カーゴ信仰(二)
停車したワゴンから降りると、そこは森を突き抜ける長い一本道だった。
奥には白い神殿が見える。
おそらく宇宙管理委員会の本拠地だろう。
まだだいぶ距離があるのに、ワゴンから降ろされた。
ここからは自力で歩けということだ。
この手の施設は、部外者の侵入を常に警戒している。ワゴンがこの一本道に入った時点で、内部では応戦の準備が始まっているはず。神殿に到着する前に攻撃があるかもしれない。
まあすでに、セミたちの大合唱という攻撃を受けているが。
いくら怪しいカルト教団とはいえ、銃器は持ち出してこないと信じたい。
クロスボウくらいは使ってくるかもしれないが。
まあ腐るほど超人を囲っているのだ。そいつらを使って攻撃してくるだろう。たぶん。そうでなければ困る。
ある程度進んだところで、セキュリティゲートというのか、横棒が道を塞いでいるのに出くわした。
ブースにいた警備員みたいな男がうんざり顔で駆け寄ってくる。
「すみません。ここ、私有地なんで。勝手に入ってこられると困るんですけど?」
ごもっともだな。
なんと返すべきだろうか。
「えーと、非常に申し訳ないんですが、俺たち、法律を守らないタイプの客でして」
「はい?」
エネルギー弾を放ち、ブースのガラスを叩き割った。
「ごめんなさい、時間がないんで通ります」
「え……ちょ、超人……?」
「巻き込まれたくなかったら、早めに逃げてくださいね」
ゲートは突破できた。
だがまあ、監視カメラもあったから、内部の人間はなにが起きたか理解しただろう。
スターゲイザーが笑みも浮かべずに言った。
「いきなり施設を破壊したのには驚いたが、死傷者を出さずに通過したのは評価してもいい」
「なんです? 採点してくれるんですか?」
「力を得た人間は、力で解決したくなるものだ」
「力で解決しましたよ」
ガラスを破壊したのだ。
力による解決以外のなにものでもない。
スターゲイザーはすっとメガネを押し上げた。
「しかし同様に、力があるのに、まったく力を使わないものもいる。私に言わせれば、それも欺瞞だ」
「つまり?」
「君の行動は五十点といったところだな。誤解しないで欲しい。私にとっては理想的な点数だ」
「そうですか」
例のドリンクが発売され、超人の騒ぎが出始めた当初、力で解決したがるタイプはそこらにいた。
しかしそういう人間は、必ず問題を起こし、政府にしょっぴかれてどこかへ隔離された。離島にもいなかった。評議会に所属する超人は、きちんとブレーキが機能していたものだけ。
俺が五十点なら、他のメンバーもおそらく同じくらいだろう。
ただし、委員会がクスリでB級にしている超人に、その性質は当てはまらないだろう。
巨大な神殿だ。
どう見ても移動に不便な長い階段が伸びている。
横には広いが、大部分は一階しかない。中央部だけが三階建てになっている。ミラージュがいるのもそこだろう。まだ移動していなければ。
ゲートの前に、武器を手にした人々が集まっていた。
武器というか、包丁、箒、防犯用の刺股などだが。俺たちはセキュリティゲートを破壊して侵入してきたわけだから、彼らには正当防衛の根拠を与えてしまったわけだ。ほかに選択肢もなかったわけだが。
「近づくな、暗愚ども! お前たちは許可なく土足で聖域に踏み込んでいる! 近づけば命の保証はしない!」
暗愚とな……。
そこそこ生きてきて、初めて言われた言葉だ。
セミたちが、一斉に鳴やんだ。
いや、時間が止まった。
スターゲイザーが溜め息をついた。
「さて、ひとまず時間を停止した。このあとの展開は君たちに任せよう」
力が乱用されているな。
まあ俺たちにとっては助かる話だが。
さて、しかしどうしたものか。
凶器を手にしている以上、こちらも躊躇する必要はないのだが。これは超人同士の戦いだ。できれば人間を巻き込みたくない。まあ、誰が人間で、誰が超人なのか分かれば……。
「せいっ!」
オルガンが、斬撃を放って全員の首を刎ねた。
俺が懸念していたすべての事象を、こいつは一秒も考えなかったようだな。
いや、おそらくはオルガンのほうが正しいんだろう。
時間が動き出すと、敵の胴体から首が転げ落ちて、血液を噴水のように噴きながら崩れ落ちた。
数秒前まで、それぞれに人生のある人間だったのに、もはやただの肉になってしまった。
スティレットが後ろからコートをぐっと引っ張ってきた。
なにかにしがみつきたかったのだろう。
それを見たネクターは小馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。
*
ドアに施錠はされていなかった。
いや、おそらく施錠されていたはずだが、スターゲイザーがなにかして開けてしまった。こいつの能力は本当に手に負えない。まあ万能なぶん、本来なら使用者への負担も大きいはずなのだが。そのリスクはそのままネクターに転嫁されている。
ともあれ、施設内への侵入に成功した。
内部にはもっと多くの信者がいた。年代も格好もさまざま。イベント会場並の混雑ぶりだ。なにもない森の奥に、これだけの大人数が生活していたとは……。
超人の割合はどの程度だろうか?
選別もせずに殺すことになるのか?
彼らは武器を有していなかった。
俺たちを前にして、どう対処すべきか分からず困惑している。そもそもドアが開くとは思っていなかったのだろう。開くとしても、力尽くで突破してくると思ったはずだ。だが、普通に入ってしまった。
少しざわめきがあって、人々が道を開けた。
奥から来たのは、白いコートをまとった数名の人物。委員会の幹部どもだろうか?
「待て、部外者ども。おおかた、評議会の圧力に屈した政府の犬だろう。自分たちがなにをしているのか、理解しているのか?」
先頭に立ったのは、白い口ひげのある初老の男。体格はガッシリしている。脚も長いしモデルみたいな体型だ。
スターゲイザーが説明してくれた。
「あれはナンバー・ツーのセンチネルだ。掩護の超人。私は彼と話があるから、この場は君たちに任せたい」
「はい?」
「ネクターは置いていくから、自由に使ってくれ」
「……」
はい?
スターゲイザーは、特に警戒もなく前へ出た。
「センチネル、私と話をしよう」
センチネルはぎょっとした表情だ。
「どういうつもりだ、スターゲイザー……。なぜお前がこのくだらない連中と一緒にいる?」
「その説明もする。とにかく、二人で話せる場所へ行こう」
「いまはそれどころではない。猊下より、侵入者を撃退せよとの命を仰せつかっている」
それはそうだろう。
仕事があるから来たのに、二人で内緒話とは。相手にも都合というものがある。
スターゲイザーは、しかしじっとセンチネルを見据え、こう告げた。
「もし特異点に関する話でも?」
センチネルの表情が険しくなった。
「なんだ? なにかあったのか?」
「ついに動くぞ」
「……」
センチネルが即答しないところを見ると、それは俺たちの侵入と互角か、あるいはそれ以上の話題なのだろう。
俺にはなんの話かサッパリだが。
ともかく、スターゲイザーが、俺たちとは別の目的でここに来たのは間違いなさそうだ。協力とか言っておいて、現場に来たらコレだ。
センチネルは強めの溜め息をついた。
「クソ。スリー・ピース、ここはお前たちに任せた」
「了解です」
敵側のメガネの男が応じた。
こいつの名前がスリー・ピースか? それとも三人いるから、ユニット名みたいなものか?
ともあれ、スターゲイザーとセンチネルは行ってしまった。
なんの説明もしないまま。
もっともらしく言えば現場放棄。カジュアルに言えばバックレだ。
白いコートの大男が、信者たちに告げた。
「ここはいまから危険地帯となる。トレーニーたちは、礼拝室へ避難するように。ほら、動く!」
すると「はい」と返事があって、信者たちはぞろぞろとエントランスから去っていった。
整然とした動きだ。
普段から、集団行動の訓練ばかりやっているのだろう。そして彼らは、自分で判断しなくなる。模範的なカルトの指導方法だ。ほれぼれする。
トレーニーとやらがいなくなると、がらんとしたエントランスの広さが際立った。
立派な作りだ。左右には、ゆるやかにカーブした階段がある。床や壁は大理石だろか。ずいぶん金のかかった施設なんだろう。いまからこれらを台無しにするのかと思うと、少し申し訳ない気分になる。
ネクターが口を開いた。
「こいつらはスリー・ピース。教祖のガーディアンだよ。あのデカブツがルーク、メガネがビショップ、女がポーン。能力の説明は……いる? いらないよね? みんな三流の超人だよ。能力は安定してない。人間より強いってだけ」
俺は慌てて食らいついた。
「いやいや、いるよ。説明いるから。教えてよ」
「でもそんな時間ない」
デカブツがこちらへ迫っていた。
「時間なんか与えるわけないだろう。俺はルーク。肉体の超人。猊下の御身を守る戦車だ」
肉体の超人、か。
どこかのアゴと同じだな。
まあ誰かと同じ能力のヤツがいてもおかしくはない。俺だってそうだ。誰かとかぶっている。唯一無二の能力者ではない。
「俺は……おっと」
身を伏せると、すぐ頭上をルークの拳が通過した。
自己紹介の途中でぶん殴ってくるとは。
まあ、この手のパンチはアゴで予習済みだ。なんならアゴのほうが速い。
「よけたか。だが、いつまでもつかな?」
模範的な敵キャラみたいなセリフを吐きやがって。
こっちにも反撃の手段があるのを知らないのか?
耳をつんざくよな悲鳴があがった。
叫んでいるのはスティレット。
彼女の視線の先には……エレガントマンが立っていた。謎のポーズのまま。だが、様子がおかしい。のけぞっている。そののけぞりが、徐々に強くなっていく。エレガントマンは倒れた。彼の背後に立っていたのは……スティレット? ナイフを手にしている。
いや、待て。
どういうことだ?
なぜスティレットが二人いる?
叫んでいたスティレットと、ナイフを手にしたスティレット。もしかして敵は、変身できるのか? どいつだ?
「ポーンだよ。模写の超人。誰にでも化けることができる。だけじゃなくて、能力までコピーできるんだ」
ネクターが他人事みたいに教えてくれた。
それを先に言えよ……。
ぼうっとしていると、俺はルークにぶっ飛ばされた。顔面だけ自動車にハネられたみたいな衝撃。俺は信じられないほどぶっ飛ばされて、受け身も取れずに壁に激突した。
首がもげそうだ。
なんだこの状況?
追い込まれてないか?
なんとなく、負けそうな気がするのだが……。
(続く)
※フィクションです。




