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第17話 最終回!

 イレギュラーの本拠地で、ついにミストを仲間に迎えることができた菜々美たち。

 しかし、妹のミーナを救い出した直後、イレギュラーのボス、モグリ・メグラが姿を消してしまった。

 ミストは険しい表情で城の中を進んでいた。

「メグラを放っておいてはマズイ!」

 その声には、明らかな焦りがあった。

「ミスト!奴は一体何者でござるか?」

 武が尋ねる。

「僕には奴が強いとは思えなかったでござるが…」

「ああ…奴が歯車のずれの影響で手に入れたのは俺やフランのような単純な力じゃない…」

 ミストは足を止めずに答えた。

「別世界へ移動出来る力…そう、菜々美のように…」

「え?」

 菜々美は驚いて顔を上げた。

「俺達、イレギュラーが別世界に移動出来るのは奴の力を使ってるからだ…」

「そして奴はその力でとんでもないことを企んでいる…」

「とんでもないこと…なんだよそれ…」

 フランが眉をひそめた。

 しかし、ミストが答えるよりも早く、一行は巨大な扉の前へたどり着いた。

 城の奥深くに設けられたその扉は、周囲の壁よりもひときわ大きく、重々しい雰囲気を放っていた。

「奴はおそらくここにいる…」

 ミストが扉を見据えた。

 一行は警戒しながら扉を開き、中へ足を踏み入れた。

「ちっ!来ましたか…まあ、いいでしょう…」

 部屋の奥には、メグラが立っていた。

「やめろ!メグラ!お前…それを解放したらどうなるか分かっているのか!?」

 ミストが叫んだ。

 その剣幕に、菜々美たちは思わず足を止めた。

「分かってますよ…ありとあらゆる世界…全てが完全に滅亡する!!」

 メグラは不気味な笑みを浮かべた。

「!?」

「何!?」

「嘘…!?」

「なんだと!?」

 菜々美たちは一斉に驚きの声を上げた。

「ひっひっひっ…これをご覧なさい…」

 メグラが部屋の奥を示した。

 そこには、巨大な鏡が置かれていた。

「あれって…鏡だよね…?」

 菜々美は首を傾げた。

「そう!一見、何の変哲もない…ただ大きいだけの鏡です…」

 メグラは楽しそうに答えた。

 その瞬間、ミストの姿が消えた。

 シュン……。

「はあああああ!!!」

 凄まじい速さでメグラへ襲いかかる。

 だが――。

 バンッ!

 ミストの拳は、メグラの手前で何かに阻まれた。

「な!透明のバリア…!?」

 見えない壁が、ミストの攻撃を完全に受け止めていた。

「説明しようとしてるところを殴りかかろうとするなんて…おっかないですねぇ…」

 メグラはわざとらしく肩をすくめた。

「良かったですよ…事前にバリアを張っといて…」

「くそっ!」

 ミストが歯を食いしばる。

「あ!それと…そのバリア…あなた達の力じゃ破壊することは出来ません…もちろん魔法でもね…」

 メグラは余裕たっぷりに笑った。

「どうしたんだミスト!あの鏡に何かあるのか…?」

 フランが問いかける。

「気になりますよねぇ!今、説明いたしますよ!」

 メグラは待っていたと言わんばかりに口を開いた。

「この鏡…実はあるところに繋がっているんですよ…」

「あるところ…」

 武が呟く。

「それは…世界の歯車が存在する場所です!」

「世界の歯車!?」

 菜々美が目を見開いた。

「なんと!?」

 武も驚きを隠せない。

「それって結構やばくねえか?」

 フランが鏡を見つめた。

「あなた達、何故…世界の歯車がずれたかご存知ですか?」

 メグラが問いかけた。

「いや…知らない…でもずれるのは運命だったって…」

 菜々美は、旅の始まりに聞かされた話を思い出した。

「そう!運命だったのです!」

 メグラは大きく頷いた。

「この歯車がある世界には歯車以外の物は存在しません…ましてや生き物などが生まれるなんて、まさか絶対起こるはずがありません…」

 メグラはゆっくりと鏡の前を歩いた。

「ですが…起こったんですよ…」

「生まれるはずのない生き物が…この歯車だけの世界に…生まれたんですよ…」

 菜々美たちは黙って耳を傾けた。

「どうして生まれたかも分からないその生き物は最初はとても小さなものでした…ですので歯車には何の影響も無かったのです…」

「ですが…その生き物は食べ物も水も無いにも関わらずどんどん成長していったのです…」

「そしてどんどんどんどん大きくなっていった生き物はやがて周りにあった歯車に干渉していき…」

「とうとう一つの歯車がずれてしまった…」

 メグラの説明が終わると、菜々美は呆然と呟いた。

「そんなことが私の知らないところで起こってたなんて…」

 自分たちの世界を滅亡させた原因が、そんな場所に存在していたとは思いもしなかった。

「でもよお…だからなんなんだ?」

 フランが口を挟んだ。

「俺はてっきりその歯車の世界に繋がってる鏡にあんたが入って直接手を加えるのかと思ってたけど…」

「ご丁寧に説明してくれたってことは別の考えがあるってことだよな?世間話にしちゃ今のは、ちと面白みに欠けるぜ」

 メグラはフランへ顔を向けた。

「直接手を加えるなんてことが出来るならしますよ…」

「一つ聞きますがあなた達は歯車のある世界に生まれた生き物と聞いてどんなものを想像しましたか?」

「なんだって?」

 フランが聞き返した。

「どんなもの…と聞かれても…」

 武は困ったように眉を寄せる。

「そりゃ…まあ…」

 セイレーヌも言葉を探した。

「やっぱ…凄いと思う」

 菜々美が答えた。

「乏しいですね…あなた達に聞いた私が馬鹿でしたよ…」

 メグラは呆れたようにため息をついた。

「あいつ腹立つな」

 フランが小声で呟いた。

「想像出来ないならば実際に見せてあげますよ!」

 メグラは大きな鏡へ近づいた。

 そして、その表面に手を触れる。

 すると、さっきまで部屋の景色を映していた鏡が、ゆっくりと変化し始めた。

 鏡面が黒く染まり、まるでゲートのような底知れない空間へと変わっていく。

「さあ!この世界を破壊し尽くしなさい!歯車の世界に生まれし魔獣よ!」

 メグラが叫んだ。

 黒い空間の奥で、何かが動いた。

 やがて、巨大な手が鏡の中から現れた。

「おいおい…手だけであんなにでかいのかよ…」

 フランが思わず後ずさった。

「奴は天をも揺るがすと言われている魔獣だ…あの鏡から出してはいけない!!」

 ミストは必死に透明なバリアを殴りつけた。

 しかし、どれほど力を込めても、壁はびくともしなかった。

「無駄ですよ!!世界はもう滅亡する未来しかありません!!ひっひっひっ!!」

 メグラの笑い声が響く。

「グシュルルルル…」

 鏡の奥から、不気味な唸り声が聞こえてきた。

 巨大な手に続いて、魔獣の体が少しずつ姿を現す。

 その体には、いくつもの鎖が巻きついていた。

 鎖に縛られながらも、魔獣は黒い空間から這い出してくる。

 そして、とうとうその全身が鏡の外へ現れた。

「神を名乗る不届者どもめ…鎖でどうにかしようとした…という訳ですか…」

 メグラは魔獣を見上げた。

「まあいいでしょう!!この魔獣が世界に姿を現したのなら最早、鎖でどうにかなるものでもありません!!」

「ひっひっひっ…ひゃはははは!!!」

 狂ったような笑い声が響いた、その直後だった。

「グアアアアアアアアアッ!!!!!」

 魔獣が凄まじい雄叫びを上げた。

 空気が震え、床が揺れる。

 衝撃は部屋全体へ広がり、メグラの張った透明なバリアさえ粉々に破壊した。

 ありとあらゆるものが吹き飛ばされていく。

「うげえええ!」

 メグラも悲鳴を上げ、吹き飛ばされた。

「ぐっ…ミーナ!」

 ミストは咄嗟に妹へ手を伸ばした。

 吹き飛ばされそうになっていたミーナを抱きしめ、必死に守る。

「お兄ちゃん…」

 ミーナが兄にしがみついた。

「菜々美!僕に掴まるでござる!」

 武が手を伸ばした。

「武…」

 菜々美はその手を掴んだ。

「きゃあああ!!」

 セイレーヌの悲鳴が響く。

「セイレーヌ!」

 フランが腕を伸ばした。

 ガシッ!

「フランさん!」

 セイレーヌの手を、フランがしっかりと掴んだ。

「大丈夫だ!」

 やがて衝撃が収まり、辺りに重苦しい静けさが戻った。

「グルルルルル…」

 魔獣は低く唸りながら、その場に立っていた。

「はぁ……はぁ……」

 武は荒い息を整えながら、巨大な姿を見上げた。

「これが…世界の歯車をずらした魔獣の力…」

「あれ以上、動いたらまずい…」

 フランの表情も険しかった。

「とにかくあの鏡の中に戻すんだ!!」

 ミストが叫んだ。

「う…うぅ…」

 少し離れた場所では、吹き飛ばされたメグラが倒れていた。

 その体は動かず、気を失っているように見えた。

 しかし、やがてかすかな声が漏れた。

「い…いいですよ…その調子で…世界を…破滅して…やりなさい…」

 メグラは苦しそうに呟いた。

 菜々美たちは、もう彼に構っている余裕などなかった。

「はああああ!!」

 武が薙刀を構え、魔獣へ突進する。

「うっしゃああああ!!」

 フランも拳を握りしめて飛び込んだ。

「はあ!はあ!はあ!!」

 ミストは鋭い攻撃を次々と繰り出した。

「プリティ!ラブリー!ハート!!インパクト!!!」

 セイレーヌの最大の魔法が放たれる。

 四人の攻撃が一斉に魔獣へ襲いかかった。

「ガアア!!」

 しかし、魔獣は大きな声を上げただけだった。

 その巨体には、傷一つついていない。

 まるで、何事もなかったかのように腕を持ち上げる。

 そして、勢いよく払いのけた。

「うあッ!!」

「うぐッ!!」

「くッ!!」

「きゃあ!!」

 武、フラン、ミスト、セイレーヌの四人が一瞬にして弾き飛ばされた。

「みんな!!」

 菜々美が叫んだ。

「ありゃ全く効いてねえぜ…」

 フランは苦しそうに体を起こした。

「私の最大の魔法も効かなかった…」

 セイレーヌは呆然と魔獣を見上げた。

「大ピンチでござるな…」

 武も歯を食いしばった。

「…」

 菜々美は黙って魔獣を見つめていた。

 あれほど強い仲間たちの攻撃が、まったく通じない。

 世界の歯車をずらしたという魔獣は、それほどまでに強大だった。

 それでも。

 ここで諦めるわけにはいかなかった。

「武!!この刀借りるよ!!」

 菜々美は武の武器を手に取った。

「菜々美!?何をするつもりでござるか!!」

 武が驚いて叫ぶ。

 しかし、菜々美はもう動き出していた。

 目の前にゲートを開き、その中へ飛び込む。

 次の瞬間、菜々美は魔獣の頭上へ姿を現した。

 遥か下に、巨大な魔獣の頭が見える。

 菜々美は武器を強く握りしめた。

「私だって…」

 これまでの旅で、仲間たちは何度も自分を守ってくれた。

 大和も、武も、セイレーヌも、フランも。

 今度は、自分が動く番だった。

「やるときは…」

 菜々美は落下する勢いに身を任せた。

「やるんだから!!!」

 魔獣の眉間を見据える。

「はああああああああああああああああああ!!!!!」

 ありったけの力を込めた。

「いっけええええええええええええええええ!!!!!」

 ザクッ!!

 武器の刃が、魔獣の眉間へ突き刺さった。

「グアアアアアアアアアッ!!!!!」

 魔獣が凄まじい悲鳴を上げた。

 その巨体が大きく揺れる。

 痛みに耐えかねたように後ずさりし、背後に倒れていた鏡へと落ちていった。

「やったぞ!!魔獣が落ちていく!!」

 フランが歓声を上げた。

 だが、ミストはすぐに異変に気づいた。

「!?やばい!!魔獣が口を開いてる!!菜々美を狙ってるぞ!!」

 魔獣の口が大きく開かれていた。

「まさか…あの魔獣も映画の怪獣みたいに…」

 武が呟いた。

 次の瞬間。

 バアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 魔獣の口から、巨大な熱線が放たれた。

 鏡へ落ちていく魔獣が、最後の攻撃を仕掛けたのだ。

 熱線は真っ直ぐ菜々美へ迫っていた。

「プリティ!菜々美を守って!!」

 セイレーヌが叫んだ。

 菜々美の前に魔法の盾が現れる。

 しかし、熱線がぶつかった瞬間、盾の表面に無数の亀裂が走った。

 バキバキバキバキ!!

「駄目!!全然もたない!!」

 セイレーヌの悲痛な声が響く。

 バッキィン!!

 盾が砕け散った。

「菜々美!!」

 フランが叫ぶ。

「菜々美…」

 武は言葉を失った。

 魔獣の放った熱線は、そのまま天井をも突き破った。

 凄まじい轟音とともに、破片が降り注ぐ。

「嘘…私の…魔法じゃ…守れ…なかった…」

 セイレーヌは震える声で呟いた。

「嘘だろ…」

 フランも呆然と立ち尽くしていた。

 そのときだった。

「皆さん!!あれ!!」

 ミーナが声を上げた。

 彼女が指さした方向へ、全員が振り向く。

「みんな~!!私なら大丈夫~!!」

 聞き慣れた声が響いた。

 そこには、ミストに抱きかかえられた菜々美の姿があった。

 ミストは菜々美を抱えたまま、ゆっくりと降りてくる。

「菜々美!!!」

 武、セイレーヌ、フランの声が重なった。

「間に合って良かった」

 ミストが静かに言った。

「ミスト!!お前!!やるじゃねえか!!」

 フランが嬉しそうに叫ぶ。

「無事で良かったでござる!!」

 武も安堵の表情を浮かべた。

「良かった…良かったよ…私…てっきり…」

 セイレーヌは今にも泣き出しそうだった。

「もう!大丈夫だよ!セイレーヌ!!」

 菜々美は笑顔で答えた。

 ミストは菜々美を下ろすと、鏡へ視線を向けた。

「よし…後はあの鏡を破壊するだけだ」

 拳を握りしめる。

「はあっ!!」

 パリンッ!

 鋭い音とともに、鏡が砕け散った。

 黒い空間への入り口が失われ、部屋にはようやく静けさが戻った。

「良かった…これで…もう…」

 菜々美は安堵の息をついた。

 そして、ミストへ向き直る。

「ねえ!ミスト!最後に私達に協力して!」

「ああ、分かってる」

 ミストは頷いた。

 そのあと、妹へ顔を向けた。

「ミーナ!」

「何?お兄ちゃん」

 ミーナが見上げる。

「世界が元に戻ったら…家族みんなで楽しく暮らそう…」

 ミストは穏やかな声で言った。

「!…うん!!」

 ミーナは嬉しそうに頷いた。

 菜々美は仲間たちを見渡した。

 ようやく、世界を元に戻すための仲間が揃った。

「じゃあ…いくよ」

 菜々美は手を前に出し、ゲートを開いた。

 その向こうに広がっていたのは、これまでとはまったく違う景色だった。

 いつもの薄暗い空間ではない。

 まるで宇宙の中にいるような、幻想的な光景がどこまでも広がっていた。

 無数の光が暗がりの中で瞬き、遠くまで続いている。

「うわあ!凄い!」

 菜々美が目を輝かせた。

「綺麗でござるな!」

 武も感嘆の声を上げる。

「本当!」

 セイレーヌが頷いた。

「おお!」

 フランも思わず声を漏らした。

 そのとき、聞き覚えのある声が響いた。

「ここに来たということは無事に仲間が揃ったようだね」

 菜々美が振り向く。

「あ!あなたは…えっと…最初の…おじさん!」

(名前が出てこない…まあ、いいや)

 そこにいたのは、旅の始まりに菜々美へ世界の歯車について説明した、合点承知之助だった。

「今までどんなことがあったのか…見守ることすら出来なかった私達にはとても想像出来ないことがあっただろう…今こうして世界を元に戻せるのは君達のおかげだ!君達には本当に心から感謝している…ありがとう」

 承知之助は五人へ深く感謝を伝えた。

「あんたが誰だか知らないけど…まあ、どういたしましてってところかな!」

 フランが笑った。

「これから世界を元に戻す」

 承知之助が告げた。

「みんなで手を繋いでくれ」

「分かった!」

 菜々美は頷き、隣へ手を伸ばした。

「ミスト!」

「ああ」

 ミストがその手を取った。

「時光 武」

「うむ!」

 武が続く。

「ルーズ・セイレーヌ!」

「はい!」

 セイレーヌが手を繋いだ。

「ヌーベルト・フランさん!」

「おう!」

 フランが最後の手を取った。

 五人は互いの手を繋ぎ、一つの輪になった。

 相原菜々美。

 ミスト。

 時光武。

 ルーズ・セイレーヌ。

 ヌーベルト・フラン。

 名前が繋がり、最後の「ん」へとたどり着く。

 長い旅の末に、ようやく完成したしりとりだった。

「そしたらみんな、目を閉じるんだ」

「ただ、その前に1つだけ」

 承知之助が優しく告げた。

「もう、気付いた頃には元の世界に戻っているはずだ 何か言いたいことがあるなら今のうちに言っておくといい」

 その言葉に、五人は互いの顔を見つめた。

 世界が元に戻れば、もう会えなくなるかもしれない。

 それぞれの世界へ帰るときが、近づいていた。

「そっか……みんなと一緒にいれてとても楽しかったでござるよ」

 武が微笑んだ。

「うん!本当に楽しかった!」

 セイレーヌも笑顔で答えた。

「俺もすげえ楽しかったよ…お前らと一緒にいて学んだこともあった…」

 フランは仲間たちを見渡した。

「お前達には本当に感謝している…ありがとうな…」

 ミストが静かに言った。

 菜々美は四人の顔を順番に見つめた。

 胸の奥が、少しだけ苦しくなった。

 けれど、最後は笑顔で別れたかった。

「私が言いたいこともう皆に言われちゃった!」

「ふふ、菜々美!」

 武が笑った。

「フフフ!」

 セイレーヌも笑みを浮かべる。

「おいおい!ヘヘヘ!」

 フランも楽しそうに笑った。

「フッ…!」

 ミストの口元にも、小さな笑みが浮かんだ。

「でも私からも言うね!」

 菜々美はみんなの顔を見た。

 初めて訪れた世界。

 そこで出会った人たち。

 楽しかったことも、怖かったことも、悲しかったこともあった。

 それでも、みんなと一緒に旅ができてよかった。

「本当に本当に楽しかったよ!みんなありがとう!」

 五人は手を繋いだまま、静かに目を閉じた。

 * * *

 ピピピピ。

 耳元で目覚まし時計が鳴っている。

「ふあぁ~もう~うるさいなあ」

 私は眠い目をこすりながら、手を伸ばした。

 ピピガシャ。

 目覚ましを止めて、もう一度布団に潜り込もうとする。

「う~んってあれ!」

 私は勢いよく体を起こした。

 慌ててスマホを手に取り、日付を確認する。

 X月O日。

 今日は、世界が滅亡すると予言されていた日だった。

「元の世界に…戻った…」

 私はベッドから飛び起き、急いでリビングへ向かった。

 けれど、そこには誰もいなかった。

「あのおじさんがいない…」

 世界の歯車について教えてくれた、あのおじさんの姿はどこにもなかった。

 私はテレビをつけた。

 画面には、いつも通りの朝の番組が映っていた。

 何事もなかったかのように、明るい声が流れている。

 外に出てみると、犬の散歩をしているおばさんがいた。

 見慣れた道。

 見慣れた家。

 見慣れた朝の風景。

 何もかもが、いつも通りだった。

「世界が元に戻ったんだ…」

 私は呟いた。

 世界は確かに元に戻った。

 私たちの旅は、ちゃんと成功したんだ。

 私は世界を救った。

 でも、なんでだろう。

 嬉しいとか、喜びとか、そういう感情が全くなかった。

 私は正直、今の生活が好きじゃない。

 お母さんもお父さんも仕事ばっかりで、会う時間なんてほとんどなかった。

 それに、顔を合わせても会話することなんてない。

 学校の授業も退屈で、部活も最初は楽しかったけど、今はただただつらいだけ。

 友達と一緒にいるのも、最近はなんだか疲れる。

 なんで私は、あんなに必死になって世界を救おうとしたんだろう?

 自分の為?

 みんなの為?

 一体、何の為?

 私は大和たちと一緒にいて楽しかったから……。

 大和……。

 大和は無事なのかな……。

 世界が元に戻れば、きっと帰ってきてくれる。

 私はそう信じていた。

 でも、本当にそうなったのかは分からない。

 もう一度会いたい。

 ただ、それだけだった。

 今日からまた、いつものなんにもない日常が始まる。

 学校へ行くと、みんなは世界滅亡の予言の話で夢中だった。

 予言なんか当たらないだの、嘘だのと言っている。

 本当は昨日、世界が滅亡していたなんて、誰も知らない。

 あんなに大変なことがあったのに。

 みんなで必死に戦ったのに。

 世界は何事もなかったように動いている。

「みんな!席について!」

 担任の先生の声が響いた。

 教室が少しずつ静かになる。

「今日からうちのクラスの仲間になる転校生を紹介するわ!」

「転校生だって!男の子かな!女の子かな!」

 クラスのみんなが一斉に騒ぎ始めた。

 私はぼんやりと、その様子を眺めていた。

 転校生か。

 みんなは楽しそうだけど、私にはどうでもよかった。

 こんな世界にいても、全然楽しくなんかない……。

 教室の扉が開いた。

 一人の男の子が入ってくる。

「皆さんはじめまして」

 その声を聞いた瞬間、私は顔を上げた。

「未来 大和です」

「え?」

………………………………………

 やっぱりちょっと楽しいかも。

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