表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/4

第三章 帝国の野望

(14)帝国の対応

報告を聞いた大将軍はすぐに参謀総長と騎士団長をナハトネーベル帝国に向かわせた。彼らなら正確な諜報活動と状況判断が出来るうえ、場合によっては帝国反対派をあおって国を揺るがすこともできる。

「皇帝、大変でございます。フォーゲル村の件ですが」

「おお、責任者の首を撥ねて他は連れ帰ったか」皇帝はふんぞり返ったまま、その巨体を揺らした。

「それが、スタインフーバー国の役人が、補償金を出さないと村人を返さないと」使者は恐れながら答えた。

「わずかな金などくれてやれ。それより、見せしめの方が大事だ。真似る村が出ぬうちに、見せしめとして処刑するのだ」

「それが、金を受け取るまでは引き渡せぬと、頑強な態度で」

「だから渡してやれ。彼らとて面目があろう。ただという訳にも行くまい。幾らと言っておるのだ」

「それが、そのう」

「何だ、はっきりせぬのう」

「大将軍の手数料を、金貨十万枚と、奴隷を千人連れて来いと。そうでないと戦争を始めると」

「何、金貨十万枚だと。大きく出たな。戦争ならいつでも受けてやる。獣人のくせに、馬鹿にするな」

「それが、既に暗殺部隊を送っているとかで、その証拠に、我が国の城の旗に穴をあけていると」

「旗に穴。馬鹿なことを言うな。旗は城の最上階にある。我が帝国騎士団の団員しか上がれぬ」

「それが、その」

「何を恐れておる。はったりに決まっておろうが」

「いえ、旗の真ん中に穴が開いておりました」

「という事は、暗殺者はこの城の中にいるという事か。そんな馬鹿な事は無い。この城に獣人はいない」

「獣人とは限らぬかと」

「人の暗殺者を雇い入れておると言うか」

「そういう事かと」

「早くそいつを見つけ出して、世の前に連れて来い」

「その獣人の国には、どのくらいの兵がいるのだ」参議のヨシュアが聞いた。

「千名ほどと聞いております」

「千人。たかが千人か」

「獣人ゆえ、兵の一人一人が強いと」

「うちの兵の数は十万人いるぞ。戦争になっても負けるはずが無かろう」

「それはそうですが、たかが逃げ出した村人の為に、名誉ある騎士が傷つくのは如何かと」

「そうではない。国が亡ぶ前兆はわずかな人数から膨れ上がって、手に負えなくなっていくのだ。その為の見せしめなのだ。それに、騎士団が国のために死んだり、ケガをするのは名誉な事であろう。命を惜しむでない」

「では、明日、皇帝の御前で、参議会を始める。そのようにせよ」


「皇帝のお出まし」一同、拝礼。

「皆も聞いておるだろうが、獣人が我らにたて突いておる。許せぬことじゃ。この際身の程を知らせておくべきと思うが、どうであろう、皆の意見を聞きたい」

「この際、懲らしめて隷属させてはどうかと。野蛮な者どもには時に、鞭も必要かと」

「その通りじゃあ、よくぞ申した。そう言えば参議のヨシュアの顔が見えぬが如何いたした」

「今朝ほど使者がまいりまして、急病にて出られぬと」

「具合はどんなだ。またこんな時に困ったやつじゃあ」

「申し上げます。ヨシュア様、昨夜、何者かに襲われ、手当てをしておりましたが、先程お亡くなりになりました」

「何、無くなったと。この城の中に暗殺者がいると申したか」

「朝議は解散じゃあ。犯人を見つけて、わしの前に引きずり出して来い。それまでは誰にも会わん」皇帝はさっさと帰ってしまった。

「さて、皆様、逃亡村民を捕まえに行っただけなのに、暗殺者とは、誰か詳しい事情を知っているものはおらぬか」

「その使者を連れて来て事情を聴くしかあるまい」

「よしここに連れて来い。話はそれからだ」


「使者を連れてきました」

「よし、詳しい事を話せ。どうなっているのだ」

「それが、皇帝にも報告しましたが、スタインフーバー国の役人が、補償金を出さないと村人を返さないと」使者は答えた。

「払ってやれば良いではないか。それより、見せしめの方が大事だ。真似る村が出ぬうちに、見せしめとして処刑するのだ」

「それが、金を受け取るまでは引き渡せぬと、頑強な態度で」

「ただという訳にも行くまい。幾らと言っておるのだ」

「それがですね」

「何だ、はっきり言わぬか」

「大将軍の手数料とかを、千人の百枚で、金貨十万枚と、奴隷を千人連れて来いと。そうでないと戦争を始めると」

「何、金貨十万枚だと。大きく出たな。戦争ならいつでも受けてやる。獣人のくせに、馬鹿にするな」

「それが、既に暗殺部隊を送っているとかで、昨日、同じことを言われた参議様は暗殺されました。このままでは皆様、順に暗殺されるかと」

「何、わしらがか」

「そうだ、私は始めから戦には反対している。

「そうだ、そうだ。何事も平和に平和に解決しなければならない」

「皆さん、始めと反対の事を言ってますよ」

「何を言っている。何でも暴力で解決しようとするのは獣人と一緒だ」と言って後悔した。獣人の悪口を言って、恨まれて、暗殺されるかもしれないと気が付いたのだ。

「いや、人命には代えられぬ。先方の言う通り、賠償金を払うべきだ」

「奴隷千人はどうするのだ」

「向こうに、逃亡村民が居るではないか、それをそのまま引き渡せばよい」

「では、金と村民を引き渡すという事で良いですか」

「それが一番の解決策であろう」

「念のため、その大将軍を表彰しておくが良かろう」

「それが良い。これで戦をする気はなくなるであろう。さっそく表彰状と記念品の用意をして、持って行け」

「先方の王へのわび状をつけてな」

「誰が行くのだ」

「それは顔を知ったるそこの使者に任せよう。お主も手柄を上げて貴族になろうと思っているのであろう。それ位やり遂げられないでどうする」

「そうだな、これからわしたちの仲間になろうと言うのなら、これ位はやり遂げられんでどうする」

「補償金はどうする」

「そんな金がどこにある」

「将軍というには刀剣類に気があろう。宝物殿から、それらしい宝物を持って行け」

「宝剣だけというのは」

「奥方にも何か持って行け」

「分かりました。やり遂げて見せます」


「先日に使者が来ました」

「そうか通せ。村長も同席させろ」オスカーは言った。

「先日はどうも、失礼いたした。いや怒ったのではない。実は腹を壊して、トイレに行きたかったので、思わず飛び出してしまったのである。本当に失礼いたした」

「では、本日はじっくり話が出来るのであろうな」

「そのつもりで参った」

「では補償、迷惑料、および経費でござるが、実は、我が国はここ数年飢饉続きで金がござらん。その代わりと言っては何だが、他国ではあるが将軍を表彰したい。大将軍ならこういう宝剣は好きであろうと、記念品として我が国の宝を持ってまいった。先々代の皇帝の守り神と言われた宝剣でござる。この大きさは並みの者では使えぬが、大将軍にはちょうど良かろうと思って持ってまいった。それに、奥方に首飾りと腕輪のそろいの宝飾を用意しました。なにとぞお受け取り下され。それに、貴殿の王に詫び状を書いて持って来ておる。貴殿からとりなしてくだされ」

「分かり申した。ここまでして頂ければ将軍も矛を収めるだろう」

「ここからは仲良くやっていきましょう」

「それに、飢饉続きで、食料が無いなら、売買という形ならば提供できると思いますぞ」

「それは有り難い。出来れば貴殿の国の上司に、そのことを一筆したためた書状を頂きたいのだが」

「分かった、商業大臣の書状を貰って来てやろう。ああ、忘れておった。こ奴らは奴隷としてもらい受けるが宜しいな」

「その通りでござる」

「では宿にてお待ちくだされ」

「お世話掛けまする」


将軍の応接間では、将軍と、商業大臣がオスカーから報告を受けていた。

「移民千人、奴隷として受け取りました。それに、将軍を帝国から表彰したいと、記念品として将軍に宝剣を受け取ってました」

「ほう、これは見事なものだ。国宝と言ってもおかしくない代物だ」

「それに奥方にと宝飾品をお預かりしました」

「これも俺にか、良いのか、こんなにもらって」

「それからこれは我が国への詫び状ですので、王様には将軍からお渡しくだされば」

「後、ロベール様に、食料の販売を約束しました。約定を先方に渡しますのでお願いします」

「早速約定と商品の見本を準備しよう」


(15)三者三様の三国同盟


「帰ってまいりました。無事話を付け、和平会談を済ませました。その上、食料の売買を約束してまいりました。尚見本として、小麦五百、肉魚の干物三百束、果物、野菜八百箱を頂いて帰ってきました。なお、大将軍は上機嫌でございました」

「そうか、よくやった」

「食料の取引場所を、新しく作って、王国からまとめて買う者を作り、そこから国内に販売するのが良かろうとの事です」

「とにかくよくやった。お主には皇帝より褒美があろう」

「これで枕を高くして眠れる」

「しかし、暗殺者は結局見つからなかった」

「それともう一つ提案がございました。 スタインフーバー国、シュヴァルツ王国、そして我らのナハトネーベル帝国で手を組み、三国友好通商条約と軍事同盟をを結ぶのはどうかと」

「軍事同盟か」

「そんな事をしたら他国を攻められない事になる」

「大陸全土を平定したいと言うのが我が先祖の願い、それをあきらめることになります」

「しかし、三国がある間はわが国も続くという事にもなります」

「だが、大陸併合をあきらめるという事でもあります」

「今の帝国に、大陸併合をできるだけの軍事力はありません。ここは一時的となるも、同盟を結ぶのが良いかと」

「力を合わせて平和をを築くも、その裏で力を蓄えるという事で宜しいか。ではそう皇帝に提案するとしましょう」


「という訳で、暗殺者の心配はなくなりました」新参議のマキシム・シモン・ダヴィッドが皇帝に報告した。

「わしは別に暗殺者など恐れておらんぞ。国の行く末を案じただけじゃあ」皇帝ハウルは言った。

「そうでござりましょうとも。分かっておりますとも。それで同盟の事でございますが」

「スタインフーバー国との二か国なら駄目だが、シュヴァルツ王国が嚙んで、人二カ国対魔人一カ国の同盟ならば良かろう。何かの時は、魔人国を孤立させることが出来るからのう。それに、今は力を溜める時じゃあ。よって我が国にとっては都合が良い」

「そうでございますとも。大陸全土を征服する時を待てばよいのですから。ではそのように運びます。それと、食料を購入でき事になりました」

「では食料不足の問題は解決だな」

「そうでございます。魔人の国が何かを買うには我々の貨幣を得る必要がある訳で、つまり、幾らでも作れる貨幣で食料が大量に手に入る、それも、我が国まで輸送させてです」

「国を隷属させているのと同じではないか」

「そうでございますとも、我が国の威光にひれ伏させているのです。つまり、完全勝利という訳です」

「そうであろう。では後の事はそちに任せる。よきに計らえ」

「皇帝の為に身を粉にして働く所存でございますから。それと獣人の国に話に行って威光を示したものに何か表彰がしたいのですが、適当なやる物が無いので、準男爵にするのはどうでしょう。それなら損は無いかと」

「それも其方に任せる」

「わかりました。全て皇帝の言う通りに致します。では失礼します」


「おい、ピエール・パティスト・ディシャール、今回のお前の偉業に対し、皇帝はお前を準男爵にとの思し召しだ。有難くお受けせよ」マキシムは恭しく言った。

「はい、全て参議様のおかげです。有難うございます」

「ところで三国同盟にはお前も着いて行ってくれるな。何と言っても魔人国経験者だ。お前がいるだけで心強い」

「はい、参議のお供ならどこへなりと」

「いい心がけだ。何んと言っても、貴族が目の前だ。頑張るのだぞ。わしもこれから引き立ててやろうぞ。では明後日出立である。忘れ物が無いよう、準備せよ」

「はい、仰せの通りに」

「話は変わるが、お主独身と言っておったよな」

「はいその通りでございます」

「わしの甥御の娘なのだが、早く言えば、子爵令嬢だが、一人っ子でな、子爵家に養子の縁談を頼まれておるので、お主に目を付けておいたのだが、こうも出世するなら自分で爵位を建てたいであろうから、無理な話であったな。他をあたろう」

「いえいえ、参議様のお役に立つなら、養子でも何でもお役に立ちとうございます」

「そうか、憂い奴よのう。では三者会議の後帰ってきたら、本式に話を進めても構わぬか。」

「はい、まことにありがたい事で」

「では内々に話をしておくからのう。これから忙しくなるぞよ」

ピエールは部屋を出て行った。

「案外、あやつは使えるかもしれぬ。獣人に話を付けてくるなど、他の者では考えられぬ。真面目なのと、裏表がないのと、人が良さそうに見えるのが良いのだろう。これを機に、うまく使って、成果を上げてやろう。使いやすそうだし」


「おかあ、帰ったぞ。腹が減った。飯の用意をしてくれ」

「何ですか、帰るそうそう、飯、飯と。行儀が悪い、子供じゃあるまいし」

「おかあ、驚くなよ。今日準男爵に任命された」

「準男爵で大騒ぎするでない。お前のおじいさまは男爵であられた。早くお家再興をなさねばご先祖に申し訳が無い」

「そのことだが、実は子爵家の養子の話が有って、お受けしようと思う」

「お前は昔から楽な方へ流される癖がある。自分の手でお家再興をなそうとは思わぬのか」

「自分で男爵を目指すか、他人を利用して子爵になるか。難しい問題よのう」

「お前に来る縁談だ。令嬢と言っても、不細工か、我儘か、借金で家が潰れかけているかだ。当てにする出ない」

「ちょっと帰りに子爵家を覗いて、近所で話を聞いてきた。行き遅れて年は二十二だが、顏は美人だ。心根は優しく教養があって、家は外国との取引で潤っている。理想的だ」

「そんなの、親が口うるさく、金に汚く、奴隷のように使われて」

「それが、両親は元気なうちに引退して、後は外国で余生を楽しみたいと言っておるそうな」

「なぜそんないい話がお前に来るのだ。お前は昔から運が悪く、良い事があったためしがない。お父さんは悪い女にひかかり家出するし、良い職に就きたいと賄賂を出した人は、翌月には捕まって打ち首、兵役も一番南の戦をしていない所に行ったが、そこに魔獣が襲ってきて、部隊は全滅するし、許嫁は病気で早死にするし、親戚にまで家屋敷を騙し取られて、お前の運の悪さで我が家は没落していくばかりだ」

「そんな事は無いよ、隣のお兄ちゃんが馬から落馬したから軍隊に入れた」

「全滅した軍隊だろう」

「魔獣が襲ってきた時も、魔獣は俺に見向きもしなかった」

「魔獣にも相手されなかったから」

「許嫁も断り切れなかった相手だし」

「結納金も払えなかった」

「家屋敷を騙し取った親戚は捕まったし」

「借金のかたで、家は戻ってこなかった」

「今回の三国同盟も手柄立てられたし」

「魔獣の国で誰も行きたがらなかったし」

「だから俺は運が悪いんじゃない。いや運が良いんだ。そうじゃなかったらとっくに死んでいる運命だった」

「まあ、準男爵になれたことだし、出世の一歩を踏み出したことは確かだから、お祝いしなくちゃあね」

「それが明後日にはまた獣人の国に出かけなくてはならん。祝いとかしている暇はない」

「そんな、帰ったばかりじゃないか」

「これは政治上で秘密なのだが、参議様と、三国同盟の締結に行かねばならない。これは獣人国の土産だ。殆どは食料だが、小麦に肉魚の干物、あと果物とか、暫く食べるのに困らないほどあるぞ」

「これがお土産なの」

「相手は外国のお偉いさんだぞ。髪飾りやドレスを買いに行ったわけではない」

「これ位で何機嫌悪くしているんだい。そんな事じゃあ、話し合いなんかできないよ」

「まあいい。帰ってきたら忙しくなるから、そのつもりでいてください」


「丞相、アルブレヒト商会の者がまいっておりますが」

「アルブレヒト商会か、フェリックスか、通せ」

「丞相様、獣人国よりお手紙でございます」

「手紙、はて何であろう」

「必ず直接渡せとの仰せでございました」手紙を渡した。

「ふむふむ、これは。これを誰から預かったのじゃあ」

「スタインフーバー国、商業経済大臣ロベール・ヴィンセント・ベッカー子爵様から直接手渡されました」

「待っておれ、王様と相談してくる」


「これでございます」手紙を王様に渡した。

「ふむふむ、これは。世が一人で決めかねる。皆を集めて閣議を開く。手配せよ」

「という訳だが、どうすれば良いか、意見を述べよ」

「獣人国には食料を回してもらっております。その恩義もあり、通商条約を結んでいる相手、同盟を締結されても良いかと」

「そんな事を言って、これが策謀であったらどうするのか」

「ガルシア地方アデーレ村の事もあります。それ程疑わなくても良いのではないかと」

「帝国の事はどうなのだ。私の聞いた話ではこの大陸を征服するつもりと聞いたが」

「それはこちらも同じ、ただ、今は準備が出来ていないだけ」

「ではこちらの準備が出来るまでは同盟を組むと言うのもあり得るな」

「そんな事を言って、あちらの方が先に準備を終えたらどうする」

「それも、同盟を組んでいた方が、早期に気付けるのでは」

「では同盟を結ぶという事で良いな」王が念を押した。誰も沈黙していた。

「では誰が行くかじゃあ」

「場所は」

「魔人国、スタインフーバー国じゃあ」

「ここは話を持ってきた、丞相、ダニエル・セバス・アドラー様に行って貰うのが良いかと」


(16)獣人国の事情

「王様、ご報告申し上げます」

「宰相か。話はどうなった。戦になるかもしれぬとのことだったが」

「無事帝国との話し合いも終わり、逃亡村民は補償金の一部として奴隷として引き渡されるものとなりました」

「それは良かった。それでどうやって戦を納めたのだ」

「大将軍より、いざとなればわしが出てやるとのお言葉を頂き、それを持って、戦ならいつでも受けてやろう。将軍もそれを待ち望んでるくらいだ、と脅してやったら、急に先方は下手に、なにとぞ平和裏に話を納めて頂きたいと」

「それ程将軍の名は轟いているのか」

「十年前のあの戦いがすごかったから、まだまだ将軍は恐れられると思います」

「さにあろう、将軍が頼りじゃあ」

「この度将軍は結婚することでもあり、子爵を賜ってはと存じますが」

「それは良い考えじゃあ。そのようにせよ。所で経済的には余裕が出来てきたが、兵の数や強兵の様子はどうじゃ」

「まだまだでございます。金を儲けるは容易い成れど。兵を強くするのは何年と掛かりますので」

「そうか、まだまだ将軍頼りという訳か。まあ、奴は単純だから手なずけておくが良かろう」

「三国同盟は宜しいでしょうか」

「今は内も将軍だより、なるべく争いはしたくない。軍事力も上げて、大陸全土を平定できるくらいになるまでは大人しくしているに限る」

「いい考えでございます。今、戦をしていい事は何もないですし、三国が手を組んだと知れると、他の国も攻めにくいと思われます。その間に我が国は富国強兵でございます」

「我が野望は順調に進んでいるという訳だな」

「その通り、順風万般でございます。王様」

「宰相、上手くいくも行かぬも、其方に掛かっておる。頼むぞ」

「はい、分かっております。命に代えても」そう言って恭しく礼をして帰って行った。


「将軍よ、此度の結婚式だが」

「結婚式がどうかしたか」

「此度の隣国とのことを無事に治めたことの業績を讃え、王様から結婚の祝いという事で子爵を賜ることとなった。正式には当日王様から皆の前で賜ることになる。そう心得ておけ」

「隣国とのことはオスカーが全てやったこと。俺は何もしていないぞ」

「和平協定は軍がやったこと。軍の代表は将軍だ。つまり将軍の成績だ。何の不思議がある」

「まあ、そうなるのか」

「それに軍のトップは位が高い方が威厳があるというものよ。これからも精進せよ」

「そういうものかな」

「軍の事は私にお任せ下さいとでもいうのが普通だ。本当、昇進をどうでもいいと思っている奴の気が知れぬ」

「そんなのは後から勝手に付いてくるものだ。それを目的にしてどうする」

「自分に自信がある者の考えだ。大抵は、昇進するなら何でもやるとかいうのが多いんだが。お前らしいと言えばお前らしい」

「そんなものを自分の人生の目的にしてどうする」

「まあ考え方は人それぞれだ。だが、爵位などいらぬとか言うなよ。」

「そんな事は言わぬ。彼女も低いよりは高い方が喜ぶ」

「お前も結婚が決まって少しは変わったかな。良い事だ」

「自分では変わった気はしないが」

「そこがお前らしい。頼りはお主だけだ。くれぐれも頼むぞ」

「分かっておる」

宰相は忙しそうに去っていった。

「将軍、これで子爵。次は侯爵、最終的には宰相まで上り詰めて頂ければ、我らも大臣に」団長が言った。最近は将軍にずっとついている。

「何を寝言を言っておる。取らぬ狸のと言うであろう。そんな簡単なものではない」

「将軍、本当に出世に気が無いのですか」

「そんな事は無い。だが、今の一番の望みは彼女と幸せな時間を長くいたいだけじゃ」

「何を惚気て。前の将軍はそんな事は言わないですよ」

「お前には分からぬであろうが、幸せを一度味わうと失う事が恐ろしいものじゃあ」

「何が恐ろしいのですか。将軍に恐ろしいものなんて、私が後ろに付いておりますよ」エマが部屋に入りながら言った。

「エマが心配するような事は無い。安心するが良い」

「それよエマさん、内々の話ですが、今度将軍は子爵に去られるそうですよ」

「子爵でなくで男爵でしょう」

「違いますよ。今、隣国と戦になりかけたのを、オスカーが納めて三国同盟を結んだのですよ。それでその成果は軍のものだから、大将の将軍が昇格すると」

「団長、はっきり言わないから分からないわ。軍が成果を上げたから、将軍が子爵になれるという訳なの」

「その通りです。エマさんは、いやエマ様は子爵夫人になるのです」

「そうなると、メイドや執事や小間使いが必要ね。男爵邸ではなく、子爵邸ですものね」


「エマ、どうしたの。心配事かね」エマの母が心配そうに言った。

「そうじゃないけど、やっぱり私、結婚すべきじゃないのかも」

「どうしたんだい。結婚を控えてブルーになっているんだよ」

「んーん。そうじゃないの。旦那様が子爵になったら、子爵になったら、このお店辞めないといけないのかも」

「なぜだい。おまえの嫁ぎ先とうちのお店が関係するんだよ 」

「いいえ、色々考えちゃって」

「それに旦那様は男爵だろう。そういうのは間違えると首が飛ぶよ」

「ううん、ここだけの話よ、誰に話してもダメなんだからね」

「何だよ、大げさな」

「内々の話なんだけど、結婚の式に王様が出席されて」

「聞いてるよ、そんなこと。だから大騒ぎしているんだろ」

「そうじゃなくて、その式の時、王様が祝いとして、子爵を授けることになったって、宰相様がおっしゃるの」

「おとうさんおとうさん、大事な話が有るからこっちに来て」

「何だよ、今仕込みで大変なんだよ。この忙しい時に呼んでから、用事なら早く済ませてよ」お父さんが厨房から出て来ていった。

「エマの旦那様が子爵になるんだって」

「男爵に成ったのはつい先日だろう。そう簡単に上がったりしないよ」

「王様から結婚祝いに子爵にしてくれるって」

「それは冗談だな。貴族って言うのは余程の功労とか、勲章が貰えるくらいの事をしないと上がらないんだ」

「それが隣の国と戦争になりかけたのを、将軍が止めたらしいの」

「戦をしたのか」

「いいえ、戦はしていないし、戦ってもいない。けど将軍の威光で戦が無くなったのは軍の働きで、強いては将軍の働きで、だから代表として責任者の将軍が表彰を受けることになったと」

「で、子爵になるのか、大したもんだ。良かったじゃないか。旦那の出世は嫁として喜んでやらんでどうする」

「そうじゃないの。子爵よ。お貴族様の実家が食堂ってどうなの」

「俺は内の店に自信を持っている。誰に恥じる事は無い」

「お店はおいしく安いし、お父さんの、お母さんも真面目にやっていることは分かっているわ。でも貴族の奥様方はあることない事、噂を立てるものよ。特にこんなに早く出世したら妬みや恨みを買うかもしれない。あの方はそんなことは気にしないけど、呪い渦巻く宮中よ」

「まあ、何かあったら、きっぱり店を止めて、楽隠居でもするかな」父は笑いながら言った。

「そうねえ、それもいいかしら」母も笑っている。

「ほんと二人は気楽で暢気なんだから。あんなお人だから、敵も多いし、恨みもかっているわ。これでまた手柄でも立てて、嫉妬されたらと思うと」

「手柄立てて、出世するのを心配しているなんてお前位だよ」

「そうだよ。子爵の奥様なんだから威張ってればいいんだよ」

「私の手柄じゃないもの」

「夫婦は一心同体、旦那の手柄はお前の手柄。まあ旦那様を大事にしてやればいいんだよ。なんてったって旦那はお前にベタ惚れだもんな」


(17)条約締結


「将軍、三国同盟ですが、ここの応接間で締結で宜しいですか」オスカーが言った。

「ああ、いいぞ。せいぜい旨い物を食わせて、旨い酒を飲まして、贅沢させてやれ」

「将軍は立ち会わないのですか」

「晩さん会の時は顔を出すが、条約締結は宰相とお前に任せる」

「条約の下書きは読んで頂けましたか」

「そういう面倒なことは任せる。馬鹿にされないよう、頑張ってくれ」

「そんな他人事みたいに」

「俺は殺すか殺されるかとかじゃないと燃えないんだよ」

「そんな物騒な。人に聞かれたら何言われるか」

「俺はこういう人間だ。団長が良く知ってる」

「では条約締結は私の方でやりますから、晩さん会はお願いしますよ。将軍の顔で開かれるんですから。相手も王様は来られないだろうから、貴方が内の代表なんですから。顏なんですから。分かりました。軍事同盟は私で、通商条約は大臣に任せましょう」


翌々日には両国の使者が来た。シュヴァルツ王国は、丞相ダニエル・セバス・アドラーとアルブレヒト商会のフェリックス・アルブレヒト、ナハトネーベル帝国は新参議マキシム・シモン・ダヴィッドと準男爵ピエール・パティスト・ディシャールである。

スタインフーバー国側は宰相ミヒャエル・デヴィッド・ウィンクラーに商業経済大臣ロベール・ヴィンセント・ベッカーと機甲師団顧問オスカー・ブラント、世話係責任者にアリス・ウォルター改革執務室長が当たることになった。

場所は司令部応接室で行われる。前の壁には将軍の活躍の巨大な絵がかけられていた。

ソファーやテーブルや敷物に壁の柱の装飾品、書棚の宝飾品、どこを取っても似つかわしくない物だった。まるで王宮だ。

「今回は質素にやるという事で、話し合いに専念しましょう。アリス、皆さんにお茶を」司会と取りまとめ役はロベールがする。

「分かりました。皆様どうぞ」メイド長のカミーユを指図しながら、テキパキと、優雅の配膳を行う。茶菓子には軽いビスケットと、コメ焼き菓子を用意した。

「討議に入りましょう。ではまず、通商条約の草案をお配りします。分からないこと、疑問な所は質問して頂ければ、お答えします」

「それでは、取り扱い金貨だが、シュヴァルツ王国の貨幣が一番流通していると思いますが、どうかな」丞相のダニエル・セバス・アドラーが言った。

「貨幣は内の貨幣が一番信用があると思うが、そうしてもらえれば都合が良い」ナハトネーベル帝国、新参議のマキシム・シモン・ダヴィッドが言った。

自分の所の貨幣が、共通になれば、国の威信は上がる。

「いっそ、新しくという考え方もあるが」

「そうだな、公平にするにはそれがいいか」

「では輸入税、関税はどうしましょう」

「物価の違いや、取り扱い手数料とか、無しというのは困る」

「では、その国の中の事はその国の取り決めという事で」

「国でまとめて輸入して、商業協会に落とす。その時税を課すという事で」

「輸入価格は輸入国と輸出国が話し合って決定するで良かろう」

「期間はどうする」

「悪くなったら再度話し合うで良いのではないか」

「区切りになりましたら、休憩を兼ねて昼食にしましょう。食堂の方に支度をしていますので」アリスが言った。

「じゃあそうしよう」

みんなで食堂に移動した。そこにはトレイとナイフ・フォークに空の皿とカップがあり、隣のテーブルには大皿に肉、魚、野菜、果物類が、またその隣には果汁やお茶の飲み物が並んでいた。

「トレイにナイフとフォークと皿を載せて頂き、好きな料理を取って頂きます。始めは味見だと思って、なるべく多くの料理や飲み物を取って頂き、気に入ったものを再度取って頂くという方式ですので、宜しくお願いします」メイド長のカミーユが説明した。

めいめい勝手に取って、テーブルで食べる。普段はメイドが用意するので、好きな物を取るという事が無いので、物珍しくもあり、つい多くを取ってしまう。肉類を数多くとる者、珍しい果物を取る者、ケーキなどのデザートを取る者、同じ人族でも色んな人がいるものだとカミーユは思った。

「今は大事なお仕事中なので、酒類は出さないようにとのことですので、夕方の晩餐会の時にお出しします」

「この肉は旨いな。何の肉かな」ダニエルが聞いた。

「バッファローでございます。食用に柵で囲って餌を沢山食べさせて、余り運動をさせないように、そうすると肉が柔らかくなります」

「この果物はわが国の物より甘いがどうしてかね」フェリックスが聞いた。流石商人という所か。

「実った甘い果実の種を植えて、その中の甘い果実の種を取ってを繰り返す、品種改良を繰り返した結果でございます」

「この魚料理は香ばしくて塩味が効いてて奥の深い味がするが、どうやって料理しているのかね」

「これは極秘事項なんですが、お偉い方なので嘘は言えませんのでお答えしますが、この魚は池で育てたもので、餌に果物を混ぜると果物の香りがします。その上で発酵食品で作ったものを掛けたものでございます。いずれ輸出品目に入るかと思われます」

「この果汁は美味しいな」

「有難うございます。ワインにする果汁を発酵させる前に絞ったものでございます」

「多い、いい加減にしないと、食品説明会になっているぞ」マキシムが言った。

「お腹が膨れた所で、お茶にしましょう。カフェ、コー茶、ティー、三種用意しました。ミルク、砂糖をお好みに合わせて呑んで頂きましょう」

「このカフェはいい香りでうまい」

「このコー茶は奥深くて何とも言えんな」

「手軽に飲むにはティーがいいな」

「わが国にはこんな贅沢品の砂糖が無い」

「貴族の皆様が贅沢をしないでどうしますか。皆さんが物を買って、商人が儲けて、そこで働いている女子供が賃金を貰える。そうやって国が栄える。皆さんが蓄えるばかりでは国民は飢えますよ。皆さんにお土産として、一壺ずつ差し上げますので、奥様方を喜ばせてあげてください」

「そんな事をしたら賄賂にならんか」

「砂糖で心を売ったら賄賂になるかもしれませんが、そんな事で国への忠誠心は傾かないでしょう」

「そりゃあそうだ」

「ではそろそろ始めましょうか」

「次は軍事同盟だな」

「問題はそれだな」

「基本的に第三国が攻めて来たら、他の両国はその三割を向かわせる。三国の中の争いに関しては争いの二者にその他を仲介者として話し合う、これを基本とするで良かろう」

「三国間で争いがある時、外敵が現れたら、先にそちらを対処する」

「一国が反旗を翻し、または軍事行動を起こした時は他の二国が対処する」

「年に一度は共同軍事訓練を行う」

「三国の中間点に駐屯地を作る。その運営費は三国で等分とする」

「その国の国民が他の国で犯罪を犯した時はその国の法で裁かれる」

「犯罪者が他国に逃げ込んだ時は犯罪者は引き渡す」

「三国をまたがる犯罪組織は三国による警察組織の捜査を行い、場合により軍の協力を警察の命により協力する」

「他の二国の外交官会館を建築、用意する」

「個別問題に関してはその都度外交官会議を開き、解決する」

「そろそろ日も暮れてきたし、今日はお開きとしよう。進捗状況を王室、皇室の了解を得てもらって、その上で締結という運びになりますが、宜しいでしょうか」ロベールが言った。その後晩餐会となった。酒類も多数出され、味見と称して、ワイン、蒸留酒、発泡酒等々、次々と飲むものまでいる。

無事三国協定の調印が済んで帰途についたころ、ナハトネーベル帝国では騒動が起きていた。死亡 した参議、ヨシュア・フランツ・シューマッハーが生きて帰って来た。本人の言う事には拉致されてどことも分からぬ部屋に閉じ込められていたという。この一月の間に痩せさらばえて、自分で立つのも出来ない位であった。扱いは悪くなかったが、誰もが顔を隠し、誰も話さなかったという。しかし、事実は少し違う。あの夜彼は酔って歩いていた。気付いたとき彼は深い穴に落ちていた。助けを必死で呼んで、たまたま通りかかった商人に助けられた。助けられたとき彼は自分の名を忘れていたのと、穴に落ちた時足を骨折していた。

家の者は行方不明となり何の手掛かりもないので、家のメンツもあり、始めは重体とし、ついには死亡と届け出た。それが噂では暗殺されたとなった。嘘だとも言えず、沈黙の後、新参議も決まり、それが決定になった。

もう一つ、違うのは国旗の穴はもう一年の前からあいていた。だが大事な国旗に穴が開いたと届ける者もいない。そこで外国の暗殺者が開けたという噂が立ち、困っていた見回り兵がその話に乗った。ただの捨て台詞が本当になった。


ナハトネーベル帝国の新参議、マキシム・シモン・ダヴィッドとピエール・パティスト・ディシャール準男爵は無事協定の調印式を終了し、帝国に帰り、皇帝に報告をしていた。

「首尾は」皇帝が聞いた。

「上々でございます。これで三国で首位に出た時、我々は三国の上位国として、取りまとめ、大陸統一に向かえます」

「それは御苦労。大義であったな」

「協議、協定は頭脳戦でございますれば、これで、他の二国の六割を獲得できれば、その国の御前会議で大勢を取れますので、、その国を操れます。それでもって、三国会議で、二対一で三国を操れますので、今度は三国会議で主性を取り軍を取りまとめ、他国を攻めることが出来ます。協定では三割の軍を派遣することになっていますので、我が国の半数の五万と、シュバルツ国の三割の三万と、スタインフーバー国は三年以内に一万を目指すそうですから、そのうち三千を持って、攻める訳です。獣人の千人は一万に匹敵するそうですから。実際に訓練を見てきましたが、それに納得しました。よって、実質五万と三万と三万の十一万で攻めることが出来るようになるという事です」

「なる程流石はマキシムだな」皇帝は思わずうなずいた。

「あとはそれに向かって進むだけでございます。ついには大陸全土が我が帝国の領土となるのです」

「おお、父の夢がかなうな」

「皇帝のお導きでございます」

「この業績にマキシムは正式に参議に任命し、大勲章を与えようぞ。ピエール、そちには男爵を爵位を授けようぞ。これからも誠心誠意励めよ」

「有難くお受けいたします」

「それで、前参議のヨシュア様はどうなさるので」

「ヨシュアは今回何の業績も残しておらん。酔って穴に落ちるとはたるんどる。年のせいもあるし、これまでの業績を持って、罪には問わず隠居を申しつけた。これでそちも安心して手を振るう事が出来るであろう」

「配慮を頂き有難う御座いました」

「それと今回の旅費や経費として、お主には金貨二千枚、ピエールには金貨五百枚を用意した。帰りに受け取っていけ。この度はご苦労であった」



(18)大将軍の婚礼式

「条約締結も無事終わり、これで戦争で亡くなる者もいなくなる。全ては大将軍の業績だ。またまた手柄だな」宰相ミヒャエルが茶化すように言った。

「何の用だ。婚礼式の打ち合わせか」将軍が言う。

「そうではない。今日は同盟締結の栄光をなした将軍様の功績を称して勲章を与えると言う話だ。」

「ロベールに勲章を与えると言うのか。良いではないか」

「何を言う。お前だよ。お前に勲章を与えると言う話だ」

「何で。俺は何もしていないぞ」

「こういうのは大物が貰った方が有難味が出るし、周りの賛同も得やすいものさ」

「ああ、俺は飾りか神輿だな。俺としては勲章より酒でもくれた方が有難い」

「今のお前なら、酒など幾らでも買えるだろう。戦うばっかりで、もっと欲はないのか」

「美人の奥さんに大きな邸宅に軍の者は尊敬の目で見てくれるし、これ以上何がいるんだ」

「エマさんが来られていますが」

「良いぞ、入れて呉れ」

「あら、宰相さん、今日は」

「今日は、ちょうどいい所に来た。エマさん聞いてよ」

「何どうしたの、またアドリアンが困らせているの」

「いや、俺は何も」

「実は王様がこの度の働きに応じて勲章を授けたいと言うんだが、この男はいらんというんだ。これは王命だぞ。断るなんてできない事なんだ」

「アド、断ったら宰相様を困らせることになるでしょう。宰相様を困らせちゃだめよ。私たちの仲人をしてくださるのよ」

「別に頼んじゃいない」

「じゃあ、私がお願いする。良いわね」

「分かったよ」

「分かったって。御免なさいね困らせちゃって」

「いやいや、助かったよ。見かけ通り、一度言い出したらテコでも曲げないから」

「こちらこそアドリアンが困らせるようなこと言って御免なさい」

「ほんとエマさんは良い人で、将軍にはもったいないくらいだ」

「もったいなくてもお前にはやらない」

「分かっているよ。まったく」笑いながら帰って行った。

「本当に俺は何もしていないんだ。勲章なんかロベールか、オスカーにやればいいんだ。やったのはあいつらだからな」

「良いじゃない、呉れると言うなら貰ってやれば。それであいつらの顔を立ててやれば満足するんだから」

「またそんな事を言う」

「駄々こねないの。私の子猫ちゃん」

「ほんとにえらいな、エマは」

「それより式の日取りが来月一日に決まったって。その日に戦に行くなんて言わないでよ。私一人の結婚式なんて嫌だからね」

「大丈夫だ。同盟がなったから、しばらく戦はない」

「そう、良かった」

そして月が替わった初日に、将軍の結婚式と子爵と勲章のの授与が王自ら行われた。子爵邸も完成し、家見せも行われた。豪華絢爛、まさにその通りの城である。その両脇に総長と団長の館もたてられた。その時初めて総長は結婚していて、子供もいることが判明した。

聡明で真面目な男の子で、名はベルント・クレメンス・ローレンツ、始めはオスカーについていた。年度末には士官学校を卒業とのことで、自慢の子は軍隊に入隊の予定である。だが、家見せの時ロベールに会い、冷静で切れ者の彼に心酔してしまった。溺愛の息子を他人に任せる気はない父は激怒して、親子の断絶が始まったのはこの時が始まりだった。

プライドの高い将軍はロベールの成果で昇進したり勲章を貰ったりしていると知っているが、そんな事は口が裂けても他人には言えない。

同じくプライドの高い総長は全て自分と将軍の業績だと思っている。

だが、ベルントはそこを一瞬で見抜いてしまった。彼は素直なインテリだった。今までは父親の言う事を聞くいい子だったが、悪賢いロベールに感化された悪い子だ。だが彼に引き戻す手立てがない事が不機嫌にさせている。

卒業式の日、彼は司令部の自室にいた。

将軍はオスカーと出ていた。その時刻、将軍はベルントに最優秀賞を授けていた。将軍はこの時初めてベルントが総長の子だと知った。

「後で話に来い」といった。その部屋には将軍とロベールと、オスカーがいた。

「ベルント・ローレンツ、入ります」

「よし、入れ」

「失礼します」

「こいつは総長の自慢の息子だ。オスカーの所に配属になるだろう。宜しく頼む」

「いえ、将軍、私は試験を受けて、経済省に入庁したいと思っています」

「何、ロベールの所にか」

「将軍の結婚式の時、少しお話をさせて頂きました。その時感動いたしました。こんな考え方の方がいらっしゃるなんて、目が覚めた思いがしました」

「という訳だ。どうだロベール。使ってもらえないか」

「俺なんかより、将軍の方が出世はするは、勲章は貰うは、将軍の方が余程いいだろうに。それに主席だろう。エリートコースだ」

「いいえ、実力で入省しますので」

「頼もしいな。よし、俺からも応援してやろう」

「でも、父に反対されていて、今、友達の家にいます」

「親父は何と言っているんだ」

「軍隊を逃げ出すような奴はローレンソ家にはいらん、すぐ出て行けと」

「まあ、あいつの言いそうなことだ。軍隊が一番だと思っているしな。分かってやれ」

「一つ提案だが、一年、軍に入隊して一番を取ったら、来年うちの幹部候補で入省させてやろう。それでどうだ」

「面白い提案だ。お前もそれで手を打て」

「もう一つ条件がある。軍の改革案をその時持って来い。多分周りから大反対されるくらいのものだ。出来るか」ロベールが少し笑みを浮かべながら言った。

「それは少し厳しいだろう」将軍は取りなしたが、

「いいえ見事合格して見せます」

「おお、頼もしいな。じゃあ、まずはオスカーの所だ。宜しき頼むぜ」

「将軍から頼まれるのは初めてですが」

「そうかあ、じゃあ、これからはいっぱい頼むとするか。そうだ、ベルント、お前結婚しないか」

「結婚ですか」

「突然だな」

「こいつらが結婚していないからそう思うんだ。どうだ、美人だぞ。そうだな一存という訳にも行くまい。と言って、マルティンは喧嘩中だしな。おい、誰かいるか」

「何でしょうか」こいつの母親を呼んで来い」と下士官は言われ、ベルントは下を向いているのを見て、大変だと慌てて母親を連れてきた。

「この子が何かしたのでしょうか」

「軍に入りたくないとほざいておる」

「大それたことを言いまして本当に申し訳ありません」

「その上、こいつの所に行きたいと言っている」

「はい、昨日もそのことで喧嘩をしていまして」

「そこに気が付いたこいつは先が楽しみだ」

「そんな事」

「マルティンは許すまい」

「はい、出て行けと」

「そこでだ、私も本家から頼まれごとがあって弱っている」

「そこは一人娘で、養子を欲しがっているのだ。それも出世の見所があるやつで、見栄えが良くて、剣が立つ奴が欲しいらしい」

「本家のハルトマン家と言えば」

「そうだ、ハルトマン伯爵家の御令嬢だ」

「あの気難しい伯爵と親戚だったのか」

「今までは無視していやがっていたのに、子爵になったとたん向こうからいろいろ親戚だと言ってやって来る。話がずれたな。御令嬢はお前と同じ士官学校の二年生だ。お前より二つ下だ」

「で、お名前はジュリア・エリザベト・ハルトマンという。母親も美人だったが、その娘はそれ以上だ」

「知っております。でもこの結婚は駄目だと思います」

「なぜだ」

「なぜだか分かりませんが、彼女に嫌われております」

「付き合いがあったのか」

「いえ、話したこともありません」

「ではなぜ嫌われていると」

「そこは分かりません」

「物は試しだ、聞くだけ聞いて見よう」


「という訳だ。ベルントは良い奴だぞ。真面目で優秀で。一番で卒業した。司令部ではここ十年で一番だと言う話だ。どうだね、一度見合いだけでもしてみないかね」

「私から頼んだとかじゃないよね」

「私も周りからは出世頭だとか、十年に一人の逸材だとか言われているが、彼の才能はもっと高いぞ」

「そんなに優秀なのですか」叔母がいた。

「私が知ってるやつに一人、ずば抜けたやつがいる。今の繁栄は全て奴の仕業だ」

「貴方の業績でしょう。その証拠にあなたは出世をし、勲章をもらった」

「そこが悔しい。奴の仕業で、俺が表彰されて、奴はニタニタしてる」

「誰なの、その方」

「商業経済大臣、ロベール・ヴィンセント・ベッカー子爵」

「お名前は聞いたことあるけど、そんなに優秀だとは聞かないわねえ」

「そう、誰も知らない。たまたま自然とそうなったと誰もが知ってる。五年前、十年前の彼の話を聞いていない者は」

「だって何をしたか知らないわよ」

「一つ大きな事をすると、その人が何をしたか知っている。十個大きな事をしたら、何をしたかと聞かれても答えられない」

「そう、じゃあ、どれか何をしたか聞いてもいい」

「まず、農業改革、灌漑用水を池から造り、出来た作物の一番いいものを選び出して、品種改良をして、飢饉をなくした。それを外国に売って国の財政を立て直し、隣国に渡りをつけ三国同盟をなした。どうです」

「でもそれって何十年、いえ百年もかけてやることでしょう」

「そう、そう言って手を拱いていた」

「そんなこと言っても」

「でもそれを一発で見抜いた奴がいる」

「あなたなの」

「いや違う」

「彼、ベルントなのね。彼なら分かるわ。やりそうなことですもの」

「そうか、ジュリアなら分かるのか、優秀だものな。優秀な者通し分かり合えるのかもしれん」

「一度話がしたい。返事はその後でいい」

「そりゃあ構わんぞ。一生の事だものな」


「話は聞いたわ。貴方、うちになんて養子に来なくてもすぐに出世するでしょう。断りなさいよ。養子なんて」

「この話断って、その後俺の嫁になってくれるか」

「何馬鹿なこと言ってるの。馬鹿じゃないの。断られた相手を追っかけるほど男に飢えてないって」

「だから、君を勝ち取るためには何でもするってことだよ」

「何言ってるの。青二才みたいなこと言って。私たちは家をしょっているのよ」

「二人なら軽いだろ。家の一軒や二軒」

「私には容易いわよ。良いお婿さん見つけて彼の尻を叩くの」

「優秀な俺ならもっと簡単だぜ」

「決闘で決めましょう。それなら公平でしょう」

「公平か。それなら」と言って足首をひもで縛った。

「何をするの」

「御令嬢相手に何もしないとまずいかなあと思って」

「あとで後悔しても知らないから、行くわよ」

「来てください、思い切って」と言いながら笑みを見せている。

「力では負けても早さと鋭さに磨いた技では負けないはずが、軽くかわされ、流され、いなされる。こんなはずはないと彼の周りを走りながら回転をする。後方から攻撃しても背中で受ける。物の五分ほどだったが、ジュリアには一時間も攻撃し続けた気がした。

疲れてしゃがみこんだ。ベルントは紐を外し彼女の元にやって来た。

「大丈夫かい」

「私の負けを認めるわ。だけど結婚はあなたが頼むからしてあげるの」


「私はもう少し、遊んでから結婚と思っていたのだけど、彼がどうしてもって頼むから結婚してあげることにしたわ」

「それは良かった。これであいつも安心して宰相を目指せるだろう。まあ、今の宰相と大臣と俺が応援するんだ。大船に乗った気でいろ」

「ええ、ベルントは大将でなくて宰相を目指しているんですか」

「いや今のあいつにそんな気はないが、必ずそうなる。俺の勘だが」そう言って大将は大声で笑った。

「奥様、借金取りが来て、今日は一部でも返さないと帰らないと」執事が部屋の外から言う。

「借金は幾らあるんだ」

「金貨五千枚ほど。大した額じゃないか。どうやって溜めたんだ。まあいい。結納金一万という事でどうだ」

「あの家にそんな大金が払えるはずがないでしょう」

「そりゃあそうだろう。だから結納金は俺が払う。それで良かろう」

「あんたが他人に大金をやったとか貸したとか聞いたことないのに、どんな気の代わりだい。入れてやっておくれ」

「今月は帰りませんからね」

「大丈夫だよ。これ甥なんだが、全額払ってくれるから。安心して付いて行っておくれ」

「こちらはどなたで」

「あんたこの有名人を知らないのかね。それで良く金貸しなんてやっているねえ」

「へえ、そんなお偉い人に縁が無いもので」

「まあいい、屋敷について来い。五千枚だったな」屋敷に行って金を返した。

その後ベルントに残りの金を結納金として渡した。それを持って彼女宅に届けさせた。

母親は返済金受け取り証と、金貨五千枚を受け取り、大変ご機嫌だった。

その後二人はデイトと称して彼女の知り合いの周りを連れまわされた。

「彼、ベルント・クレメンス・ローレンツ。いやねえ、どうしてもって言うから卒業したら結婚するの」

「彼の浮気の場を見たら知らせてね。とっちめてやるんだから」

「将軍を目指すのかと思ったら、宰相を目指すんだって。まあ、今の将軍が言うんだから嘘じゃないけど」彼女が勝手に噂を広めている。

母親はそれを聞いて娘に噂になるようなことは言うなと口止めをし、父親は五月蠅い事を言わず、沈黙するし、ベルントの母親は心配してはいるが、どうにかなると気楽なものだが、父、参謀総長のマルティンは満更ではなくなっている。何んと言えば将軍は子爵であるが、結婚相手の家柄は伯爵である。これまで平民のマルティンはそんな上流の者とは言葉を交わしたこともない。息子がそんな身分になるのだ。目指す将軍を位で超えるのだ。やはり、さすがは俺の自慢の息子だ。武術一片の自分とは違い、士官学校を一番で卒業し、いずれは宰相だと言われている。親として泣きたいくらいうれしい。

家に帰ると妻に、友人の所にいるだろうから、呼び戻して来いと息子を呼びに行かせた。

帰って来た息子に

「これからは自分の人生は自分で切り開くんだ。俺の才能とお前の才能は別物らしい。だが、上流に行ったら下の者を考え、部下や、仕える者のいう事をよく聞いてやれ。部下は逆らう事が出来ぬ。黙って死んでいかねばならん。だから家族の幸せはお前の肩に掛かっている。それを肝に銘じておけ。それと舞踏会に出席することになろう。しっかり練習しておけ。俺からはそれだけだ」

親子の和解がなったという事だろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ