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第四章 大陸全土改革

(19)三国横断道路

第一回三国定例会議が開かれた。

「今日の議題は三国を大型馬車で行き来できる、大街道を作る必要があるため、各国の了解を得るため集まって頂きました。構想としては三国の中心に合同駐屯地を作り、いざという時その駐屯地から兵を派遣する軍用都市を作ります。都市の周りは二重の濠と兵に守られ、中央に司令部を、その外に兵舎、軍事倉庫、その外に一般住宅や店舗を配置します。その外は農地や工場を作る。都市の名はミリタリーフォースシティーで、リタフォースにしましょう。街道は馬車四台が通れる広さ。急坂、急曲がりを無くし、全面石畳、半日の距離に休憩所や宿泊施設を作り、定期旅客馬車を走らせ、安全な旅が出来るようにする。一番外側の商業地には商店だけではなく、観光地や遊園地、温泉地等を作り、一大観光地を作ります。皆さんにも協力をお願いします」

会議の後は晩餐会が開かれた。

工事はさっそく始められた。外壁門と中央司令塔の工事が最初に始まった。幅、五広が二枚、高さ十広、の城門、上部に二十機の大型弩弓を配置した城壁、二十広の堀と跳ね橋が装備されている。

そうしている間に司令部合同本部が完成しようとしていた。元々の岩山に中央を繰り抜き、堅牢な大要塞を築いた壮大なものとなった。中央塔は高くそびえ、城壁は垂直に立ち、その上には強烈な弩弓が並んでいた。この中央塔は西側の観光棟にも繋がっており、十里四方が見渡せ、特別ゲストや重要要人にはこの絶景が観覧できた。その上、日に一度ではあるが、午後の試射と言って、先ず鐘が鳴り、城門のはるか先まで届く弩弓発射が見られた。それは壮大な見世物のようであったが、完成後には警備兵の隊列によるパレードが行われる予定である。

その時、第三国からの軍隊が突如現れた。西のツィーグラー王国の偵察隊であった。新しい街が突如現れたので様子を見に来たのであった。街の城門と城壁を見た時、驚きを隠せなかった。

城門の前に隊を止め、門兵に

「我々はツィーグラー王国の者である。責任者に会いたいが取次ぎを願いたい」

「暫くお待ちください」上にいた兵が下りて来て、城門の横の小さな扉から出てきた。

「案内しますのでこちらからどうぞ」と言って、案内してくれる。

兵の出てきた扉を入ると上に長い階段がありそこを上がると、広い道路のような擁壁の上部であった。城壁の下を覗くと味方の兵隊が小さく見えた。道路のようなその場所には弩弓や投石機が四十から五十機が等間隔に据えられていた。ずっと奥に巨大な砦や建物が見えた。

「あれが司令部になります。貴方が行かれますか。それとも一度帰還して出直されますか」

「下で待っている隊長と話をして決めたいのだが」流石に自分では決めかねた。


「隊長、司令部の方と話し合えるという事ですが、司令部まではちょっと距離があり、時間を要しますので、他の者は長時間ここで待機となります。ここは事情を上官に報告した後、改めて話し合いを進めてはいかがかと思われます」

「そんなか」

「隊長も一度見られてから、帰還、報告をされた方が良かろうと思われます」

「そうか、ではちょっと見せてもらっても宜しいか」門番に聞いた。

「良いですよ。早く決めて頂いたら、我々も助かる。ではどうぞ」下士官が先に、隊長が付いて行く形で城壁の上へ、階段を昇って行った。

「あちらが司令部とのことです。ちょっと時間がかかりそうですね」と言った後小声で、

「それよりあの弩弓の数と大きさは、見ておいてください。それと、あの司令部手前にもう一段城壁が建築されています。つまりこの城壁が二重になっているという事です」

この要塞が完成したら一万、二万の兵ではびくともしないだろう。攻めるには五万、いや本気で落とすなら十万は必要だろう。門兵は気軽に見せてくれたが、要塞の秘密事項に触れた我々は、上部に知れたら消されるだろう。それ程の極秘情報だ。上官を促して下に降りて

「上部に報告の後、ご連絡いたします。では我々は帰途に就きますので」隊列を組んで帰途に就いた。

「さあ急いで帰りましょう」

「なぜ急ぐ」

「敵上官に知られたら、必ず追っ手を受けます。これだけの極秘情報を知られてそのまま逃がすはずがありません」

「まあ、そうだろうな。我々を逃がさないだろう」

「そこで、隊を二手に分け、一隊は一目散に帰路に就き、何があっても国に報告します。二隊は民間人に化けてもう少し辺りを探る。隊長は一隊を、私は二隊を仕切ります。何があってもお帰りを、軍事施設の報告をしてください。これは国の存亡にかかわります」

「分かった。お前も無茶しないようにな」全隊百名の内、九十名ほどの一隊が急ぎ足で去っていく。残りの十名ほどが山に身を隠すために、急いだ。十日程潜んだ後、東の山に登った。その頂上からなら砦の全貌を見ることが出来る。山岳登頂の装備を準備して昇った。

山頂からは砦を見下ろすことが出来る。見張りの塔も良く見えた。見れば見るほどよくできた砦だ。だが、人の出入りが多すぎる。三国同盟の産物だからであろうが、遠目にも軍人ではないとはっきりわかる人々が見えた。まるで観光でもしているかのような動きなのだ。不躾で、不用心で、その上、上流の者であろう、女性や年少者まで来るのだ。これではどう報告したらよいのやら。迷った末、商人の格好をして、中を見せてもらえないかと聞いて見た。

「商業地区の視察の方ですね。それでは見学許可証願書に署名を、それと保証人の署名をお願いします」昨日泊まった宿泊所の亭主の名前を借りた。書類を提出したら、すぐに許可が下りた。

「何か、簡単に入れましたね」

「まだ完成していないからかな」

「でも、第一城壁の中は難しいでしょう」

「まあ、物は試しだ」

「第二城門の許可でこっちも入れちゃいましたね。まさかそのまま司令塔まで入れるなんてことは」「まさかな、そこまで無防備じゃないだろう」

「でも、絶景ですね。装備の全景が見えるし、軍の訓練まで良く見える」

「司令塔の方へ行ってみましょう」

「おや、あなた方は軍関係の方ですか。赴任してきたら、宜しくお願いしますね」

「はい、こちらこそ宜しく」と挨拶を返した。

「三国が混ざって、誰が誰だか分からないんでしょうね」と言って笑っと。

司令塔の中まで拝観し、すべて頭に入れた。

二人は合図をして、急ぎ足で外に出た。安堵した二人は帰途についた

「すごい軍備でしたね。巨大な城門と高い城壁とそこに並んだ弩弓などの武器、並大抵では攻められませんよ」

「あれに第一城門と城壁に武器の数々、完成したあの砦を攻めるには十万の兵でも足りぬかもしれん」

「でも案外抜けてたりして」

「あれが全てと考えてはいかん。地下トンネルとか、まだまだ何かありそうだ」

「そりゃあそうですよね」

「弩弓がいい武器なのは分かっているのに、どこも数を持っていないのはなぜだか分かるか」

「あんな高価な武器、買えませんよ」

「そうだ、それなのに多分全部合わせると百を超えるかもしれない」

「そんな、撃たれっぱなしのやられっぱなしじゃないですか」

「力押しでは犠牲が出るばかりだ」

「でもこんな大きな道路を作ったら、攻めてくださいと言っているようなものじゃないですか」

「その代わり助けにも早く来れる」

「まあ、私等みたいに、旅をする者は助かりますよね」

「道路の側にはあちこち休憩所やトイレ、栗や果物の木が植えてあるし、旅の者が喜ぶよう考えられたものを今まではやってこなかった」

「そうですよね、国民、村民までが助かる世策を実行する王など聞いたことが無い」



(20)ツィーグラー王女の我儘

「王様、サイモン・ハウル・ワーグナー、ただ今偵察より帰還しました」

「おお、よくぞ無事に帰って来たな。それでどうであった。噂では何か大きなものが建てられておるそうだが」王様は聞いた。

「大変でございます。高い城壁が二列。その城壁の上には何十という大型弩弓が供えられ、兵舎、宿舎用建物が何棟とあり、兵士鍛錬場や、武器練習場とかが供えられ、見張り台は通常の倍の高さはあると思われます」

「何んとそんなものがこの短期間に出来たと申すか」

「今、部下が商人に化けて中の偵察を行っている所です。すぐに報告がまいると思われます」

「なぜそんな物を」

「スタインフーバー国、シュヴァルツ王国、ナハトネーベル帝国の三国が軍事同盟を結び、その中央に軍事都市を作り、どこの国かが敵に攻められた時、救助に行くためと聞いております。その他の国が攻めて来た時、三カ国はこの大街道を駆け抜けて、短時間で救助できるためのものであると」

「つまり我々は攻められぬようにか」

「軍事要塞都市を攻めるなら、十万の兵が必要になるかと」

「そんなにか」

「その上の救援に対抗するとすると」

そちらも考えると」

「二十万の兵が必要になるかと」

「どうなさいますか」

「どうするもこうするも、そんな数の兵はいないし」

「私が様子を見てきましょうか」現れたのは王女、サラ・ガブリエル・ツィーグラーだ。

「何を、其方のような女子の身で何を言う」

「いいえ、女の方が潜り込みやすいかと」

「それでも其方が行く必要はないであろう」

「いいえ、私が行ってみたいのです」

「ではマルク・ラファエル・シューマッハ小尉の偵察隊と連絡を取って、合同でという事でどうでございましょう」

「分かった、手配させよう。だがくれぐれも無茶はするなよ」

「分かっているわよ。心配性なんだから」と言って舌を出した。


サラ・ガブリエル・ツィーグラー王女はマルク・ラファエル・シューマッハ小尉と合同軍事都市リタフォースの城門前で待ち合わせた。都見物の田舎娘の格好でまずは城門の中を一通り見学することにした。

「門番さん今日わ」と言って、入門証を見せた。

「はい今日わ。今日は可愛いお嬢さんと、楽しいデイトかな」

「そんなんじゃないですよ。お仕えする屋敷のお嬢さんです」

「まあ楽しんでおいで。今日から屋台のお店がたくさん出るからね」連れの入門証はいらないらしい。

「はいいつもありがとう」

「ねえいつも門番と仲良くしてるの」サラはマルクに聞いた。

「ここの連中はいつもこんな感じなんですよ。陽気で、疑う事も知らず、良い奴等ですよ」

通用門は長いトンネルのようだ。内側に出ると広場になっている。城壁の陰にはお店がズラーッと並んでいた。マルクが果汁を二つ買ってきた。

「まるで、そんな物見遊山な」

「お嬢様、この方が目立たないのですよ」と言って、一つを渡した。飲んで見ると甘くて、思ったよりもおいしい。

「さてどうしますか。先ずは城壁に上がって周りを観察してみましょう」と言って、手を取って、城壁の長い石段を登っていく。昇った城壁の頂上は広場になっていて、外を向いて大型弩弓や投石機が並んでいた。

「弩弓に興味が無い振りをして、外の景観に感動している振りをしてください」マルクが小声で囁いた。

城壁の前は広い堀があり、水は流れているようだ。水はきれいで魚が泳いでいるのが見えた。その向こうに十字路があり、道路はどこまでも真っ直ぐで、手前は跳ね橋につながり、正面はシュヴァルツ王国に、左に行けばナハトネーベル帝国、右に行けばスタインフーバー国につながっている。道路は広く全面石畳でおおわれている。

内側を眺めれば、中央に司令塔がどっしりとしている。そこに向かって広い道は伸びている。その真ん中位に第一城壁がある、その上にも大型弩弓や、投石機が並んでいるのが見える。完成までもう少しと言ったところか。

「司令塔に行ってみたいわ」サラが言った。

「その前に何か食べましょう。あれ美味しそうですね」」マルクが言う。

「そうね、分かったわ」空いてる席を探しながら店に入っていく。横から突然人が現れ、ドンとぶつかった。

「おっと、ごめんなさい。怪我はありませんでしたか」その男は尋ねてきた。

「いえ、私の方こそ御免なさい。大丈夫です。失礼します」と言って、マルコについて中に入っていった。

「大丈夫でしたか。どこか痛い所はありませんか」マルコが心配そうに言った。

「どこも、何んとも無いわ。子供扱いしないで」

物珍しくて、あれこれと注文した。

「そんなに食べられませんよ」

「食べきれなけりゃあ、持って行くわ。折角だから、色々味見しなくっちゃあ」

「それにしてもデカいわねえ」

「これだけの物簡単に作る技術力と経済力は大したものだ」

「まだまだ発展しているのね」

「さて、腹が太ったら、出かけますか」

「司令塔はどうなっているのかしらね」

「高くて見晴らしがいいですよ」商人用身分証と許可証を門番に見せて中に入った。最上階の四階に上がって外を眺めた。司令部のテラスの見晴らし台から外を眺めた。ここから敵を見ながら作戦を指令するのだろう。敵は丸見えの上、鉄壁の城壁で阻まれ、さらにはどう攻めればよいのか、見当もつかない。

「どうです、良い眺めでしょう。先程は失礼しました。お詫びにお二人にコーヒーとケーキを持ってきました。どうぞ召し上がってください」先程ぶつかってきた男だ。

「いえいえ、ご丁寧に。こちらこそ御免なさい」相手を観察しながら、それでもにこやかに挨拶を返した。

「あの先の十字路を右に行くとスタインフーバー国に、真っ直ぐだとシュヴァルツ王国、左に行くとツィーグラ王国に行きます。あなた方はどちらからおいでになりましたか」急に聞かれてドギマギしながら、

「ツィーグラの方向から」

「それはようこそ、まだまだ工事途中でお店も少ないですが、もっともっとにぎわってきますので、楽しみにしてください」

この人は工事関係の人なのだろう。だから、他国の人にも親しげにしてくるのだろう。全く不用心だ。マルクには要塞の図面と兵器の配置を頭に入れて、宿屋で紙に書き写させて、国に持ち帰る予定だ。図面があれば、攻める方法は幾らでもある。

「この司令塔の裏は高く険しい岩山だが、そこには秘密のトンネルがあって、いざという時抜けられるようになっていて、敵を欺くようになっている。ここはその裏山から、前面の草原まで、一体となった一大秘密基地なんです。すごいでしょう」

「なる程すごいですね。でもそれをばらしてもいいんですか」

「あなたが他国に秘密情報部員で、他国の軍に密告されると困りますが、そんな事はしないでしょう」

「分かりませんよ。案外情報部員かも」

「やめてくださいよ。そんなことになったら私首ですよ」と言って笑っている。どう見ても抜けているとしか言いようがない。

「ご案内有難うございました。では今日はこれで」と言って宿に帰る。

「ほんと間抜けな役人で助かったわ。極秘の情報までしゃべってくれて」

「ですが、これだけの軍備で備えられたら、そう簡単には攻められませんよ」

「作戦を考えるのはあなたたちの仕事でしょう」

「そうですね。参謀部と相談してみましょう」

「それと弩弓の間にある箱が付いた、あれって何かしら」

「連続弓矢発射機だと思います」

「弓矢発射機ってなあに」

「弩弓機の小型のやつで、連続して打てるやつだと思います」

「そんな物まであるの。何んとか詳しく見れないかしら」

「明日、近くまで行ってみましょうか」


「あれ、誰かしら」誰か偉い人の視察みたいだ。

「今日は将軍様の視察らしいぞ。後ろにいるのが参謀長と、団長らしい」

「説明しているのが建築技術庁長官のクレマン・エミール・デュランとへいこらしているのが技術者総監督のノア・リリアン・ベルナールらしい。自分では何もしないで、いい気なものだ」と陰口が聞こえる。だが、ちょうどいい時に来たものだ。将軍に説明しているのが、後ろをついて歩くと、全て聞こえる。

「この大型弩弓は射程距離が以前のものと比べて八倍ありますので、この平原に敵が来た時、敵の大将を狙えます。またこっちの小型のものは百連発で、撃ち尽くしてもあの箱を取り換えるだけで、また打てます」第二外壁に左右二十機の弩弓で、四十機、その間の小型が二百機で敵に対峙致します。その同じものが第一城壁に設置されており、大型弩弓は八十機、同時攻撃が出来ます」建築技術庁長官のクレマンが嬉しそうに大きな声で説明しているから、全部聞こえている。これでは軍事機密も何もない。

「お嬢さんはどちらから来られましたか。観光ですか」突然後ろから声を掛けられた。機密を傍受しているのがバレたのかと警戒したが、そうではないようだ。

「あの人たち、何もしていないのに、威張るだけで、自分の功労のような顔をして」

にこやかな顔で話しかけてきた。

「この年まで村から出たことが無いので、この新しい街を見に来ました。何もかにもが見たこともない、珍しいものばかりで、驚かされています」サラはそう答えたが、ほとんど本音である。

「それはそれは。あちらで何か食べながら、旅の話をしましょう」建築家のニコラス・ヴェルナー準男爵、作っている総責任者、本人である。

「どちらから来られました」料理をテーブルに運び、座りながら言った。

「ナハトネーベル帝国の南の村から参りました」

「それは遠くから、大変だったでしょう」

「いえ、知らない所に行くのは楽しいです」

「君たちは兄弟かな」

「いいえ、私は御嬢さんの召使です」

「そうか、それはそれは」

「こちらにお詳しそうですが、貴方は工事関係の方ですか」

「こう見えて、工事総責任者なんですよ。設計も全て私がしたし」

「それはすごいですね。こんなすごい設備や建物、初めて見ました」

「そうでしょう。そう思わせるために作りました」

「実は昨日、司令塔に上がらせていただき、こちらの風景も見ました。高い所から望む景色は何んと素晴らしい事でしょう」

「ここに来た方はみんな武器の事ばかり言いますが、風景の事をおっしゃられた人は初めてです。うれしいなあ」

「ここは軍事拠点であり、政治の場であり、観光地であり、何通りもの使用場所なんでしょう」

「観光地である以上、見せられるところは見せる。全部見た気にさせる。しかし、本当の重要施設は隠す。最終兵器や、極秘設備は入り口、通路に至るまで二重構造にすることで、部外者には秘匿する」

「そうなんですか」

「知っているのは数名だけ。さっきの威張っている連中も知らない」

「だってお偉い様なんでしょう」

「何もしないで威張っているだけの連中は、文句やいちゃもんを付けるだけの、何の役にも立たない連中ですからね」

「まあ、私の上役は一人ですから。じゃあ、仕事がありますから、まあゆっくりして行ってください」と言って去った。

「こちらも一枚板じゃないってことね」何もしないのに、向こうから重要な情報が入ってくる。一応この辺で切り上げて報告をすることにした。馬車を仕立て帰途に就いた。新しい道路が途中までとはいえできたので、十日程で国に着いた。

城内の城壁、建物の図面や、武器や設備に至るまで繊細に記した情報は驚くほど正確なものであった。王様も無事の帰還したこともあり、大変喜ばれた。ただ、将軍、参謀、下士官等、皆が、その堅牢さや優秀さを唖然として見ていた。情報があっても、攻める戦術が出てこない。攻めても無謀で勝てない、戦っても全滅をするだけ、誰も声が出なかった。

ただ、マルクは探索方少尉から作戦参謀中尉に昇進し、褒美として金貨百枚を貰った。。

サラは王のアレクサンドラと話をしていた。

「実際に見てどう思った」

「ツィーグラー王城がちゃちに見えるわ。先ず頑丈さが段違い。城門が厚くて巨大で頑丈な石作り。その先はそこも石のトンネルが続き、何カ所か落とし戸がある。城壁は高く全て石作り。石崖を登ろうにも上には小型弩弓は百基ほどズラーと並んでいて、それも高速百連発の性能を持っている。一つ目の城壁を攻略しても、二つ目がある。でもこれは表向き。本当の武器や軍備は秘匿されている」

「何だそれは、どれだけの金をつぎ込んでいるんだ」王は話を聞いて黙り込んだ。これでは手も足も出ない。だいたいシュヴァルツ王国が飢饉続きで国が傾きかけていて、今なら征服できそうだという話だった。それがいつの間にか、強国になっている。戦を仕掛けていたら、返り討ちになっていたところだ。娘の話では、三国同盟はホントのようだ。敵対同盟を作るか、その同盟に参加させてもらうかだ。

大臣や貴族との協議をするが、答えは出ない。弱小国など押し潰してしまえばよいという者、三国に連絡を取り、仲間に入れて貰う方が良いと言う者、このまま様子を見ている方が良いと言う者、意見はまとまらなかった。そうしている間に、隣国が十万の兵で攻め寄せた。城門前の平原は軍隊で埋め尽くされた。

夜中に大きな音が鳴り響き、その兵、十万は一夜のうちに全滅した。なぜそうなったかは誰も知らなかった。そう、一部の者を除いては。

サラは王にどう思うかと聞かれた。

「実は本当の秘密は誰にも知らされないと、建築責任者から聞いた」

「つまり、本当の武器はこれではないと」

「はい、最重要秘密は将軍も知らないと」

「つまり、今回それが使われて全滅した」

「そうとしか思えません」

「うちが先に攻めていたら、同じ目にあっていたわけか」

「そうなります」

「これもお前たちの諜報のおかげだ。兵が残っていない隣国は滅ぶだろう。馬鹿なことをしたものだが、うちにも、攻めるべしの者はたくさんいた」

「着実に農地の開墾や農業改革をやれば良いのに、それをしたものを力で奪おうとするからです」

「そうだな。今一番発展しているのはそれを成し遂げたスタインフーバー国だ。我が国も見習わなくてはな」


(21)リタフォースの秘密

「ロベール様、大変でございます。リタフォース軍事基地が襲われました」

「どこが攻めてきたの」ロベールが使者に聞いた。

「分かりません。いきなり例の兵器担当者が慌てて撃ってしまいまして」

「それはまずい。今あれの事がバレるのはまずいぞ」

「オスカー様が後始末をどうするか聞いて来いと」

「どうするも何もやっちゃった後では、どうにもならない。誰かに責任を取らせなきゃあ」と言って、マルティンとポールを呼びに行かせた。

「二人ともよく来た。今日はお願いがあってお呼びしました」

「なんだか薄気味悪いな。頼みって何だ」マルティンが聞いた。

「実は要塞都市が襲われた」

「ハハーン。それで我々にやっつけろと」

「いや、敵は全滅させた」

「全滅させたら味方だった」

「いや、味方ではないが、どこの国か確かめることなく焼き尽くしたから、誰だか分からない」

「だから俺達に探って来いと」

「いや、それも必要ない。別に報復したいわけではない」

「だったら俺達を呼びつけた理由は何だい」

「敵を全滅させたのはわが国の秘密兵器で、三国同盟のため、今バレるのはまずい」

「それで」

「貴方たち二人がしたことにして欲しい」

「俺達がか」

「そうです」

「敵の数は」

「十万」

「十万」思わず聞いた。

「はい、敵は十万です」

「お前さん正気か。二人で十万と戦えと。誰が信じる、そんな戯言」

「そこで将軍を連れだして欲しい。我々では聞いてもらえまい」

「それで、俺達のメリットは」

「各、一人につき金貨千枚と」

「千枚と何だ」

「男爵の地位」

「ほお、我々を男爵にしてくれると」

「間違いなく」

「だが、将軍が乗ってくれまい」

「そこをお二人で、本当は百人だったけど、いつの間にか話が大きくなって、二人では手に負えないので、将軍もいたことにして欲しい。あんたがたが男爵になるために。特にマルティンさん、あんたは息子さんが貴族の方と縁があるそうな。一般人より貴族であった方が良いんじゃないですか。息子さんの為にも。ポールさんだって、貴族になれば結婚なんて簡単ですよ」

「それもそうだ。マルティン兄貴、そうしよう。将軍も俺達が頼めば聞いてくれるよ。俺もいい加減年だし、今結婚しなきゃ、一生できないだろうよ」

「でも人は信じるかだ」

「信じるも信じないも、俺達が嘘をついていると言うのか。死んだ敵の数を数えて来い、とか言って強引に言えば、あなた方と喧嘩はしませんよ」

「ねえ兄貴、やりましょうよ。駄目で元々。損はないんだから」

「分かった。俺から将軍に頼んでみる。今なら機嫌がいいから、すんなりかもしれんしな」

将軍はそれほど重要なこととは考えもしないで、ベルントとジュリアの婚約の事で喜んで了解してくれた。

このことは未来永劫の軍事秘密とされた。

実際の敵の数は百人前後とされ、マルティンとポールは男爵の爵位を得た。

(22)サラ王女の野望

「王様、お願いがございます」

「何だ急に、改まって」

「例の軍事都市、リタフォースにお店を出したいのですが」

「なる程、その店を情報収集の拠点にするのだな」

「起点となる物が無くては何もできません。敵の事を知れば自ずと対策も立て易いかと」」

「で、何を扱うのじゃ」

「我が国の産出する鉄製品を扱いたいと思います。我が国の製品は丈夫で性能が良く、耐久性が高いと聞きます。如何でしょうか」

「良かろう。うまくいけば、金は稼げる、情報は入る、一石二鳥じゃあ」

「ではさっそく準備をしますので」

「良かろう。準備万端、抜かるでないぞ」軍閥族がすっかり鳴りを潜め、王の派閥が勢いを盛り返して、王は機嫌が良い。

サラはマルクを連れてリタフォースの中央大通りの城門前にいた。此処に店を建築する許可証を貰い、大規模な商店を建てることにした。一階が店舗、二階が特殊商品の展示場、三階が事務所、応接間、四階が従業員室となっている。

商業組合にも参加し、身分も隠さなかった。

ロベールが新しい店の様子を見に来た。

「いらっしゃいませ。あ、あなたは。いつぞやはお世話になりました」

「良い店が出来ましたね。ガブリエル商会か、中央通りには大型店を並べたかったので、有難い」

「貴方様はいったいどなたですか」

「これは失礼しました。商業経済大臣と、商業組合会長をやっています、ロベール・ヴィンセント・ベッカー子爵です。今後とも宜しく」

「これは大臣でしたか」

「それを言うならあなただって、ツィーグラー王国王女、サラ・ガブリエル・ツィーグラー様ではありませんか」

「え、なぜそのことを」

「たまたまあなたのお国を旅行中に、お顔を拝見する機会がありまして」

「そうでしたか、前回お会いした時には私だとばれていましたか」

「いえ、あの時はさすがに王女様が来られるとは思いもしませんでしたので」

「そうでしたか。お恥ずかしい限りです」

「それにしても立派なお店ですね。商品もいい品ばかりで。これは繁盛するでしょう。頑張ってください。困ったことがあったら私に言ってください。私に連絡が付かない時は機甲師団顧問のオスカー・ブラントか、改革執務室長のアリス・ウォルターに取り次いでもらえれば、連絡付きますから」

「有難うございます。宜しくお願いします」

「それとあなた商業組合の理事をやりませんか」

「理事ですか」

「そうです。外国の方の意見も知りたいし」

「そんな大役務まるでしょうか」

「まあ、一度お国に連絡を取って、許可を貰っての事でしょうが、なるべくやる方向でお考え下さると助かります」

「私としては名誉ある役職ですからお受けしたいと思います」

「ではツィーグラー国王に宜しくお伝えください。今日はすっかりお邪魔しました。うちの軍の者にも店の宣伝しておきますから」

「宜しくお願い致します」

「早速父上にお伝えしませんと」サラは連絡員に手紙を預けけた。

「それにしてもロベール様は先までお考えで、素晴らしいお方だわ」


十人程の行商人で身なりの汚い集団がいたが、似たような者も大勢いたので目立ってはいないが、眼付きが鋭く、周りを用心深く見ながら歩いているのを見ると、何か企んでいるようである。まだまだ工事中の場所が多く、役人も手が回らないのであろう。その工事小屋の中に連中はいた。

「大店の商店主を誘拐して、身代金をせしめる。金貨一万枚なら差し出すだろう。四、五回繰り返して資金を得たら、俺達も店を立てる。奴隷を使って店をやらせ、俺達は遊んで暮らせるという魂胆だ。楽な仕事だろう。だが油断は禁物だ。軍に気づかれないよう用心して行う。分かったな」

「統領、まずはどこをやるんだい」

「そうだなあ。資金に余裕がありそうなガブリエル商会を一番にやろう」

「あそこは女店主でやり易いだろう。馬車は用意してあるか」

「この裏に止めてあります」

「仲間を店にもぐりこませているか」

「はい、計画通り」

「じゃあ、店に殴り込むぞ」

「裏口から入りましょう。おい、俺だ、開けてくれ」戸が音もなく開いた。中には仲間の男がいた。

「女主人は二階の奥の部屋です。下男がいますが一人ですので、さっさとかっさらって行きましょう」

「では、行くぞ。お前は馬車を表に回しておけ」

強盗団は部屋に入っていった。

「おっと騒ぐなよ。俺達は人殺しはしたくないんだ」女をロープで縛り連れて行く。

「身代金を用意しておけ。詳しい事は後で知らせる」男を気絶させ、部屋の外に出て、音を立ててドアを閉めた。

女を奥に押し込み、男たちも乗り込んできた。

「よし、山小屋に行け。あそこは自然要塞だ。バレても攻められる事は無い」

「転落したり、倒れたりしないよう、安全に行け。どうせすぐには追っても来ない」

小屋に着いたのは明け方であった。

「先ず火を焚いて、お湯を沸かせ。それから飯を作れ。あれやこれやは飯を済ませた後だ」女を奥の柱に縛り付け、飯の支度をしている。

「誰だてめえは」奥で子分が叫んだ。

「どうした。何を騒いでいる」頭が子分に聞いた。

「奥に怪しい奴がいます」

「何者だ」その者は寝起きを起こされたようだ。

「何者だって、お前らこそ何者だ」その男は起き上がりながら言った。

「何お、怪しい奴だ」

「お前らの方が怪しいだろう」

「名前は何というんだ」

「俺はベルト・クレメンス・アッカーマン、この小屋の持ち主だ」

「ほお、この小屋に持ち主がいたのか。では暫く借り受けたい。礼はする」

「なるほど。礼はするか、こんなボロ小屋を貸して、幾ら呉れるんだ」

「金貨十枚でどうだ」

「金貨十枚とは豪勢なものだ。じゃあ、水いっぱいで、金貨一枚呉れるかな」

「てめえ、下手に出てりゃあ、調子に乗りやがって」

「調子に乗ったらどうするんだ」

「まあまあ、どっちも落ち着け」

「流石、頭だ。お前らとは違う。で、説明してもらえるか」

「こんな世をのし上がるには、地位か、金が必要だ。そこで手っ取り早く金を得るには誘拐で、身代金を得るのが確かだろう」

「それがこの女か」

「こいつは大店のお嬢さんだ。こいつを人質に身代金を出させる」

「どの位出させるんだ」

「金貨、一万枚は出すだろう」

「それで商売の元手になるのか」

「いや、それじゃあ少ないだろう。五、六人分は必要だ」

「という事は五回も六回もやるのか」

「そうだ。それ位やらんと元手にならん。協力する気になったか」

「協力するとして、俺の分け前は幾ら呉れるのだ」

「金貨十枚として、十日で百枚。小遣い稼ぎとしては良いだろう」

「分かった。飯は作ってやるが、寝床はない。勝手にその辺で寝てくれ。それと人が死ぬのは困る」

「大丈夫だ。金を出したら人質は帰って来ると思わせたら、次の仕事はやり易くなる。だから殺すことはしない」

「それを聞いて安心した」

「何でお前が安心するんだ」

「お前には分からんよ。それで、縛っておくのは可哀そうだし、眠ることもできない。俺の部屋は出る所が無いから、あそこに閉じ込めてはどうだ」

「お前が良いなら、俺も助かる」

「よし、それで話は決まりだ」

「頭、なんであいつの言う事を聞くんだ」

「その方がうまくいくと踏んだからだ」

「大体あいつは信用できるかも怪しいもんだ」

「ぐずぐず言わないで、相手に話を付けて来い」

手下を二人連れて出て行った。店の者と身代金のことを話しに行ったのだろう。

夕方には帰って来て報告した。

「日時と場所を話してきました。後は金の用意をして、明後日には待ち合わせ場所に来るとのことです。」

「待ち合わせ場所に、女は連れて行かない」

「そこで女と金を交換するんじゃないんですか」

「もしかして軍を連れてくるかもしれない。その時、人質を奪還されたら、我々は全滅だ。だから手出しをさせないように、連れて行かない。我々が安全だと分かったら開放する」

「なる程、分かりました」

ベルトは外にいた。

「女の関係者か」そこにいた男は驚いたが、無言で戦うよう、身構えた。

「心配するな。奴らの一味ではない。女は私が守るから、明朝、迅速に攻め込め。奴らは二十五、六人いる。一人も取り逃がさないよう、空が白んだら周りを取り囲み、戸を壊して一斉に踏み込め。では準備しろ」

ベルトは黙って小屋の中に入っていって、晩飯の準備を始めた。みんなの分をテーブルに並べ、

「ここに置くから勝手に取って食べてくれ」と言って、女の分を持って、部屋の中に入っていった。部屋には彼女以外誰もいなかった。彼女は多少の武芸のたしなみがあるのか、身構えた。

「心配するな。飯を持ってきただけだ。俺は奴らの味方じゃない。この小屋の住人だ。明日朝早く、お前さんの助けが来る。腹が減っていては話にならん。この飯を食って、早く寝て、明日に備えてくれ。じゃあ明日」と言って、部屋を出て行った。

夜が白んだころ、誰かが部屋に入ってきた。

「シー」と言って、口を押えた。

「そろそろ始まるころだ。出口を止める」と言って、入り口ドアの前にベットを移動させて、後の家具もベットに積み上げた。と、同時に表で物音がして、戦う様子が見て取れる。

やがて外から声が聞こえた。

「お嬢様いらっしゃいますか」

「マルクですか」

「はいそうです。遅くなりました」

「その間にベルトは入り口のベットや家具を取り除いた。マルクが入ってきた。

「お嬢様、よくぞ御無事で」

「この方が助けて下さったの」

「そうですか、うちの者に伝言されたのもあなたですか」

「うまく伝わって良かった」

「あなたお一人でお住まいですか」

「私はツィーグラー王国の城門守備隊の隊長をやっておりましたが、貴族の息子が配属になり、何やらカンやらで首になって、人と交わらなくてよいので森に住んでおります」

「貴方、うちの店に来ませんこと」

「私は軍一筋できましたので、商売は無理です」

「良いじゃありませんか。この人も軍人ですし、気が合うと思いますよ」

「一世一代でやってみましょうか」

「貴方が来てくださいますと心強いので助かります」サラがにっこりした。

「それにしてもこいつら、強盗か、野党か、碌な者じゃないな」

「こいつらも元は軍人、戦で負けて責任を取らされ、落ちるとこまで落ちたという訳でしょうね」ベルトが言う。

「チャンスを与えれば、真面目になるでしょうか」

「こんな信用成らん者をどうして」

「この人たちも、もとは内の国の兵隊さんでしょう。上の人の失敗を、下の者が取らされたのでしょう。可哀そうじゃないですか」

「お前たちどうする。心を入れ替えて一からやってみるか。やろうと思う者はこの方が雇ってくださるが、どうする」

「そりゃあ、雇ってくれるなら、やり直したい」

「では頭、あんたが責任者だ。俺も素人だから、宜しく頼む」


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