↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
諸君、人間をやめるな  作者: 不覚たん
第一章 太陽

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/45

カーゴ信仰(一)

 それから数週間、出動はなかった。

 言い換えれば暇だった。

 ビールとピーナッツ。ピーナッツとビール。俺の人生の楽しみは、ほぼそれで独占された。最初は幸福だと思い込もうとしたが、さすがに物足りなくなってきた。


 *


 前触れもなく、雑居ビルに呼び出された。

 薄暗い室内に、チヨダと俺たち。いつもの「UFO」のメンバーだ。誰もその名称を使わないので、自分たちのチーム名が「UFO」だということをしばしば忘れそうになるが。


「ターゲットについて説明する前に、皆さんに紹介したい人たちがいます。二人とも、入ってきてください」

 チヨダはまずそんなことを言った。

 紹介したい人「たち」とは?

 二人も?


 ドアが開き、男と女が入ってきた。忘れもしない。スターゲイザーとネクターだ。

「ザ・リベレーターのスターゲイザーだ。彼女はネクター。私の姪だ」

「姪です」

 簡潔な自己紹介が出た。

 姪だったのかよ。

 そういえば、おじさんと呼んでいた気がする。


 俺たちが黙っていると、チヨダは淡々と言葉を続けた。

「彼らも超人です。本日の作戦に同行し、皆さんをサポートします」


 ん?

 俺たちの仕事を……なんだって?

 サポートする?


 嫌な予感がした。

 以前、スターゲイザーは、宇宙管理委員会と戦うなら手を貸すと言っていた。

 手を貸すということは……つまり、そういうことなのでは?


 俺は挙手をし、名指しされる前に尋ねた。

「えーと、それって、カルトの本丸を叩くって意味ですか?」

「正解です。君たちの評議会から、ありえないほど圧力をかけられていましてね。上もついに重い腰をあげた、ということです」

「いいんですか?」

「いいわけありませんね。しかし評議会と委員会を天秤にかけた結果……こうなったと推測するほかない。言っておきますが、裏でなにがあったのか、私は知りませんよ。質問されてもなにも答えられない」

 いまポロっと答えを言ったようなものだが。

 つまり評議会は、政府と裏取引をしたのだ。チヨダは、その事実を知ってはいるが、中身までは知らないだけなのだろう。


 それにしても、ついにカルト本部へ攻撃とは。

 たしか教祖が超人だったはず。ほかにも深海デプスで強化された超人がいるだろう。超人だらけの組織だ。俺たちの戦力で勝てるだろうか?

 いやまあ、スターゲイザーがいるんだから大丈夫か。

 時間を止めれば殺し放題だ。


 スターゲイザーらが着席すると、壁のディスプレイにデータが表示された。


コードネーム:ミラージュ

四十代。女性。既婚。

幻影の超人。推定深度A級またはS級。


 チヨダは平然と告げた。

「これが委員会のリーダーです」


 いや、S級って。

 バケモンじゃねーか。

 そんなヤツが、なぜ隔離もされず普通に生活できているのだ?

 どうせ金の力だとは思うが。つまり癒着だ。


 ミラージュは、目の細い中年女性だった。

 狐面みたいな印象を受ける。感情というものが感じられない。


「ほかにも三流の超人が数名いると予想されますが、あえて割愛します」

 チヨダの説明はそれだけだった。

 仲間に情報をよこさないとか、クソそのものでは?


 俺は挙手もせず応じた。

「また丸投げですか? これまでは数の上でもこちらが優勢でしたけど、今回は事情が違いますよ。上はどんなシナリオを想定してるんです?」

「共倒れですね」

 素晴らしい。

 ウソをつかなかったことは称賛しよう。

 だが、中身はまぎれもなくクソだ。

「はい? なんです? つまりはカルトをぶっ潰すついでに、俺たちのこともぶっ潰すつもりでいるんですか?」

「上の想定ではそうです」

「この話を聞いて、俺たちが素直に出動すると?」

「ええ。そちらに選択肢はありませんから」

「そうですよ。ないんです。ビックリすることにね。いや、でも待ってくださいよ。評議会は? 俺たちのボスはなんて言ってるんです?」

「そんなに騒がないでください。ちゃんと裏取引がありますから」

 それを先に言え。

 こいつも評議会に買収された一人だったというわけだ。


 俺は遠慮なく溜め息をつき、話を促した。

「言える範囲でお願いします」

「本日は、ゼノスの登場はありません。すくなくとも人為的なものは」

「操作しないと?」

「上からはしろと言われていますが。私たちはうっかり忘れる予定になっています」

 表情も変えずに言う。

 まあこいつのことは嫌いだが、ウソを言うタイプではない。信用してもいいだろう。信用できなかったとして、俺たちに選択肢はないわけだが。


 敵の大部分は、クスリで強化された三流の超人だ。今日はゼノスになる心配もない。

 注意すべきはミラージュだけ、ということになるか。


 俺はしいて納得しなかった。

「もうぶっちゃけて教えて欲しいんですけど。これまでの作戦で、なんでターゲットをゼノスに変えてきたんです? 妨害でしかなかったと思いますが」

 チヨダは能面みたいな顔でこちらを見ている。

「妨害ですよ。これまでの作戦も、すべて共倒れを狙ったものです。どちらにも死んで欲しかったんですよ、上は」

「クソ以外の感想がないのですが」

「それはしまっておいてください」

 いいや、出すね。

 全部出すぞ。

 あたり一面クソまみれにしてやる。


 スターゲイザーがすっとメガネを押し上げ、席を立った。

「そろそろ行こう。下っ端を問い詰めても仕方がない」

「……」

 ひどい。

 一言ですべてを終わらせてしまった。


 *


 ワゴンの中の雰囲気は、いつも通りだった。

 誰もスターゲイザーたちを邪魔だと思っていない。いや、人徳の問題ではない。そもそも彼らは、他人に興味がないのだ。増えようが減ろうが気にしない。

 人間味があるのはスティレットだけだ。


「あたし、スティレット。俊足の超人なんだ。足の速さが自慢なの。あなた、ネクターっていうの? 歳の近い子が仲間になってくれて嬉しいな。どんな能力なの?」

 満面の笑みのスティレット。

 一方、ネクターは口だけはニヤニヤ笑っているが、目つきが鋭い。

「私の能力? 他人にエネルギーを吸われるだけ。ただの外部バッテリーだよ。それ以外に価値はないの。あんたと違ってね」

「価値がないなんて言わないでよ。それって誰かの役に立ってるってことでしょ?」

「うざ。もう話しかけないで。私、あんたみたいな女、マジで嫌いなの」

「えっ……」

「誰とでも仲良くなれます、みたいな感じ。吐き気がする」

「そんな……」

 かわいそうに。

 スティレットはしょんぼりしてしまった。


 俺はつい横から口を挟んでしまった。

「そんな言い方しないでくれよ。いまから協力して敵と戦うんだから。友達になってくれなんて言わないけど、せめて対立しないでくれ」

 するとネクターは、にぃっと愉快そうに笑った。

「いやぁ、よくそんなことが言えるね、ウソつきのお兄さん」

「ウソつき?」

「でも私、あんたのこと嫌いじゃないよ。仲間にウソをつきながら、現場ではセコセコ戦ってるフリしてさ。省エネの超人なのかな? でも安心していいよ。今日は私があんたの電池になってあげるから。好きなだけ私の命を使ってよ。リスクを忘れて敵を殺すのって、気分いいでしょ?」


 なんなんだこいつは。

 ウソつきなのは事実だが。

 このタイミングでバラすことはないだろ。


 スターゲイザーが表情も変えずに告げた。

「ネクター、やめなさい」

「なんで?」

「君の言動のせいで、作戦が失敗に終わる可能性があるからだ」

「作戦、ね……」

 ネクターは渋々といった様子で口を閉じた。


 いや、それはいいんだが。

 ウソつき呼ばわりされたことで、周囲の視線がつめたくなった気がする。


 スティレットが肘で小突いてきた。

「なに? サノバ、あたしたちにウソついてんの?」

「ついてる」

「は?」

「待ってくれ。信頼に関わるような話じゃない。君だって、チームメイトにすべてのプライベートを開示したりしないだろう? 俺の場合も、いくらか不正確な申告があったってだけの話で……」

「もっとハッキリ言ってよ。どんなウソなの?」

 まあそうだろう。

 人間誰しも、ウソをつかれていると知ったら、その中身を知りたくなるものだ。

「俺の個人的な情報だよ」

「どういうこと? じつは男じゃないとか? それとも日本人じゃないとか?」

「想像に任せるけど。血液型がどうとか、そういうレベルの話だよ」

「ふーん? そう? ふーん?」

 目を細めて、まるで納得していない顔だ。

 スティレットにこんな表情をさせてしまうとは。

 自分が嫌いになりそうだ。


 いやまあ、ネクターが悪いんだが。

 そのネクター本人は、心底愉快そうにニヤついている。

 サークルクラッシャーの超人に改名して欲しい。


 オルガンが珍しく口を開いた。

「サノバガン、ひとつ忠告だ。もしそのウソが仲間を害するようなものなら、このオレが容赦なく斬る。忘れるな」

 この正義マンめ、前髪が完治したからって調子に乗りやがって。

「忘れないよ。俺だって、こんなヤバい連中を敵に回すほどバカじゃない。だいたい、対立したところで、そのあと俺はどうすればいいんだ? 行く場所もないのに」


 それもそうだな、という雰囲気になった。

 なったのに、ここでスターゲイザーが余計なフォローを入れた。

「もし評議会と対立したら、私のところへ来るといい。いつでも歓迎する」

「結構です」

 これ以上、俺を孤立させないで欲しい。

 せっかくバランスをとりつつなんとかやってるのに。


 俺はべつに長生きするつもりはない。

 だが、せめて問題を起こさず、穏やかに終わらせたいのだ。

 俺のウソは、そのために必要なものだ。それを勝手に看破して、自分たちの駒にしようとしないで欲しい。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。