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ハズレ収納スキルの正体は【データベース】でした  作者: どみさん


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同じ数字で三通りの真実を作る

 バルクハルトとの契約から五日後。


 朝から事務所の机には紙が散らばっていた。東方辺境伯領への物資供給。優先権は手に入れた。だが、権利だけでは荷馬車は動かない。


 「整理するわよ」


 セレナが紙を三つの山に分けた。


 一つ目。東方辺境伯に提出する物資供給案。二つ目。バルクハルト経由で王太子派に見せる報告書。三つ目。商人ギルドへの事業届出。


 「同じ取引なのに、三枚必要なのか」


 「当たり前でしょう。辺境伯が知りたいのは『何がいつ届くか』。王太子派が知りたいのは『これで東方が安定するか』。ギルドが知りたいのは『この商人は利益を出せるか』」


 セレナが机を指で叩いた。考えるときの癖だ。


 「数字を出して。東方への輸送で、何がどれだけ必要か」


 俺はデータベースに意識を向けた。


 ノルトから受けた情報がある。東方辺境伯領の人口約二万。駐留兵が3,000。毎月の物資消費は、食糧が金貨400枚相当。薬が金貨120枚。武器の修繕材が金貨80枚。合計で月に金貨600枚が領外へ流出している。


 俺のテーブルには、王都の卸値もある。同じ品目を王都で仕入れれば、食糧は金貨280枚。薬は金貨75枚。修繕材は金貨50枚。合計金貨405枚。


 「差額が月に金貨195枚。これが今の東方の無駄だ」


 「あなたが間に入れば」


 「仕入れと輸送を効率化して、辺境伯への納入価格を金貨480枚に抑えられる。辺境伯は月に金貨120枚を節約。俺の利益は金貨75枚」


 セレナが頷いた。だが、すぐに眉を寄せる。


 「数字は同じ。でも、書き方が違うのよ」


 「どういうことだ」


 「辺境伯には『月に金貨120枚の軍事費削減』と書く。軍事費が浮けば、その分を民生に回せる。壊れた橋の修繕、種籾の確保。辺境伯が欲しいのは財布の余裕」


 セレナが二枚目の紙を取った。


 「王太子派には『東方の安定は南方戦線の後背を守る』と書く。辺境伯領が疲弊すれば帝国との緩衝地帯が崩れる。物資供給は軍事戦略の一環。バルクハルトが上に通すには、この言い方でないと駄目」


 三枚目。


 「ギルドには『利益率15%の継続取引』。政治も軍事も関係ない。数字だけ」


 金貨120枚の節約。南方戦線の後背支援。利益率15%。


 全部、同じデータだ。同じ事実から出ている。


 だが、並べ方が違う。


 俺はデータベースに意識を向けた。12のテーブルが浮かぶ。レコードは正確に格納されている。関係定義も正規化されている。必要な数字はすぐに取り出せる。


 だが、「同じ数字を相手によって組み替える」機能がない。


 今の俺のデータベースは、聞かれたことに答える。金貨いくら、品目いくつ、誰が誰と繋がっているか。正確に、一意に、正規化された形で。


 足りないのは、もう一段上だ。


 同じ事実を、違う角度から見せる。相手の立場に合わせて、切り口を変える。実態は何も変わらない。だが、見え方が変わる。


 (今のデータベースにはその機能がない。正規化されたテーブルをそのまま出すことしかできない)


 「レイン。聞いてる?」


 「ああ。三枚書く。全部、お前の言う通りにする」


 セレナが小さく笑った。


 「素直ね。熱でもあるの」


 「提案書の書き方は、お前の方が上だ」


 「知ってるわ」



  ◇



 昼過ぎ。商人ギルドへ向かった。


 東方辺境伯領への物資供給事業。広域取引に分類されるため、ギルドへの届出が必要になる。


 窓口の中年男が書類を受け取り、目を通した。


 「アルク商会。金級。東方辺境伯領への薬品および食糧の継続供給。月次、期間は一年」


 「はい」


 「輸送経路は」


 「王都から東街道を経由。馬車で六日」


 担当が書類から目を上げた。


 「東街道は山越えだ。この時期、盗賊が出る。護衛の手配は」


 「これからです」


 「護衛なしでは届出を受理できない。規定でね。広域の継続輸送には、武装護衛の帯同証明が要る」


 (護衛か)


 帰り道、エドと合流した。


 「エド。東方まで馬車で六日の護衛。心当たりはあるか」


 「護衛っすか。傭兵ギルドで探すのが早いっすけど……東方って、遠いっすね」


 「遠い。だから護衛が要る」


 「いくらくらい出せるんすか」


 「日当で銀貨3枚。往復で十二日分」


 「銀貨36枚かあ。微妙なラインっすね。腕のいいやつは金級の商会に囲われてるし、安い傭兵は——まあ、それなりっす」


 事務所に戻ると、セレナが三枚の提案書を仕上げていた。


 「護衛が要る。ギルドの規定だ」


 「そうでしょうね。山越えだもの」


 セレナがペンを置いた。


 「提案書は今週中にバルクハルトに送る。辺境伯へはノルト経由。ギルドへの届出は護衛が決まり次第。順番を間違えると面倒よ」


 「分かっている」


 セレナが帰った後、俺は一人で机に向かった。


 データベースに意識を向ける。12のテーブル。5万3,000のレコード。78の関係定義。


 数字は揃っている。事実は正確に格納されている。


 だが、今日気づいた。


 データを持っていることと、データを正しく届けることは違う。


 辺境伯に利益率を見せれば、商人の売り込みにしか見えない。王太子派に節約額を見せれば、小さな話に聞こえる。ギルドに軍事戦略を語れば、話が大きすぎて胡散臭い。


 同じ事実が、見せ方一つで毒になる。


 (俺のデータベースには、まだ足りない機能がある)


 窓の外で日が傾いていた。


 明日はエドに傭兵溜まりを回らせる。護衛を見つけなければ、荷馬車は出せない。


 東方への六日間。その間に、見せ方の答えを見つけなければならない。


 見つけられなければ、三通りの提案書が、三通りの毒になる。


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