表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/15

三軒の問屋を一瞬で比較する

 翌朝、俺は南門前市場に向かった。


 王都には三つの市場がある。中央市場は大商人の領域。東市場は職人の街。南門前市場が、新参の行商人にとって一番入りやすい。


 エドが荷車を押しながらついてくる。


 「仕入れ、まだこれからっすか?」


 「もう済んでいる」


 昨夜のうちに、南門近くの薬草問屋を三軒回った。どの問屋が何をいくらで出しているか、データベースで即座に比較できる。昨日手に入れた検索の力が、早速役に立った。


 三軒の問屋の価格が、頭の中に一覧となって浮かぶ。赤傷草はマルコ商店が銅貨180で最安。月光花は東の薬舗が銅貨300。銀苔は南門薬問屋の銅貨460が一番安い。品目ごとに最安の問屋から仕入れる。


 普通の商人なら、一軒の問屋とつきあって全部そこから仕入れる。比較する手間を考えれば、そのほうが効率的だからだ。


 だが、俺には検索がある。手間はゼロに等しい。



  ◇



 南門前市場の片隅に、場所を借りた。


 朝の市場は、焼きたてのパンと家畜の匂いが混じり合っている。木の台を一つ置いて、看板代わりの板を立てる。


 「薬草商 レイン」。エドが炭で書いた字は、正直言って汚い。


 「うーん、客来るかなあ」


 「来る。待ってろ」


 戦時中の王都で、薬草の需要が落ちるわけがない。問題は、どう差別化するかだ。


 最初の客は、昼前に来た。


 冒険者風の男。腕に包帯を巻いている。


 「赤傷草あるか」


 「あります」


 俺は意識の奥でデータベースを走らせた。在庫の中から赤傷草を、さらに品質の高いものだけに絞り込む。


 一瞬で、収納空間から高品質の赤傷草だけが抽出される。手に取り出したのは、葉の色が鮮やかで、茎が太い上物だ。


 「これでどうですか」


 「おっ、いい品だな。いくらだ」


 「銅貨300で」


 男は頷いて、銅貨を置いた。


 仕入れ値が180。粗利は120。悪くない。



  ◇



 午後になると、客足が増えた。


 「月光花が欲しい。できれば今年採れたやつ」


 月光花、鮮度の高いもの。条件を意識で絞り込む。


 「こちらです。今季の収穫で、乾燥も浅いです」


 「早いな。もう出てくるのか」


 客が目を丸くした。


 普通の【収納】持ちは、空間に手を突っ込んで、目当ての品を手探りで引っ張り出す。品数が多ければ多いほど時間がかかる。間違えて別の品を出すこともある。


 俺は違う。条件を指定すれば、一秒で目当ての品が手元に来る。しかも品質が安定している。高品質だけを抽出すれば、外れは出ない。


 俺の方が、圧倒的に速い。


 「兄ちゃん、収納持ちだろ? 他の収納持ちより随分手際がいいな」


 「まあ、ちょっとしたコツがありまして」


 曖昧に笑ってごまかす。手の内を見せる必要はない。



  ◇



 三日目。常連がつき始めた。


 「おう、レインのところに来たぞ」


 「いらっしゃい」


 最初に買ってくれた冒険者の男が、仲間を三人連れている。


 「ここは速いし品質がいい。他の薬草売りとは違う」


 口コミだ。冒険者のネットワークは侮れない。迷宮に潜る連中にとって、薬草は命に関わる。信頼できる店があれば、そこに固定する。


 売上は全てデータベースに記録してある。


 初日、赤傷草が三束売れた。二日目は倍近く。銀苔も出始めた。三日目の夕方、エドが銅貨の山を前にして目を丸くした。


 「え、これ全部今日の分っすか?」


 赤傷草が八束、月光花が四束、銀苔が三束。三日間の粗利で金貨40枚分のペースだ。


 「まだ足りない」


 「えっ、嘘でしょ。これだけ稼いで?」


 足りない。薬草の小売りだけでは、いつまで経っても銅級のままだ。


 俺が見据えているのは、もっと先。貴族相手の大口取引。卸売り。情報を使った商売。


 そのためには、俺に足りないものがある。


 (貴族社会の作法と人脈だ)


 伯爵家の五男とはいえ、俺は社交の場に出たことがない。母が側室で、五男で、スキルは【収納】。晩餐会にすら呼ばれなかった。


 データベースに知識はある。だが、知識と実践は違う。貴族の間で通用する振る舞いは、本だけでは身につかない。


 (誰か、貴族社会に詳しい人間が必要だ)


 そんなことを考えながら、市場を片付けていた時だった。


 南門の方から、怒声が聞こえた。


 「金を払え、この女!」


 「離しなさい。私はそんなもの頼んでいないわ」


 女の声。若い。そして、妙に凛としている。


 没落してなお折れない。そういう声だ。


 俺は足を止めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ