表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ収納スキルの正体は【データベース】でした  作者: どみさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/26

一つとして同じ薬草はない

 期限の一日目。


 俺は問屋街を歩いていた。通りに並ぶ店先から、乾いた薬草と土の混じった匂いが漂ってくる。


 手元には、子爵家に納品した赤傷草と同じロットの残り。これをマルコ商店と東の薬舗に持ち込み、出所を確認する。


 「ああ、これはうちの品じゃないな」


 マルコ商店の主人が、赤傷草を一目見て言った。


 「乾燥の仕方が違う。うちは吊るし干しだが、これは平干しだ。東の薬舗の品だろう」


 「品質に差は出ますか」


 「出るよ。吊るし干しのほうが成分が抜けにくい。平干しは安いが、効きは落ちる」


 なるほど。同じ「赤傷草」「品質: 高」でも、乾燥方法で効能が変わる。俺のデータベースは、そこまで記録していなかった。


 東の薬舗でも確認した。


 「うちの品で間違いないね。平干しの赤傷草は安い分、効きは七割ってところだ。だから値段も安くしてるだろ?」


 安い。確かに安かった。俺はそれを「同じ品質の安い仕入れ先」と判断して、混ぜて納品していた。


 (値段が安いには理由があった。それを見落とした)


 データベースは万能ではない。入力された情報が不十分なら、出力も不十分になる。


 当然のことだ。だが、渦中にいると見えなくなる。



  ◇



 宿に戻り、俺は在庫を全て取り出した。


 部屋の床に、薬草が山になる。赤傷草、月光花、銀苔、青葉草、白粉花。五種類、合わせて数百束。


 「こ、これ全部やるんですか」


 エドが目を丸くした。


 「仕分けだ。全部一つずつ調べる」


 「全部……?」


 「手伝え」


 エドと二人で、薬草を一束ずつ確認していく。


 色、茎の太さ、乾燥の具合、匂い。マルコ商店の品と東の薬舗の品では、よく見れば違いがある。混ぜれば分からないが、並べれば分かる。


 「こっちが吊るし干し。こっちが平干し」


 「言われてみると、匂いも微妙に違いますね。こっちの方が青臭さが残ってる」


 三時間かけて、全ての薬草を仕分けた。


 その過程で、俺はある作業を繰り返していた。


 一束手に取るたびに、データベースに意識を向ける。


 「この束は、あの束とは違う」と認識しながら格納し直す。


 一束目。二束目。三束目。同じ名前でも、違うものだと認識する。この一つ一つに、固有の識別が必要だと。


 五十束目を超えたあたりだった。


 (これは「この赤傷草」であって、「あの赤傷草」ではない)


 その認識が、限界まで研ぎ澄まされた瞬間。


 視界が、開けた。



  ◇



 脳裏に新しい情報が流れ込んでくる。主キー。各レコードに固有の識別子を付与する機能。同じ名前のレコードでも、個体として区別できる。しかも、既存のレコードにまで遡って適用される。


 「主キー……」


 目の前の赤傷草を、もう一度データベースに格納した。


 今度は違う。


 脳裏に浮かぶ情報の解像度が、一段上がっている。AK-001、赤傷草、品質・高、産地はマルコ商店、乾燥法は吊るし干し、効能評価A。続いてAK-002、同じ赤傷草の品質・高でも、産地は東の薬舗、乾燥法は平干し、効能評価B。AK-003はマルコ商店の吊るし干しで評価A。AK-004は南門市場の平干しで品質・中、評価C。


 一束ごとに、固有の番号が振られている。


 同じ「赤傷草」「品質: 高」でも、AK-001とAK-002は別物だ。産地も乾燥法も、効能評価も違う。


 「これだ」


 俺は次々と薬草を格納し直した。


 月光花にはGK、銀苔にはGT、青葉草にはAS、白粉花にはHP。全ての束に固有の番号が付いていく。


 さらに。


 在庫の中から、赤傷草で効能評価がAのものだけを意識で引き出す。


 結果が返る。効能Aの赤傷草だけが抽出される。全てマルコ商店の吊るし干し。


 「品質の中の品質を、選別できる」


 これなら、顧客ごとに最適な品を振り分けられる。子爵家には効能Aのものだけを納品する。ばらつきは生まれない。


 「レイン様、さっきから一人で笑ってます。怖いんですけど」


 「問題ない。解決策が見つかった」


 エドが首を傾げている。


 俺は床に散らばった薬草を眺める。同じに見えて、全て違う。そして今、その違いが全てデータベースに刻まれている。


 既存のレコードにも主キーが遡及適用されていた。5万を超えるレコードの一つ一つに、固有の識別子が付いているのだ。


 (二度と見落とさない)


 あとは、この機能を使って子爵家への回答を準備する。期限まで、あと二日。


 十分だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ