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カエサルの左腕 ~ 外傷外科医だった俺は、古代ローマで軍医参謀になった  作者: 東雲 諒杏
第四章 六百歩先の陣地

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第72話 七つの軍団、七つの方法


各軍団の医療責任者を集めた。

第七軍団。

第八軍団。

第九軍団。

第十軍団。

第十一軍団。

第十二軍団。

さらに補助兵と騎兵部隊。

正式な医師。

ギリシャ人治療師。

薬草師。

衛生担当兵。

百人隊長。

書記。

三十人近くが、狭い天幕へ押し込まれた。

最初から空気は悪かった。

「なぜ、第十軍団のやり方へ合わせるのです」

第八軍団の医師が言った。

「第十軍団へ合わせるとは言っていません」

俺は答えた。

「カエサル様が最も信頼する軍団だ。結局、そこが基準になる」

第十軍団の担当者が不快そうに顔を上げる。

「我々は実績がある」

「他軍団に実績がないと言うのか」

「先月崩れた軍団もある」

第十二軍団の百人隊長が立ち上がる。

「もう一度言ってみろ」

会議開始から数分。

すでに殴り合いになりそうだった。

「軍団の優劣を決める会議ではありません」

俺は机を叩いた。

「では何を決める」

「最低限、全軍団で共通にすることです」

「全部ではないのか」

「全部を統一すれば、現場に合わない規則になります」

集まった者たちが少し静まる。

「各軍団の方法を、まず教えてください」

負傷者分類。

第七軍団。

歩けるか、歩けないかの二分類。

第八軍団。

軽傷、重傷、瀕死。

第九軍団。

階級と復帰可能性を考慮。

第十軍団。

俺たちが導入した赤、黄、白、黒。

第十一軍団。

百人隊長が搬送順位を決める。

第十二軍団。

衛生兵が判断し、迷えば全員後送。

「黒とは何だ」

第七軍団の医師が尋ねる。

「救命が極めて難しく、他の患者を優先する分類です」

「死ぬ者を放置する印か」

「苦痛を減らす処置はします」

「外科医が死を決める?」

「治療資源が不足する時に――」

「神々でもないのに?」

以前も繰り返された議論。

「黒分類で、助かる患者を見捨てたこともあります」

俺は認めた。

周囲がざわつく。

「なら廃止すべきだ」

「再評価を必須にしました」

「誤りを前提にした制度?」

「誤りがない制度はありません」

反発。

不信。

だが、隠すよりよい。

◇

次は創傷処置。

ある軍団は傷をすぐ縫う。

別の軍団は膿が出るまで閉じない。

葡萄酒を使う。

酢を使う。

蜂蜜。

油。

焼灼。

薬草。

熱した鉄。

「焼けば腐敗しない」

第九軍団の治療師が言う。

「組織も傷つきます」

俺は答える。

「出血は止まる」

「大出血なら有効な場合があります。しかし、すべての傷へ行うべきではありません」

「お前の水洗いで死んだ者もいる」

「います」

「なら、どちらが正しい」

「傷の種類によります」

深い刺創。

汚染創。

切創。

挫滅。

火傷。

同じ方法では治せない。

「標準化とは、全部同じにすることではありません」

俺は言った。

「傷の状態ごとに、推奨する方法を決めます」

「推奨?」

「原則です」

「命令ではない?」

「危険な方法は禁止します。それ以外は、現場判断を残す」

「何が危険かを、お前が決める?」

一斉に視線が集まる。

権力。

医療基準を作る者は、他の医師の方法を否定できる。

「私一人では決めません」

「誰が」

「この会議で決めます」

「多数決か」

「医学的な正しさを、人数で決めるのですか」

自分で言いながら矛盾に気づく。

多数決だけでは危険。

権威だけでも危険。

実績。

観察。

再現性。

害。

複数の基準が必要。

「各方法の結果を比較します」

俺は言った。

「死亡、感染、再処置、戦列復帰までの日数」

「記録のない方法は?」

「今後記録します」

「結果が出るまで、何を使う」

「現在の経験で、害が大きいと考えられるものだけ止めます」

「焼灼を止めるのか」

「すべてではありません」

議論は堂々巡りになった。

◇

午後。

会議は便所の位置で止まった。

「宿営地の下流へ置く」

俺が言う。

「川がない場合は?」

「井戸から離す」

「風上か、風下か」

「風下」

「敵が風上から来たら?」

「防御上の配置が優先される場合もあります」

「では衛生原則より軍事が上か」

「状況によります」

「状況とは」

質問が続く。

完璧な規則を求めているわけではない。

規則の穴を示し、俺の権威を削ろうとしている者もいる。

「一度休憩します」

俺は会議を止めた。

外へ出る。

頭が痛い。

「楽しそうですね」

ディオニュシオスが隣へ来た。

「どこがです」

「全員がお前へ意見を言っている」

「まとまりません」

「最初から、まとまると思ったのか」

「必要性は共通しています」

「必要なものが同じでも、自分の方法を捨てたい者はいない」

医師の誇り。

軍団の誇り。

経験。

権限。

「どうすれば」

「全部を決めようとするな」

「最低限だけにしています」

「最低限が多すぎる」

木板を見る。

分類。

傷処置。

水。

便所。

搬送。

記録。

薬品。

死体。

捕虜。

食料。

「三つにしろ」

「三つ?」

「全員が認められるものを三つ決めろ」

「それでは足りません」

「ゼロよりましだ」

不完全な合意。

それでも前へ進む。

◇

会議を再開した。

「本日は、三つだけ決めます」

全員が驚く。

「一、飲料水と便所を分ける」

異論は出たが、原則として合意。

「二、止血可能な大出血を、他の処置より優先する」

これは多くが認めた。

「三、治療内容と結果を、同じ形式で記録する」

最も反発が強かった。

「医師へ書記をさせるのか」

「記録は書記が行います」

「医師の言葉を理解できない」

「共通用語を作ります」

「また仕事が増える」

「結果が分からなければ、どの方法が良いか議論できません」

長い議論。

最終的に、試行として三十日間だけ採用することになった。

「三十日後、やめてもよいのか」

第八軍団の医師が尋ねる。

「結果を見て判断します」

「悪ければ?」

「変えます」

「お前の案でも?」

「はい」

完全には信じていない顔。

それでも、合意は成立した。

七つの軍団。

七つの方法。

一日で一つにはならない。

だが三つだけ、共通の土台ができた。

会議後、クィントゥスが言った。

「敵の部族連合より面倒だったな」

「敵は剣で決められます」

「こいつらも剣で決めるか」

「やめてください」

標準化は、命令だけでは作れない。

従わせることはできる。

守らせることは別である。

◇

天幕を出る時、第十二軍団の百人隊長が俺を呼び止めた。

前進陣地で崩れた部隊の男である。

会議の間、一度も発言しなかった。

「一つ聞く」

「はい」

「三十日後、お前の方法が悪かったら、本当に変えるのか」

「変えます」

「前も、そう言った」

俺は答えられなかった。


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