このスキル、ただの収納じゃない
翌日から、俺はスキルの検証を始めた。
まずは基本機能の把握だ。何ができて、何ができないのか。限界を知らなければ、計画は立てられない。
「入れてみるか」
手始めに、部屋にあるものを片っ端から収納してみた。
本、インク瓶、羊皮紙、コイン、服、靴。入れるたびに、脳内のテーブルに行が追加されていく。
半透明の表が、頭の中に浮かぶ。ペンは文具、状態は良好。歴史書は本、良好。インク瓶は文具、残り半分。銅貨は金銭、十二枚。全てが自動で分類され、数量まで正確にカウントされている。
「自動分類か。便利だな」
種類の判別も、数量の集計も、状態の記録もスキル任せでいい。
これだけでも、普通の【収納】より遥かに優秀だ。
だが、本当に知りたいのは——
「情報は、どうだ」
俺は歴史書を開き、内容を読んだ。そして、意識を集中してスキルを発動する。
……入った。
テーブルに新しい行が追加される。
番号は五。名前は「建国の歴史」。種類は「知識」。内容の欄に、ヴェルデン王国の歴史が圧縮されて収まっている。
「知識も格納できる」
これだ。これこそが、このスキルの真価。
物だけではない。情報そのものをデータベースに蓄積できる。
俺は次々と本を読み、知識を格納していった。歴史、地理、算術、商売の基礎。読んだ内容は全て、テーブルに整理されて保存される。
「忘れない。いつでも引き出せる」
普通の人間は、読んだ本の内容を忘れる。だが俺は違う。一度格納した知識は、永久に失われない。
◇
三日後。
窓の外では雨が降り、屋根を叩く単調な音が響いている。俺は部屋に籠もり、計画を練っていた。
「まず、現状の整理だ」
俺はスキルに「自分の状況」を格納してみた。
名前、レイン・バルトス。立場、伯爵家五男。年齢、五歳。スキル、データベース。ただし周囲には収納と誤認されている。資産、なし。人脈、なし。評価、期待されていない。
整理された表が、俺の現実を突きつけてくる。
「見事に何もないな」
笑えてくる。だが、悲観はしない。
ないなら、作ればいい。時間はある。成人まで十年。
「十年で何を準備する?」
俺は思考を整理した。
第一に、知識。商売、政治、軍事、社交。あらゆる知識をデータベースに蓄積する。幸い、伯爵家の書庫は使える。誰も五男の読書など気にしない。
第二に、情報。この家の人間関係、領地の状況、王国の情勢。観察し、記録し、分析する。
第三に、計画。いつ、どうやって家を出るか。どこで、何の商売を始めるか。誰を味方につけ、誰を利用するか。
「利用、か」
口にして、自分でも少し驚く。五歳の子供が考えることではないだろう。
だが、これが俺の本性なのだ。
この家で十年。俺を馬鹿にしてきた兄たちの隣で、笑顔を作りながら過ごす。その間に、全てを準備する。
そして十五歳——成人の日に、この家を出る。
「見てろよ」
俺は新しいテーブルを作成した。
知識蓄積、期限は十年、進行中。情報収集、十年、進行中。資金確保、十五歳まで、未着手。独立、十五歳、未着手。
四行の計画が、脳内の表に並ぶ。十年計画の始まりだ。
表向きは、目立たない五男。裏では、虎視眈々と牙を研ぐ。
「さて、まずは書庫に行くか」
俺は部屋を出た。
知識の収集を始めよう。十年後、この家を出る日のために。




