べ始めた。
本当は菜々美も一つ食べたかったのだが、そんな気持ちなど知る由もなく、侍はあっという間に全て平らげてしまった。
「いや~うまかった!うまかった!」
満足そうな侍を横目に、菜々美は先ほどから気になっていたことを考えていた。
「ん~、やっぱ引っ掛かるなあ。この時代って小銭とかあるのかなあ」
すると、侍が菜々美の姿をじっと見つめた。
「…ん?その格好は…」
「うん?」
「もしやJKでござるか?」
「え…?」
「え…?」
「え…?」
三人の間に、何とも言えない沈黙が流れた。
菜々美はゆっくりと侍に尋ねる。
「今…なんて…?」
「JK」
「嘘…」
目の前にいるのは、どう見ても時代劇から飛び出してきたような侍だ。
その口から、あまりにも現代的な言葉が飛び出してきた。
菜々美は思わず叫んだ。
「イメージが台無し~!!!」
ツヅク




