表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/11

第5話 出会いと代価-4

もう見慣れているのだろう。


ガルドはその絶景にも目もくれず、

ずんずんと歩みを進めていく。


◆「がっはっは!」

◆「初めて来た時ぁ、腰抜かしそうになったがな!」


そう笑いながらも、足取りに迷いはない。

一方のヴァルカは周囲を警戒しながら後に続く。


眼下に広がる雲海

どこまでも続く青空

まるで別世界だった。


そしてふとガルドが足を止める。


⚔「.....?」


その目前には、

先ほどまで存在しなかったはずの古い石橋が現れていた。

白い霧の中から姿を現したその橋は、

緩やかな弧を描きながら空へと伸びている。


まるで空に虹が架かったかのようだった。


⚔「......」


橋の下にあるのは大地ではない。

果てしない空。


一歩踏み外せば、

そのまま雲の海へ落ちていきそうな高さだ。

だがガルドはそんなことを気にする様子もなく歩き出した。


◆「ほらほら!」

◆「こっちだ!」


大斧を肩に担ぎながら、

迷うことなく石橋を進んでいく。


◆「おーい!」

◆「置いてっちまうぞー!」


⚔「.....」


ヴァルカは小さく息を吐く。


そして再びその大きな背中を追った。

石橋を踏みしめるたび、

コツ、コツ、と乾いた音が響く。


空へと続く石橋

眼下には果てしない雲海

幻想的な景色の中を、2人は進んでいた。


――その時。


ぐにゃり。


⚔「!?」


突如、周囲の景色が歪んだ。

まるで水面に石を投げ込んだかのように、

空間そのものが波打つ。


ヴァルカは反射的に剣の柄へ手をかけた。


だが、次の瞬間。


目の前に広がっていた光景は、

まったく別のものだった。


⚔「......!」


そこは大草原だった。

どこまでも続く鮮やかな緑。

青空には大きな虹が架かり、

柔らかな風が草原を撫でていく。


あちこちには、

見たこともない花々が咲き誇っていた。


赤。


青。


紫。


金色。


宝石のような色彩を持つ花々が、

陽光を浴びて美しく輝いている。

まるで絵本の中の世界だった。


だが――


⚔「......」


ヴァルカは言葉を失う。


その理由は、花の美しさではない。

規模だ。

花が、大きすぎる。


1輪で人間ほどの高さがある花

大樹のような茎を持つ花

家ほどの大きさの花弁を広げる花


それらが草原一面に咲き乱れている。


もはや花畑ではない。

巨大な花々が作り出す、

森にも似た別世界だった。


⚔「....すごいな」


思わず漏れた言葉。


◆「きれいだろぉ?」

⚔「....ああ」


ヴァルカは素直にうなずいた。


こんな景色は見たことがない。

まるで神話の中へ迷い込んだようだった。


その時。

モゾ......


⚔「....?」


ほんのわずかに。

近くにあった巨大な花が不自然に揺れた気がした。

そんなに強い風は吹いていない。


それなのに。

花弁の奥で何かが動いたように見えた。


⚔「......」


警戒して見つめる。


そして――


パァァァ......

閉じていた花弁が、ゆっくりと開いた。


⚔「....!!」


その中心にあったのは、美しい花の蜜ではない。

びっしりと並んだ鋭い牙だった。

まるで巨大な口。


花弁が開くたび、

粘ついた液体が糸を引いている。


⚔「....っ!」


ヴァルカは反射的に剣を抜き、身構えた。

しかし。


◆「ぷっ......」


隣から妙な音が聞こえる。


◆「がっはっはっはっは!!」


盛大に吹き出すガルド。


⚔「......」


◆「兄ちゃん!」

◆「食われねぇように気ぃつけな!」

◆「そいつぁ腹ぁ減ってると、

人間くらい丸呑みにしやがる!」


⚔「......何だと」


◆「がっはっは!」

◆「冗談だ!」


⚔「......」


◆「半分はな!」

⚔「どっちなんだ」


ガルドは答えない。

ただ楽しそうに笑っているだけだった。


ふと、ヴァルカは周囲へ視線を向ける。


すると──

こちらを向いている。


花が。

1輪や2輪ではない。


周囲の巨大な花々が、

まるで獲物を観察するように、

ゆっくりと2人の方へ向いていた。


モゾ......

モゾ......


花弁が揺れる。牙が覗く。


⚔「......」


ヴァルカは静かに剣を握り直した。

そして。


⚔「....なんなんだここは」


心の底からそう思ったのだった。


------------------------


◆「...よっと」


ガブッ!


噛みついてきた巨大花を、

ガルドはひょいっと避ける。

その動きは慣れたものだった。


◆「おっと、こっちはダメだな」


フワァァァ......

今度は色鮮やかな花から花粉が噴き出した。

ガルドは軽く身を翻し、それを避ける。

さらに。


シュルル......

足元から伸びてきた蔦を、

まるで散歩でもしているかのように軽く飛び越えた。


◆「がっはっは!」

◆「今日は機嫌が悪ぃな!」


一方――


⚔「...っ!?」


ヴァルカは突然、

足首に絡みついた蔦に体勢を崩した。


⚔「くっ...!」


反射的に蔦を引きはがそうと身を屈める。


その瞬間。


シュッ――

シュンッ――


⚔「...!」


頭上を鋭い棘が掠めて飛んでいく。

まるで待ち構えていたかのような連携。


⚔「チッ...!」


蔦を剣で断ち切り、すぐさま後方へ飛び退く。

その直後。


ドスッ!

ドスッ!


先ほどまでヴァルカがいた場所へ、

棘が深々と突き刺さった。


⚔「......」


冷や汗が頬を伝う。

どうやらこの庭は、見た目ほど穏やかな場所ではないらしい。

ヴァルカは剣を構え直し慎重に歩みを進める。


しかし。


シュル......

また別の蔦が足元を這う。


⚔「っ!」


飛び退く。


パァァァ!

横の花が大きく口を開く。


⚔「......!」


慌てて避ける。

その先では

フワァァァ......

花粉を撒き散らす巨大花。


⚔「......」


◆「がっはっはっは!」

◆「兄ちゃん!」

◆「歓迎されてるじゃねぇか!」


⚔「どこがだ」

◆「生き物は興味があるもんに寄ってくるだろ?」

⚔「チッ…迷惑な話だ」


そんな話をしている間にも、


スル......スル......

また足元の蔦が、ヴァルカの足へ絡みついてくる。


⚔「はぁ......くそっ......」


ヴァルカは眉をひそめ、

剣を抜いて蔦を切り払おうとした。


だが――


シュッ

シュンッ――スパッ


⚔「...!」


どこからともなく飛んできた鋭利な葉が、

ヴァルカの頬と肩を切り裂く。


頬を一筋の血が伝った。


⚔「.......」


ヴァルカは無言のまま周囲を見回す。

すると、先ほどまでただの植物に見えていた巨大な花々が、

こちらを窺うようにわずかに揺れていた。


まるで

「それ以上やるな」

と警告しているかのように。


⚔「......」


険しい表情のまま、

ヴァルカは剣を構える。

その様子を見たガルドが肩をすくめた。


◆「おいおい」

◆「この植物どもは、

魔女さんのペットみたいなもんだぞ?」


◆「必要以上に傷つけたら、

どうなるか俺にも分からねぇ」

◆「気をつけな」


⚔「......なんて厄介な」


心底うんざりしたように呟く。


噛みついてくる花

絡みつく蔦

飛んでくる棘や葉

しかも反撃は推奨されない。


⚔「......」


しばらく睨み合った末、

ヴァルカは深いため息をひとつ吐いた。


⚔「はぁ......」


そして渋々、剣を鞘へ収める。

その瞬間。


スル......


足に絡みついていた蔦が、

どこか満足したように離れていった。


⚔「......」

◆「がっはっは!」

◆「気に入られたな!」


⚔「全く嬉しくない」


しばらくして、ようやく草原を渡り切った2人。

その姿は対照的だった。


傷ひとつないガルド。

そして――


⚔「......」


頬には切り傷。

服はあちこち裂け、

ところどころに葉や花粉まで付いている。

どう見ても満身創痍だった。


◆「ぶはっ!」


それを見たガルドがとうとう堪えきれず吹き出した。


◆「がっはっはっはっは!!」

◆「兄ちゃん!」

◆「植物相手にそんなボロボロになった奴ぁ初めて見たぞ!」


⚔「......もう二度と来ない」


◆「まぁそう言うな!」

◆「慣れりゃ案外可愛いもんだぞ!」


⚔「どこがだ」

◆「全部だ!」

⚔「理解できん」


◆「がっはっは!」


豪快な笑い声が響く。


そしてガルドは、

まるで思い出したかのように続けた。


◆「ああ、そういや」

◆「帰りも通るぞ!」


⚔「......は?」


ヴァルカの動きが止まった。


◆「いやだから帰りも――」

⚔「......嘘だろ」


思わず本音が漏れる。


◆「がっはっはっはっは!!」

◆「安心しろ!」

◆「帰りはもっと容赦ねぇからよ!」


⚔「….チッ」

◆「がっはっはっは!!」


ヴァルカは深くため息を吐いた。


---------------------------


いたずらな花畑を通り抜けると、

いつの間にか再び眼前には石橋が現れていた。


◆「次だな」

⚔「......」


ヴァルカはもう驚かない。

驚くのにも疲れていた。


2人は石橋を渡り始める。


コツ、コツ......

乾いた足音だけが静かに響く。

そして橋の中腹まで来た、その時だった。


ぐにゃり。


再び景色が歪む。

空が揺れ

雲が溶ける

世界そのものが塗り替えられていく。


⚔「......!」


ヴァルカは反射的に足を止めた。


そして次の瞬間。

目の前に広がっていたのは――

巨大な湖を抱く庭園だった。


雲の隙間から降り注ぐ光。

その光を受けて、

どこまでも透き通った水が輝いている。


上空から流れ落ちる無数の水流は、

まるで空そのものから生まれているかのようだった。

流れ落ちた水は大きな湖へと注ぎ込み、

水面には無数の光が踊っている。


⚔「......」


思わず息をのむ。

あまりにも美しい光景だった。


湖のほとりには、

見たこともない白い花々が咲き誇っている。


そして優雅に泳ぐ白鳥の群れ。

純白の羽を広げながら、

静かな湖面を滑るように進んでいた。


風が吹き、湖面にさざ波が広がる。

白鳥たちは気持ちよさそうに首を伸ばした。

まるで楽園のようだった。


⚔「...綺麗だな」


思わず、口をついて出た言葉。


◆「ああ、そうだろ?」

◆「俺もこの場所は気に入ってんだ!」


そう言いながら、

ガルドはのっしのっしと先へ進んでいく。


一方でヴァルカは、

自然と湖の方へ足を向けていた。


吸い寄せられるように静かな湖畔へ歩み寄る。

湖面へ顔を近づけると、鏡のような水面に自分の姿が映った。


青い瞳

金色の髪

そして、旅の中で増えた無数の傷跡


⚔「......」


ふと、水面が揺れる。


その時だった。


どこからともなく、

透き通るような歌声が聞こえてきた。


~~♪


⚔「......?」


ヴァルカは顔を上げる。


風が吹く。

湖面がきらめく。

しかし辺りには誰の姿も見当たらない。


~~♪♪


それでも歌声は続いている。

まるで湖そのものが歌っているかのように。


どこか懐かしく

優しく

心の奥へ静かに染み込んでくるような旋律だった


思わず周囲を見回す。

すると――


ゆらり。

足元の水面が揺らぎ始めた。


⚔「......?」


波紋がひとつ

またひとつ

静かな湖面に広がっていく


~~♪♪


歌声が、徐々に近づいてくる。

まるで水そのものが歌っているかのように。

その歌声に気付いたガルドが振り返った。


◆「おっと」

◆「気に入られちまったか」


ニヤリと笑う。


⚔「気に入られる......?」

⚔「何に――」


チャプ......

小さな水音。


その瞬間。

湖面から銀色の髪がふわりと現れた。


⚔「......!」


水を掻き分けるでもなく

泳いでいるわけでもなく

まるで湖そのものから生まれたかのように


ゆっくりと

静かに

その姿が浮かび上がる。


透き通った水をまといながら、

水面の上へ立つひとつの影。


そして――

ヴァルカは息をのんだ。


そこにいたのは、まさに絶世の美女だった。


月光を紡いだような銀髪

透き通る白い肌

星空を溶かして閉じ込めたような瞳


長い睫毛の奥で揺れるその眼差しは、

どこか儚く、どこまでも神秘的だった。


風が吹く。

銀の髪がさらりと揺れる。

湖面に映るその姿は、まさに幻想そのものだった。


⚔「......」


言葉が出ない。


──美しい。

そんな一言では足りないほどに

彼女は人間離れしていた。


◆「がっはっは!」


そんなヴァルカの様子を見て、

ガルドが楽しそうに笑う。


◆「兄ちゃん」

◆「口開いてるぞ?」


⚔「......っ」


我に返ったヴァルカは、

慌てて口を閉じた。


だが。


視線だけは、

どうしても彼女から離せなかった。


~~♪♪


歌声はまだ続いている。


まるで歓迎するように。

あるいは――

興味深そうに、ヴァルカを見つめるように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ