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第16話 イレギュラーの本拠地!

 世界を元に戻せば、きっと大和も帰ってくる。

 その希望を胸に、菜々美たちは再び旅を始めた。

 目指すのは、かつて何度も自分たちの前に立ちはだかったイレギュラーの男、ミスト。

 彼を新たな仲間に迎えるため、四人はゲートをくぐり抜けた。

 そして、たどり着いたのは、イレギュラーの本拠地が存在する世界だった。

「ここが…」

 武が呟いた。

「イレギュラーの世界…」

 フランも周囲を見回す。

「あれがイレギュラーの本拠地…ですよね?」

 セイレーヌが指さした先には、巨大な城がそびえ立っていた。

 空気はどす黒く淀み、足元の地面は湿り気を帯びている。

 その不気味な景色に溶け込むように建つ城は、ひどく歪な形をしていた。

 見上げるだけでも、何か得体の知れないものが潜んでいるような気分になる。

「この空気は…あまり吸わねえほうが良さそうだな…」

 フランが顔をしかめた。

「あの城に早く入ろう!」

 菜々美はすぐに歩き出そうとした。

「焦りは禁物でござる!菜々美!」

 武が慌てて止める。

「流石にこのままじゃ入れないよ!」

 セイレーヌも周囲を警戒していた。

 敵の本拠地へ正面から乗り込めば、あっという間に見つかってしまうだろう。

 セイレーヌは魔法を使うため、手をかざした。

「プリティ!みんな!透明になれ!」

 魔法が発動し、四人の姿が周囲から見えなくなった。

「これで他の人には私達は見えない、行きましょ!」

「ナイス!」

 フランが嬉しそうに答えた。

 四人は姿を隠したまま、不気味な城へと向かった。

 * * *

 城の中は、外から想像していた以上に広かった。

 長い通路がいくつも伸び、どこへ続いているのかも分からない。

「これが本拠地の中でござるか…ずいぶん広いでござるな」

 武が感心したように呟いた。

 そのときだった。

 ドキッ。

 菜々美の胸が、不意に高鳴った。

「今、ドキッとした!多分近くにミストがいるよ!」

 菜々美が小声で告げた。

「何!何処だ?」

 フランが辺りを見回す。

「あの人じゃない?」

 セイレーヌが通路の先にいる人物を指さした。

「そうでござる!追いかけるでござるよ!」

 武が頷く。

「…」

 黒い服を身につけたミストが、何も言わずに歩いていた。

 菜々美たちは見つからないよう距離を取り、その後を追った。

 やがてミストは、地下へ続く通路を下りていった。

「なんか地下に入ってくよ?」

 菜々美が不思議そうに呟いた。

「あれは…檻か…?」

 フランが目を細めた。

 地下には、鉄格子に囲まれた場所があった。

 ミストはその前で足を止める。

「ミーナ!大丈夫か?」

 それまで無表情だったミストの声には、焦りと心配が滲んでいた。

「お兄ちゃん…」

 檻の中から、少女の声が返ってきた。

「!?」

 菜々美は思わず息を呑んだ。

「どういうことでござるか!?」

 武も驚きを隠せない。

「もしや…本当にミストという奴は何か訳があってイレギュラーに入っているのかもしれないぞ」

 フランが低い声で言った。

 ミストは檻の中へ食べ物と水を差し出した。

「ほら、食料と水だ!」

「ありがとう…お兄ちゃん…」

 ミーナはそれを受け取った。

「悪かったな…あまり仕事が上手くいかなくてな…長い間会うことが出来なかった…こんなんじゃ足りないよな?安心しろ、今度はもっと沢山持ってきてやる!」

 ミストは申し訳なさそうに言った。

 そこにいたのは、菜々美たちが知る冷たい敵の姿とは、まるで違う兄の姿だった。

「ううん、私は大丈夫だよ!」

 ミーナは兄を安心させるように答えた。

「ミーナ…」

 ミストが小さく名前を呼んだ。

 しかし、その時間は長く続かなかった。

「おい、そろそろ戻れ!ミスト!」

 近くにいたイレギュラーの男が声を荒らげた。

「黙ってろよ…」

 ミストが苛立たしげに返す。

「お兄ちゃん…駄目だよ…」

 ミーナが心配そうに呼びかけた。

「ミーナ!」

「いつでも…待ってるから!」

 ミーナは兄を見つめた。

「…分かった…またな…ミーナ」

 ミストは名残惜しそうに檻から離れた。

「ボスが呼んでたぞ…すぐに来いってよ」

 イレギュラーの男が告げる。

「ああ…今行く…」

 ミストは歩き出した。

「もうちょっとついていこう!」

 菜々美が仲間たちに囁いた。

「うん」

 セイレーヌが頷く。

「そうでござるな」

 武も同意した。

 四人は再びミストの後を追った。

 * * *

「何か用か…」

 ミストが部屋に入ると、そこにはメグラがいた。

「ミスト…一体どうしたんです?最近のあなたの業績は、はっきり言ってあまり良いものではないですよ?」

 メグラは不満げな声で言った。

「あいつ…」

 その姿を見た菜々美の表情が険しくなる。

 大和を撃った男たちに命令していた、イレギュラーのボス。

 忘れられるはずがなかった。

「駄目だ、菜々美…落ち着くんだ…」

 フランが静かに制した。

 ここで姿を現してしまえば、ミストの事情を確かめることもできなくなる。

「自分の立場は分かってますよね?あなたが頑張らなければ妹さんは…」

 メグラが言いかけた、その瞬間。

 ダンッ!

 ミストの拳が壁に叩きつけられた。

「ひっ…」

 メグラが思わず身を縮める。

 ミストは鋭い目つきでメグラを睨みつけていた。

「…」

 言葉はなかった。

 それでも、その怒りは十分に伝わっていた。

「ま…まあ…これ以上は何も言いませんよ…」

 メグラは慌てて取り繕った。

(ったく…何なんだこいつは…イライラしますねえ…)

 姿を隠したまま様子を見ていた武が、小さく呟く。

「あのメグラとかいうやつ…どう見ても力があるとは思えないでござる…」

「ああ、ミストってのはあいつに妹を人質にされてるんだろう…」

 フランが答えた。

「だからこうやってイレギュラーに入ってるんだ…」

 その言葉に、セイレーヌの表情が明るくなった。

「じゃあ妹さんを助ければきっと協力してくれるってことですよね?」

「おそらくな」

 フランが頷いた。

 ミストがイレギュラーに従っている理由。

 それが分かれば、彼を仲間にできるかもしれない。

「もう用は済んだか…?」

 ミストがメグラへ尋ねた。

「ああ!そうでした!あなたに仕事を頼もうと思っていたんですよ…」

 メグラは不気味な笑みを浮かべた。

「そこにいる四匹の害虫の駆除をお願いします」

「な!?ばれてやがる!?」

 フランが驚きの声を上げた。

「何?」

 ミストも反応した。

 どうやらメグラは、透明になっている菜々美たちの存在に気づいていたらしい。

 フランはすぐに仲間たちへ声をかけた。

「菜々美!セイレーヌ!さっきの場所に行け!ここは俺が時間を稼ぐ!」

「武!お前、俺と一緒に戦ってくれるか?」

「ああ!任せるでござる!」

 武は迷わず答えた。

 二人は透明化を解き、姿を現した。

「行こう!菜々美ちゃん!」

 セイレーヌが菜々美の手を引いた。

「う、うん」

 菜々美は頷き、セイレーヌとともに部屋を離れた。

 残ったフランと武の前に、ミストが立ちはだかる。

「ふああああ!!!」

 ミストが勢いよく踏み込んだ。

「うおおおお!!!」

 フランも正面から迎え撃つ。

 バチンッ!!

 ミストの鋭いストレートが、フランの顔面に命中した。

「ぶふっ…はええな…」

 フランは顔を揺らしながらも、気合いで踏みとどまった。

 そして、すかさず反撃する。

 重い拳がミストの顔面を捉えた。

「がはっ…」

 ミストも衝撃に耐え、倒れずに踏みとどまる。

 そこから、二人の激しい殴り合いが始まった。

「はあああああ!!!!」

「うらッ!うらッ!うらッ!うらッ!」

 素早い拳と重い拳が、次々に交錯する。

 一方、武はメグラへ向かって駆け出していた。

「大和の仇!!」

 薙刀を振りかざし、メグラへ斬りかかる。

「ひええっ!」

 メグラは間一髪で攻撃をかわした。

「覚悟するでござる!」

 武はさらに追い詰めようとする。

「おい!誰か!こいつをやれ!」

 メグラが慌てて叫んだ。

「はあ!」

「食らえ!」

 その声に応じて、大勢のイレギュラーたちが武へ襲いかかった。

 いくつもの刀が一斉に向けられ、武は完全に囲まれてしまう。

「数で来たでござるか…」

 武は周囲を見渡した。

「やれ!やれ!やれ!!」

 メグラが叫ぶ。

「うおおおお!!!」

 イレギュラーたちが一斉に飛びかかった。

 しかし、武は怯まなかった。

「この程度の相手!この時光 武が今までくぐり抜けてきたものに比べれば!」

 ジャキイッ! ザシュッ! サジュッ!

 鋭い刃の音が連続して響いた。

「ぎゃあああ!」

「うげえええ!」

「がはっ!」

 次々とイレギュラーたちが倒れていく。

 武は薙刀を構え直した。

「大したことないでござる!」

「ぐぬぬ…」

 メグラは悔しそうに顔を歪めた。

 * * *

「やばいよ!」

 菜々美が後ろを振り返った。

「待てえええ!!」

 通路の向こうから、大勢のイレギュラーたちが追いかけてきていた。

「めっちゃ追いかけてきてるよ!」

 菜々美の声が裏返る。

 セイレーヌは振り返ると、魔法を唱えた。

「プリティ!ギロチンよ!でろ!」

 魔法が発動し、追っ手たちの前にギロチンが現れた。

「うぎゃあああああ!!!」

 イレギュラーたちの悲鳴が通路に響く。

「急ごう!」

 セイレーヌが走り出した。

「う、うん」

 菜々美も慌てて後を追う。

(結構エグいことするなあ…)

 思わずそんなことを考えてしまったが、今は立ち止まっている場合ではない。

「ミストの妹さんを檻から出してあげれば、きっとミストも私たちに協力してくれる」

 菜々美は自分に言い聞かせるように呟き、地下へ急いだ。

 * * *

「ミーナさん!」

 地下の檻へたどり着いた菜々美が声をかけた。

 中にいたミーナが顔を上げる。

「あなたは…?一体誰?」

 突然現れた二人を、不思議そうに見つめていた。

「ミストの仲間…にはまだなってないけど…これから仲間になる…多分…」

 菜々美は説明しながら、だんだん自信がなくなってきた。

「?お兄ちゃんの仲間…?」

 ミーナは首を傾げる。

「今からあなたをこの檻から出しますね!」

 セイレーヌが前へ出た。

 そして、鉄格子の扉へ向けて魔法を唱える。

「プリティ!檻の扉よ!開け!」

 ガチャン。

 鍵が外れ、扉が開いた。

「行きましょ!」

 セイレーヌが笑顔で促す。

「え?」

 ミーナはまだ状況を理解できていない様子だった。

「ほらほら!」

 菜々美はミーナの手を掴み、走り出した。

「なんか…面白そう!」

 ミーナは驚きながらも、どこか楽しそうに笑った。

 三人はミストたちのいる場所へ急いだ。

 * * *

「何故お前達がここにいる…?」

 ミストはフランを睨みつけながら尋ねた。

「へへ!何でだと思う?」

 フランは余裕のある笑みを浮かべる。

「知るか!」

 ミストが殴りかかってきた。

 しかし、フランはその腕を掴み、体を反転させた。

 ダンッ!

 勢いよく背負い投げが決まる。

「くっ…!」

 ミストが呻いた。

「聞いて驚くな!俺達はお前を仲間にしに来た!」

 フランが堂々と告げた。

「何だと…!?」

 ミストは目を見開いた。

「お前…妹がいるよな?」

「それがどうした…」

 ミストの声が険しくなる。

「助けてやるよ」

「何?ふざけるな!誰がそんなこと頼んだ!」

 ミストは怒りを露わにした。

「誰からも頼まれちゃいねえな」

 フランはあっさりと答えた。

「勝手なことを!もしもミーナに何かあったらどうするつもりだ!!」

 ミストにとって、妹の安全は何よりも大切だった。

 不用意に動けば、メグラが何をするか分からない。

「そんときはお前に協力してもらうぜ」

「はあ!?」

 ミストは思わず声を上げた。

 フランは構わず話を続ける。

「安心しろ!こっちにはな!」

「滅茶苦茶強い侍に!」

「何でも出来ちゃう魔法少女!」

「それにとんでもねえパワーを持った最強レスラー!」

 フランは胸を張った。

「そして…」

 少し間を置いて、最後の一人を紹介する。

「ただのガキんちょがいる!」

 その頃、ミーナを連れて走っていた菜々美が、突然くしゃみをした。

「へっくしょん!」

 菜々美は鼻をこすった。

「何だろう…今…誰かに馬鹿にされたような…」

 もちろん、フランが何を言ったのかは知らない。

「何言ってんだ…お前は…?」

 ミストは呆れたように呟いた。

「俺達ならお前達、兄妹を救えるってことよ」

 フランは真剣な表情で答えた。

「おい…おま」

 ミストが何か言いかける。

「うるせえ!まだ喋ってる途中でしょうが!黙って聞いてろ!」

 フランが勢いよく遮った。

「…」

 ミストは黙り込んだ。

「おっほん!でお前達を救うことは出来るのだが!」

 フランはわざとらしく咳払いをした。

「残念ながら今ここにいる奴ら…この数を相手にするのは流石に俺達じゃどうにも出来ない」

「そこでだ!お前の力を借りたい…どうだ?」

 ミストはすぐには答えなかった。

 目の前の男が何を考えているのか、まだ分からない。

 けれど、妹を救えるという言葉に、心が揺れていた。

「…本当に…妹を助けられるのか…!?」

 ミストは確かめるように尋ねた。

「ああ!もちろんさ!」

 フランは力強く答えた。

 そして、通路の方へ目を向ける。

「ほら!噂をすれば!」

「お兄ちゃん!」

 聞き慣れた声が響いた。

「ミーナ!」

 ミストが振り向く。

 そこには、菜々美とセイレーヌに連れられたミーナが立っていた。

 檻の中にいたはずの妹が、自由になって目の前にいる。

「うげっ!あいつら!やりやがった!」

 メグラが顔を引きつらせた。

「おい!!お前ら!!ミーナを捕まえろ!!」

「はい!!」

 イレギュラーたちがミーナへ向かって動き出した。

「!?」

 ミストの表情が一変した。

「ミーナに…」

 低い声が響く。

「指一本…」

 ミストは腕を振り上げた。

「触れるんじゃねえ!!!」

 その手が勢いよく振り下ろされた瞬間、凄まじい風が巻き起こった。

 巨大な竜巻が出現し、イレギュラーたちを次々と巻き込んでいく。

「うわあああああ!!!」

 グオオオオオオオオオ……。

 風の轟音が辺りを支配した。

 そして、竜巻が収まると同時に、巻き上げられた男たちが落下してきた。

 ドサッ。ドサッ。ドサッ。

「ひええ!!なんて化け物だこいつ!!」

 メグラが悲鳴を上げた。

「あれだけの数を…一瞬にして…」

 武は目を見開いていた。

「世界って広いでござるな…」

 その圧倒的な力に、思わず感心してしまう。

「お兄ちゃん!!」

 ミーナが駆け寄った。

「ミーナ!!ミーナ!!」

 ミストは妹を迎えた。

「お兄ちゃん…」

 ミーナが兄を見上げる。

「良かった…良かった…」

 ミストは何度もそう呟いた。

 ずっと檻の中に閉じ込められていた妹。

 自分がどれほど働いても、自由にしてやることができなかった妹。

 そのミーナが、今は目の前にいる。

「言ったろ?俺達なら救えるって」

 フランが笑った。

 ミストは顔を上げ、菜々美たちを見つめた。

「ああ…お前達…すまない…ありがとう…」

 その声には、これまで菜々美たちに向けていた冷たさはなかった。

「ミスト!私達に協力して欲しいことがあるの!」

 菜々美が一歩前へ出た。

「ああ…何でも言ってくれ…」

 ミストは迷わず答えた。

 しかし、次の瞬間。

「!?」

 何かに気づき、辺りを見回した。

「どうしたの?」

 菜々美が尋ねる。

「待て!メグラの奴がいない!」

 いつの間にか、イレギュラーのボスの姿が消えていた。

「まず奴を探すぞ!話はそれからだ!」

 ミストが険しい表情で言った。

「うん!分かった!早く見つけよう!」

 菜々美も頷いた。

 こうして、かつて敵として戦っていたミストは、菜々美たちと共に動き始めた。

 しかし、メグラの行方はまだ分からない。

 世界を元に戻すための旅は、いよいよ最後の局面を迎えようとしていた。

ツヅク

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