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ハズレ収納スキルの正体は【データベース】でした  作者: どみさん


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鏡像

 クレアの報告は短かった。


 神殿記録室に侵入痕がある。ただし、レプリカには辿り着けなかった。保管場所を変えておいた判断が当たった。ギルドの金庫にも手が伸びた。こちらはヴェルナーが気づいて阻止した。接触した形跡だけ残して退いた。相手が何を狙っていたかは、まだ分からない。


 「以上です」


 クレアが書類を畳んだ。蝋燭が机の上で一本、静かに燃えている。炎が揺れた。報告書の紙に触れると、乾いた感触が指先に伝わった。インクの跡が浮いている。紙のうえに、クレアの几帳面な文字が並んでいる。


 頭の中でEXPLAINを走らせた。ディートリヒの動きを並べると、見えてくるものがある。接触経路ではなく、情報の流れを狙っている。証拠そのものより、証拠がどこにあるかを探している。存在を消すより、配置を把握してから一手で刈り取る気だ。方法論が透けて見える。


 「こいつは俺と同じだ」


 声に出たのは計算の残りだった。クレアは眉を動かさなかった。


 情報で動く。全体の構造を読んでから実行する。感情ではなく実行計画で動いている。俺がやってきたこととほぼ同じ構造だ。ただ、方向が逆だ。あいつは情報を使って世界を崩そうとしている。俺は情報を使って守ろうとしている。それだけの違いのはずだった。



  ◇



 事務所に戻ると、机の上に封書が一通あった。


 差出人の名がない。ただ、直筆だった。模写ではない。圧のかけ方、跳ね字の角度。本人が書いたものだと、見た瞬間に分かった。


 封を切った。紙の重さが指先に残った。折り目がついている。丁寧に折られた三つ折りだ。広げると、インクの乾いた匂いが来た。古い紙の匂いではない。乾き方からして、数日以内に書かれている。


 文字を追った。


 「お前と私は似ている。情報を操る者同士だ。違いは、お前が情報を正しいと信じていることだけだ」


 目が止まった。


 喉が一度だけ鳴った。紙を持つ指の腹に、乾いた繊維のざらつきが引っかかった。


 反論が浮かばないのではなかった。反論の形を組み立てようとして、その前に何かが引っかかった。指先で紙の端を持ったまま、次の行に進めなかった。外からは音がしない。蝋燭の芯が微かに鳴った。



  ◇



 蝋燭の炎を目で追った。揺れるたびに机の上の影が動く。


 自分の行動を辿った。セレナに見せた情報の選び方を思い返す。全部を渡したか。正確な情報だったか。嘘はついていない。ただ、順序を選んでいた。何を先に話すか、何を後にするか、どれを黙って抱えるか。全部、選んでいた。


 バルクハルトへの証拠の出し方も同じだ。証拠に嘘はない。だが、出すタイミングと順序は俺が決めた。相手がどう動くかを計算した上で、最も効果が出る形に並べた。


 正しい情報の管理、と俺は思ってきた。だが「見せ方を選ぶ」という構造だけを取り出すと、それはディートリヒがやっていることと同じではないか。嘘か真実かは違う。それでも、受け手が何を見るかをこちらが決めている、という点では。


 そこまで考えて、止まった。


 炎が揺れた。処理が先に進まなかった。レプリケーションの話をするとき、「正しい複製」と「偽造」は別物だと言ってきた。元が正確かどうか、それで足りると思っていた。だが今の自問は、そこに落ちていかない。答えは出なかった。ただ炎が揺れていた。



  ◇



 「見せてもらったわ」


 声がした。


 振り返ると、セレナが部屋の入り口に立っていた。机の上の封書を目で示している。読んだ、ということだ。いつから部屋にいたのかは分からなかった。


 俺は何も言わなかった。


 セレナは部屋に入らなかった。入り口のところで、壁に背を軽く預けて立っている。銀髪が蝋燭の光を受けてかすかに光った。青い目がこちらを見ている。


 「あなたは嘘をつく。私も嘘をつく。でも、あの男との違いは一つよ。あなたの嘘には、守りたいものがある」


 間があった。


 俺も何も返さなかった。


 炎が揺れた。机の上の封書が、折り目のついたまま広がっている。「お前が情報を正しいと信じていることだけだ」という一行が、蝋燭の光の中に見えた。セレナの言葉も残っていた。どちらも消えなかった。


 鏡は映す。だが鏡と本物は違う。


 ——本当に?


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