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ハズレ収納スキルの正体は【データベース】でした  作者: どみさん


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招待状

 先月の終わりから、半月ほど過ぎた。


 エドが裏口で配達の荷を組み立てていた。木箱の積み方を確かめて、肩紐を引いて、具合を見る。いつもの順番だ。リッツは事務所の奥で帳簿を広げていた。指先が数字の列を追う。ページをめくる音がする。窓の外では、ミラが裏庭で剣を振っていた。横薙ぎから突き、上段、振り下ろし、袈裟。決まった順番で、決まったリズムで。朝の光が石畳を斜めに照らして、ミラの影が細長く伸びていた。


 何も変わっていない。それが答えだった。



  ◇



 バルクハルトの使者が来たのは、エドが荷を背負って出た直後だった。


 書簡一通。受け取ると使者は何も言わずに帰った。


 「夜会の招待状に問題が起きている。至急確認されたし」


 短い一行だった。


 事務所に入ってきたセレナが、俺の表情を見て立ち止まる。外套を椅子にかけながら「何?」と言った。


 「バルクハルトから。夜会の招待状に問題が出たらしい」


 セレナが軽く眉を上げた。それだけだった。表情に何も出ない。


 三日後に宮廷への初出仕を控えているのに、平然としすぎている。


 ただ、朝からずっと銀髪を一度も触っていない。普段なら癖のように毛先を指で巻く。そこだけが、意識の居場所を教えていた。



  ◇



 王宮の秋の夜会。複数の貴族家に招待状が届いた。


 内容は同じだ。同じ日、同じ時刻、同じ王の署名。同じ印璽。


 ただし会場だけが違う。東翼の大広間と書かれた招待状と、南翼の宴席と書かれた招待状が、混在している。


 書簡に記された貴族家の一覧を見た。どちらの招待状を受け取ったかが整理されていた。片方だけを受け取った家もあれば、両方が届いた家もある。同一家の当主宛と夫人宛で別々の会場が書かれているケースもあった。


 会場が違えば、納入先も変わる。酒、食材、花、給仕、警備。夜会は見栄の場だが、裏では金が動く。東翼と南翼の両方に同じ規模の準備を走らせれば、それだけで相当額になる。


 最初に頭に浮かんだのは、ディートリヒの名前だった。【模写】。文書偽造。この手口は彼の得意技だ。


 だが、即座に切った。ディートリヒは拘束されている。先月、バルクハルトが南区倉庫で押さえた。


 「ディートリヒの模倣者か。それとも別の誰かか」


 思考を声に出したわけではない。手元の紙を見ながら、一人で確認しただけだ。


 紙を持ち上げて、印璽に目を近づけた。王宮の正紋章。刻みの深さ、インクの発色。偽造品には必ず微細な揺れがある。完璧に見えても、原本の圧力と複製の圧力は微妙に違う。


 この紙の印璽に揺れはなかった。


 セレナが隣に立って、同じ紙を覗き込んでいた。青い目が印璽を見て、それから俺を見た。


 「本物ね」


 「ああ。俺も同じ判断だ」


 「どちらも?」


 「どちらも」



  ◇



 情報仲介役の権限を使ってギルドに照会をかけた。配布記録の全件取得。あわせて、夜会向け納入の仮押さえがどちらの会場名で走っているかも洗わせる。エドを走らせた。


 「連絡係っす」とエドは言って、荷も下ろさずに出て行った。軽い足音が遠ざかる。


 戻ってくるまでの時間に、リッツが差し出したコーヒーを飲んだ。苦みが喉の奥に残る。書簡の一覧をもう一度確かめる。貴族家の名前と受け取り先。配達日時。受取確認のサイン。どれも乱れがない。丁寧に整理されている。


 丁寧すぎる、と思った。


 ミラが裏庭から戻ってきた。素振りが終わった顔をして、タオルで手を拭きながら、書簡の一覧に視線を落とした。


 「ごちゃごちゃしてる」


 それだけ言って、厨房のほうへ消えた。



  ◇



 エドが記録を持ち帰ったのは昼前だった。


 ギルドの配布記録。招待状の発送元、経由ポイント、受け取り確認のサイン、全てが通常通りだった。どの招待状も王宮発行の正規ルートを経由している。ギルドの受付印も本物だ。書記の署名も、俺が記録している筆跡パターンと一致する。


 納入の仮押さえも割れていた。東翼名義で酒樽が六本。南翼名義で同じ銘柄が六本。花の仕入れも、給仕の手配も、警備の増員申請も、両方に走っている。


 紙を並べて照合した。二十七通。全件確認した。


 「偽物なら見抜ける。だがこれは全部本物だ」


 セレナが俺の言葉を聞いて、少しの間、何かを考えるような顔をした。指が机の縁に触れた。一回、軽く叩く。


 「偽造じゃないなら、何?」


 俺は紙を机に置いた。


 「本物が二つの場所に分かれた。印璽も紙も経路も全部正規品だ。だが会場だけが違う。これは偽造じゃない。流通が操作されている」


 「発行の段階で?」


 「そこまではまだわからない。どこで分かれたかを追う必要がある」


 窓から王都の通りが見えた。石畳を行き交う人々の誰も、アルク商会の窓を見ていない。どこかで昼の荷台が揺れる音がした。


 本物が二つある。


 俺はDBに照会をかけた。貴族家の招待状受領パターン、夜会の開催記録、東翼と南翼の使用履歴。データは整然と並ぶ。どこにも異常はない。


 異常がないのに、おかしい。


 本物だけで、人を間違った場所に集める誰かがいる。


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