第5話 出会いと代価-3
──翌朝。
薄明の中、馬に水をやるヴァルカの姿があった。
⚔「よし、いい子だ」
スンッ――
馬が嬉しそうに鼻を鳴らす。
ヴァルカはその頭を優しくひと撫ですると、木の柵へ腰掛けた。
そしてふと空を見上げる。
とても静かな朝だった。
東の空では、昇り始めた太陽が木々の隙間から顔を覗かせている。
柔らかな朝日がヴァルカの横顔を淡く照らした。
⚔「....」
眩しそうに目を細めながら、
ゆっくりと息を吸う。
冷たい朝の空気が肺を満たし、
ぼんやりしていた意識を少しずつ目覚めさせていく。
その時。
ギィ......
小屋の扉が開く。
◆「おーう!早いな!」
振り返ると寝ぐせをつけたままのガルドが顔を出していた。
まだ少し眠そうだが、いつもの調子は健在らしい。
◆「よく寝れたか?」
⚔「....ああ」
短く答える。
◆「そりゃよかった!」
◆「死にかけてたからなぁ!」
⚔「....うるさい、忘れろ」
◆「がっはっはっは!!」
豪快な笑い声が、静かな森へ響き渡る。
木々の上にいた鳥たちが驚いたように飛び立っていった。
⚔「鳥が逃げるぞ」
◆「気にすんな!」
◆「元気な証拠だ!」
まるで気にしていない。
むしろ誇らしげですらあった。
◆「よっし!」
◆「準備すっからちょっと待ってろ!」
そう言うと、ガルドは再び小屋の中へ引っ込んでいく。
ギィ......
扉が閉まり、森に静けさが戻った。
小鳥のさえずり。
木々を揺らす穏やかな風。
ヴァルカが静かに朝日を眺めていると――
ガタンッ!
小屋の中から何かが倒れるような音が響いた。
続いて
ドタドタドタッ......
ガチャンッ!!
「うおっ!?」
今度は野太い声まで聞こえてくる。
⚔「.....」
ヴァルカは無言のまま小屋へ視線を向けた。
そしてふぅ、と小さく息を吐く。
⚔「.....少しは静かにできないのか、あいつは」
穏やかな朝の空気が、森の大男によってかき消された。
しばらくすると、
ギィ......
再び小屋の扉が開く。
◆「よっしゃ!」
◆「出発すっか!」
何事もなかったかのような顔でガルドが姿を現した。
⚔「.....ああ」
ヴァルカが立ち上がる。
その時、ふと視線がガルドの肩に担がれた大斧へ向いた。
正確には──その柄に吊り下げられた風呂敷へ。
風呂敷の隙間から、見覚えのある瓶の首が覗いている。
⚔(.....これは)
どう見ても酒瓶だった。
◆「ん?」
◆「どうした?」
不思議そうに首を傾げるガルド。
⚔「.....なんでもない」
⚔「行くぞ」
◆「おう?」
◆「よし、こっちだ!ついてこい!」
気付いていないのか、
気付いていて気にしていないのか。
ガルドは豪快に笑うと、のっしのっしと森の奥へ歩き始めた。
その大きな背中を見つめながらヴァルカは小さく息を吐く。
⚔(.....気にしたら負けだ)
そうして再び2人は森の中へ足を踏み入れた。
木々のざわめきが朝の風に揺れていた。
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森の中を進むことしばらく。
周囲の景色は少しずつ変わり始めていた。
地面は湿り気を帯び、空気はひんやりと冷たい。
そして――だんだんと霧が濃くなっていく。
白い靄が木々の間を這うように漂い、
辺りには不気味な空気が立ち込めていた。
2メートル先が見えるかどうか。
そんな濃霧の中を進んでいると、
前を歩いていたガルドが口を開く。
◆「この先はいわゆる"迷霧"ってやつでな」
ガルドは周囲を見回しながら続けた。
◆「街の連中には
"死んだ人の亡霊が漂ってる~"とか、"ゴーストが出る"なんて」
◆「まぁ、いろいろ言われてるんだが」
⚔「ああ」
⚔「俺でも聞いたことがある」
ヴァルカは警戒を解かないまま頷く。
確かに冒険者の間でも有名な話だった。
迷い込んだ者は二度と戻らない。
亡者の声が聞こえる。
夜になると霧の中を何かが歩いている――。
真偽の分からない噂はいくらでもあった。
◆「森の魔女さんのところへ行くには、
どうしても避けられねぇ道でなぁ」
ガルドはそう言うと、ちらりと肩越しに振り返った。
◆「兄ちゃん」
◆「おばけは平気か?」
にやり。
いたずらを思いついた子供のような笑みが浮かぶ。
⚔「.....魔物の方がよほど危険だろう」
だがそう言った直後、
靄の奥で何かが動いたような気がした。
⚔「.....!」
反射的に剣の柄へ手を添える。
視線は鋭く霧の向こうを見据えていた。
しかし――
その様子を見たガルドは、
こらえきれなくなったように大笑いした。
◆「がっはっはっはっは!!」
⚔「.....」
ヴァルカは無言のまま視線を逸らす。
眉間には深い皺。
そして僅かに赤くなった耳が、
霧越しからでも分かる気がした。
◆「悪い悪い!」
◆「だが、この霧の中に魔物は出ねぇ!」
◆「安心しろ!」
豪快に笑いながら、
ガルドはひらひらと手を振る。
◆「俺ぁもう何回も抜けてきた道だ」
◆「慣れてるが、最初はちとキツイかもしれねぇな」
そう言うと、ガルドは霧の奥へ視線を向けた。
◆「お前さんくらい勘が鋭けりゃ、もう気付いてるかもしれねぇが」
◆「この霧は森の魔女さんが作り出した幻影魔法だ」
⚔「.....やはり」
思った通りだった。
年中晴れることのない霧。
自然現象にしては不自然すぎる。
ましてや、ここまで濃密な霧が一定の範囲にだけ留まり続けているのだ。
⚔「人為的なものだとは考えていた」
◆「がっはっは!」
◆「まぁ普通はそこまで分かっても、近付きたがらねぇんだがな!」
ガルドは楽しそうに笑う。
一方でヴァルカは、霧の向こうを見つめたまま目を細めた。
ガルドは続ける。
◆「この霧はな」
◆「入った奴の心にいちばん深く根付いている
"闇"の部分を映し出してくる鏡だ」
⚔「闇....」
その言葉に、ヴァルカの表情がわずかに曇る。
脳裏をよぎったのは――
血に染まった故郷
倒れた両親
泣き叫ぶエリシア
──そしてあの日
何も守れなかった自分自身
⚔「......」
無意識に拳へ力が入る。
ガルドはそんなヴァルカをちらりと見た。
だが、それ以上は何も聞かない。
代わりにいつもの調子で肩をすくめる。
◆「まぁ安心しろ」
◆「すぐ死ぬわけじゃねぇ」
⚔「......」
◆「ただまぁ」
ガルドはにやりと笑った。
◆「飲まれたら二度と出てこれねぇがな」
霧の奥からひゅう、と冷たい風が吹き抜ける。
まるでその言葉に合わせるように、
白い靄がゆらりと揺れた。
⚔「.....冗談には聞こえないな」
◆「がっはっは!」
◆「半分本当で、半分冗談だ!」
そう言って笑うガルドだったが、
その目だけは、笑っていなかった。
──やがて。
歩みを進めるごとに、
ガルドの姿がだんだんとぼやけていく。
白い霧はますます濃くなり、
数歩先さえおぼつかない。
足音だけがかろうじて前方から聞こえていた。
◆「....来たな」
不意に、霧の向こうからガルドの声が響く。
◆「兄ちゃん」
ヴァルカは足を止めない。
◆「自分を強く持て」
◆「振り返るな。ただ進め」
低く、いつになく真剣な声だった。
⚔「.....」
返事をする間もなく、
スゥ......
ガルドの姿が白く濁った靄の中へ溶けるように消えていく。
そして――
足音も聞こえなくなった。
⚔「.....」
静寂。
風の音すら聞こえない。
世界から音だけが切り離されたような、
不気味な静けさ。
気付けば、ヴァルカはひとりだった。
どこを見ても白い霧。
前も後ろも、右も左も分からない。
まるで世界そのものが、
霧に飲み込まれてしまったかのようだった。
⚔「.....」
ヴァルカはゆっくりと息を吐く。
そして、霧の奥へと歩みを進めた。
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ふいに。
後ろから聞き慣れた声がした。
☀「お兄ちゃん」
⚔「.....!」
ヴァルカの足が止まる。
☀「お兄ちゃん......どこ......?」
震えるような声。
幼い少女の声だった。
☀「怖いよ......」
☀「ひとりにしないで......」
ぎゅっ――
ヴァルカは拳を握りしめる。
その声を、知らないはずがない。
☀「たすけて......」
⚔「......」
心が揺れる。
振り返れば、そこにいる気がした。
泣きながら手を伸ばすエリシアが。
助けを求める、幼い妹が。
☀「お兄ちゃん......」
一歩。
思わず足が動きそうになる。
だが――
⚔「....違う」
低く呟く。
⚔「....これはただの幻だ」
ガルドの言葉を思い出す。
――振り返るな。ただ進め。
⚔(エリシアは今、教会にいる)
再び前を向く。
☀「お兄ちゃん!」
今度は悲鳴にも似た声だった。
⚔「......」
胸が痛む。
それでもヴァルカは振り返らない。
一歩。また一歩。
ヴァルカは霧の奥へと進んでいく。
だが――
☀「うっ....ひっく......」
背後から聞こえるのは苦しそうな泣き声。
幼い少女の、か細い嗚咽だった。
☀「どうして....」
☀「すぐに助けに来てくれなかったの....?」
⚔「......」
☀「ずっと....待ってたのに....」
☀「ひどいよ....お兄ちゃん....」
⚔「......っ!」
その言葉は、鋭い刃のように胸へ突き刺さる。
分かっている。
これは幻だ。
エリシア本人ではない。
そんなことは、最初から分かっている。
それでも――
⚔「......すまない」
気付けば、その言葉が口をついていた。
ヴァルカの瞳が揺れる。
☀「痛いよ......」
☀「苦しいよ......」
震える声。
まるで、あの屋敷の中で泣いていた少女が、
そのままそこにいるかのようだった。
☀「ママと....約束したのに....」
⚔「......くっ」
思わず目をぎゅっと閉じる。
脳裏に浮かぶのは、あの日の光景。
助けを求める妹
伸ばした手
届かなかった想い
そして――4年間
⚔「......」
奥歯が軋む。
自分は助けに行けなかった。
どれだけ力を求めても、
どれだけ戦い続けても。
エリシアはずっと、あの場所で苦しんでいたのだ。
☀「お兄ちゃん......」
☀「どうして......?」
その声は、まるでヴァルカ自身の罪悪感が形になったようだった。
そして徐々に小さくなっていく、
幼い少女の泣き声。
☀「うっ......ひっく......」
☀「お兄ちゃ......ん......」
やがてその声は霧の中へ溶けるように消えていった。
⚔「......」
ヴァルカは足を止めない。
ただ前だけを見て歩き続ける。
そして――ようやく声が聞こえなくなった。
そう思った、その時。
「ヴァルカ」
⚔「.....!」
今度は、懐かしい声が聞こえた。
「ヴァルカ......強くなったわね」
優しくどこか誇らしげな女性の声。
「おお、ヴァルカ」
「もうそんなに背が伸びたのか?」
今度は低く穏やかな男性の声。
⚔「......」
ヴァルカの足が止まる。
聞き間違えるはずがなかった。
それは。
もうどんなに願っても、
二度と会うことのできない――
両親の声。
「ふふ、立派になったのね」
「頼もしいな」
懐かしい。
あまりにも懐かしい声だった。
忘れたことなど一度もない。
何年経とうと。
どれだけ戦い続けようと。
その声だけは、ずっと心の奥に残り続けていた。
⚔「......父さん」
⚔「......母さん」
掠れた声が漏れる。
振り返ってはいけない。
分かっている。
これは幻だ
迷霧が見せる幻影
本物ではない
それでも――
その声はあまりにも優しかった。
「大丈夫よ」
「あなたはよく頑張ったわ」
⚔「......っ」
「もう、自分を責めなくていい」
その言葉に、ヴァルカの肩がわずかに震えた。
そして、霧の向こうからあまりにも甘く誘う声が響く。
「こっちに来なさい」
優しい母の声。
「ヴァルカ、あなたの好きなステーキを焼いたわよ」
⚔「......」
胸の奥が痛む。
思い出す──
仕事から帰った父と母
食卓に並ぶ温かな料理
エリシアの楽しそうな笑い声
もう二度と戻らない、
当たり前だった日々。
「ヴァルカ、また釣りに行こうか」
今度は父の声。
「どちらが大物を釣れるかな?」
懐かしい笑い声まで聞こえる気がした。
川辺で並んで座り、夢中になって釣り糸を垂らしたあの日。
夕焼けに染まる帰り道
父の大きな背中
すべてが鮮明によみがえる。
そしてとどめを刺すように。
「エリシアも待っているよ」
⚔「.....!」
鼓動が大きく跳ねた。
ドクン。
ドクン。
心臓の音がやけに大きく聞こえる。
もし振り返れば。
もし声のする方へ向かえば。
もう一度――
家族に会えるのではないか。
「おいで」
「大丈夫」
「もう苦しまなくていいのよ」
⚔「......」
足が重い。
まるで霧そのものが、
ヴァルカを引き留めているかのようだった。
そして。
☀「お兄ちゃんっ!」
⚔「.....!」
全身に電流が駆け巡るようだった。
今までの声とは違う、明るく無邪気で。
何より――幸せそうな声。
☀「ねぇ、はやく来て?」
☀「一緒に遊ぼう!」
☀「今日はね、お兄ちゃんに話したいことがたくさんあるの!」
弾むような声。
思わず振り返ってしまいそうになる。
その光景が、ありありと目に浮かんだからだ。
太陽の下を駆け回るエリシア
楽しそうに笑う母
釣り竿を担いで手を振る父
どこにでもあるような、ありふれた幸せ。
けれど、もう二度と手に入らない幸せ。
──きっと。
何でもないことなんだ。
豪華な暮らしなんていらない。
名誉も、力も。
ただ、愛する家族とともに穏やかに過ごせたら。
それだけでよかったはずなんだ。
⚔「......はっ…」
喉が詰まる。
胸が苦しい。
もう――幻でもいい。
あの日に戻れるのなら。
もう一度だけ。
父と母に会えるなら。
エリシアの幸せそうなあの笑顔を見られるなら。
⚔「......」
ヴァルカの顔が、
ゆっくりと横を向く。
まるで抗う力を失ったかのように。
霧の向こうからは、
優しい笑い声が聞こえていた。
その時だった。
――チャキッ。
小さな金属音。
⚔「.....!」
腰に下げていた懐中時計。
ルシアスから預かったあの古い懐中時計だった。
ふいに、その蓋がひとりでに開く。
⚔「!!」
ヴァルカははっと息をのんだ。
その音は、まるで深い水の底から引き上げられるように、
ヴァルカの意識を現実へと引き戻した。
家族の声
温かな食卓
失われた幸せ
すべてが、一瞬にして遠ざかる。
⚔(危なかった......)
知らず知らずのうちに、足は止まっていた。
あと少し。
一歩でも声の方へ歩いていたら――
どうなっていたか分からない。
ヴァルカはゆっくりと息を吐く。
そして手の中の懐中時計へ視線を落とした。
銀色の蓋には、長い年月を感じさせる細かな傷が刻まれている。
どうやら、留め具が緩んでいたらしかった。
✟「必ず、返しに来てください」
出発前に聞いた言葉が、ふと脳裏によみがえった。
⚔「......」
ヴァルカは懐中時計の蓋をそっと閉じる。
カチリ。
その小さな音は、不思議と心を落ち着かせた。
⚔「......進もう」
誰に言うでもなく呟く。
そして再び前だけを見据えた。
そのまましばらく進むと、
次第に声は遠ざかり、やがて聞こえなくなった。
父の声も
母の声も
エリシアの声も
まるで最初から存在しなかったかのように、
白い霧の中へ溶けて消えていく。
⚔「......」
ヴァルカは振り返らない。
ただ前だけを見据え、一歩ずつ足を進めた。
すると――
徐々に霧が薄くなっていく。
重くまとわりついていた靄が晴れ、
少しずつ視界が開けていった。
そして。
◆「おーーーーい!」
聞き覚えのある大声が響く。
◆「兄ちゃん!」
◆「生きてるかー?」
前方から、
大きく手を振りながら近付いてくるガルドの姿が見えた。
⚔「...ああ」
短く答える。
それだけで十分だった。
◆「おっ?」
ガルドはヴァルカの顔を見るなり、
にやりと口元を吊り上げる。
◆「....男前になったじゃねえか?」
⚔「......」
◆「がっはっはっは!!」
豪快な笑い声が辺りに響く。
⚔「...うるさい」
◆「がっはっは!」
◆「そう照れんなよ!」
⚔「照れてない」
即座に返す。
だが、ほんの少しだけ肩の力が抜けていることに、
ヴァルカ自身も気付いていなかった。
◆「ま、無事なら何よりだ!」
◆「ほら、行くぞ!」
そう言って、ガルドは再び歩き出す。
ヴァルカもその背中を追うように歩き出した。
霧はもうほとんど残っていない。
だが、懐中時計の感触だけは、
まだ確かに手の中へ残っていた。
少し進むと、前方に眩い光が見え始めた。
◆「おっ」
ガルドが口元を緩める。
光は徐々にその輝きを増していき、やがて2人の全身を包み込んだ。
⚔「.....!」
思わず目を閉じるヴァルカ。
真っ白な光。
風の音も
森の匂いも
すべてが遠ざかっていく。
そして――
ゆっくりと目を開いた。
⚔「......なっ」
そこに広がっていたのは、
森ではなかった。
──空だった。
見上げるほど高い蒼穹
どこまでも続く雲海
そしてその中央に浮かぶ、
巨大な白亜の城。
⚔「......!」
ヴァルカは思わず目を見開いた。
城は空中に浮かんでいた。
幾重にも重なる白い塔。
太陽の光を反射して輝く壁面。
まるで神話の中から
そのまま切り取ってきたかのような荘厳な姿。
周囲には無数の光の粒が漂い、
風に乗ってゆっくりと舞っている。
現実離れした光景だった。
まさに、言葉を失うほどに。
◆「がっはっは!」
隣でガルドが笑う。
◆「初めて見た時ぁ、俺も同じ顔したぜ!」
⚔「......」
だが、ヴァルカは答えられなかった。
視線はただ、空に浮かぶ城へ釘付けになっている。
◆「ようこそ」
◆「魔女の庭へ!」
風が吹く。
白い雲が流れる。
その壮大な景色の中で、
ヴァルカはようやく理解した。
ここが――森の魔女の領域なのだと。




