第2話 最初の仲間!
「うわ~!?」
謎のゲートに吸い込まれた菜々美は、思わず悲鳴を上げた。
突然目の前に現れた黒い空間。その中へ引きずり込まれたかと思うと、次の瞬間には見知らぬ場所にいた。
「う~ん…って、ここは?」
菜々美は辺りを見回した。
すると、どこからともなく聞き覚えのある声が響いてきた。
『お~い、無事か~?』
「この声は承知之助さん?」
『どうやら無事に行けたみたいだね』
そこは、少し古びた商店街のようだった。
通りには店が並び、人々が行き交っている。どこか懐かしさを感じる街並みで、少なくとも菜々美が想像していたような、奇妙な世界には見えなかった。
「ここが…別世界? あんまり変わって無いような」
『確かにそんなに変わりは無いが、別世界だ。ちなみに、別世界に行くゲートを開く力も、君の隠された力の一つだ』
「私にこんな力が…。ところで承知之助さんはどこ?」
『私は元の世界にいる。君に色々説明するために、こうやって心に直接話しかけてる』
菜々美は周囲を見回したが、やはり承知之助の姿はどこにもない。
どうやら、声だけが直接心に届いているらしい。
『とりあえず君は、この世界で名前が「み」から始まる仲間を見つける』
「どうやって? もしかして、一人一人に聞いてこいとか言わないよね?」
『もしも仲間を見つけたら、何かしら君に反応があるはずだ。それで見つけるんだ』
『仲間が見つかったら、次はその人の名前の最後の文字が最初に来る人を、別世界に行って見つけるんだ』
「なるほど、だからしりとりか…。でも、わざわざ別世界に行く必要あるの? この世界で全員見つければ良くない?」
『いいや、一つの世界で見つけるより、別世界で見つけて行く方が早い』
「どうして?」
『それは知らない』
「…」
菜々美は言葉を失った。
あまりにも堂々とした返答だった。
『まあ、その辺は良いんだよ。それと、最後に言って置くことがある』
承知之助は何事もなかったかのように話を続ける。
『世界の歯車がずれて影響を受けているのは、君の世界だけじゃない。ほとんどの世界が影響を受けている。もちろん、その世界も何かしら影響が出ているはずだ』
『君のように力が解放された者が現れるかもしれない』
「私のように…」
『ああ。そして、そういった歯車のずれの影響で力を手に入れた者を、スカウトしている影の組織がある』
『その名も「イレギュラー」』
「イレギュラー…?」
初めて聞く名前だった。
『彼らの事は実は良く分かってない。だが、裏で良からぬことをしているようだ』
『一つ君に言える事があるとすれば…気を付けろという事。それだけだ』
「…分かった」
菜々美は小さく答えた。
世界を元に戻すための仲間探し。
それだけでも大変そうなのに、どうやら気をつけなければならない相手までいるらしい。
『これ以上会話するのは無理みたいだ…。では頼むぞ』
「はい!」
そう返事をすると、承知之助の声は聞こえなくなった。
「…とは言ったけど、どうしよう」
菜々美は改めて商店街を見渡した。
「まず仲間を見つけなきゃ」
ワイワイ、ガヤガヤ。
通りには人々の話し声が飛び交い、賑やかな空気に包まれていた。
「それにしても賑やかだなあ。ちょっと古い感じはするけど」
(別世界っていうから、てっきりモンスターとか侍とかが出ると思ってた)
そう考えながら歩いていると、突然、通りの向こうから怒鳴り声が響いた。
「おい! 誰かそのガキを捕まえてくれ! 泥棒だ!」
「やべっ!」
「おい! 逃げるな! 待て!」
「クソっ!」
声のする方を見ると、一人の少年が走ってきた。
その後ろからは、怒った商人が少年を追いかけている。
二人はそのまま菜々美の前を通り過ぎていった。
その瞬間だった。
深く帽子をかぶっていた少年の顔が、ほんの一瞬だけ見えた。
ドキンッ。
「え!? 今、凄く心がドキッとした…」
菜々美は思わず胸に手を当てた。
「は!?」
そこで、ふと承知之助の言葉を思い出す。
『もしも仲間を見つけたら、何かしら君に反応があるはずだ』
「もしかしてこれが…。じゃあ、あの男の子…」
菜々美は走り去っていく少年の方を見た。
「追いかけてみよう!」
そう決めると、少年の後を追って走り出した。
* * *
「ハァ…ハァ…ハァ…」
少年は息を切らしながら、商店街を走っていた。
「コラー! 待てえ!」
「まだ追ってくるのかよ、ちくしょう…」
後ろからは、相変わらず商人の怒鳴り声が聞こえてくる。
そのときだった。
「こっち!」
突然、横から声がした。
少年が振り向くと、建物と建物の狭い隙間から、一人の少女が手招きをしていた。
「…え?」
「早く!」
「…分かった」
少年は迷いながらも、少女のいる隙間へと駆け込んだ。
しばらくすると、商人の声が近づいてくる。
「クソー! あのガキ、見失った!」
やがて、その声も遠ざかっていった。
「ハァ…ハァ…」
少年は荒い息を整えようとしていた。
「大丈夫?」
「あ、ああ」
「ふぅ~」
菜々美もほっと息をつく。
無事に追っ手をやり過ごせたようだった。
「なんで、助けてくれたんだ?」
「え?…いやぁ、なんとなく…かな?」
「?…まあ、でもありがとう」
ドキンッ。
再び、菜々美の胸が大きく高鳴った。
(この人…やっぱり)
さっきと同じ感覚だ。
菜々美は思い切って尋ねてみることにした。
「ねえ? 突然なんだけどさあ、名前聞いても良い?」
「え? ああ、そうだな。俺は未来 大和」
(つ…)
「繋がった!」
「? 繋がった…?」
「い…いや、なんでもないよ!」
菜々美は慌ててごまかした。
(流石にいきなり「ん」で終わりって訳にはいかなかったけど…この子が…最初の仲間…!)
相原菜々美の「み」。
未来大和の「み」。
確かに、名前が繋がったのだ。
(私と同い年ぐらいかな…)
そんなことを考えていると、大和が口を開いた。
「君は…?」
「あっ! 私は相原 菜々美! よろしくね!」
「ああ、よろしく」
互いに名前を知り、挨拶を交わしたところで、菜々美はもう一つ気になっていたことを思い出した。
「ねぇ? あと一つ聞いても良いかな…?」
「ん?」
「なんで泥棒なんてしたの?」
「…」
大和が黙り込んだ。
(って! 私何聞いてるの!)
菜々美はすぐに自分の質問を後悔した。
「えっと! 答えたくないなら無理に答えなくて良いんだよ!」
「…実は俺の家、貧乏なんだ」
少し間を置いて、大和が話し始めた。
「父さんは俺が生まれて間もない頃に事故で亡くなった」
「そして母さんが一人で俺の面倒見てくれてたんだけど…病気にかかっちまったんだ」
「…」
菜々美は黙って耳を傾けていた。
「重い病気って訳じゃないんだけど、仕事が出来るような状態じゃないから、俺が頑張って働こうと思ったんだ」
「色々な所に頼んでみたけど、まだガキだからって雇ってくれる所なんて無かった」
「だから、こうやって薬とか食い物とか、母さんに内緒で盗んでたんだ」
大和は、自分が泥棒をしていた理由を隠さずに話した。
「でも…俺、必ず大人になったら頑張って働いて、母さんや今まで迷惑かけた人達に恩返しするんだ!」
「俺の事追っかけてたあのおっちゃんにも、大分迷惑かけたからさ」
「って、なんでこんなつまらない話しちまったんだ…。悪いな、べらべら喋って…」
「ううん、聞いたの私だし…。でも未来君は大変だね…」
「ああ…それでも俺は必ず…」
ドオォォンッ!!
突然、凄まじい爆発音が響き渡った。
「な…何!?」
菜々美は驚いて顔を上げた。
遠くから、人々の悲鳴が聞こえてくる。
何かが起こったのだ。
「商店街の方だ…」
大和が爆発音のした方向を見つめる。
(まさか…歯車のずれの影響…それとも影の組織…?)
菜々美の頭に、承知之助から聞いた話がよぎった。
世界の歯車のずれ。
そして、その影響で力を手に入れた者たちを集めているという謎の組織、イレギュラー。
今の爆発も、それらと何か関係があるのだろうか。
答えは分からない。
けれど、菜々美は迷わず口を開いた。
「行こう!」
「ああ!」
二人は爆発の起きた商店街へと向かった。
ツヅク




