品質を数字で証明する
期限の二日目。
俺はセレナと向かい合っていた。
「明日、子爵家に行く。戦略を確認しておきたい」
「いいわ。聞かせて」
「まず、非を認める。品質にばらつきがあったのは事実だ。言い訳はしない」
「それだけ? 謝るだけで子爵家の執事が納得するとは思えないけど」
「当然、対策を見せる。ここからが本番だ」
俺は紙を取り出し、書き始めた。ペンが紙の表面を引っ掻く、かすかな音が部屋に響く。
「これを、子爵家に提出する」
品質管理証明書。品名は赤傷草。管理番号AK-001。産地はマルコ商店、乾燥法は吊るし干し、効能評価はA、最上位。検査日の欄を空けて、一枚の書式を書き上げた。
セレナが紙を見つめた。
「管理番号?」
「一束ごとに固有の番号を振った。産地、加工方法、効能の評価まで記録してある。どの束がどの品質か、全て追跡できる」
「……それ、いつの間に」
「昨日」
セレナは信じられないという顔をしたが、追及しない。俺のスキルに何かあると分かっているのだろう。
「これを全ての納品に付ける。子爵家には効能Aの品だけを納品する」
「証明書つきの薬草なんて、聞いたことがないわ」
「だからいい。他の商人にはできない。俺だけの差別化だ」
セレナの目が光った。商売の匂いを嗅ぎ取ったらしい。
「それ、子爵家だけじゃなくて全ての顧客に使えるわね」
「そのつもりだ」
◇
期限の三日目。グレイス子爵邸。
応接間に通された。あの痩せた執事が、腕を組んで待っている。
「期限通りですね。説明を聞きましょう」
俺は頭を下げた。
「まず、お詫びを申し上げます。先日の納品に品質のばらつきがあったのは事実です」
執事の目がさらに鋭くなる。
「認めるのですね」
「はい。原因は特定しました」
俺は赤傷草を二束、並べて見せた。
「こちらが吊るし干しの赤傷草。効能評価A。そしてこちらが平干し。効能評価B。見た目は似ていますが、乾燥法が違い、効きに3割ほどの差があります」
執事が二つの束を手に取り、見比べた。
「確かに……茎の質感が違う」
「先日の納品では、この二つが混在していました。同じ『赤傷草』として管理していたのが原因です」
「それで、対策は」
俺はセレナから書類を受け取り、執事に渡す。
品質管理証明書。管理番号、産地、加工方法、効能評価。一束ごとに、全ての情報が記されている。
「今後の納品では、一束ごとにこの証明書をお付けします。子爵家には効能A評価の品のみを納品いたします」
執事は証明書を読んでいる。長い沈黙。
「……こんなものを出す商人は初めて見ました」
「他にやっている者がいないので」
「大手の商会でも、ここまでの品質管理はしていません」
「大手には大手の事情があるのでしょう。俺は小さな商人ですから、信用を失うわけにはいかないんです」
嘘ではない。だが、全てでもない。この仕組みは、俺のデータベースがあってこそ成り立つ。他の商人が真似しようとしても、管理の手間に潰れるだろう。
執事がようやく腕を解く。
「本日、代替品はお持ちですか」
「はい。効能A評価の赤傷草を、先日と同数。全て証明書つきです」
セレナが目配せした。俺は頷いて、収納空間から赤傷草を取り出す。
在庫の中から、赤傷草で効能評価Aのものだけを意識で選り分け、一束ずつ取り出していく。
一束ごとに、証明書を添えて。
執事は一束一束、丁寧に確認した。
「……結構です。品質は申し分ない」
俺とセレナは、同時に息をつく。
「今後の取引は継続します。ただし——」
執事が言った。
「次にばらつきがあれば、その時は本当に終わりです」
「承知しています」
「それと」
執事の声が、わずかに柔らかくなった。
「この証明書の仕組みは、他のお客様にも使うつもりですか」
「はい」
「であれば、うちの分は効能Aで固定していただきたい。他のお得意様に回す分も含めて」
(優先契約か。なるほど)
子爵家のプライドだ。男爵家と同じ品質では我慢ならない。上位の品を確保したい。
「もちろんです」
こうして、品質クレームは取引の強化に変わった。
◇
子爵邸を出た通りで、セレナが言った。
「あの執事、最後は満足していたわね」
「ああ。怒りが優越感に変わった。他の客には出さない最上位を、自分のところは確保できたからな」
「あなたって本当に、人の感情を値段に換算するのね」
「商人ですから」
セレナは呆れたように笑う。
「悪くないわ。この仕事」
二回目の「悪くない」だった。




