表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/11

【収納】を引いた五歳の俺が笑った理由

 神殿の白い床が、幼い足には冷たかった。


 五歳の誕生日。バルトス伯爵家の子供として、俺はスキル発現式に臨んでいた。


 「次、レイン・バルトス」


 神官の声が響く。俺は祭壇の前に進み出た。


 周囲には父と母、そして四人の兄たち。父の表情は無関心そのもの。五男の儀式など、形式的な義務でしかないのだろう。


 (まあ、そうだろうな)


 俺は内心で肩をすくめた。


 長男は【剣聖】。次男は【槍術】。三男は【強化】。四男は【風魔法】。いずれも戦闘向きのスキル。戦争中のヴェルデン王国では、それこそが価値だ。


 五男の俺に、誰も期待していない。


 「では、始めます」


 神官が祈りを捧げる。光が俺の体を包み、何かが芽生える感覚がある。


 そして——


 「【収納】」


 神官がそう告げた。



  ◇



 「収納か」


 馬車の中で、父がつまらなさそうに言った。


 「まあ、商人にでもなるんだな。伯爵家の五男としては、悪くない道だろう」


 兄たちが笑う。


 「収納って、荷物持ちってことだろ?」


 「戦場じゃ役に立たないな」


 「まあ、五男だし」


 俺は黙って頷いた。


 (好きに言ってろ)


 怒りはない。むしろ好都合だ。期待されないということは、監視されないということ。自由に動ける。


 「レイン、気を落とすな」


 母が小声で言った。父の側室である母は、この家での立場が弱い。俺を気遣う余裕があるだけマシだろう。


 「大丈夫です、母上。商人も悪くないと思います」


 「そう……強い子ね」


 母は少し悲しそうに笑った。


 (悲しむ必要はない。これは、むしろチャンスだ)



  ◇



 屋敷に戻り、自室に入った。


 ようやく一人になれた。俺は早速、スキルを試してみることにした。


 「【収納】」


 意識を集中すると、目の前に半透明の空間が現れる。なるほど、これがスキルの基本機能か。


 試しに、机の上にあったペンを入れてみる。


 ペンが空間に吸い込まれ——


 「……ん?」


 違和感があった。


 普通の収納空間なら、ただ物が入るだけのはず。だが、俺の目の前には、奇妙な「表」が浮かんでいた。


 半透明の板に、文字が整然と並んでいる。番号が一。名前はペン。種類は文具。数量は一。取得日は今日。まるで帳簿のように、項目ごとに整理されている。


 「なんだ、これ」


 俺は他のものも試した。本、コイン、小石。


 入れるたびに、表に行が追加されていく。自動的に分類され、整然と並ぶ。


 「これは……」


 記憶が蘇る。いや、「記憶」というのは正確ではない。


 俺には、前世の記憶がある——というわけではない。だが、この「表」を見た瞬間、なぜか理解できた。


 これは【収納】ではない。


 「データベース……」


 口にした瞬間、スキルが反応する。


 脳内に情報が流れ込んでくる。


 【データベース】データを格納する「表」がある。表の各行を「レコード」と呼び、各列を「フィールド」と呼ぶ。機能は段階的に解放される。


 「段階的に解放……」


 つまり、今はまだ基本機能しか使えない。だが、これだけでも分かる。


 このスキルは、ただの【収納】ではない。


 情報を整理し、管理する力。それが【データベース】の本質だ。


 「面白い」


 思わず口元が緩む。


 周囲は【収納】だと思っている。戦闘では役に立たない、地味なスキル。


 だが、違う。使い方次第で、これは——


 「化けるぞ、これは」


 俺は机に向かい、紙を取り出す。インクの匂いが鼻をくすぐる。


 まずは、このスキルで何ができるか。何を準備すべきか。どうすれば、この家を出て成功できるか。


 計画を立てよう。時間はある。成人まで十年。


 (見てろよ、兄貴ども)


 五歳の夜、俺の計画は始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ