↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
諸君、人間をやめるな  作者: 不覚たん
第二章 月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/45

地獄の夏フェス(一)

 散発的に入ってくる情報から、都市の被害状況が分かってきた。

 結論から言うと、確かに建造物などは破壊されているが、都市が壊滅するほどではないようだった。あくまで、特異点シンギュラリティにとって邪魔なものが排除されているだけ。しかも彼女の都合というよりは、警察や自衛隊が道をふさぐから、やむをえず破壊して道を作っている状況だ。

 まあ、だからといって警察と自衛隊が悪いとは言わないが。

 逆に特異点シンギュラリティだけが悪いとも思えない。


 ま、俺たちの仕事にとって、どちらが悪いかは関係がないわけだが。


 *


 数日で出動命令が出た。

 装備は通信機とバトルスーツだけ。今回は、あのクソ暑いコートはない。

 バトルスーツは、筋肉を補助するための特殊な繊維で作られている。ぴっちりと身体に張りついているが、汗などは外へ排出してくれるから、着心地は悪くない。身体のシルエットも露骨に出ないようになっている。妙な羞恥心もない。おそらく開発者も、全身タイツみたいな超人など見たくなかったのだろう。


 炎天下――。


 半壊したビルを囲むように、自衛隊のゴツい装甲車が並んでいた。

 これが政府側の主力。

 姿は見えないが、このビル内に特異点シンギュラリティがいるらしい。彼女はこうして勝手に建物を破壊し、勝手に食料を調達し、勝手に寝泊まりしているのだとか。


『絶対にあなたを傷つけたりしませーん。だからおとなしくこっちへ出てきてくださーい』

 脇に追いやられた地元の警察は、メガホンで投降を呼びかけていた。しかも威圧的にならないよう、女性警官が優しく声をかけている。


 いまさら説得が通じるとは思えないが……。力でどうにもならない以上、心理戦でどうにかするしかないのだろう。実際、ミラージュもそれでコントロールに成功した。だが、永遠ではなかった。もはや期限が切れた方法なのだ。特異点シンギュラリティは、いまや誰にもコントロールできない。放っておくしかない。彼女は、自分を傷つけない人間を、わざわざ攻撃したりしないのだから。


 しかし日陰にいるとはいえ、彼女は暑くないのだろうか?

 戦闘する前に、熱中症で倒れてしまうのでは?

 断絶の力でどうにかなるとも思えない。


 俺たちUFOチームは、警察よりもさらに肩身が狭かった。警察からも、余計なヤツが来たという目で見られている。同じ目的で現場にいるのに、派閥意識が先行している。協力してなにかを成し遂げようという感じではない。

 そういえば、戦いに負けそうなのに、対立をやめなかった陸軍と海軍の話をどこかで聞いた気がする。結局、そいつらは負けたわけだけど。

 いい加減、他人の失敗から学んで欲しいものだ。対立よりも協力したほうが強いのだから。


 すぐ上空ではないが、やや遠巻きに、メディアの報道用と思われるヘリも飛んでいた。

 ここで起きたことは、すぐにニュースで流される。

 少女に発砲できる状況ではない。


 そもそも発砲してもダメージを与えられないわけだが。

 ビルを崩落させて押しつぶすという作戦は有効だろうか?

 いや、そんなことはとっくに試したはず。

 瓦礫を降らせたところで、彼女の断絶の力で破壊される。

 スターゲイザーが凄かったのは、破壊されたあとの残骸も使って押し込んでいた点だ。特異点シンギュラリティが切断すればするほど残骸は小さくなってゆき、最終的には切断すら無意味にしてしまう。あのまま押し込んでいれば勝てたかもしれない。

 しかし彼は、勝利よりも、スティレットの生存を優先した。

 俺は彼の行動を、あまり悪く言いたくない。


 通信機からコールがあった。

『前回の襲撃犯の一人が、顔認証システムに引っかかりました。現場に接近しています。警戒してください』

 もちろん警戒はするが……。

 黙って受け入れてもよかったが、俺は疑問をぶつけることにした。

「居場所が分かってるなら、その場で警察が逮捕すればいいのでは?」

『人通りの多い場所でそれをしたら、おそらく戦闘に発展し、市民を巻き込むことになります。現場で対応してください』

「了解」

 クソみたいな意見だが、一理ある。


 とはいえ、それがすべてではあるまい。

 警察の活動の結果、もし市民に被害が出れば、政府の支持率にも影響しかねない。

 それよりも、現場で襲撃を受けた上で反撃したほうが、映像としてもおいしいのだろう。これなら現場は完全に被害者となる。襲撃してきた超人の残虐性も浮き彫りになる。

 こういう映像をニュースで繰り返し放送すれば、政府の支持は上がる。


 いや、まあ……。ちょっと邪推がすぎるか。

 このところいいように利用され過ぎていたせいで、何事も素直に受け取れなくなっている。

 しかし常に別案オルタナティブを想定しておくことは、悪いことではない。裏側を読まないものは、利用されて終わる。俺は利用された上で、せめて文句を言って終わりたい。どうせ終わるならな。


 ふと、エレガントマンがポーズを決めながらつぶやいた。

「なんかオレ、笑われてる?」

「笑われてるぞ」

 俺は見たまま答えてやった。

 頭から紙袋をかぶっていたら、普通は笑うだろう。なんなら笑わせに行っているとと判断されても仕方ない。俺でも笑う。これで笑うなというほうがムリがある。アルミホイルでもかぶっているほうが、まだ理解できる。


「サノバガン、もっと優しく言ってくれないか? オレは君を友人だと思っているんだが」

「えっ? そうなの? ああ、でも、ほら。あいつら、君のことよく知らないからさ」

 友人だと思われていたとはな。

 まあチームメイトではあるが。


 苦情を言い始めたら止まらなくなったのか、エレガントマンはポーズを切り替えながらこちらへ近づいてきた。

「やっぱりつめたいよな。オレが死にかけたときもそうだった。君は応急処置さえしてくれなかった」

「応急処置って?」

「あのまま気絶してたらオレは死んでたんだ。なのに、みんなオレを放置して……」

「いや、あれはどう見ても死んでたからさ。それに、応急処置っていったって。心臓に穴が空いてるのに、心臓マッサージなんてしたら死んじゃうでしょ……」

「それはたぶん死ぬけど」

 つまり、触らないのが一番だったのだ。


「逆に聞きたいんだけど、急所をやられたのに、いったいどうやって回復したの?」

 さすがに心臓を刺されたら死ぬのが、生命としての最低限のマナーでは?

 まあこいつに常識を云々しても仕方がないが。


 エレガントマンは大仰に天を仰いだ。

「分からない。きっと無意識的に能力を使ったんだと思う」

「まあ、そうか。そうじゃないと生きてるはずないもんな」

「起きたとき、みんながいなくなってて寂しかった。次からは置いてかないで欲しい」

「ごめんな」

 なんの会話だよこれ。

 これから敵が襲撃してくるってのに。


 斜め下からイリンクスが覗き込んできた。

「え、なに? 男同士で? なんなの? 私の存在忘れてない?」

 無表情なのに目つきが怖い。

 顔面だけはいいから、耽美派の作ったドールみたいな顔になっている。眼球だけがギロギロしているというか。

「忘れてない。というか、頼むから君は力を使わないでくれよ。絶対に巻き込むからな」

「なにを言っているの、サノバガン。この世界に絶対なんてない」

「じゃあ、できるだけ」

「愛以外に、絶対なんてないの」

 話を聞いてくれない。


 ゼロが肩をすくめて笑った。

「安心するザマス。その女が毒を放った瞬間、私が責任をもって氷の中に閉じ込めるザマス」

 それは涼しそうだし、いいアイデアだ。氷が溶けた瞬間に、毒がまき散らされることを無視すれば。

 まあ致死性の毒というよりは、神経毒のたぐいだし、吸いすぎなければ死ぬこともないだろう。


 フェニックスは会話に参加せず、無言で周囲を警戒している。

 彼女は、おそらくこの中でもっとも戦闘の適性が高い。

 戦闘が始まる直前までは。


 ふと、警察官の男が、メガホンで怒鳴った。

『市民の方は現場に近づかないでくださーい! 現在、この周辺は立入禁止となっていまーす! 近づかないでくださーい!』

 言葉こそ丁寧だが、声は露骨にイラついていた。

 しょっちゅう野次馬が覗きにくるのだろう。市民のものと思われるドローンも何度も侵入してきた。ただでさえクソ暑い中じっとしていなきゃいけないのに。余計な仕事を増やすヤツがいるのだ。

 今回はイヌを連れた老人が、うるさそうな顔で警察を見ていた。もしかして、ここが散歩コースだったのだろうか?


 ふと、老人のシルエットが変形した。

 同時に、ドーンと音がして、一台のパトカーがひっくり返った。


 街中に響くような炸裂音。

 鳴いていたセミたちも、二秒くらい静かになった。


『爆発を確認! 各自、配置につけ!』

 別のメガホンで指令が飛んだ。

 もはや警察が言っているのか自衛隊が言っているのかさえ分からない。


 すると、犯人を攻撃しようとしているのか、自衛隊の装甲車が向きを変えた。

 警察は慌てて『自衛隊は動かないでください!』と怒鳴った。


 次の瞬間、自衛隊の側でも爆発が起こった。


 俺は通信機に問い合わせた。

「爆破テロです。超人によるものか人間によるものか分かりません。指示を」

『モニターしています。こちらの指示があるまで待機していてください』

「了解……」

 動くな、ということか。


 しかしこの爆発。

 アイドルの野外ライブを思い出してしまう。

 そういえば、あのときのアイドル――マリオネットは、まだ野放しのままだ。


 嫌な予感がした。


 当時、会場でマリオネットの歌を聞いていたファンたちは、とりつかれたように殴り合いを始めてしまった。

 彼らは素手だったから、まだ打撲などで済んだものの。

 しかしいまは、訓練を受けた大人たちが、フル装備で現場にいる。

 剥き出しの火薬庫だ。

 着火されたら秒で終わる。


 ネクターが、ぼそりとつぶやいた。

「サノバガン、時間を止めないの?」

「えっ?」

「おじさんだったらそうしてる。手遅れになる前にね」

「時間を……」


 そうだ。

 俺にはできる。

 エネルギーの問題も、すべてネクターが引き受けてくれる。


 時間を止めるという行為は、この世界のバグを利用する行為だ。

 本来であれば、俺自身が世界の法則を解析し、そのバグを見つけ出さないといけない。しかし実際のところ、その工程は省略できるのだ。そう。他人が解析したデータを使えばいい。すでに巨大なライブラリが提供されている。オリジンの構成したネットワークとして。

 思念の超人であれば、このネットワークにアクセスし、必要な情報を引き出すことができる。


「私の時間まで止めないでね。エネルギーの供給が止まっちゃうから」

「オーケー」


 躊躇せずに使うべきだろう。

 このバカみたいな力を……。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。